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第六話 カネダをぶっ飛ばせ!!

 「先程は失礼しました」

 そう言って、エリザさんが頭を下げてきた。

 おれ達は今エリザさんの家にお邪魔させて貰っている。

 

 あの後、子供たちを説得した後で、そこに居合わせた大人の皆さんにも事情を話し、誤解を解こうとした。そして、何とか説得に成功したおれ達は村の現状と、転移者カネダについて情報を得るため、皆でエリザさんの家に集まる事になった。

 

 エリザさんの家は他の人の家と比べるとかなり広かった。不思議に思ったおれは、家に向かう途中近くのエルフに聞いてみた。

 

 なんでも、両親を失った子供達の親代わりとして自分の家に住まわせてたが、すぐに限界を向かえ、見かねた近所の大人たちが、自分達の家の素材を使い、改築してくれたんだとか。そのおかげで、今では20人程の子供がエリザさんの家に暮らしている。それだけの広さを誇る家だからこそ、皆で集まって話し合いをするには持って来いだった。


 そして、おれ、キョウスケ、セシリア、ギンとエルフの大人達6人の、総勢10人が部屋の中に集まってる。集まったエルフは皆女性だったが。全員かなりの年を取っている。中でもエリザさんは60は言ってそうだ。


 「....本当はもっと居るのですが、先程、働きに出られたばかりでして」

 

 エリザさんが話を続ける。どうやら、若い男性のエルフは全員働かされてるらしい。女性の方は、時々カネダが攫って行ってしまうため、年を取って働けなくなった者と、カネダに攫われ無かった者しか此処には居ないらしい。そのため、此処の住民は自給自足で生活を補っており、小さな畑で採れた野菜だけがこの場所の食料である。


 村の中央には若いエルフが暮らしており、毎朝村の奥にある大きな畑に向かい、そこで働かされ、採れた野菜の半分をカネダの城に持っていかなければならない。そして、それが終わると次に、野菜から採れる茎や根、葉っぱを使い、家や日常品を作らなければならない。カネダの城と村の防壁に木材をすべて使われてしまい、カネダの命令で村から出られない彼らは、野菜の残りで家を作らなければならなかった。日常品は自分達で使うのではなく、カネダの要求で作らされる。椅子やテーブルを作れと無理難題を押し付けられ、少ない材料を集めて、やっとそれらしい物が完成したと思えば、気に入らん、と言って、製作に携わった全てのエルフの家を燃やしてしまうらしい、作らなかった場合は全てのエルフの家を燃やすと言ってる為、作らないと言う選択肢は彼らには存在しなかった。

 

 おれは話を聞いて、ますますカネダに対する怒りが沸いて来た。今すぐこの村から追い出してやろう。そう思ったおれは、カネダの居場所をエリザさん達に問いただす。


 「...おそらく、カネダは城に居るでしょう」

 

 「そうか、分かった。それじゃあ行ってくる」

 

 そしておれは、エリザだけに聞こえるように小声で相談した。


 [すまないが、一つ頼みごとをしていいか?」


 「なんでしょう?」


 「セシリアとギン..じゃなかった、精霊様をしばらく預かっていて欲しいんだ」


 「それはいいですけど、どうしてですか?」


 「戦いに巻き込みたくないからな。今から、城に乗り込んで、そこでカネダを倒してくるからその間二人を任せたいんだが..」


 「なるほど、分かりました」


 エリザさんとの話し合いが終わった。そこへ、外で遊んでいた筈のアルトが、息を切らしながら部屋に飛び込んできた。


 「ママ!大変だ!セシリアお姉ちゃんが、セシリアお姉ちゃんが!!」


 「アルト!?そんなに焦って、いったい何があったの?」





___十数分前___ 


 セシリアは、タケシ達が話し合いしている間暇なので、外で子供達と一緒に遊んでいた。そして、遊んでいたアルトに声をかける。

 

 「ねえアルトくん、わたしこの村の事よく知らなくて、よかったら人がたくさん居る場所を教えてくれないかな?」


 「いいよ、じゃあ村の中央を案内してあげるね」


 「ありがとう!」


 そう言ってセシリアはアルトの頭をなでる。アルトは顔を赤くして、村の中心部に向かって走り出す。


 「あっ待ってよ、...もう、そんなに急がなくてもいいのに」 


 セシリアはアルトを追いかけた。そして、アルトが急に立ち止まる。


 「どうしたの?」


 「た、大変だ、は、早く転移者のお兄ちゃんを呼ばなきゃ」


 アルトは、腰が砕けたように尻餅をつく。

 アルトの視線の先には、大勢のエルフたちが集まっていた。その中心には、黒髪で、禿げかかった頭をした。見慣れない服装をしている男と、その男に対して土下座のような体勢で何度も頼み込んでいるエルフの夫婦らしい人が居た。


