変化
俺は座り込んだ。
以前は部屋として機能していた場所に。
何もかもがそこらへんに転がっている。
アニメのフィギュアにグッズ…
集めかけのラノベ…
高校に合格した記念に買ってもらったパソコン…
もう、ここは部屋としては使えないだろう。
いや、使えたとしても使いたくない。
ここには宮國や健二と一緒に遊んだ記憶が残っている。
ここにいるとその時の記憶が蘇ってしまう。
「楽しかったな…」
自然とつぶやいていた。
同時に涙も流れてくる。
「どうして…」
どうしてそうなった。
なんで。
そうか、あいつらがこっそりリア充になってそれが妬ましくなった。
ただそれだけなのに…
なんか置いて行かれた気がして無情にイライラしてきて…
同時に寂しくなり…
感情がコントロールできなくなる。
そして、狂ったように暴れ自身を傷つける。
その痛みだけが自我に戻る唯一の手段。
「寝よっと…」
俺は涙を拭いて部屋をあとにした。
「お前は学校に何をしに来たんだ?」
担任に怒られている。
学校には行ったけど、すべての授業で寝ていた。
それが担任の耳に入って怒られている。
「そりゃ…勉強ですよ。」
俺は当たり前のように言う。
「なら、なんで寝てたんだ?」
担任が当たり前の事を言う。
「そりゃ…眠たかったからですかね?」
俺は少し笑みを浮かべながら言う。
「ふざけてるのか?」
担任の顔つきが変わる。
「別に。」
俺は担任を睨みつける。
なぜだろう…
明らかに悪いのは俺だとわかってはいる。
でも、素直に反省する気が起きない。
これも、俺の中に生まれた新たな感情が原因なのか…
「お前、反省してるのか?」
担任がついにキレて俺の胸ぐらを掴む。
後ろから「山田先生!!」とか叫ぶ先生たちの声が聞こえてくる。
多分、後々問題になるからだろう。
しかし、担任は離そうとしない。
むしろ、力が徐々に強くなっている。
俺はまた担任を睨む。
すると担任が本気でキレたらしく、俺を床に叩きつけた。
刹那、俺の新たな感情が暴走を始めた。
担任が殴りかかってきた。
それをかわし、担任の後頭部へ蹴りを入れる。
すると、担任は顔面を床に打ちつけた。
「反省?するわけねーよ。眠くなるような下手な授業しかしねーから寝るんだよ。大体、休んだやつのサポートとかしてくんなかったのは誰だよ?遅れて増々つまんなくなるんだよ。お前らが悪いんだよ。」
完全にやらかした。
担任は意識もはっきりとしているが、鼻から出血している。
「お前…退学だぞ?」
先生が脅し文句をつけてきた。
しかし、俺の第2の感情は頭もキレるみたいですぐに名案が浮かんだ。
「退学にしたいならどうぞ。でも、その時は教育委員会にでも抗議しますよ。先生が先に手を出してきて、殴られそうになったから必死に身を守ったと。」
そう言いながら俺は教頭の席の後ろのビデオデッキに手をのばす。
録画を止めて、ビデオテープを取り出す。
「ここに写ってるのが証拠になりますね。さて先生。俺をどうするって言いましたっけ?」
俺は笑みが止まらない。
楽しい…
「あ、い、いや…お前は優秀な生徒だ。退学なんかするわけがない。」
担任が言う。
「他の先生方はどうですか?俺をどうしますか?あ、こういうのって見てて止めるべきなのに止めないのは共犯ですからね。」
俺は優しく微笑んで言う。
しかし、顔は悪魔のようだ。
自分の顔は見ることができない。
しかし、なぜか分かる。
「あ、えぇっと…もちろん、これまでどおり勉学に励んでもらいます。」
先生たちの代表で教頭が言う。
「はい。それでは。」
俺はそう言って職員室をあとにした。
俺は屋上を目指した。
今は誰とも会いたいと思わない。
今の俺なら…余裕で人を殺れる気がした。
あの、チキンな俺がだ。
しばらく1人で空を眺めていた。
すると、扉が開く。
また、リア充が来たかと思った。
「光輝…」
そこには健二と宮國がいた。
明らかに心配そうにしている。
「お前ら…」
俺は泣きそうになった。
しかし、こらえる。
こういう時に友人が来てくれるのは心が安らぐ。
「お前、職員室で暴れたんだって~」
宮國がいつもの調子で言う。
「あぁ、思わずやっちゃった~」
俺もいつのも調子で返す。
「光輝、退学じゃん~」
健二が言う。
「大丈夫さ。たんまりと脅しといたから。」
俺は笑いながら言う。
すると、2人の表情が曇る。
「光輝、お前なにかあったのか?」
「なにもないけど、なんで?」
「だって、今のお前はいつものお前じゃない。今のお前は脅したことが楽しいという口調で話してた。いつものチキンなお前なら絶対にこんなこと言えるはずがない。」
宮國が言う。
「うーん…俺にもわかんね~」
俺は言う。
しかし、その答えを俺は知っている。
その原因も。
でも、この2人に言えるわけがない。
「さ、教室に行こうぜ。」
俺は言う。
「お、おう…」
「あ、うん…」
宮國と健二が少し不安そうに見つめる。
まるで、不審者を見つめるような眼差しで。
そんなに変わったか?
廊下を歩いているとリア充とすれ違った。
「あぁ…リア充殺したいわ。」
俺は何気なく呟いていた。
真顔で。
「光輝…やっぱり変だよ。」
健二が言う。
「え?なんか言った?」
「光輝…お前…大丈夫か?」
宮國が言う。
「うん。普通だよ。」
いや、普通じゃない。
「お前が人を殺したいと言うの初めて聞いたぞ。」
「そんなこと言った?」
言ってる。
でも、それを言ったのは俺じゃない。
新しく生まれた俺が…
もう1人の俺が言った…
「あぁ…正直、怖かった。」
宮國が真顔で言う。
こいつが真顔の時はガチな時だ。
「そっか~」
俺は何食わぬ顔で教室に入り、授業を受ける。
しかし、今の俺は違う方の俺。
チキンな俺は心の奥底に沈んだ。
いや、新しい方の俺が沈ませた。
俺は完全に変わってしまった。
いや、まだかろうじて意識は残っている。
今、なにかあれば絶対に殺してしまう。
どうすればいいんだ…




