婚約の解消と回避とその後
とある侯爵令嬢の婚約のあれこれ。
主人公はまっすぐな性格でまともな侯爵令嬢で年相応で、チートではありません。
転生でも異世界トリップでもなければ、悪役でもないはずが・・・。
短めです。
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「お前なんて嫌いだ。 もう顔も見たくない。」
「・・・・・・。」
「この人はもう貴女のものではないのよ。」
「・・・・・・。」
「結婚の約束は取り消しだ。」
「・・・ばかぁ! あなたなんて大っ嫌い!」
中等部卒業のほぼ1か月前、婚約者からの一方的な婚約破棄宣言。
仲の良い両親を見て育った私は結婚に憧れていた。
そんな私の婚約者の公爵令息は銀髪に蒼い目で王子様みたいにきれいだったから、一目で好きになった。 そんな相手と、婚約者だからといつも一緒に居られて嬉しかった。
でも、中等部2年の時、あの伯爵令嬢が来たら変わってしまった。
金髪碧眼で明るい太陽のような令嬢。 彼女は、黒髪に茶色の目の私とは持つ雰囲気が全然違う。
じゃじゃ馬と言ってもいいくらいにお転婆な彼女に婚約者は夢中になり、私を邪魔者扱いするようになった。
悲しかった、私は好きなのに・・・。 ツラかった、嫌われちゃったの? 悔しかった、私の婚約者なのに・・・。 さびしかった、傍に居ちゃいけないの?
いろんな感情がごちゃ混ぜでどうしようもなくて、どうしたらいいかも分からなかったから思いのままに行動していた。 そうすることしか出来なかったから・・・。
「好きなの!」 と彼の腕を掴んだら、振り払われた。
「私の婚約者なんだから離れてよ!」 と彼女を引っ張って彼の傍から引きはが(そうと)した。 そうしたら彼女が転んで、彼は私を睨みつけてから彼女を支えて保健室に行ってしまった。
「彼に近づかないで!」 と彼女に怒鳴ったら、駆けつけた彼に突き飛ばされた。
そんなことが何回か有った。
そして、さっきの言葉。 彼に嫌われた。 彼女に取られた。
ショックで、どうしていいか分からなくて、もう何がなんだか分からなくて、泣きながら叫んで家に帰った。 そして、泣いてたら気付けば日にちが変わっていた。
熱を出し、寝てても夢に泣かされてうなされて、起きても頭は働かないのに心は悲しみだけがあふれて涙が止まらなかった。 そんなことが2週間続いたらしい。 私はずっとぼんやりしてたから時間なんて分からなかった。 友達が何人かお見舞いに来てくれたみたいけど、ぼんやりしてるか寝てるかで気付かなかったし、だからお礼も言えなかった。
「もう(あの)学校は行かなくていいからな。」
「成績も良かったし、卒業は出来ることになったから安心して休みなさい。」
「高等部は(彼らとは)別の学校に行こうな。」
回復したころ、両親とお兄様がそう励ましてくれた。
『私は味方だよ。』 『元気出して。』 『また遊ぼうね。』 お見舞いの花やお菓子に付いてたというメッセージが嬉しかった。 回復してすぐにお礼の手紙は書いた。
ふと、だいぶ心がスッキリしてることに気付いた。 思いきり叫んだし、さんざん泣いたし、周りの温かさに救われて立ち直り始めたみたい。
その後、学校には行かず卒業証書だけもらって卒業した。
婚約は解消された。
彼のお父様は優秀だったけど王宮での仕事にかかりきりになるあまり領地をほうっておいたらしく、ウチのお父様に指摘されて王宮での仕事をやめて家族で(もちろん彼も連れて)領地に帰ったらしい。
例の伯爵令嬢がどうしたかは知らない。 誰も話さないし、私も彼女のことはもうどうでもよかったから聞いてない。
王命での婚約だったから、彼の勝手で一方的な婚約破棄宣言に王様が怒って、私の不名誉にならないように手を尽くし、隣国の高等部への紹介状も書いてくださった。
高等部入学までは、時々友達と遊んだりしながら入学準備をした。
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隣国の高等部、 もちろん入学試験をちゃんと受けて合格した。
「隣国もののくせに、目障りなのよ!」 と怒鳴られた。
「他人の婚約者に手を出すなんて!」 と平手打ちされた。
「いい子ぶって先生に庇ってもらうつもりなんでしょ?」 とノートを破られた。
「(自)国に居られなくて逃げてきたくせに!」 と突き飛ばされた。
いつかと似た状況。 ただし、立場が違うけど。 何よりも、すべてが誤解と濡れ衣だし・・・。
だって、その婚約者なんて好きでもなんでもないし、どうだっていい。 むしろ、関わりたくないし、寄って来られても迷惑だから。
隣国とはいっても、我が侯爵領は国境に接してるし、隣国の首都はその国境に近いしってことで、その首都に有る学校に領地の本宅から通えたからこその越境入学。
