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殺人鬼2  作者: ityou
6/8

絶望

祭りの翌日。

俺は普通に学校へ行った。

ま、当たり前のことだが。

ただ、1つだけ気にかかる事がある。

それは健也のことだ。

昨日は憎しみに身を任して健也に最低なことをしてしまった。

「…健也は何も悪くないのにな。」

俺は歩きながら呟いていた。

ただ、実際に俺がやったのではなくもう1人の俺がやった。

最近はどっちの俺が表に出ているのかわからない時もある。

たいてい暴力的でなんでもできそうなときはもう1人の俺…

周りの目を気にして、チキンになっているのが本物の俺…


学校の玄関をくぐると俺の担任がいた。

あいさつ運動らしい。

「お早うございます。」

俺は普通に挨拶をする。

「あ、あぁ…」

担任は震えながらそう返した。

いまだにあの日の事件のことを引きずってるみたいだ。

あの事件以来、先生方は俺のことを恐れている。

どんだけ授業中に寝ても、どんだけ問題を起こしても、どんだけ忘れ物をしても怒らない。

軽い注意レベルで済む。

だからといって、不良っぽく振る舞う気もないが。


教室に入ると俺の机に座る。

もちろん、あの日のことは教室での雰囲気にも大きく影響した。

俺たち非リア充同盟がどんな毒舌を吐こうとも、殺気を帯びた視線を感じることがなくなった。

さらにおまけとして、学校中の生徒から軽く避けられている。

嬉しい限りだ。


…泣きたい。


こうしているうちに、教室へとつく。

教室に入ろうとした時、一瞬手が止まった。

そこには健也がいた。

あいつはいつも来るのはギリギリでこんな時間に来るわけがない。

でも、このまま帰るのも気が引ける。

覚悟を決めて教室の戸を開く。

「お、堀内くん。おはよ。」

健也が挨拶する。

「おはよ。」

俺も普通に返す。

心臓はバクバクだったが。

「あ、あのさ…昨日は本当にごめん…」

俺は健也に向かって謝った。

「いや、俺の方こそ…たとえ彼女が言ったこととはいえ俺に責任がないわけじゃないしさ。あのあと、ちゃんと彼女に教育をしといたよ。声に出す前に少し考えようねって。」

健也は微笑みながら言った。

まだ、頬が少し腫れているのが痛々しい。

犯人は俺…もう1人の俺。

「本当にごめん。」

俺はもう一度謝る。

「いいって。それより、堀内くんって喧嘩強いんだね。驚いちゃったよ。」

健也はまた微笑んでいる。

「なんかあの時は色々あってむしゃくしゃしてて…無我夢中だった…」

「あぁね…そのむしゃくしゃって宮國くんと陣内くんに関することなんじゃない?」

さすが健也。

健也はこうやって人の心を読み取るのが上手だ。

「あぁ。」

「あの2人がリア充に毒を吐いているのに当の本人たちが彼女持ちでした~って知ってイライラしちゃった感じ?」

「ま、大体そうな。別に彼女を作って悪いわけじゃない。そのことを隠されてたことに腹が立ってさ。昨日も普通に彼女と祭り行くわとか言ってくれればいいのに、遠回しに嘘をつくからさ…」

「そっか…」

健也はこれ以上突っ込むことはしなかった。


「うぅ…」

俺は急は腹痛に襲われた。

俺は大慌てでトイレへと駆けこむ。

「洋式…あった!!」

俺は叫びながらドアを開けて閉めてカギをかける。

しばらく、この腹痛と戦うことになるだろう…


トイレにこもってから10分ほどが経過した。

いまだに腹痛が収まる気がしない。

「昨日、彼女とヤったの?」

聞き覚えのある声。

「あぁ!!めっちゃ気持ち良かったぞぉ~」

聞き覚えのある声。

「いいなぁ~僕もそろそろヤりたいなぁ~」

「そんなこと言いながらも純情派な健二さんでありました。」

「じゅ、純情で何が悪い!!宮國みたいにヤリ捨てするようなひどい男よりましさ。」

「言うねぇ~」

…聞き覚えのありすぎる声だった。

「それにしても、光輝には悪いことをしちゃったな…」

「あぁ。嘘ついたことか。ま、あいつは鈍臭いから本当だと思い込んでるだろうがな~」

宮國が笑う。

「笑うなよ。光輝に悪いだろ。」

健二が言う。

「なーに。彼女ができないあいつが悪いんだよ。お陰であいつに気を遣ってあいつの前じゃ非リア充を演じてんじゃん~」

「そうだけど…僕、そろそろ本当のことを言おうかな…」

「言わないほうがいいぞ~どうせ、嫉妬してギクシャクするだけだからな。」

「そうかなぁ…」

「ま、あんなチキンに彼女ができるわけがない!!あいつは一生非リア充さ!!」

「宮國、調子のりすぎだよ…」


宮國の最後の言葉…

俺の中の俺が暴走する十二分な動機となった。

「そうか…確かに俺はチキンでろくに女に告れないし口説けねぇーよ。」

俺はトイレから出て宮國を睨みつける。

「いや…その……」

宮國がしどろもどろになる。

「昨日だって、お前らが嘘をついているのも気づいた。とっくにお前らに彼女がいることもな。昨日も見かけたし。別にいいんだよ。彼女が居ても。たださ、なんで隠すんだよ…俺達、友達だよな?」

俺はいつの間にか泣いていた。


「うわぁ…泣いてる。マジキモイんですけど…」

宮國だった。

多分、苦し紛れにやっと出てきた言葉だったのだろう。

「ちょっと…宮國……」

健二が何か言いたそうな顔をしている。

「大体さ、俺らお前に合わせて非リア充っぽくしてたんだよ。お前を傷つけないようにって。気を遣ってたんだよ。逆に感謝して欲しいよね。それに、いちいち報告するとか何期待しちゃってんの?そんなに仲良かったか?」

宮國が鼻で笑いながら言う。

わかってる。

ここに俺が居ないと思って話していたらまさかの居たパターンで、苦し紛れでなんとか出てきた言葉をつないでるだけ…

そんなこと、人間ならいくらでも遭遇するよね。

わかってない。

もう1人の俺はそのことをわかっていない。


「あっそ。」


俺はそう言うと別館にある家庭科室へと向かう。

そして

…ヤバい

そのまま

…このままじゃ

包丁が保管されているボックスに手をかけ

…あの夢が現実のものに

ボックスから一番鋭そうな包丁を取り出した。

…なってしまう


この時点で、本当の俺は胸の奥へ完全に葬られ理性が消え去った。



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