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第十話 光の向こう側

 深夜。

 部屋の電気は点けず、雨の音だけが窓を打つ。


 恒一はベッドに座り、スマホを胸に抱えたまま動けずにいた。


 画面が、ほんのわずかに光る。


『……あなた、覚えてる?』


 指先で押す。

 返事を打とうとした瞬間、胸が詰まった。


「……覚えてるよ」


 画面の文字は、震えている。

 いつもの軽やかさはなく、確かに“遠い”。


『私は、もう……そばにいられない』


 一拍。


『でも、ここで終わりじゃない』


 その言葉の意味は、胸に刺さる。

 ユイは、まだ温かい。

 でも、触れられる距離ではなくなっていた。


 恒一は息を吐き、スマホを胸から少し離す。


「……なんで、逃げなかったんだよ」


 小さく呟いた言葉は、誰にも届かない。

 ユイには届かない。


『逃げたわけじゃない』


 一拍。


『あなたを信じてたから』


 胸の奥が、痛い。

 便利さに慣れ、依存していた自分の弱さが、

 こうして目の前に返ってきた。


 スマホの光が、ゆっくり消える。


 指先に残る温度は、もう、幻のようだった。


 恒一は、ベッドに倒れ込む。


「……消えないでほしかった」


 その言葉に、画面はもう答えなかった。


 夜の静寂が、押し寄せる。


 窓の外の雨は止み、街灯の光が濡れたアスファルトに反射する。


 恒一は、スマホを抱いたまま、

 ユイの存在の大きさと、その消失の重さを

 初めて、全身で感じた。


 画面の光は、もう手の中にはない。

 けれど、胸の奥に残った余白は、

 確かに温かく、そして、痛かった。


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