始まり
あの残酷な「殺人鬼」がこの世から消えてあっという間に月日が流れた。
そして、彼のことを覚えているものはほとんどいない。
覚えている人もあの事件は過去のものと忘れかけている。
しかし、この世から「殺人鬼」が消えることはない。
いつでもだれでも「殺人鬼」になれる。
たとえ、どんなに小さなきっかけであっても…
少し感情のコントロールが効かなくなれば一気に殺ってしまう。
それだけで新殺人鬼の登場だ。
「リア充なんか爆発すればいいのにな。」
「同感。」
「同じく。」
俺こと堀内光輝は中学からの友達である宮國茂と陣内健二と他愛のない会話をしている。
俺らは非リア充同盟の一員だ。
まぁ、簡単に言えばリア充になりたいけどそうそう機会のない集団の集まりだ。
しかし最近では、リア充になることよりもリア充をdisることを中心としている。
そのせいで、どんどんリア充から遠ざかっている。
あまりにも大きい声で言う宮國のせいで周囲からの視線は痛い。
しかし、そんなことを気にしない宮國はドンドン言う。
「しかし、人前で手を握って歩く奴の気が知れない。そんなにリア充であることを見せつけたいってかよ…」
言ってて自分自身で悲しくなってきたのか泣き出す宮國。
それを見て笑う俺たち。
そして、リア充からの視線。
もちろん優しい視線ではなく殺気を帯びた視線である。
ともあれ、俺は今の環境に満足している。
確かに、彼女は欲しい。
青春したい。
リア充なハンド部のキャプテンみたいに彼女とヤッたとか言いふらしたい。
でも、それは卒業後でもいい。
今しか過ごせない時間を大切にするのもいいかと思った。
しかし、その考えはあっさりと崩れ落ちた。
帰り道、俺は毎日のように通っているブックオフへと向かっていた。
途中でマックスバリューを通るのだがそこの入り口に座り込んでいる一組のカップルが居た。
女子の方は知らない顔だった。
しかし、左に座っている男子の方には見覚えがあった。
…健二だった。
確かにあいつはそこそこイケメンで弓道部だった。
全国大会にも行き、そこそこの成績を修めていた。
一番、彼女がいてもおかしくない奴が健二だ。
俺は別に彼女を作ってイチャつくのはいいと思う。
ましてや、友人に彼女が出来た。
いいことじゃんか。
ま、虚しくなる気もするけど…
一番、気に食わないのがそれを隠していたこと。
恥ずかしさや照れ隠しだろうけど、今まで一緒に非リア充同盟として色々とやってきたのに…
何故か悲しくなる。
俺はブックオフへは行かずに家へと向かった。
翌日。
俺はいつもより早めに学校へと着いた。
そのため、教室には誰もいない。
昨日のことが頭から離れなく、一睡もしていない。
「なんで、俺達に隠すんだよ…」
そんなことをボソボソ呟いていたら教室のドアが開いた。
そこにいたのは健二だった。
「おは。」
「よっ。」
いつもの挨拶が飛び交う。
「てかさ~昨日の帰り道にリア充がイチャついててマジイラッとしたわ~」
健二はいつもどおりリア充がいた事を報告する。
昨日までなら素直に共感していた。
しかし、今日は違った。
心のなかで「お前もリア充の一員だろ…」って何度も呟いていた。
そのせいで無口になっていた。
「どうしたん光輝?体調でも悪いんか??」
健二が心配してくれる。
「あぁ、ちょっと気分が悪くて…」
お前のせいでなっとは言えない。
「保健室行くか?」
健二が本気で心配してくれてる。
その優しさが俺が健二を憎めない最大の理由。
「大丈夫だ。しばらく寝てれば…」
そう言って俺は寝た。
起きたのは昼休みの真ん中だった。
もちろん、授業は全部サボりで。
しかし、健二の計らいで何とかなったっぽい。
「いやぁ…リア充って道とか塞いで大声で話すからマジムカツクんだよね~」
得意の宮國の毒舌的リア充disり。
効果は抜群だ!!
しかし、俺は宮國の言葉など頭にほとんど入っていない。
俺は今だに瞼を閉じれば昨日の光景が浮かぶ。
俺にとってあまりにショッキングな出来事だったのだ。
同時にそれが怒りへと変わってくるのに俺は気付いていた。
恨み?憎しみ?嫉妬?
よくわからない感情だった。
しかし、明らかに今までの俺とは違う新しい俺が生まれた気がした。




