第八話 初めての街へ行こう!
俺は、サクヤさんが帰ったのを見送ると、お遅めの朝食を取った。食事を終えた後、エルフ達の家作りに加わり、作業を手伝った。
数時間後
ようやく、村人全員分の家が完成した。家と言っても、床には何も敷いておらず、地面のままだ。それに、家具も何もなく、家の中は一部屋しかなく、急いで作った為にあちこちに隙間が出来ていた。もはや、家と言うより掘っ建て小屋と言った方が正しい。
そんな、お世辞にも住みたいとは思えない代物なのに。エルフ達は、誰一人文句を言ってこなかった。それどころか、感謝していると、言ってくれたのだ。
俺は、こんな良い人達にあのままで暮らさせるのは心苦しいと思い、木材を作った時に余った枝や葉っぱを使い、出来る限りの隙間を埋めた。そして、残った木材を全て使い、椅子やテーブル等の簡単な家具を作り、全ての家にプレゼントした。
作業が終わる頃には、すっかり日が暮れ、辺りは真っ暗になっていた。さすがにこの時間まで働き続けるのは、かなり辛かったが、無事全ての家具を運び終わり、今日の俺の仕事は終わった。
そして、俺は村のエルフ達を全て集め、作業を手伝ってくれたお礼もかねて、皆で夕食を取った。俺とキョウスケが、取って来た食材を余すこと無く使いきり、出来る限りの調理を施し、精一杯の感謝を伝えた。
夕食を終えると、皆それぞれの与えられた家に帰っていった。俺は、レジスタンスの事について仲間と相談しようと思い、キョウスケとギンを探したが、いつの間に居なくなっていた。夕食の時にはちゃんと居たのだが仕方ない、あいつらは後にして、先にセシリアの所へ行こう。
そして俺はエリザさんの家に向かった。何故なら、セシリアが気絶したあと、エリザさんに頼み込み、エリザさんの家で一番良い部屋を貸して貰い、そこにセシリアを寝させてもらっていたのだ。
エリザさんの家の中に入った。当然ながら、ここにもともと住んで居た子供たちは、皆ここで寝泊まりしているので起こさない様に忍び足でセシリアの寝ている部屋に向かった。
部屋に入るとセシリアは起きていた。どうやら、目が覚めたばかりの様だ、髪が寝癖でぐちゃぐちゃになっていた。
「おはよう、もう起きても大丈夫なのか?」
「うん、もう何ともないよ、それよりお腹減った~何か食べ物ない?」
そう言いながら、部屋を漁る。よっぽどお腹が空いているのだろう、しかし、食べ物はついさっき全て食べてしまい、木の実一つ残っていなかった。
「食べ物だな、よし、ちょっと待っててくれ」
「なるべく急いでよね、こっちはもう、お腹が空きすぎて死にそうなんだから」
そう言えば、セシリアは朝から何も食べて無かったな。俺が朝から、エルフの村に行こうって言ったから朝飯を抜いて、来たんだっけ?ってことは俺のせいか。なら、責任取らねーとな。
俺は、セシリアの部屋を出て、家の外に向かった。さて、何処に行ったら食べ物が見つかるだろうか、思い当たる場所は、あの森しかない。仕方ない、もう夜だけどセシリアの為に、もう一往復行ってくるか。
そう思いながら、能力を発動させ、外に出ると、キョウスケとギンの奴に、ばったりと出会った。
おれは、二人に何処に行ってたのか尋ねた。そしたら、ギンがこう答えた。村のエルフに精霊様と崇められ、それぞれの家に招かれて、食べ物等を貰っていたそうだ。そう言えば、ギンって何であんなに崇められてるんだろう?気になったおれは、ギンに聞いてみた。
「それは、わしのご先祖様が、あのエルフの産みの親であり、村が出来たときに、色々と、知恵を貸して貰った恩があるからじゃろう」
「わしは、この村にあまり貢献しておらんのじゃが、断りづらくてのう、物を渡されるとついつい受け取ってしまうんじゃ」
「なるほど、ギンにも色々事情があるんだな。それより、食べ物を貰ったって言ったよな?良かったらそれ、くれないか?セシリアが今起きた所でな、腹が減ったって言ってんだ」
「分かった、それならすぐに持ってこよう。キョウスケ、手伝ってくれ」
そう言ってギンとキョウスケは、どこかに走り去ってしまった。俺は、能力を解除して、セシリアの部屋に戻った。
そこであの二人を待ってる間に、セシリアが寝ている時に起こった事を話して、時間を潰していた。そして、話が終わるとタイミングを見計らったように、ギンとキョウスケの二人が食糧を持って帰ってきた。
そして、セシリアが食べ 終わると俺は、三人に向けて話を始めた。
「実は、三人に聞いておきたい事があるんだ、今日の昼頃に、村に来たサクヤさんの言ってた事についてなんだが」
