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山百合の崖

 不快な汗と熱でゆっくりと覚醒する。意識はあるのに目蓋が重く目が開けられない。右頬に感じる枕の感触は自分のベッドの物で、触れているシーツの感覚もかけられている毛布の匂いも間違いなく自分の物だ。

 俯せで寝ていることに違和感を覚え、身動ぎ寝返りを打とうとすると「止めなさい」と静かな声に止められた。

「……せ、んせい」

 魔法の師匠である男が自分の部屋にいることが異常な状態であることを知らせる。師である男は滅多なことでは部屋に来ることも無い。それが今、少女が寝ている部屋にいる。しかも枕元に。

「な……にが?」

 気怠さは熱による物で、声を出そうとすると喉奥がひりついて咳き込みそうになる。眉間に力を入れて目を開けようとしたが、薄目程しか開かずようやく見えたのは蝋燭に照らされた壁と男の影だけだった。

「崖から落ちたんだよ」

「おち、た?」

「そう。運が良かった」

 空気が動いてひんやりとした濡れた布が額を拭う。そして頬と蟀谷も。

「西にある山百合の崖から転落したんだ。あそこは高さはあるが、なだらかで木々もある」

 静かな声が淡々と語る。師の言う山百合の崖は村に下る方の道とは逆方向にあり、少女は修行の日課でその先にある岩場に毎日清水を汲みに行く。崖の上の道は細く、風の強く吹く日は煽られて落ちそうになる時もあった。

 だからこそ気を付けていたはずだ。

 三年間毎日通って一度も気を抜いたことはなかった。

 それなのにそこから落ちた?

「どうして?」

 信じられないと顎を横に振ると青年は小さく、だが深いため息を吐いた。「どうしてだって?」逆に問い質すような声が頭上に落ちる。

「毎日毎日夜遅くまで机にかじりついて眠らなければ、注意力が落ち正確な判断を下すことは難しいはずだよ」

 突き付けられた原因に心当たりがあったので反論はできなかった。弱々しく目を閉じると乾燥した唇を前歯で噛んだ。

 焦燥が少女を襲い、なにかに駆り立てられるかのように夜遅くまで教科書として渡されている古代語で書かれた本を読み漁った。解らないことを調べ、覚え、考えた。そうすることでしか安心できなかったのだ。己の選んだ道は間違っていなかったのだと思いたかったから。

「焦っても良いことなど何もない。急いで身につけたものはすぐに消え失せる。忘れ去るんだ。実にはならない物を手にし、得た物がこれだ」

「!?」

 男の手が左の肩甲骨の辺りを触れた。そっと当てられただけのはずなのに、声にならない悲鳴が喉を締め付け、反射で身体が仰け反り、また激痛に襲われる。

 知らず涙が溢れ、噛み締めていた唇から血が流れた。

「先を急いだせいで怪我をし、修行に遅れがでた。これが君の無駄な努力が生んだ結果だよ。反省しなさい」

 泣きながら枕に顔を埋めて必死で痛みと羞恥を押え込む。そして無駄な努力と評価された、ここ二週間の猛勉強を否定され拒絶と怒りが身体を震わせる。褒められるどころか反省しなさいと言われ悔しかった。

「努力はすればいいという物じゃない。正しい成果を出すためには休息も必要で、じっくりと時間をかけなければならないんだ。今の君に必要なのは無駄な努力でも頑張りでもなく、慎重さと充実した時間を送ることだ」

「無駄じゃ、ありません」

 そう。あれは無駄な時間でも、無駄な努力でもなかった。そんなこと自分が一番よく解っている。あの真夜中の勉強はとても充実していたし、色んなことを学んだ。沢山のことを考えられたし、すぐに消え失せてしまうような実にはならない物でもない。

