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大地に潜む竜の声4

「馬鹿な人間も居たものだ」

「ここまで飛んできたって?

 風魔法も使えないのに、なんて無茶な」

「ふははだが所詮人間。

 我等の城では呼吸すらできないようだな!」



 俺はその声を。

 目をつむったまま聞いている。

 ……。

 なんだこいつら。

 人が寝てると思って、すき放題言いやがって。



「人間とはなんと愚かな」

「なんと浅ましく」

「なんて醜いいきものだ!」


 声が3人。

 3者3様に罵るものだから。


 俺は思わず「エグスプロージョン」



「駄目です!」


 そんな俺の顔を、ふわっ、と柔らかい感触が包み込む。

 あれ、これって……。


「父上たちはすぐにそうやって、人間を馬鹿にする!

 でもここに来れたのだって、この方の協力があったからなのですよ!」


 俺は顔面に広がるその感触を、存分に堪能する。

 ああ、これ。

 けっこうでかいぜ。

 なんだ、あんな顔してるくせに、出るところは出てたんだな。


「すこし人間にいじめられたからって……、人間全部を嫌わなくてもいいじゃないですか!」


 ミザが何かいいことを言っているようだったが、何も耳に入ってこない。

 だって気持ちよすぎるんだもん。

 この、おっ

「あ、目が覚めましたか?」

 



 ……。

 このおっきい翼。





「嘘つき。詐欺だ」

「な、何がですか。

 目覚めてすぐに、そんな悪口言わないでくださいよぅ」

 てっきり「あれ」だと思ったのに。

 ……。

 だがよくよく考えてみれば、寝てる男に、そんなものを押し付けたりする女が居るわけないよな。居たら痴女だ。俺は自分を恥じる。



「な、なんですか。胸元ばっかり見てますけど」

「いや、ボーイッシュだなって」

「わ、わたしだっておっきくなりますよ!」

「そういう意味じゃない。褒め言葉だ」

「どこをどう褒めたんですか!」

「……大丈夫。顔立ちはいいから」

「フォローになってません!」


 と、俺がミザとそんなやり取りをしていると。

 うおっほん、と偉そうな咳払いが聞こえた。



 なんだこのおっさん、用があるなら自分から声をかけりゃいいものを。

 話しかけて欲しいみたいなオーラ出しやがって・

 めんど臭いな。




 

 だから俺はそれを無視して。


「天は二物を与えないから」

「与えてます。私だっておっぱ」


「喝っ!!!!」





 地面もふるえるほどの大声で叫ばれて、俺は思わず身をすくめる。


 視線の先には、さきほどの咳払いおっさんが襟を直していた。


「失礼」

「ああ、気にすんな。

 だからさ、お前は……」

「うおっほん」

「……」

「……」


 俺とおっさんは目を合わせて。

「仕方なしに、俺は話しかけてやった」




「某は名前をコショウと申します。

 こちらが息子のカシャとウバン。二人はミザの兄に当たりますな」

 二人の男は、軽くこちらに頭を下げる。

「……ちょっと待てミザ。ここに来るとき、美人がいるとか可愛い子とか言ってなかったか?」

「言いましたよ?

 わたしのお兄ちゃん、近所じゃ例を見ないくらい美形で有名なんですから」


 ……。


 俺はだまってミザの頭を叩いてやる。


「痛い!」

「うるさい!」

「ひどい!」

「……」

 こっちのセリフだぜ。

 何が男見たさに、気を失ってまでこんなところまでこなきゃならんのだ。


 ミザはけれど、目に涙を浮かべて、何かを言いたげにーー。




 ぐらりと。



 地面が揺れた。

 いや。

 ふるえている?


