第二話 セシリアと精霊さん
「うっ・・・・ここは・・・?」
目が覚めると、俺はベットの上で寝ていた。
確か俺は、あの怪物に襲われて吹き飛ばされた。
その先で、追いかけてきた怪物にまた襲われて・・・
そこから記憶がない。
どうやら俺はそこで気を失ったようだ。
しかし、いったいここは何処だ?
周りを見回してみたところ、家の中のようだった。
誰かが気絶していた俺を助けてくれたのかな?
そう思っていると、部屋のドアが開いた。
「あっ気が付いたんだーーーよかったぁ!!」
見慣れない服装をした少女が俺の方を見てそう言った。
まるで人形のように整った顔。
金色の髪に長い耳そして青い瞳。
それはまるで空想の世界に出てくる理想のエルフそのものだった。
俺は思わず見とれてしまった。
(か、かわいいなぁ・・・)
そう思いながら少女を眺める。
(はっ、いかんいかん、こんなことしてる場合じゃない!!)
(せっかく助けてもらったんだ、お礼を言わなきゃ。)
「ええっと、 助けてくれてありがとう。」
「えへへ、どういたしまして♪」
彼女は、はにかみながら答えてくれた。
かわいすぎる・・・犯罪的だ・・・。
俺は初めてこの世界に来てよかったと心の底から思った。
さて、お礼は言ったものの、これからどうしようか?
いま俺はこの世界でやることがない。
それどころか、この世界について俺は何も知らない。
いきなり襲われた怪物たちのこと。
俺に授けられた能力について。
ここは何処で、きみは誰なのか?。
ほかにも話の通じる人がほかにいるのか?
考え出したらきりがなかった。
とりあえず、情報を集めてからだ。
それから、自分のやりたいことを見つけよう。
俺は心の中でそう誓った。
まずは、目の前にいるこの子に質問するのが最善だろう。
そう思った途端
「そうだ、自己紹介まだだったよね?」
「わたしセリシアっていうんだ、あなたのなまえは?」
「え、えーと」
思わず口ごもってしまった。
こちらから質問する予定が、先を越されてしまった。
とりあえず、正直に答えておこう。
「俺の名前はタケシだよ。」
「タケシね。」
「ねえ、タケシってどこから来たの?」
・・・やっぱり正直に本名なんて答えなきゃよかった。
よく考えたらこの世界に似合ったかっこいい名前を言っておくべきだったんだ。
セシリアって聞いたあとに、タケシって言われると違和感がすごい。
どうせならカインとか、ギルバードとか、違和感を感じないレベルの名前をチョイスすればよかった。
俺は、軽率に名前を言ったことを後悔しながら会話を続ける。
「実は俺、転移者なんだ。それでこの世界のこと、まだよく分からなくて」
「えっ!?」
「それでいろいろ聞きたいんだけど、どうかした?」
「あっいや・・・なんでもない・・・・」
急にセシリアが口を閉ざす。
どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
セシリアの顔がどんどん暗くなる。
やってしまった、何がいけなかったんだろう?
やっぱり名前か!名前がダサいのがいけなかったのか!!
冗談はさておき、ひとまず話題をそらそう。
「そ、そう・・・ところで、この部屋すごくきれいだね。」
(なんで急に部屋をほめたんだよ!?)
(もっとさぁ、ましな話題のそらし方なかったのかよ俺ぇ。)
心の中でツッコミをいれてると、セシリアが口を開く。
「・・・本当に、転移者なの?」
セシリアは悲しげな顔で、俺にそういった・
(転移者なのが地雷だったのか、さてどう答えたものか。)
今さら誤魔化したところでこれ以上空気が悪くなるだけだ。
そう思い、俺は正直に答えることにした。
「・・本当だよ、俺はこことは別の世界から来た 転移者だ。」
「そんな・・・信じられない。」
突然後ろの方から声が聞こえてきた。
「転移者だと?セシリア、どういうことだ!!」
セシリアがびっくりしながら後ろを振り向きあわててしゃべりだす。
「精霊さん!?ち、違うのこれは、」
「転移者には近づいてはならんと、いつも言っておろうが!」
そこにいたのは、顔に髭と角を生やし、銀色の体毛で覆われた一匹の狼だった。
この時、俺はセシリアがいきなり怒られたことよりも、狼が言葉をしゃべっていることに驚いていた。
そんな俺を差し置いて、二人の口論が続く。
「転移者はこの世界に災いを招く。そうなる前に殺さねばならん」
「まってよ!この人はまだ何もしてないわ。」
「転移者は皆、危険な力を持っておる。生きているだけで悪なのだ。」
「そんな事ない!」
「お前にはまだわからんだけだ!とにかくこやつは今この場で殺す!」
話をやめるなり、狼は俺に飛び掛かってきた。
そのままの勢いでのしかかり、俺の首に噛みついた。
(殺される!?)