 確かに怪我をして修行に遅れが出てしまったのには責任がある。

 そこは反省しなければならないが、痛みで苦しんでいるのは他でもない自分自身だ。

「……そうか。反省はしないか。まあ、いいだろう。今は怪我を治すことが先決だ。寝なさい」

 言われなくても少女の意識は朦朧とし始めていた。耳に届いた「ゆっくりお休み」という師の言葉が優しく聞こえ、激しい反発を覚えたがそれも長続きしなかった。


 意識と記憶は途切れ途切れになりながら時の狭間を彷徨っている。昼も夜も解らないまま無為に時間が流れていく。

 また焦燥が激しく身を焦がすが、今の少女にはどうすることもできない。身体に力は入らず、時折苛む痛みが背中だけではなく右手の橈骨、左足首にあり、そこも負傷しているのだと知る。なだらかとはいえ崖から転げ落ちたのだ。あちこちに打ち身や切り傷があるだろう。もしかしたら目蓋が重いのは顔も強く打ち腫れているのかもしれない。

 絶望的な気分になるが、今は先生が言うように怪我を治すことが先決である。

 それに暗く落ち込んでも、意識を長く保つことは難しい。体が睡眠を欲し、少女もまたそれを享受せずにはいられないのだ。

 意識が戻ると必ず師は傍にいて、そのたびに薬や水を与えてくれる。あの時以来会話をすることは無かった。したくなかったのではなく少女の方にその余力が無かったのだ。言葉を交わさない時間が長くなればなるほど、蟠りが深くなっていくというのに……。


「―――だと思います」

 落ち着いた少年の声が誰かの質問に答える。質問の内容も答えも解らないが、その声の持ち主がはっきりと迷いなく言い切ったのは感じた。

 熱冷ましの薬草を煎じた臭いが部屋中に充満しているのを嗅ぎ取り、少女はゆっくりと目蓋を押し上げて目を開けた。久しぶりにはっきりと視界が開け、窓から柔らかな光が射し込んでいるのが見える。少し眩しくて目を細めると、枕元の机の椅子に腰かけている老人に気付く。深い緑のローブに身を包み、白く豊かな髪と髭を蓄え、銀の眼鏡の奥には叡智に満ちた瞳が輝いている。

「起きたかな?」

 低く豊かに響くその声に少女は身震いし「はい」とだけ答えた。老人が安堵したように微笑み、机の上から土でできた椀を取るとその中身を木の匙で掬い少女の口へと近づける。顔を顰めたくなるような苦く青い臭いに怯んだが、我慢して唇を開いて匙を銜えた。飲み込むのが困難なほどの濃さと苦みに吐き気を堪えるのが精一杯だった。

「飲みなさい」

 静かに促され必死で飲み下すと、肌の白い黒髪の少年がそっと俯せになっていた少女の肩を支えて仰向けにする。背中に枕を押し当ててくれたが、痛みがあちこちから押し寄せてきて呻き声が出た。

「水です」

 差し出されたコップを右手で受け取ろうとしてまた痛みに喘ぎながら見ると、右手には添え木が当てられ布でぐるぐる巻きにされていた。

「…………折れてるの?」

「いや。罅が入っているだけだ。でも折れるより質が悪い。いっそ折れていた方が治りは早かっただろう」

「そうですか……」

 左手を伸ばして水を貰おうとしたが、肩甲骨が動くと傷が焼けつくように痛んで結局諦めるしかなかった。少し動いただけでゼイゼイと息切れし、鋭い痛みが襲ってくる。意識を保つだけで疲れ果て、口の中の不快感などどうでもよくなってきた。

「……あなたは?」

 この山小屋に客が来ることは殆ど無い。この山小屋に魔法使いが住んでいるなど村人以外は知らないのかもしれないと思ってしまうほどだ。師を訪ねてくるような友人も今まで無かったので、孤独な人なのかと勝手に推測してしまう。