 「カネダ様、どうか娘だけは許してください。お願いします。」

 

 「うるさい!!さっさとそこをどけ!!」


 黒髪の男は、頼み込んでいたエルフを蹴り飛ばすと、夫婦が入り口を塞いでいた家に押し入る。そして、セシリアと同じ年頃の女の子の手を掴み、引きずり出す。


 「いやっ離して!」 

 「助けてー!! お父さん! お母さん!」


 「やめろぉ、娘に触るな!!」  


 蹴られた顔を抑え、蹲っていた父親のエルフが、黒髪の男に掴みかかろうとする。それに合わせ、周りで傍観していたエルフ達も黒髪も男を取り押さえようと、身を乗り出すが、それはすぐに止まった。掴みかかった父親の腕が急に燃えたのだ。慌てて消そうとするが地面にこすり付けても火は消えなかった。


 「ぎゃああああ、誰かぁ、誰か水を掛けてくれ!!」


 野次馬の一人が、自分の水筒の水を火に掛けるが、それでも火が消える事はなかった。やがて炎は両腕を覆い、全身に回ろうとしていた。その光景を見て、黒髪の男に飛びかかろうとする者はいなくなった。


 「いいか、俺逆らうとこうなるんだぞ!よーく見ておくんだな」


 「も、もうやめてください、わ、私が、.........ますから」


 「んーー?聞こえないなぁ、ちゃんと大きい声で言わないとほら。お父さん焼け死んじゃうよぉ?」


「わ、私が何でも言う事を聞きますから、グスッ...お父さんを許してください」


 頭を下げ、泣きながらお願いする女の子。それを見た黒髪の男は、笑い出した。


 「グフフフ、最初からそう言えばいいんだよ、手間取らせやがって」


 そう言って、泣いてる女の子の腕を引っ張る。そして城の方へ歩いていく。

 

 「ま..待って..くれ...メリアぁ....うぅ..」 


 炎は消えたが、父親は、見るも無残な姿になっていた。その一部始終を見ていたセシリアは、居ても立っても居られず、飛び出した。

  

 「ちょ、ちょっと、セシリアお姉ちゃん!?」

 

 アルトの静止を振り切り、セシリアは黒髪の男に向かって走る。そして、メリアを掴んでる腕に思いっきり力をこめて噛み付いた。


 「ぎぃやあああああああ」


 黒髪の男は、突然の事で何が起こったか判らなかった。それは、周りに居たエルフたちも同じで、掴まれていたメリアでさえ、目の前の状況が飲み込めないでいた。


 (どうしよう、僕が早く転移者のお兄ちゃん達を呼んでいれば..)

 

 アルトは急いで起き上がり、家に向かうが、足が震えてうまく走れない。脳裏に先程燃やされた父親がちらつき、そのたびに恐怖で足が動かなくなり、思わず転びそうになる。


 (でも、僕が行かなきゃ、セシリアお姉ちゃんが!)


 勇気を振り絞り、震えていた足に喝を入れ、急いで家に向かう。


 そして、家に着いた。息も整えないまま、家に突撃して、こう叫んだ。


 「ママ!大変だ!セシリアお姉ちゃんが、セシリアお姉ちゃんが!!」




 



 「わらひにからわずはやふひへへ(わたしにかまわずはやく逃げて)!!」


 きょとん、としているメリアにセシリアは、噛み付いたまま喋る。メリアはセシリアが何て言ってるか聞き取れなかったため、その場でおろおろしている。それに気づかず、セシリアは喋り続ける。