俺は突然襲われ、驚きのあまり何をされたのかわからなかった。
「やめてぇ!!」 「うわっ やめてくれぇ!!」
セシリアと俺が叫ぶが狼は無慈悲にも顎に力を入れ始める。
首に血がにじんできた
俺は、パニックになって狂ったように叫ぶ。
「うわぁーーーやめろーーーー!!!」
「死にたくなーい!!助けてくれーーーー!!!」
「まだ死にたくな―――い!!!!」
すると狼は俺に対して質問してきた。
「貴様、なぜ自分の能力をつかわん?」
・・そこで俺は気づいた。
「転移者は皆恐ろしい能力を身につけておるはずだ!なぜ能力を使わんのだ!!」
狼は警戒したのか、噛むのをやめて距離を取りながら問いかける。
俺は、自分が能力を使えるのをすっかり忘れていた。
「あっ・・いや・・その・・・・忘れてました。」
「はぁ?」
「そのぉ・・能力は持ってるんですけど、使うのを忘れてました。」
「貴様ぁ!、見え透いた嘘をつくなぁ!!」
「いや・・本当に忘れてたんです!信じてください!」
俺はいつのまにか正座になっていた。
そして必死に目の前の狼を説得していた。
「だから本当なんですってばぁ!ほんとに忘れてただけなんですよー」
「ええい、うるさい!!嘘をつくのも大概にせい!!!」
「嘘じゃなくて本当だってばぁ」
こんなやり取りを続けていると。
「プッ・・アッハッハッハッハ」
セシリアが、俺と狼を見ながらお腹を抱えて笑っていた。
俺は恥ずかしすぎて顔から火が出そうになった。
さっきまで心の底から死にたくないって思ってたのに。
今は、心の底から死にたいと思っていた。
殺されかけたとはいえ、自分より年下であろう女の子の目の前で泣き叫びながら取り乱していたのだ。
しかも、その様子を見られて笑われている。
自分のことが情けなくて情けなくて、この気持ちをどこにやればいいか分からなかった。
もう、どうでもいいや。
俺は今まで経験したことないくらいの痴態を見られて、頭の中が真っ白になった。
「あなたたちってさぁ、本当は仲いいんじゃないのぁ?」
笑いながらセシリアが言ってきた。
「ッ誰がこんなやつと!!」
「いやっそれは無いって!?」
お互い同時に、声を合わせて反論する。
「フフッ、やっぱり仲良しじゃない。」
「喧嘩なんてしてないで、さっさと仲直りしちゃいなよ。」
ニヤつきながら、俺と狼を抱き寄せる。
(ちょっ、セシリアちゃん顔が近い!、顔が近いって!!!)
「なにをする!はなせ!」
狼はセシリアの手から逃れようと暴れだす。
「むー、言うこと聞かない悪い子は・・・こうだ!!」
狼に抱きつき、そのままベットの上に押さえつける。
「はなせっ!はなすのじゃあ!!はなせ・・・・うっ」
「ぐっ・くく・・ガハハハハハハハ」
セシリアが狼の脇をくすぐっていた。
「やっやめっ・・やめてくれ・・たのむ・・」
セシリアは手を止めなかった。
・・・・十五分後・・・・
「わ、わかった、こ、この人間とは仲良くする。」
「もう殺そうとしたりせんからやめてくれぇ・・」
泣きそうになりながら懇願する狼。
「わかれば、よろしい。」
ようやくセシリアの手が止まった。
そこには、先ほどまでの威厳が無くなり、息を切らしてぐったりしている狼と、腰に手を当て、胸を張りながらドヤ顔しているセシリアがいた。
俺はその光景を正座したまま傍観していた。
「さーてっと、こっちの説得も終わったし、タケシの誤解も晴れたし」
「ひとまず、一件落着ね♪」
かくして、無事?ここで暮らしてる二人と打ち解け、俺はしばらくここに居させてもらうことになった。
数日後・・・
「うっ・・・ここは・・・どこだ?」
「おれはなんでこんな草原にいるんだ?家で寝てたはずなのに・・・」
「んっ・・なんだこの紙は?」
―あなたはこの世界に来た13279人目転移者です。この世界であなたは自由に行動することが出来ます。転移者の皆様には特殊な能力が授けられます。あなたには、「雷帝」をさずけました。能力の詳細はこの紙の裏に書かれています。それでは、よい異世界ライフを―
「・・・・なんだこりゃ・・・」
裏を除く。
―能力名「雷帝」
能力「電気を生み出すことができ、それを自在に操る。」
「これはあれか、いわゆる異世界転異ってやつか?」
「てことは・・・・ていっ!」
ドッガーーン!!!!!
「おいおい、手を軽く一振りしただけで落雷がおきやがった・・」
「こいつはおもしれぇ能力手に入れたぞぉ・・・」
グルルルゥゥ グルルルゥゥゥゥ
「んっ・・なんだこいつらは?」
「そうか!RPGなんかにいる魔物みたいなもんだな、きっと・・」
「よし、きめた・・・こいつらで試してみよう。 俺の力がどれほどのものか、クククク・・・」
バキィ! グチャァ! バリバリバリ・・・・・ピシャーーン!!!!
「あれ、もう終わりかよ・・つまんねーなぁ・・・」
「まだ試してない必殺技が沢山残ってるのによぅ・・ッチ」
まあいいや、とりあえず能力の使い方のコツは掴めた。
とにかく今は、この能力を使ってやりてーことができた。
“強そうな魔物を見つけて必殺技の実験台にしてやる”
ふふ、いまから、楽しみだ。
「とりあえず、歩くか・・・よし・・・あの森にしよう・・・」
読んでいただき、ありがとうございます。