暴走
あの日起きた事件の後、俺のリア充に対する考え方が大きく変わった。
以前は、リア充を見ても羨ましいと思うことはあった。
しかし、最近では羨ましさよりも妬ましさが先に出てくる。
妬まし過ぎでそれが殺意へと変化していく。
でも、チキンな俺は殺人なんか出来ない。
殺人をする肝があればとっくにリア充の仲間に入っている。
あの日以来、健二が彼女といる姿を目撃したことはない。
それでも別れたわけでは無さそうだ。
根拠は無いが。
健二はリア充にも関わらず、俺と宮國のリア充に対する宣戦布告とも言える暴言大会に参加して、リア充共から批難を浴びている。
俺は不思議でしょうがなかった。
なんで、リア充になってもこのグループに居続けるのか。
こんな残念なグループよりもっと有意義に時間を過ごしているリア充なグループもあるはずだ。
なのになんで…
その時、俺の頭のなかにある結論が生まれた。
…健二は非リア充な俺達を蔑んでいる。
ないない…
俺自身が生み出した結論を俺自身が否定する。
健二は本当に良い奴だ。
ノリもいいし優しくて一生懸命で…
挙げだしたらきりがないほどの長所の塊だ。
そんな健二に彼女ができることは自然だ。
俺は健二を祝福する必要があると思った。
学校が終わり、俺は最寄り駅へと歩いて行く。
宮國と健二は部活で帰りはバラバラ。
だから、この時間は基本ボッチ。
別に気にもしていなかった。
「うわぁ…ボッチって本当に存在するんだ…」
「だって見るからに友達いませんって感じの顔してんじゃん~」
ゲラゲラという笑い声。
「こら、駅でデケー声を出すんじゃねーよ。」
「健也の言うとおり、静かにしようぜ。」
「はーい」という女二人の声。
俺はチラッと声の主を見た。
そいつの視線は明らかに俺の方にあった。
俺は堪えた。
今すぐにでもあの女どもを殴ってやりたかった。
しかし、チキンな俺が邪魔をする。
しかも、男の1人は知っている顔だった。
健也…
俺のクラスメイトだ。
普段はおとなしいほうで、女と一緒に遊んでいる雰囲気など全くなかった。
現実は違ったが。
その後、電車はあっという間にきた。
自宅付近の駅に着いた。
いつもどおりブックオフに行こうと思ったが気分が沈んでいたから止めた。
家に帰るとすぐに部屋にこもる。
さっき言われた言葉が耳から離れない。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は叫んでいた。
叫んで。
叫んで。
気が済むまで壁を殴って。
気が済んでもすぐに叫びだす。
親が部屋に入ってきて止めてくれるまでの約3時間、俺は暴走していた。
部屋は滅茶苦茶に荒れて、俺の拳や足の至る所に切り傷や打撲痕があった。
出血もひどくすぐに病院へと向かった。
治療が始まった所でやっと痛みに気付いた。
それまで、まったく痛みを感じていなかった。
これがアドレナリンの効果なのか。
1時間ほどで病院を後にした。
家に帰るともちろん親からの質問攻め。
なんであんなことをしたの?
なにか学校であったの?
など。
でも、暴走中の記憶はまったく無い。
なぜ暴れたのかも忘れ去っている。
まるで、暴れていた時の俺は別な俺だったかのように。
健二との一件があってから俺の中でなにかしら変化があったのはすぐに気付いた。
しかし、ここまで酷い変化だとは思わなかった。
夜、俺はリビングのソファーで寝た。
俺の部屋は使い物にならないほどになっていた。
「親に申し訳ないことをしたな…」
俺は涙を流した。
「なんでこんなことに…」
どう必死に思い出そうとしても出てこない。
思い出そうとすると吐き気がしてくる。
「寝よ…」
俺は寝ようと瞼を閉じた。
しかし、全身の痛みのせいでなかなか寝れない。
仕方なく、本を取り出して読み始めた。
その1分後に眠りに着いた。
翌朝の目覚めは最悪だった。
俺は夢を見た。
健二と宮國に裏切られる夢を。
2人ともリア充になって、俺だけ置いてきぼりにされた夢を。
俺は絶望感に追いやられて2人を殺す夢を。
さらに、満たされない心を埋めるかのように学校中のリア充に刃物を向けている夢を。
あまりにショックで残酷な夢を見た。
あまりにもリアルだった。
人物の声や行動、殺すときの感触や血の匂い…
すべてが実際のように感じ取れた。
今でも手にナイフを握っている感触が残っている。
俺は怖くなった。
あまりの恐怖心で体中が震える。
俺はその日、学校を休んだ。




