毒なおんな
気になる絵があった。
思わず立ち止まって、その絵に見入ってしまう。
その絵を見ながらじっと考える。
(俺は今なんでこの絵に目が留まっているのだろう)
それは毎朝そして毎晩通る駅の構内にあるポスターだった。
特に画期的なデザインという訳でもなく、なんのポスターだったかも今では覚えていないくらい、情報としは希薄だ。
でも、その絵は残像としてジロウの頭の中にいつまでも残っていた。
学生時代の話だ。
10年後
ジロウは就職して恋愛して結婚。子供も2人ほど授かり人並みの幸せを感じていた。
ただ最近は、会社関係の接待が多く、腹回りに脂肪がついてきて、血圧も高めで完璧なメタボリックシンドロームになっていた。
トレーニングジムに通いたい旨を妻に相談したところ
「どこにそんなお金があるの! 公園でも走ればいいでしょ」
の一括で話は終わった。
お金が無ければ太る時代なのだ。
裕福な家族は、オーガニックな物を食べる。多少高くついても着色料、保存料などの添加物がないものを選び、設備の整ったジムで運動し、速そうな自転車に乗り、通勤または通学する。
逆にそうでない方の家庭は、安売りされるような産地も不明瞭な野菜や米を買い、原材料が沢山書いてあるような加工品を食べる。
仕事に日々疲れ、ストレスを貯めながら電車に毎日揺られる。
つまり健康を金で買う時代だ。
それでもジロウには希望があった。
まだ20代だからか、否
家族が幸せならそれでよいからか、否
年末に、転勤の内示が上司から出て、それを妻にも相談せず二つ返事で快諾していたからだ。