38.記憶
レクトのチートが加速してる気がする……
魔法は、間違いなく命中した。
その証拠にサイは倒れているし、跡地にはまだほんのりと熱がこもっている。
だがその中心地––––クラウンは、何事もなかったかのように立っていた。
「やるね♪
やられるところだったよ♪」
(あれで無傷……いや、ありえない。
だとしたら何か仕掛けが?)
本当はじっくり考えていたいが、魔力がもう1割をきった。
(これ以上引き伸ばすと風纏が解けて動けなくなる。
その前に終わらせないと!)
だがクラウンは攻撃をしてくる気配がない。
それはまるで、クラウン自ら手を下さなくても、僕がいずれ動けなくなることを知っているかのようで……
そんな焦りの気持ちも相まって、僕は一気に鏡を展開し、一斉にクラウンに発射する。
だがクラウンは魔法が目の前に迫っているというのに、全く動く気配がない。
(っ!?このままだと、クラウンが––––!?)
そして予想通り魔法はクラウンに全て直撃し–––– 瞬間、クラウンが白いモヤとなって霧散した。
「……え?」
「上だよ♪」
「っ!?」
その声が聞こえると同時に、僕に水球が降り注ぐ。
纏っていた風を強め、吹き飛ばされるような形でその攻撃を躱すと、白いモヤが辺りを覆い始めた。
(あれ、このモヤって確か……)
[霧という自然現象です。
高いところなどでよく見られ、人体に害はありませんが視界を奪います。
しかし、誘拐前の魔法を使えなくする霧に酷似しています。]
原因は不明だが、あの霧が出ている間、僕は魔法が使えない。
前も言った通り魔法が使えない僕はただの10歳と同じ––––いや、今は怪我すらしているのだからそれ未満だろう。
(つまりこの霧が相手によるものだったら、僕の負けは確定したようなものなんだけど……まあ、100%そうだよね。)
体に痛覚が戻ってきているのを感じる。
それと同時に纏っている風も弱くなり、数秒経つと弾けるように消え去った。
「っ–––ぁ……」
「やっぱり魔法で痛覚を麻痺させてたんだ♪
子供が耐痛訓練なんて受けてるはずもないし、魔法が解けた今、君はもうそこを動くことは出来ないね♪」
その言葉を境に、僕は風纏を使う前と同じように地面に倒れ伏す。
これまでの無茶で溜めてきた痛みが激痛となって体を巡り、少しでも気を抜いたらそのまま永遠の眠りに誘われてしまいそうなほどだった。
だが……
「さて、君達には牢屋に戻ってもらうよ♪
その体じゃ無駄だろうけど、牢屋はアップグレードしておいたから脱獄なんて考えない方が……」
「…………た。」
「ん♪何か言ったかい♪」
「……見つけたっ!
その霧、魔力制御を乱すんでしょ?」
「へぇー、よくわかったね♪
……でも、それが今更わかったところでどうすることも出来ないだろう♪」
魔力制御というものは、基本的に相手に干渉されるようなものではない。
だからこそメモが気がつくまで僕は頭の片隅にすらその可能性を置いていなかった。
しかし、気づけたのだったら話は別だ。
「いくら魔力制御が乱れているとはいえ、自爆覚悟で魔法を使うのくらいは今の僕にもできるけど?」
「うーん、大人しくついてきてくれると助かるんだけど♪」
「聞くと思うの?」
「まあ、聞かないというならしょうがないけど……あの子達がどうなってもいいの?」
少し低い声でクラウンはケント達の方を指差す。
霧でよく見えないが、微かに聞こえる叫び声から、危ない状況なのは間違いないだろう。
(……打開するにはどうすればいい?)
体はもう動かない。
魔法もあと映鏡が数回使えるかの魔力しか残っていない。
だからといってさっき言ったように自爆をしても、ケントと対峙している3人も巻き込まないと意味がない。
(もっとちゃんとケント達を見ていれば、大人達にここを伝えていれば……ここにいたのがアートお兄ちゃんだったら、こんなことにはならなかった。)
痛みで掠れる思考の中で、心の底に押し込んでいた後悔が溢れてくる。
だが意外にも、この溢れる後悔の念を断ち切ったのは、しばらくこの会話を傍観していたメモだった。
[レクト、考えるのは後ではないのですか?
今考えても変わらないと言ったのはレクトのはずですが。]
(……そうだね、その通りだ。ありがと、メモ!)
僕は完全に意識を入れ替え、思考に全てのリソースを集中させる。
(魔法はイメージだ。
この状況を打開するイメージ……思い出せ、まだ何か、この鏡魔法について見落としていることがあるはずだ……
写鏡、映鏡、反射鏡……どれもピンとこない。
後は心写鏡……記憶?)
心の中で妙に記憶というワードが引っ掛かる。
(記憶……僕の中で記憶といえば––––メモ?)
絡まった糸が解けていくかのように、頭の中で思考が加速する。
(記憶を写す……つまり、メモの記憶も映し出せる?)
今現在、少ししか残っていない貴重な魔力。
しかし、これ以外に試せるものがないのも事実。
体に限界がきているのを改めて再確認し、僕は決断する。
(何もしないくらいだったらっ––––!)
写そうとしたのは自然現象そのもので、これで倒せないなら……と言ったレベルの物だ。
そしてその魔法は––––実にあっけなく成功した。
多少は驚こうとしたが、痛みの具合からそろそろ意識すら保つのが難しくなってきた。
あとは隙さえ見つかれば……
そんなことを考えた瞬間、神の導きか、たまたまなのかはわからないが、クラウンが焦ったような顔でケント達の方に走り出した。
(ここしかない!)
「……対象を指定––––映鏡!」
「無駄なことを––––!?」
魔法を発動させた瞬間、メモを作り出した時と同じように、世界が歪んで動かなくなる。
世界がそれを拒んでいるようなその様を、もしもレクトが見ていたのなら確実に正気を失っていただろう。
しかしレクトは魔法発動と共に意識を失っており、それが功を奏してレクトはそれを見ることはなく、数秒で世界は平常に動き始める。
その瞬間、光と轟音で辺りは埋め尽くされた。
レクトの映し出したものは、映し出している限りずっと残り続ける。