「私は君の師を教授した老人だよ」

「先生の……師」

 考えてみれば少女の師にも魔法を教えた人物がいるはずで、魔法学校で学んでいなければ弟子入りしているはずだ。男は自分の生い立ちについて語ることが無かったし、少女もなんとなく聞きにくくて尋ねたことも無かった。師を育て、深く理解している老魔法使いがここに居る。

 色んなことを聞きたいような、知りたくないような微妙な感情が心に渦巻いて落ち着かない。

「……なんとお呼びすれば?」

 結局は本人が言いたがらないことを他人に聞くのは躊躇われ、老魔法使いにどう呼びかければいいのか尋ねる。柔和な笑顔を浮かべ「好きに呼ぶといい」と任されたので悩み、先生の先生なので「では大先生と」呼ぶことにした。

「三年前に弟子をとったと聞いた時は驚いたが……なかなか良く育てている」

「……そうでしょうか」

 老魔法使いが言うように良く育っているとは少女自体思っていないし、きっと先生も思っていないだろう。膨大な文献と魔法書、呪文、古代語、魔法の道具、歴史、世界の成り立ち、星や植物、動物、石、水、毒物薬物――。学ばなければいけないことは山積しているのに、とても自分の理解が追いつかない。必死に机にかじりついて猛勉強しても、きっと寿命が尽きるまでに全てを吸収することができないのだ。

 そして時は止まっていてはくれない。常に世界は動き、新しい発明や新しい理論が確立していく。

歴史は日々塗り替えられていく。

 魔道師や賢者の殆どは過去を研究しているが、決して現実の世界を軽視しているわけではない。視線や思考は過去を向いているが、身を置いているのは今である。生きている今も時が流れれば過去になり、また研究すべき歴史となることを知っている。

 だから魔法の力を使い、長い時を生きることを選ぶ魔道師や賢者が多いのだ。

「あいつは昔から研究に没頭し、弟子を育てることなど無意味で時間の無駄だと言っておった。研究が全て。そんな男だったよ」

「無駄……」

 少女を打ちのめしたあの言葉がまた別の人物から告げられ、身体中のどんな傷よりも深く、辛く心を抉る。熱冷ましの薬の後味だけではない、苦い物が口の中に広がった。

 老魔法使いは眼鏡を取り、二度瞬きをして窓の外を振り返る。つられるように少女と、そしておとなしくドアの傍で控えていた少年も視線を窓へと移す。

「星が見えるのだとあいつは言っていた。それは太陽が昇った昼でも時々見えると」

 先生が星を研究しているのは、書庫に星に関する文献が多いことからも察しがついていた。わざわざ山奥に住んでいるのも空が近く良く見えるからだ。少女が自室に退き、寝静まった頃を見計らって星を観察する為の細長い観察機を持って小屋を出ていくのも知っている。

