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13 不意打ち

「で、結局お宅等は付き合ってんの? そうじゃないってまだ言うの?」


 大学の生協のカフェで。

目の前に座るクラスメイトの瀬尾せお葉月はづきに詰め寄られる。

この春に大学で知り合って、気が合うというか、馬が合うというか。

気が付けば親友といえるくらいには仲良くなった。

サークルも彼女に誘われて、気が付けば同じ天文サークルに入ってしまっていた。

それには、隣に座る御倉みくらなぎくんも着いてきていて。


「いやいや、付き合ってないってば。偶然、同じマンションに住んでるから、そのよしみだって」


 必死に否定をするが、彼女の目は据わっていた。

隣の彼は知らんぷりを決め込んでいる。

あなたの事であるんだけどな?


「だって、夕飯を万尋まひろのとこで食べるんでしょ? もう、半同棲とかそういうのじゃん」


 サークルの合コン以来、御倉くんとは親しくしている。

同じマンションに住んでいて、送り迎えをきっかけに何かと世話を焼いてくれる。

バイトで遅くなる時は迎えに来てくれたり。

そのお礼も兼ねて、時々うちでご飯をご馳走しているだけなんだけど。


 今日だって、『今日、うちでご飯しない?』と誘った所を偶然、葉月に聞かれてしまったってだけで。


「じやあ、今日は瀬尾も一緒に食べに行こうか?」


 今まで我関せずを決めていた御倉くんが口を開く。

いやいや、そういう問題なのかな?


「よし、乗った! 万尋の手料理じゃないのが残念だけど」


 え、乗るんかい。

そして、そこは問題なのか?


「それは、駄目。俺の特権だから」

「……なんだよ、それはノロケ? いいよ、もう付き合いなよ!」


 『特権』って。何の話なのさ?

そう心の中で突っ込みを入れたい。


「……で、何食べたい? 食べたいものがあれば探しとくけど」

「京都らしいもので!」


 葉月は山形出身で、京都の人ではない。

かくいう、私も北海道出身。

御倉くんは中学からこちらに住んでいるから、私達よりはこちらに詳しい。

というか、親戚とかも多いみたいでかなり頼りになる。

元来、方向音痴な私は彼に頼りっぱなしな所がある。


「……京都らしい、ね。……鴨川で豆腐は?」

「よし、乗った!」

「万尋は?」


 御倉くんは、私を名前で呼び捨てにする。

何故だか気が付くと、いつの間にかそう呼ばれていた。

悪い気がするわけじゃない。

少しだけ、ドキッとするくらいで。

その少しかすれた低めの声で名前を呼ばれると、ぎゅっと心臓が掴まれるような感覚になる。


「私も食べてみたいな」

「そうこなくちゃ」

「わかった。そうしたら、空いてるか聞いてみる」


 御倉くんがスマホでどこかへ電話を掛ける。

先方に繋がったのか、立ち上がって後ろを向く。

その背中を見ていたら、葉月に意識を引き戻される。


「御倉くんは万尋のこと、好きなんだと思うけどなあ?」

「え、どうかなぁ。わかんないよ」

「いやいや、あれはそうでしょ。鈍感だなぁ」


 年齢イコール彼氏いない歴をなめんで貰いたい。

私の人生ではなんでか、そういうフラグは当てにならないんだな。


 でも、御倉くんとは割とあるのかもしれない。

ここ一、二月で、そんな雰囲気を感じることはたまにあるような気がする。

これがそうなのかはよくわからないけど。

御倉くんもそれ以上には踏み込んでこないし。


「悪くないと思うよ? 慎重になるのはわかんなくもないけどさ」

「別に慎重になってる訳じゃ」

「予約取ったよ。夕方6時で。……何の話?」


 通話を終えた御倉くんが会話に戻ってくる。

微妙な雰囲気を感じてか、私の顔色を窺う。


「あ、」

「御倉くんが万尋を好きなんじゃないかって話」


 誤魔化そうとすれば、事も無げに葉月が明かしてしまう。

いやいや、本人にそれ言っちゃうの?


 言われた当の本人は、鳩が豆鉄砲を食らったように、その目を見開くが。


「うん。俺、万尋が好きだよ」

「は? え?」

「だよね? ほら、やっぱりそうじゃん」

「え、でも」


 春に知り合ったばかりで。

告白とかされた訳でもないし。

(今、言われたけど)

まだ、ふた月くらいしかたってないし。

否定の言葉だけがぐるぐると。

ええ? いや、なんで? どうして?


「万尋が否定ばっかするからさ、ちゃんと言ってあげなよ」

「近いうちに、とは」

「駄目だよ。この子、自己評価低いもん」

「そうだね」


 御倉くんが顔を寄せて、耳元で囁く。

その長い睫毛が間近にあって。


「後で、ちゃんと言うから」


 その低い声に、顔が熱くなる。

誰か、私を鴨川に投げ入れて欲しい。

今すぐここから、逃げたい。

そんなこと叶う訳もないけど。


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