 それはまるで、巨大な生き物の身震いのようだった。


「……何だ、今のは」

「イヅルどの。

 あなたが強大な魔術師だとお聞きして、お願いがございます」


 言いだしたのは、コショウだった。




「ご覧のとおり我ら鳥人族は、人間にない翼を持っています。

 それがために「翼狩り」にあい、一族はバラバラ、生き延びたものをとりまとめて、こ世界樹に居を構えておりました。ここなら人間はやってこれない」

「俺はこれたけど」

「イヅル殿は特別です。

 並の人間なら、たどりつくこともできない。

 我らはあまり、戦うことは得意ではないのです」


 ぽかーーん、としてるミザの顔を見てると、その言葉も嘘じゃないのだと確信できる。



「なんですか」

「おまえ、ちゃんと魔法使えるのか」

「できますよ。

 『ウインドブレス(風よ、吹け)』」


 しゅるるるる、と。


 ミザがかかげた右手から、そよ風が吹き出る。


「……ね?」



 おいおい、嘘だろ。


 俺は見よう見まねで。


「ウインドブレス(風よ、切れ)!」


 手刀で切り裂くイメージで。

 風を飛ばしてみる。


 すると。


 ビシッと。

 音がして、地面に切り込みがはいる。


「ほらな。封印されてる俺でも、これくらいはできるんだぜ」

「イヅルさんは、異常です。

 ふつうそんなことできません!!1

 見よう見まねで魔法を使うなんて、ありえない」


 まあ、俺が異常なのは周知だとして。

 ……生まれた時から訓練したお前がそうなのは、少しばかり問題がありそうな気がする。


「ご客人。我らの魔法など、この程度なのです。

 日常生活においては、様々なところに利用してます。

 けれど戦闘になると、からっきし」


 今の流れを見て。

 うむ。納得せざるを得ない。



「……それで、俺に何の頼みだって?」

「この世界樹に潜む竜を退治して欲しいのです」

「断る」

「ど、どうしてです」

「俺にメリットがないから」


 これ以上ない、理由だと思うが。


 それに竜なんて。

 想像するだに恐ろしい。

 なぜ命をかける。

 何を得る?


 ごめんだぜ、そんなの。


「……ずるいです!」


 不満の声を上げたのは。

 ミザだった。


「イヅルさんは、強いのに。

 どうして戦ってくれないんですか」

「どうしてって……」


 戦って。

 勝って。

 それでも守りたいと思ったものは。

 信じて欲しいと思ったものだ。


 ……いや。


「関係ない。

 とにかく……」


 と、言いかけた俺の言葉を、コショウが遮った。

「……を、差し上げます!」

「ん?」

「娘を、差し上げます!

 うちの娘は界隈では一番の器量よしと言われております。

 どうか、娘をもらってください」


 娘って……。


 俺はミザのことを、上から下まで眺めて。



「俺のこのみじゃない」

「ミザは一族に伝わる秘法、『幸運の一枚ばね』を持っております!」


 その言葉を聞き、周囲に居る男たちが血相を変える。

「父上! 何もそこまでいれこまなくても」

「そうですぞ! 人間ごときに……」

「お前らは黙っておれ!」

 コショウの一喝に、2人は黙り込む。


「なら、我らの誰が竜を打倒できる?」


 ま、別に俺が勝てると決まったわけじゃねーけどな。

 熱くなってるところに水を差すのも悪いから、俺は黙っていることにする。


「……わかったよ。

 だけど勘違いするなよ。別にお前らのためでもないし、ミザが欲しいわけでもない。

 幸運の一枚ばねってやつに興味があるだけだ」


 働いてたころは。

 力があれば、と思った。能力があれば、気ままに生きられると。

 ……こっちの世界に来てからは。

 力があっても、と思う。


 神などいない。見たことがないから。信じられない。

 なら。

 運に頼ったって。

 いや、そのぐらいしか。

 すがる相手は。


 俺は、『運が悪かった』。そう、自分を説得する。



「やったぁ!」

 ミザが、俺に抱き着いてくる。

「やっぱり助けてくれると思ってました!

 私もついていきますよ!」


「ミザ!」


 2人の兄が、妹を制止した。


 ……そうだな、正直いないほうが、楽で助かるが。


 けれどミザは、あかんべえをしてみせた。

「お兄ちゃんたちが何を言っても無駄です。

 じゃないと、みんなイヅルさんを噛ませ犬にするでしょう?

 本当に勝たせるつもりなら……ううん、勝つために、私もサポートしに行くの」


 確かにな。

 俺を尖兵にするのなら、向こうはノーリスク。勝てばラッキー。そういう考えもあるか。

 そういう意味で、ミザを人質として連れていくのはありかもしれない。


「それに、イヅルさんは誰かの助けがないと、たどりつくこともできないはずよ」

「……おい、ちなみにそいつはどこに住んでるんだ?」

「この木の根元」



 と。

 ミザは足元を指さしてみせた。





 おいおい、なんだよ。

 せっかく失神してまで登った木を。

 もっかい降りなきゃならないってのかい。


 俺は先行きを不安に感じて。

 ながーーーい、溜息をついた。




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