第4話 衣服を求めて近くの村へ
魔王城のすぐ近くにある、小さな集落。
普段は魔族の気配に怯えるはずのこの場所だが、今日は妙に空気が澄んでいた。道には塵一つ落ちておらず、生い茂っていた不気味な茨も、隠密部隊の手によって聖女様が躓かないよう完璧に刈り取られている。
そんな異様なまでの清涼感の中、カイトは、貸し与えた下ジャージにTシャツという、この世界では見たこともない奇妙な格好の聖女を連れて、馴染みの武具屋の暖簾をくぐった。
ジャージはカイトのサイズなので、袖も裾も余ってブカブカだ。しかし、それがかえって彼女の華奢さを強調しており、Tシャツの襟ぐりからは白い鎖骨が覗いている。
「ちわー。おじさん、ちょっといい?」
「お、カイトか。……って、おい! その後ろの嬢ちゃん、なんだその、奇妙だが……やけに扇情的な格好は!?」
店主が目玉をひん剥く。無理もない、聖女のオーラを纏った美女が、異界の者の格好をしているからだ。
「散歩してたら、彼女が全裸で道に迷ってたんだ。 だからとりあえず俺の服貸して服買いに来た」
「違います! 語弊がありすぎますカイト様!!」
聖女が顔を真っ赤にして叫んだ。
「それだと私が変態みたいじゃないですか! 魔王城の門の前で装備が壊されたんです!」
「とりあえず、これ代金と材料。足りる?」
カイトがカウンターに無造作に放り出したのは、そのへんで拾ったという拳大のオリハルコンの塊数個だ。
「……お、おい、これ……オリハルコンか!? これだけあれば、槍と鎧どころか城が建つぞ!」
店主は震える手でそれを掲げ、ごくりと唾を飲み込んだ。
「これだけの素材、拝める機会なんてそうそうねぇ。あんたの連れの槍と鎧、俺が最高の一品に加工してやるよ」
カイトはさらさらと紙に図面を描き始めた。
「じゃあ、このブカブカのジャージに代わる服も頼むわ。鎧の下は、こう……体のラインにぴったりフィットする黒いインナー。動きやすさ重視で。あとは外出用のワンピースと、ダボッとした上着、それと部屋着な」
「あー、女物の下着ってどこ行けば売ってるかしってる?」
「ソイツはとなりだ」
「となりか! じゃあ、頼んだ」
カイトは彼女の方を向き、次の目的地を伝えた。
「隣だってさ」
「はい」
隣の見せに二人で入った。
「あの、カイト様。お気に入りの色は何色でしょうか?」
「水色かな」
「なるほど。水色ですね」
彼女は、白と、黒とそして、水色の布の少ない下着を選んだ。会計を済ませ。着替え用の小部屋で彼女は下着をはいた。
そして、村で夜ごはん用の二人分の食材と朝御飯分の食材を買い終わったところで、依頼していた衣類が出来たと店主が呼びに来てくれた。
「カイトー! 衣類先に出来たぞ。試着してくれないか? 変わったデザインだから調整が難しくてな」
「わかった」
店の小部屋で彼女に試着させると、びったりな衣類が完成していた。着こなしに問題ないことを確認すると、鎧と槍はまだ少しかかるとのことで、この日は一度、家に帰ることにした。
その夜。
カイトの屋敷のテラスで、二人は並んで夜空を見上げていた。
聖女は、買ってもらったばかりのモコモコした素材の部屋着であるパーカーと短パンに身を包んでいる。昼間のジャージも楽だったが、この未知の素材の肌触りの良さには、先ほどまでの憤りもどこかへ消えていた。
「綺麗でしょ。ここからの星」
紅茶をいれ、彼女にも紅茶をいれたカップを渡した。
「……綺麗。まさか、魔王城の裏でこんな星が見れるなんて思いもしませんでした。」
彼女の呟きに、カイトは手元のマグカップを揺らしながら応えた。カイトは綺麗という言葉にのみ反応した。
「だろ? 俺のいた世界じゃ、夜に星なんか見えないんだ。山の上とかに行かない限り、まったく。ここは静かで綺麗だよな」
カイトは遠くに見える魔王城を「ちょうどいい夜景」くらいの認識で眺めている。
聖女は、窮地に助けてもらったこともあり、少しだけ胸が高鳴るのを感じた。
「カイト様。……お洋服、ありがとうございました。……大切にしますね」
「ん? ああ。いいデザインだろ!」