「私の所にいた時は寝食を忘れて研究ばかりしていた。私が窘めても、怒鳴りつけても聞こうとはしなかった。教え子の中で一番の頑固者だったな」

 当時を思い出して老魔法使いがくすりと笑う。老魔法使いとまだ弟子だった頃の先生が激しくぶつかり合っている姿を想像して少女と少年の口元にも笑みが浮かんだ。

「そして寝ることも、食べることも忘れた君の師は過労で倒れ、その時流行っていた質の悪い風邪にかかって死にかけた」

「それは……」

 今回の少女が崖から落ちたこととそう変わらない。反省しなさいと窘めておきながら、過去に同じ過ちを先生自身がしていたのだ。

 狡い。

 そう思った感情が顔に出ていたのだろう。大先生は節の無い細く長い指で少女の眉間を突きゆっくりと頭を振る。

「責めてはいけない。人は己の失敗を恥じとし、語りたがらないものだから」

「……はい」

 素直に頷くと老人は「いい子だ」と頬を撫でて頷く。

「だがあいつが君に自分の失敗を語り、教えておけば起きなかった事故だ。不肖の弟子で申し訳ない」

 軽く頭を下げられて少女は慌てて「そんな」と首を振る。きっと先生が己の過ちを悔いて教えてくれていたとしても、頑なに自分の想いを貫いて同じ事故を起こしていただろう。

 起こるべくして起こった。

「賢者は他人の誤りから学び、愚者は己の誤りから学ぶ。お前はそうなってくれるな」

「はい」

 最後は少年に掛けられた言葉だった。おとなしそうな面に生真面目な瞳の少年は慎重に頷き、心に刻みつけているように見える。ゆったりとした麻のシャツに黒い細身のズボン。色白の肌の内側からキラキラとした光の粒子が見えた。そして少年の周りを舞うようにマナが集まっている。

 きっと彼は同じ過ちを起こすことはない。

 少女は愚者で少年は賢者なのだ。

「さて。行こうか」

 腰を上げて呼びかけると少年がさっとドアを開けて師が通るのを待つ。

「あの。大先生」

 深緑のローブにはフードがついている。そのフードに顎を乗せるようにして老魔法使いが振り返った。白い顎鬚が柔らかそうに光に輝いている。

 なにかを言わなければと思ったが言葉が見つからない。

「ありがとうございました」

「……なによりも優先だった研究より、君を育てることを選んだ君の師を信じて頑張りなさい」

 今でも研究は続いている。

 でもそれは少女が自室に引いてからから行われていて、殆どの時間は少女の修行や勉強へと割かれている。確かに研究より少女を優先してくれていた。立派な魔法使いに育ててみせると約束してくれた先生。

 あの時魔法学校へ行かずに先生の元へ来たのは間違いではなかったと信じたい。

「……進むも止まるも、君が決めることだからね」

 その言い方は先生と似ていた。だから少女の胸が揺れ決心が揺らぐ。弟子を育てるのは無駄だと思っていた先生が、何故自分を弟子として迎えたいと思ったのか解らない。それほどの価値を自分には見いだせない。

 そんなに覚えが早い方でもない。

 大先生の連れている少年のように特別魔法の才能があるとは思えない。

 今回の件で呆れ、先生は研究に没頭するようになるかもしれない。破門も有り得ると思うと、また崖から突き落とされるような恐怖が襲ってくる。

「とても心配なさっていました」

 老魔法使いの気配と足音は遠ざかっていたから少年もいなくなったのだろうと思っていたので驚いて目を上げる。

「先生に自分の指導が間違っていたのでしょうかとおしゃって。とても自分を責めて、そして心配していらっしゃいました」

 黒く艶やかな瞳が労わるように少女を見つめている。不安と恐怖に道を見失っている少女の行く末を案じているかのようだ。

「あなたの師はとても思慮深く尊敬できる方です。その方があなたを選んだ。だから」

「私にはあなたみたいな才能はない」

「ぼくに才能?」

 首を傾げる少年には見えないのだろうか?自分の周りに集まってくる魔法の源に。その身から放つ光り輝く才能の粒子が。

「マナがあなたの周りだけ濃くなってる。それに……キラキラ輝いてる」

 きょとんとして少年が「なにが?」と問う。それに「あなた自身が」と答えると少年は破顔して少女を指差す。

「あなたの周りにもマナが慕って寄って来てるよ。そして輝いて見えるけど、ぼくには」

「そんな」

「怪我早く治るといいね。じゃ、また」

 再会を確信したように言い少年は笑顔でドアを閉めて去って行った。ひとり残された狭い部屋で煎じ薬の匂いを嗅ぎながら、喉の奥に詰まっているしこりのような物を飲み込もうと努力したができなかった。


 季節が急速に移ろいゆく秋の山は、風が冷たくなったと感じる前に色づいて行く。足首は捻挫だったのであっという間に治癒し動けるようになった。じっとしているのは気が滅入るばかりで、熱が下がり歩けるようになるとすぐに起きて山歩きをした。右手の添え木も動かさないように気を付けると約束して外してもらい、以前と変わらない日常を慎重に始める。