「サクヤさんが言ってた、レジスタンスについての説明は、悪い奴をやっつけてる転移者の集団、としか言ってなかった」
「詳しくは、本部のある街へ行って、そこで説明したいと言われた。その返事を明日聞きに来ると言って、サクヤさんは帰っていった」
「そこで、俺は明日、そのレジスタンスの本部がある街へ行こうと思ってる」
「だけど、今回はなるべく、俺一人で行きたい。セシリアの件もあるし、何よりも皆の安全が大事だからな」
「でも、どうしても街へ行きたいって言うなら、連れていってやる。条件付きでだけどな。勿論、守らなかったら、ここに強制送還させるからな!」
「皆はどうしたい?」
俺が、質問すると、セシリアとギンがこそこそと相談し始めた。
「....ねえ、ギンは街ってどんな所か分かる?」
「いや、わしも聞いた事がない」
どうやら二人は、街という言葉すら聞いた事がないらしい。まあ、今までずっと森の中で暮らしてたんだし、仕方ないか。でも、どうやって街の事を説明すればいいんだ?あまり興味を持たせると、街に行きたがるだろうし、かといって、嘘を教えるのも気が引ける。
俺は、迷った挙げ句、説明するのが面倒臭くなったので、全部キョウスケに押し付けた。
「あー、えっと、街って言うのは人が沢山住んでて、それから建物も一杯あって、とにかく賑やかな所だよ。あと、それから」
キョウスケから、街について聞いた二人は、興味が湧いたらしく、二人とも付いていくと言い出した。
結局、また皆で行くことになってしまった。決まってしまった物は仕方ない。せめて、ギンとセシリアに危険が及ばない様に、俺とキョウスケで気を付けるしかない。
「それじゃあ、明日の予定も決まったことだし、今日はこれで解散。明日に備えてちゃんと寝ておくように」
俺がそう言うと、ギンとキョウスケはセシリアの部屋を出て、自分の家に帰っていった。俺も部屋を出ようとしたが、俺は自分の帰る場所が無いことに気付いた。
余ってる家も無いし、エリザさんに黙って勝手に部屋を使う訳にもいかないし、そんなことを考えていると、セシリアが声を掛けてきた。
「タケシは、帰らないの?」
「いや、言い難いんだが、自分の家がなくてな、何処で寝ようか考えていたんだ」
「それじゃあ、わたしと一緒に寝ようよ、一人で寝るの寂しいし」
「は?」
おいおい、俺と出会ってから一週間も経ってないだろ、いつの間にこんなに仲良くなってたんだ?
「俺、一様男なんだけど」
「タケシなら、平気だよ」
なるほど、つまり俺は、男として見られていないって事か、なら、平気だな。
.....いや、やっぱ駄目だろ、常識的に考えて。セシリアには悪いが、やんわりと断らせてもらう。
「気持ちは嬉しいが、俺は床で寝させてもらう」
「えっ、何でよ、一緒に寝るくらい良いじゃん」
「いや、駄目だ。色々な意味で駄目なんだ」
「じゃあ、わたしも床で寝る!」
布団から出てきて、俺の隣に寝っ転がってきた。
「こら、お前はちゃんと布団で寝ろ」
そう言って、セシリアを布団に連れ戻す。
「もう、何で一緒に寝てくれないの!それくらい良いじゃん!わたしのこと嫌いなの?」
「嫌いなわけ無いだろ、何でそんなに一緒に寝たがるんだ?」
「もう一人で寝れる年頃だろ?少し位、我慢してくれよ」
「....我慢できないよ、お願いだから側にいてよ....グス」
とうとう、セシリアが泣き出してしまった。....どうしてこうなった。俺が、俺が一体何をしたというのだ。一緒に寝てあげるのが正解だって言うのか?そんな選択する奴なんて、ガチのロリコン野郎だけだろ?俺の選択は間違いではなかった筈だ。
とりあえず、泣かせてしまった以上、覚悟を決めるしかない。願わくば、俺が起きるまで誰も、この部屋に来ない事を祈ろう。
「分かった分かった、一緒に寝てやるよ、だからもう泣くな」
「うぅ、グス、うん、....ありがどう」
そして、俺はセシリアと一緒に寝ることになった。よっぽど寂しかったのか、俺が布団に入った途端、くっついて離れなくなった。
何で、急に泣き出したりしたんだろうか?普段のセシリアからは想像出来ない。俺は、泣き出した理由を考えてみた。
あっそうだ、確かセシリアがこの村に来た目的って、家族や知り合いに会うためだったな、そう言えば、村のエルフ達はセシリアの事、誰も知らないみたいだったし、恐らく、もうこの世に居ないんだろう。
(....それなら、仕方ないか)
