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さらわれのおひめ……さま?後

 うう。


 ……体が。

 体が熱い!


「……くそっ」

 のどがからからで、思わず毒づく。

 ここはどこか建物の中だろう。だが、薄暗く様子は見て取れない。

「ふふ、可愛い顔」

 誰かが俺の頬に手をあてた。

 その冷たさに驚き、俺を身をよじるがーー、その時になって、縛り上げられていることに気づいた。

 俺の顔に手を当てた女―ー、紅い髪をして、きりりと眉毛はつりあがり、その目は攻撃的でもある。女は半裸で俺にまたがり、俺の衣服を脱がせていた。


「おいおい、嘘だろ! 何をするつもりだ」

「あらん、男と女がいたら、することなんて1つしかないじゃない」

 女はつやっぽく、舌舐めずりをした。

「大丈夫、痛くしないから。安心して身を任せてちょうだい。

 お姉さんが優しく教えてあげる」

「やめろー!」


 やめないでくれ!




「ジャカルタ。お楽しみのところ申し訳ないけど」

「ア、アマザさま!」

 ジャカルタと呼ばれた女は、雷に打たれたかのように、その場に直立する。

「すこし席を外してちょうだい」

「そ、そうですよね。アマザさまの獲物ですものね。

 存分の味見なさってください」

 そういってジャカルタは床に落ちた服をかき集めると。俺に投げキッスを飛ばして、部屋を出て行った。


「そういうつもりじゃないんだけど……」

 その背中を見送りながら、アマザはつぶやく。


 アマザは俺に近づきーー存外、甘い香りがするーーこの女になら身を任せてもいいかもしれないーーなどと俺が不埒なことを考えていると。

 小刀を取り出し、俺の戒めをほどいた。


「あら、縛られていたほうがよかった?」


 ちょっとだけ、残念。


「……いや、いい。

 どうしてほどいた?

 ここをめちゃくちゃにして、逃げてもいいんだぜ」

「それはちょっと勘弁。

 お願いがあって、きたの」

「お願い?」

 こんな屈強なアマゾネス連中が、何に困っているというのだろう。

「だからそれは、子供が欲しいってことだろう」

「それもあるけど。

 どうか、私たちを助けてちょうだい」

 そういってアマザは、深々と頭をさげた。




「ふむふむ、つまりこういうことか。

 悪い魔法使いが居て、そいつに頭があがらないと?」

「そう。名前はオリュンポス。どこぞの王国で直属の魔法使いをやっていたらしいけど、悪事がばれて左遷された。そいつが最近近くの洞窟に住み込んで、私たちを要求するの。日替わりで、相手をしろって。

 

私たちは剣では戦えるけど、魔法はからっきし。あいつの使う水魔法には太刀打ちできない。……けれど、同じ魔法使いのあなたなら」


 まあ別に。

 その魔法使いがどの程度なのかは分からないが。

 別に助けること自体は問題ない。


 だが。

「……それ、俺にメリットは?」

「……ないわ」

 アマザはしゅん、と萎れる。

「ごめんなさい、部下が手荒な真似をして。

 もしあの勝負がついてたら。あの場で言えばよかったのだと思う」

 

 そんな風に。

 弱々しさを見せられたら。

 なんも言えないじゃねーか。


「いいよ。分かった」

 だから俺は、安請け合いをして。

 ……きっとまた、あとで後悔するのだ。




 アマザに連れられて。

 俺らは森の中を歩いていた。

 ……。

 道もなければ、目印もないが。

 よくこんなところをすいすい歩けるもんだ。

 ……、本当に迷ってないのか?

 さっきの話はデタラメで、俺を人気のないところで殺すつもりじゃ……。



 などと、俺の被害妄想が広がってきたところで。

 森は急にひらけ、滝壺にでる。


「この滝は、オリュンポスが魔法で作り出しているの。

 この奥に、居るわ」

「んじゃ試しに。

 『エグスプロージョン!』」


 俺が唱えた魔法が、滝の地形ごと変形させ、入口を作り出す。


「……あなたって、すごいのね」

「ん? まあ、そこそこ」

 うしろでアマザが目を見開いていた。



 入口の偽装で、安心しているのだろう。洞窟の内部の構造はいたってシンプル。

 紫色に彩られたドアの前で、俺らは立ち止まる。

 アマザが俺に目配せをしてくる。

 ドアに手をかけ、いっきに開くーー!



「おやおや、アマザ。今日は早いじゃないか。

 日が暮れてから。それが約束だったろう?

 それとも僕が欲しくて、がまんできなくなったのかな」


 ひひひひひひ、と。

 紫色のローブを着た男は、下品な笑い声をあげる。


 アマザは顔を真っ赤にして、その屈辱にたえていた。


「おいおっさん、アマザはもう来ねえよ。

 アマザだけじゃない、あんたのとこには金輪際、誰もよこさない」

「おや、なんだい君は」

 オリュンポスはねっとりと、粘りつくような視線で俺を見た。

「正義の味方だ」

「……ふうん。助っ人を連れてきたみたいだけど。

 アマザ、あとでお仕置きが必要みたいだね」


 「施錠」 と男がつぶやいた。


「あああんっ!」


 隣でアマザが嬌声をあげ、その場にうずくまる。




 おいおい、どこに鍵をかけたんだ?