 「はやふひへなはいっへは、ひにはいの(はやく逃げなさいってば、死にたいの)!?」


 メリアはようやくセシリアの言ってる事が判り、その場から逃げ出して、父親の元へ駆け寄る。


 「お父さん!大丈夫?」

 「ああ、お父さんは平気だよ、メリア!」


 火傷した腕でメリアを抱き寄せる。それを見届けたセシリアは噛むのを止め、黒髪の男から距離をとる。 


 「この糞ガキがぁ!!このカネダ様に舐めた真似しやがって!!!」


 カネダは手を押さえ、セシリアに罵声を浴びせる。そして、カネダの体から炎が浮かび上がる。それはまるで、カネダの怒りを表しているかの様に、激しく揺れ動いていた。


 「糞ガキ、お前は必ず殺してやる、その前に、この世の地獄を味わって貰うがなぁ」


 カネダから生み出された炎がセシリアの周りを囲む。逃げ道を失ったセシリアは炎の壁を前にして立ち尽くす。そこへ、壁の中からカネダが現れ、セシリアに向かって炎を纏わせた拳を振りぬいた。


 「おらぁ!!」


 ドボォ!!!


 「うっ...ぐっ.....おえええぇぇ...」

 

 拳はセシリアのお腹に当たり、小さな身体がカネダの拳によって持ち上げられた。持ち上げられたままセシリアは吐いた。それを避けようとカネダはセシリアを払い落とす。


    


 お腹を押さえ、地面に蹲る。耐え難い痛みが襲い掛かり、声を上げる事すら出来ずに、また吐き出した。痛くて、苦しくて、気持ち悪くて、泣き出したくて、それも出来ないくらい辛くて、自分が何をしたらいいのか判らなくなってきた。そんな状態のセシリアに対してカネダはこう言い放つ。


 「ちっ、汚ったねえな~、この糞ガキがよぅ」

 「てめえのゲロが、服に付いちまっただろうがぁ!!!」

 

 カネダは地面に横たわっていたセシリアのお腹に向けて蹴りを放つ。


 「____雷鳴盾(サンダーシールド)!!」


 セシリアとカネダの間に光の壁が現れる。それに蹴りを放った足は弾かれ、バランスを崩したカネダは後ろに倒れる。


 「おい、セシリア!大丈夫か?しっかりしろ!!」


 おれとキョウスケは、アルトの知らせを聞き、急いで、駆けつけたが.....遅かった


 おれは、セシリアを抱き寄せて呼びかける。抱き寄せたセシリアの身体は、まるで人形のように、ぐったりとしていた。


 「なんで、なんでこんな馬鹿なことをしたんだ!!」


 おれはセシリア対して怒った。わざわざ自分からカネダに会う必要なんて無いのに、大人しくエリザさんの家で待っていれば、おれがさっさとこいつを倒していたのに、森を出るときにおれの側を離れるなって言ってたのに、後悔で胸が張り裂けそうだった。

 

 森を出るとき、もっときつく言い聞かせておけば


 エリザさん達と話し合ってる時に、セシリアから目を離さなければ


 おれがもっと速く、此処に着いていれば


 悔しさのあまり声を荒げてしまった。

 

 「あ、あの子が、攫われそうに、なってて...]


セシリアが、弱弱しく口を動かしながら、助けた親子を指刺す。


 「そ、それで、わたし、何とかしなきゃって、思って」


 「気がついたら、身体が勝手に、動いてたの、危ないって、判ってたんだけど、ごめん」


 おれはセシリアの押さえていたお腹に手を置き、やさしく摩った。


 「...そんな事があったんだな、おれの方こそ怒鳴ったりしてごめんな、続きはおれがやってやる。だから、安心して休んでいてくれ」

 

 「うん、そう..する...ね]


 そういい残して、セシリアは目を閉じた。


 おれは一瞬、死んだと思って血の気が引いた、すぐに胸に耳を押し当てて心臓の音を確認した。ドクン、ドクン、と音が鳴ってる。 セシリアは生きていた。おれは心の底から安堵した。おそらく気を失ってるだけなんだろう、心配させやがって。


 

 さてと、セシリアをこんな目に合わせた命知らずは誰だ?

 あいつか?あのおっさんなのか?さっきから、お前らは何者だ!とか

 このカネダ様になんたらかんたらとか言ってる

 あの小太りで不細工なおっさんがやったのか?

 あんな身も心も醜い醜悪なゴミに、セシリアは殴られたのか?

 そして、エルフの村を、己の私利私欲で汚したのか?

 

 だとしたら、あのゴミは生きる必要なんて無いんじゃないか?

