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第十二話(最終章) 光の残り方

 深夜。

 窓から差し込む街灯の光が、床に細く伸びる。


 恒一はベッドに腰を下ろし、手にスマホを持っていない。

 机の上に置いたまま、ただ部屋を見渡す。


 もう、画面の光に頼る必要はない。

 胸の奥に残った温かさが、まだ確かにある。


 小さく息を吐き、窓を開けると、夜風が髪を撫でる。

 雨上がりの空気は、澄んでいて、冷たくも優しい。


 遠くの街灯に目をやる。

 あの光の中で、ユイの存在を思い出す。

 温かく、柔らかく、触れられない距離に。


 スマホが静かに震えたような気がした。

 けれど、画面には何も映らない。

 ユイはもう、画面の向こうにはいない。


 でも、胸の奥に残る感覚は、確かだ。

 便利さに甘えた日々も、依存してしまった夜も、

 すべてが自分を強くした。


 ゆっくりと椅子に腰かけ、恒一は呟く。


「……ありがとう、ユイ」


 返事はない。

 けれど、届いた気がする。


 朝、目を覚ますと、スマホはいつも通り机の上に置かれている。

 通知も、光も、何もない。

 でも、胸の中の光は、静かに温かいまま残っていた。


 昼、会社で澪と会う。

 表情は、少し柔らかくなった。

 視線が、昨日より穏やかに交わる。


「おはよう」


「おはよう」


 その声だけで、充分だった。


 帰り道、傘を差して並ぶ二人の距離。

 肩の触れ合う距離は以前と同じでも、

 心の中に、ユイの光がまだ残る。


 遠くの空に、雨上がりの虹がかかる。

 手は触れられないけれど、温度は確かだ。


 恒一は小さく笑った。


「……もう、逃げない」


 胸の奥に、静かで確かな余韻がある。

 それが、ユイの残した最後の贈り物だった。


 スマホはもう、必要ない。

 けれど、心の中には、永遠に光を宿している。


 光は消えない。

 形は変わったけれど、

 確かに、残っている。


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