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大地に潜む竜の声

 あれからしばらく。

 俺とメアリィは、顔を合わせていない。

 俺は黙々と日課を続け。

 館には平和が訪れたように思えていた。



 ランニングを終え、部屋で水やりをしていると。

 ……いつものように、部屋にメアリィがやってきた。


「……お兄様、すこしだけ、お話させてください」

 そしておずおずと。

 部屋の中に入ってくる。




「お兄様。私ははじめ、やっと帰ってきてくれたのだと思いました。

 けれど記憶がない。それは錯乱していたからだと。

 一緒に過ごせば。

 時が経てば。

 ……。

 けれど違うのですね。

 まったく同じ顔をした、似ても似つかない別人。

 お兄様。

 ならあなたは、誰なのです?」

「……」


 俺は答えるすべを持たない。

 なぜなら、俺は偽物(異端者)だから。



「ディティールさま!」

 俺が部屋で片付けをしていると。

 どこから聞きつけたのか、レノが駆け付けてきた。

「どこへ行くんです!」

「俺? 帰るよ。

 前も言ったろ。本当は、違う世界からきたんだ。

 帰るあてができた。急で悪いな」


 そんなアテなど。

 ないのだけど。


「ま、待ってください。

 逃げるんですか? まだ何も解決してな――」

「逃げる?

 冗談だろ。

 ここは俺の居場所じゃなかった。

 ただそれだけだろ」


 そう。

 ただそれだけだ。


 みんな優しいから。

 大事にしてくれるから。


 ……それに甘えて、長く居てしまった。


 もう、行かねばならないのだ。


 どこへ?

 ……帰るべき場所へ。

 それは、いったいどこだ。

 分からない。

 ……分からないから、探すしかない。

 探すために。

 出かけなきゃ。


「……わかりました、引き留めることはしません。

 なら、一つだけ教えてください。

 ディティール様。どうしてそんなに、つらそうな顔をしているのですか?」



 そんなの分かってるだろ?


「もう、何も強いたりしません。

 出かけるついでに、私につきあってください。

 ミヤコが――、帰省から帰ってこないのです。

 ね? どうせ家を出るのです。一生に1つの、恩返しだと思って――」


 そうだ。

 これで最後にしよう。

 好意に対して、何もできなかった俺の。

 最初で最後の恩返し。


 そして俺は。

 レノと二人で旅に出ることにした。


 ……。





これで一区切り。次回から違う話題になります

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