ネガイ
35歳という切れ目の年が近づいてくる。
この年まで、本気で付き合った相手はいない。
周りは、既に今年小学生や、中学生の子供を持って、自分の家族を持っているのに。
私は未だに一人。
このまま。私は独りで人生を終わらせるのだろうか。
自分の家族も持たないまま、年を取って死んで行くのだろか。
もし、本当にこの世に神様がいるなら、叶えて欲しい。
私に家族を、下さい。
「なんて・・・、むしのいい願いなんて叶うわけないか・・・・。ん?」
自分の願いに失笑し、何気なく視線を斜め右に向けると、何かが横に倒れていた。
何だろうと首を傾げながらそれに近づく。
「板?かな・・・・。」
そっと手を添えながら、土を払い起こす。
すると、何やらミミズ字が姿を見せた。
「・・・・。何かのお札かな?」
なんと書いて有るのか判らない。
迷った挙げ句、知り合いの寺に持って行く事にした。
またそのままにして、この板札に祟られたのでは残りの人生最悪に終わってしまう。
「随分古い板持ってきなすった」
知り合いのお坊さんは、笑いながらゆっくり優しく受け取る。文字が書いてある事に気付いたのか、ふむふむと頷く。
「すいません。払い焚きしていただけますか?」
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます。
ゆっくり休んで下さいね。」
私は、軽く板を撫でながら板に向かって話す。
なんとなく、声を掛けたくなった。
それを見ていたお坊さんは、ニコニコしながら、私を見た。
「・・・・、で、では、仕事に行ってきます!」
恥ずかしくなって、慌ててその場から離れた。
「行ってらっしゃい!」と、お坊さんから声がかかる。
私は、なんだか胸がムズムズした。
旦那や子供に言いたい。
「綺麗な主に出会いましたな?」
坊主が優しく撫でると、
くすんでいたはずの板が白く輝き出す。
まるで、坊主の声に呼応しているかのように。