それが『隣国もののくせに・・・』になってるので、否定はせず受け流す。
そして、仮にも国王陛下直々の紹介状をもらってるから下手な成績なんて取れるわけもなく。
結果、『いい子ぶって・・・』と言われることになったけど、相手にするだけバカバカしいので放置。
そうやって、そんなこんなをやり過ごしてきたのに、(隣国の馬鹿)王子のせいで・・・。
隣国の侯爵令嬢なのに越境で、成績優秀で、ってことで元々私に興味は持っていたらしい。
ところが、卒業までには正式な婚約者を決めることになったら、自分の婚約者候補筆頭の公爵令嬢が私を警戒して暴言を吐くようになった。
それでも動じない私にますます興味を持ったらエスカレートして公爵令嬢に嫌気がさした。
そこで婚約者候補から外そうとしたのを公爵令嬢は私のせいだと考えた。
で、結局、誤解で泥棒猫の濡れ衣をかぶせられたあげく、またしても卒業のほぼ1か月前に今度は私が突き飛ばされて怪我する事態に・・・。
ただ、今回は前回より状況が悪かった。
原因が王子という王族であり、(隣国の)王が王子を支持、こちらの王を通して縁談を持ち込んでくれちゃったから、大事になった。
隣国との関係を考えた王が私の両親に打診。 状況を知ってる家族が激怒し、とうとう、爵位も領地も返上してお母様の実家である東方の国への移住を決めた。
お父様は王宮でも宰相補佐を務めながら、お兄様と協力して国境を守り領地経営は順調という有能さで、お母様は社交界でそこそこの影響力を持ち、お兄様や私の友達の親兄弟も優秀かつ公正で・・・。
そろっての反発に王は慌てたらしいけど、私たち家族の出国だけは思いとどまらせることは出来ず、かわりに周りをなだめることを条件に承諾し、(隣国の王に)高等部の卒業証書を発行させることで妥協したらしい。
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というわけで、お母様の祖国に来た私は、今は王宮で王女の教育係兼話し相手。
王女といっても正確には王妹。 王が私の7つ上と若く、その妹の彼女は私の1つ下。
歳が近く、優秀で、身分も問題無いってことで、私に依頼が来て引き受けた。
ちなみに、お父様はここでも宰相補佐をすることになった。
両親を病気で亡くし、若くして戴冠した王は独身で、普通だったら王妃候補が群をなす。
でも、国を支え妹姫を守るのに必死だった王は、自分にも他人にもとても厳しかった。
そして、将来を考えるからこそ、周りへの要求も高かった。
さらには王族特有の黒髪黒目という色合いのうえにあまり笑わない彼は、歳の近い令嬢からはもちろん、その親からも恐れられていた。
そんな彼の妹姫にも近づく人は少なく、私が来たのは都合が良かったというわけ。
彼女は、聡明でしっかりしてるのに話し方は穏やかで笑顔はほんわかしてる。
顔合わせで意気投合したから、教育係兼話し相手の打診もすぐ承諾した。
でも、最近、受けるべきではなかったかもと思うときが有る。
唯一の家族である妹姫の様子を気にかけているので定期的に報告を求められるのは分かる。
ところが、最近はたまに王自ら様子を見に来る。 そして少しずつ話に加わるようになった。
そうすると、妹姫が喜んで王を引きとめ次の約束をするようになった。
それを見た周りの様子がおかしくなってきて・・・嫌な予感がする。
王は、若いのに厳格だし愛想は無いけど、優秀だし普通に美形。 聡明で公正だと分かってるから恐ろしいとは思わない。 見た目の色合いも私達一家と似ているから見慣れてるし、恐ろしいどころか親近感を感じるし・・・。 でも、(私にとっては)それだけ。 なのに、それ以外を期待されてる気がする。
妹姫や侍女たちは分からなくもない。 たいていの女性はラブロマンスは大好きだから。 私だって、物語の中や他人事なら喜んで楽しむし・・・。
でも、王の側近やら大臣までってことはないと思うわけで、まさか、もっと現実的な意味で・・・なんて、考えたくもない。 さらには、最初からその可能性を期待されてたのかもなんて、冗談じゃない。
こうなると、頼みの綱は王本人。 お願い、その気にならないで!!!
********** (完) **********
序盤の『大っ嫌い』な『あなた』は貴方(婚約者)と貴女(伯爵令嬢)。
中等部での主人公は、真っ直ぐな性格なので正面からの真っ向勝負だし、純粋な嫉妬と癇癪で伯爵令嬢に対するので相手が婚約者に絡んでない時は気にもしない。
また、年相応だしプライドが許さないので実家の権力を使うなんて考えもしません。
主人公のその後も王自身の考えも作者にも分からないけど、・・・・・・ねぇ?