よく考えたら、まだ小さいのにセシリアはよく耐えてる方だと思う、いきなり両親と死別してから、今までずっと森の中で暮らしていたんだから。ギンと一緒だったとは言え、かなり我慢していたんだろう。
なら、俺に出来る事は一つ。側にいて、寂しさを紛らわしてやればいい、それが優しさって物だ。
俺は、腕にくっついてるセシリアの頭を撫でてから、眠りについた。
そして翌日の朝
俺は、目覚めるとすぐに辺りを確認した。
「良かった、まだ誰も起きて無いみたいだ」
今俺は、セシリアの布団で寝ている。しかもセシリアと一緒にだ、こんな状態で誰かに見られたら、確実に誤解される。俺は、誰かが来る前に布団から出ようとするがセシリアが右腕にしがみついてるせいで、布団から出るに出られなかった。 仕方ないので、セシリアを起こす事にした。
「セシリア起きろ!朝だぞ!」
セシリアは全然反応しない。
「おいセシリア!聞いてんのか?早く起きろ!」
右腕を揺すって、呼び掛けるが、全く起きる気配がない。そうこうしてる内に、後ろから声が聞こえてきた。
「おーい、セシリアちゃーん、朝だよー」
この声は、キョウスケだ!ヤバい、俺はまだ布団に入ったままだ。今入って来られたら非常にまずい、せめて布団から出ないと、俺は右腕を布団に入れたまま、身体だけを布団から出した。そこへ、キョウスケが入って来る。
「セシリアちゃ、師匠!?何してるんですか!?ここはセシリアちゃんの部屋ですよね!?」
「あ、いや、その、あれだ、起こしてたんだよ!」
「セシリアの奴が寝坊しない様に」
俺は言い訳して、キョウスケの説得を試みた。
「そ、そうですか、俺はてっきり、セシリアちゃんに欲情して、部屋に忍び込んだのかと思いましたよ」
「そんなわけあるかぁ!!」
「良かった、師匠がそんなことするわけないですもんね。ところで、何で右腕を布団の中に入れてるんですか?」
「いや、これは、その、」
俺が、言い訳を考えていると、キョウスケは、布団の中を確認してきた。
「.....やっぱりセシリアちゃんに何かしようとしてたんじゃないですか!」
「違う!断じて違う!これには訳があるんだ、おいセシリア起きろ!!起きて説明してくれ!」
「師匠、見損ないましたよ!まさか師匠がロリコンだったなんて」
「だから違うっていってるだろ!それは誤解だ!!って言うか、いつまで寝てんだよ、早く起きろぉセシリアぁー!!」
俺は立ち上がり、腕を振り回しながら、耳元で叫ぶがそれでも、セシリアは起きなかった。そのうえ、俺とキョウスケが騒いだせいで、寝ていた子供やエリザさんまで起きてしまい、セシリアの部屋にやって来た。
そうして、俺の誤解は瞬く間に村中に広まり、エルフ達からは変態のレッテルを貼られてしまった。それだけではなく、噂を聞いて駆けつけたギンに、説教までされてしまった。それでもセシリアは、俺の右腕にくっついたまま起きなかった。セシリアが起きたのは、それから約一時間後だった。それまで俺は、変態のレッテルを貼られ、村の皆から蔑まれていた。
そうこうしてる内に、やっとセシリアが目を覚ましてくれた。そしてすぐに、今の状況を説明して、俺の誤解を解くように頼み込んだ。これでやっと疑惑が晴れた。
そんなことをしていると、サクヤさんが声を掛けてきた。
「やあ、お待たせ。返事は決めてくれたかい?」
「ああ、決めたよ、レジスタンスに入るかどうかは、話を聞いてから決めるよ、だから街に案内してくれ」
「ああ、分かった。....ところで、随分とやつれてるようだけど、何かあったのかい?」
「まあ、色々な、それより後ろの三人も連れて行きたいんだけど、いいかな?」
「全然構わないよ、むしろ歓迎するよ!」
そして、話し合いが終わり、俺達は村のエルフ達に、遠くに出かけると挨拶して村を出た。
そして、数時間歩き続けてやっと街の入り口が見えてきた。入り口には、俺と同い年位の兵士が、立っていた。
「よっ、ショウタ、異常はないか?」
「あ、サクヤさん、お疲れ様です、今のところ異常はありません」
「そうか、気を抜くなよ、あいつらはいつ襲って来ても、おかしく無いからな」
「はい!サクヤさんも、気を付けて」
二人が会話を終えると、街の入り口の門がひらいた。
そこには、数え切れない程の人が、道端を歩いていて、さらに三階建てはありそうな建物が、そこらじゅうに建っていた。それぞれが宿屋、道具屋、レストラン等の公共施設だった。初めて見る街並みに驚いていた。
「ようこそ、レジスタンスの街ミルガドへ!」
読んでいただき、ありがとうございます。