 とか、ちょっと続きをみてみたい、と思ったが。


「『解呪アンチロック!』」


 俺の魔法が、あたり一面を照らし出し。



「ふうん。アマザの中に埋め込んだ魔法も、解呪できるんだ。

 火魔法なのに? めちゃくちゃな使い方をしてくれるね」

「原理は知らん。むかつくことがあれば潰す。

 それが鍵であれ、縄であれ、封印であれ。お前は水魔法が得意みたいだけど、俺には関係ないね」

「膨大な魔力がそうさせてる、か。

 ……興味はつきないけど」


「ディストリビューション!」

 俺が生み出した炎の斧が。

 まっすぐ男へと向かうーー。


「ウォーターポール!」

 けれどそれは。

 地面から吹き上げた水の柱に阻まれてしまう。


「ねえ知ってるかい。水と火の相性は最悪なんだ」

 そういって男は、にやりと笑ってみせた。



「エグスプロージョン!」

「ウォール・ブロック」




 俺のはなった魔法は。

 ことごとくオリュンポスの生み出した水に阻まれて、ダメージを与えることができない。


 くそっ!



「君は強い。魔力も膨大、使いこなすセンスもある。

 ……だけど対人戦闘の経験が少なすぎる!」


「アクアボール!」


 オリュンポスの生み出した水の柱から、連続的に俺へとむかい、水の泡が飛ばされる。

 俺は横にとび、かろうじて直撃を避けるがーー。


 衣服がふれただけで、その泡の一つが爆発する。



 くそっ!

 悔しいが、相手の言うとおりだ。


「サンダー!」

「ウォーターポール!」


 俺の苦し紛れの「雷は水を通ってダメージを与えるのでは」という予想を裏切り。

 雷魔法でさえも、防がれてしまう。


「……君ね。水は雷に弱い。そんなの誰だって思いつく。そレに対して僕が何も対策してないと思ったかい

 けれど純度の高い水は、電気なんて通さない」



 アマザが俺を見ていた。……絶望的な表情をしている。

 俺は負けるのか。


 ……。

 こんなやつに?


 負けたく、ない。



 魔法の基本は。


 思う(想像)することーー。



「くひひひっひい。

 いいんだよ、降参しても。命までは取らない。僕は快楽殺人者じゃないからね。

 土下座して、命乞いすれば、逃がしてやってもいいよ。

 ……難しいなら、アマザ、その男を捕まえるんだ。

 ほら、じゃないとどんどんお仕置きがひどくなっていくよ!」


 アマザが。

 悲痛な顔で、俺ににじりよってくる。


 師匠の教えを思い出せーー。

 魔法の基本は。




 カタカタカタと。

 俺のキーボードの音だけが響く世界。

 0と1だけで構成される世界プログラム

 はじめのスイッチをかわきりに、反応は連鎖的に起こり、有(if)と無(not)の間で揺れ動き――。



 アマザが俺の手を掴む。

 ごめんなさい、とその顔が語っていた。


「『ロック(娼婦の束縛)!』


 俺はアマザの額に手をあて。

 魔法をかける。

 俺の手から生み出された炎の縄は、瞬時にしてアマザの体に巻き付き、自由を奪っていく。

「悪い。少しだけじっとしててくれ。

 ……巻き添えを、くらわないように」

「何をするつもり!

 もう、もう十分よ。

 これ以上何もしないでいいの。

 これ以上反抗したら。

 もう、私は……」





 俺はオリュンポスを向き――。

「エグスプロージョン」

 小さな爆発を生み出す。


「ウォーターポール!」


 オリュンポスは予定どおり、その爆発を、水魔法で防御した。

 

 予定通り。


「俺の魔法を、必ず防ぐのは。

 魔法の威力を恐れてるから。

 そういう理解でいいんだよな?」

 俺の「エグスプロージョン」は柱にぶつかり、消滅した。


 1つ目は。




 ばがああああああああああああ、と。



 柱の1つを、次の爆発が消滅させる。


「な、何をした!

 『ウォーターポール!』」


 オリュンポスが慌てて次の柱を生み出すが。


 それも連鎖的に生み出される爆発に、飲み込まれ、かき消されていく。


「いくらお前が強くても。

 お前がふせいでも。

 無駄だ。この魔法はただ爆発を引き起こす魔法じゃない。

 『お前を殺すまで、爆発が続く』魔法だ」

 0と1の狭間で。

 消えれば次の爆発を起こすスイッチとなり。

 存在すれば爆発する。

 オリュンポスの存在が、潰えるまで。

 ただそれだけを繰り返す。



「お、お前。式を編んだというのか!? ありえない!

 異世界からきたくせに、『神戯アーク持ち』などと――」




 くそおおおおお。



 その続きは。


 爆発音に飲み込まれ、聞こえなかった。










「お兄様!」


 アマザに見送られ。


 俺がもとの場所に戻るころには。

 すでに人だかりができていた。

 ずっと俺を心配したのだろう、メアリィは泣きはらした目をして、俺に抱きついてきた。

「心配、したんですよ……」

「悪い」

「もう! 油断しないでください!」


 うーむ。

 そうだな。

 油断していた。

 魔法さえ使えれば、と。

 すこし調子に乗っていた。


 そう簡単なわけではないのだ。

 それを実感した。


「……約束してください。

 もう二度と、居なくならないって」

「……ああ。約束するよ」

「それじゃあ、」

 メアリィは目を閉じて――。


 ん?


 んんん?


 確かに約束はするが。

 するけど。


 そういう流れだっけ?

 なんかちゅー待ちみたいな空気だしてるけど――。



 俺はメアリィの頭を撫でてやる。


「もう、お兄様の意地悪!」

「……お前にはまだ早い」

「むー。

 私だって、もう大人です!」


 年齢的な問題じゃなくてさ。


 まあ、いい。

 メアリィにも、怪我がないのなら。


 そして俺ら二人は。

 規定の道に戻ったのだった。



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