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カイルくんとアレクサンドくん

「ふぁああ…」

 彼女は乙女とは思えない盛大な欠伸をして、目を覚ました。

 濡れた烏色の髪は短髪。萌黄色の瞳は程よく目尻が釣り上がり、冷淡な印象を受ける。何もしなくとも緋色の濡れそぼった唇は、薄く整っている。統括すれば…端正な顔形をしていた。

「はぁ…たっく…」

 悪態をつきながら、ベッドから降りた。彼女の身長は女性にしては高い。下手な男性など軽々追い越す。全体的に長身痩躯な体躯。…要するに、まな板だ。

「また…今日も、アイツのお守りか」

 そう吐き捨てるように呟くと、壁にかけてあった軍服に手を伸ばした。

 これが彼女の仕事着だった。


 カイル・エル・セィルーガン中尉。カルセス軍将校。国務戦術参謀局長官補佐官。


 これが、彼女の肩書きだった。なんてことない、上級将校の肩書きだ。

 ただし、カイルの本名がカルーナであり、女である以外は。


 カルーナは軍服を纏う。その姿はとても凛々しい姿だった。

「私は…いや、俺は男だ」

 カルーナは姿見の前で、自分を睨みつけた。

 これがカルーナの習慣だ。何年以上続けているだろうか。



「セィルーガン中尉!」

 カルーナが仕事へ向かう為に寮の部屋の鍵を閉めていると、肩をバシッと物凄い勢いで叩かれた。

 誰か確認することもなく、肩を落とす。こんなことをするのはただ一人。

「アレクサンド…」

 カルーナは嫌々ながら後ろを振り向く。アレクサンドと呼ばれた軍人は、カルーナとそう変わらない長さの金髪に、無邪気さの混ざった紺青色の瞳がうざったいぐらい輝いていた。が、身長はアレクサンドの方が数センチ高いようだ。

「おいおい、元気ねぇなー?カイル」

 アレクサンドはニマッと笑うと、カルーナの肩に肘を置く。"カイル"は、カルーナの軍部で使用している名だ。今では、カルーナの本名を知っているのは極僅かの親しい人間だけだ。

「…ファルクス少尉。上官には敬語を使ったらどうだ?」

「生憎だが、同期に使う敬語は持ち合わせてねぇなー」

 アレクサンドはニヤリと笑って見せる。このアレクサンド・ファルクス少尉は、カルーナの士官学校時代からの同期だった。

「まあ…お前に敬語使われるのも不気味だから良いが」

 カルーナは眉を寄せた。そう返答が来ることは分かっていたが、やはり想像しただけで不気味だ。

「おいおい、そんなこと俺に言っちゃって良いのかよ?――"カルーナ"」

 アレクサンドは小声で彼女の本名を口にした。

「……っ!」

 カルーナは目を見開く。

 誰かに聞かれたら、どうするつもりだ!

「お前の秘密を握ってる、このアレクサンド様を邪険に扱うなよー?誰のお陰で、今までの危機を乗り越えられたと思ってんだぁ?」

 アレクサンドはカルーナの反応を笑いながら、口の両端を上げる。

「アレクサンド、真面目に死ね」

 するとカルーナはそっけなく言い放ち、アレクサンドを無視して歩きだす。

「ちょ、話聞いてた!?」

 驚いたアレクサンドがカルーナを慌てて追う。声が上擦っている。

「知るかよ」

「ま、待てよカイル!」

 アレクサンドは足の早いカルーナを追いながら、声をかける。

「俺が悪かっ!!…って!」

 アレクサンドの声がつぶれる。カルーナが立ち止まり、その拍子にアレクサンドはカルーナの背中に激突したのである。

「なに突然止ま…」

「……俺は、"俺"としてここにいられるのは、親友のお陰だと思ってる」

 カルーナは前を向いた状態で、アレクサンドに礼を言った。

「カイル…」

「――感謝してんだよ。一応」

 照れ臭くてこんなこと、そうそう言える訳がない。

「……」

 カルーナは無反応のアレクサンドを振り返ってチラリと見た。

「カイルー!お前素直じゃねぇな!!マジ可愛い!」

「げ!」

 頬を赤くしたアレクサンドに骨が折れるんじゃないかと思うぐらい、勢い良く抱き着かれた。

「馬鹿離れろ変態!!」

 カルーナの顔が瞬時に青ざめた。またコレか!!

「カイルの危機なら俺が救ってやんぜ!」

「分かったから……離せ!!!!」

 カルーナはもがきながら、この親友の熱すぎる抱擁を何年間続けているだろうか…と思った。

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