 全ての存在に迷惑を掛ける薄汚いゴミは、塵も残さず消すべきだ。


 「.....キョウスケ、おれとあいつ以外に障壁(プロテクト)を掛けてやってくれ」


 「悪いが少し、本気を出す。衝撃から村を守ってくれ」


 「えっ、は、はい、判りました。うおおおおっ閃雷障壁(ライトニングプロテクター)


  全てのエルフに雷の衣が与えられる。エルフたちは何をされているのか解らず、混乱していた。


 まあ、無理も無いか、いきなり訳の分からない光に身体が包まれれば誰だって混乱する。おれはセシリアにも、雷の衣が着いたのを確認してから、カネダのほうに歩み寄る。


 「...無理を言ってすまんな、キョウスケ」

 「ふぅ、これ位、何てこと無いですよ師匠。」

 「それより師匠、なんであんな奴にわざわざ本気出すんですか?」

 

 「.....あいつがどうしても許せないからだ」

 

 「あいつには、手加減してやろうとか、かわいそうだとか、哀れみの感情が一切湧かないんだ。それどころか、心の底から殺してやりたいって気持ちが溢れてきて、おれはもうこの怒りを抑えられない!」


 「本気を出さなきゃ止まれなくなってんだよ!!」


 「貴様らぁ~さっきからこのカネダ様を無視しやがって!!何様のつも」


 おれは目の前で喋っていたゴミに、本気でアッパーを喰らわせた。


 その瞬間、凄まじい衝撃波が起こった。

 

 村全体に衝撃波に響き渡った。


 そして、カネダの居た場所には、カネダだけが、綺麗に消えていた。


 おれはその衝撃でやっと、怒りが冷め、落ち着きを取り戻した。それと同時に、後悔した。怒りで我を忘れていたとはいえ、本当に、本気を出してしまうとは、能力を長時間発動させ続けると、しゃれにならない威力になる事をキョウスケとの戦いで学んでいたはずなのに、やってしまった。後悔と罪悪感が俺の心を埋め尽くし、思わず地面に蹲る。


 この感情を例えるなら、ゲームがなかなかクリアできない事にイライラして、コントローラーを地面にぶん投げ、コントローラーをぶっ壊してしまった時の、急に怒りが冷めて、やっちまったって頭を抱えるあの感じに似ている。

 

 (キョウスケに皆を守らせたけど、あの衝撃じゃあ、きっと村は、何もかもが吹き飛んで何も無い更地になってるんだろうなぁ)


 俺は今この瞬間、どんな時でも、絶対に本気では攻撃しないと心の中で誓いを立てた。


 憂鬱な気分に浸っているとキョウスケが声を掛けてきて、俺にこう言った。


 「いやー、やっぱ師匠は凄いっすね~。掛けていたプロテクターが全部吹き飛んじゃいましたよ!」


 「保険で村全体に掛けといたプロテクターを二重にしてたんですけど、何も残りませんでしたよ、やっぱ師匠は俺なんかより、...いや、俺なんかと比べる事自体おこがましい位凄いです!」


 んっ?今こいつなんて言った?保険を掛けといただって?

 

 てことは、もしかして


 俺は、顔を上げ周りを見た。そこには、村が残っていた。俺が吹き飛ばしたと思ってた村が無傷で残っていた。正確にはカネダの城と防壁は残っていなかったのだが、それでも十分すぎるほど残ってくれた。


 (ちょっ、おま、マジか!?どんだけ気が利くんだお前!?もう、明らかに俺よりお前のほうが凄えよ)


 俺はキョウスケに対して、心の中で突っ込んだ。


 「キョウスケ、ありがとう、今回は正直、お前に凄く助けられたぞ」


 「師匠は、お世辞も旨いんですね!」


 お世辞じゃねえっつうの、でも、本人が納得してるしこれでいっか。 


 それに、今はエルフの村のこれからについて考えなくちゃいけない。俺がやったのはカネダと言う害虫を駆除しただけで村の利益になる様な事は、何一つやってない。せっかく子供達と村を救う、って約束をしたんだからちゃんと町が豊かになるようこれから努力せねば。

 

 まずは、俺達の事を知らないエルフたちに事情を話して、それから、カネダはもう居ないから村長を決めて、とにかく、まだやる事が山程残っている。それに、セシリアも治療しないといけないしな。 



 かくして俺は、無事、エルフの村をを救う事が出来た。

 

 (まだ途中だけどね)


読んでいただき、ありがとうございます。

次回から新章です

 

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