 秋の山は発見と変化に満ち、不安定な気持ちを慰めてくれた。鹿が木の実を食み、栗鼠が団栗を拾い集める。兎が飛び跳ねて山道を横切り、色鮮やかな落ち葉がカサカサと音をたてた。

 冬になれば静まり返る山は冬支度をする動物たちの気配で騒がしい。

 それが楽しかった。

 山道を登っていくと秋の匂いがぐっと濃くなる。湿気の多い場所では茸が生え、その目には見えない胞子が大量に空気中に舞い土の匂いがした。靴底から伝わる土の感触も柔らかくなる。

しっかりと踏みしめながら更に上へと向かった。

この道は少女と先生しか人間は通らない。山道は通る者がいないとすぐに植物が生い茂り隠してしまう。山は人がいなくても別に困らない。どちらかという部外者で異質な物だと思っているかもしれない。

それとも動物たちと同じように慈しみ育もうと思ってくれているだろうか。

「はあ……もう少し」

 汗ばんだ肌が気持ちいいのは身体を動かして出た物だからか。濃厚な木と草と土の匂いが鼻孔を通り肺に入ると自分も山の一部になった気がして癒される。

 木の根が地表に出て作った自然な階段を上がると、甘いような、噎せ返る臭いが微かに漂う。目の前に細い道が現れる。そして道の片側は緩やかな崖へと通じていた。夏にはその斜面に山百合が大輪の白い花を咲かせる。今はその姿は無かったが芳醇な香りが残り香となって少女を待っていた。

 この道のどこから落ちたのか全く覚えていない。

どうやって先生が助けてくれたのか。

この崖はなだらかな斜面を始めはしているが、下の方では木々が増え、更にその下には夏でも冷たい水が流れる川が流れている。川が見える頃ぐらいから切り立った崖になっているので木々に引っ掛からなければ川に投げ出され溺れて死ぬか、水面に叩きつけられて即死だ。

「運が良かっただけとは思えない」

 現場を改めて見て思うことは助かったことへの喜びや感謝でもなく疑念だった。

 少女は小屋を出る前に渡された手紙を上着の袷から左手で取り出した。動かすたびに背中が疼くように痛むが、四六時中悩まされている痛みに段々と付き合い方が解ってくる。息を潜めてしばらくじっとしていると痛みは和らいでいくし、どの角度までは痛みが小さいかなど動かせる範囲を自分で探るのもまた日常を送るためには必要なことだった。

「怪我の具合はどうですか?」

 で始まる手紙には少女を案じる姉の言葉が連なり、両親の優しい言葉が綴られていた。そして少女が怪我をしたその日に先生が家を訪ねて謝罪したこと、少女の元へ直ぐにでも駆けつけたいと思っている家族に決して来ないで欲しいと告げたことが書かれていた。弱っている時に家族と会えば判断力を欠いて決断を間違ってしまう。進むか、止めるか、決めるのは少女自身。大怪我をするという事故を防げなかった自分が頼める義理ではないが、どうかここは少女のためを思って控えて欲しいと。

 姉はここで先生への批判と文句を書きつけて、最後に温かな贈り物をくれた。

「――先生」

 涙が溢れて零れそうになったので空を仰いだ。その視線の先で黒い鳥が東の方へと飛んでいく。その尾羽にひとつ赤い羽根。


 そうだ。


 あの崖から落ちたあの時も空に同じ鳥が飛んでいるのが見えた。

 だから恐くなかったのだ。

 あの鳥は先生の使い魔。少女が自分と同じ過ちを犯すと解っていたから、ずっと見守っていてくれたのだろう。浅慮な弟子の為に。

「――先生、私諦めたりしません!」

 聞こえているだろうか。

 聞こえなくてもいい。今は自分の決意を大声で宣言したかった。


 手紙の最後には「私の弟子は絶対に諦めず前に進むと信じています」と書かれていた。


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