昇降口
中世の大聖堂を思わせる外観と、近代的な設備が同居する王立アカデミー。そんな不思議な学園を舞台に、早く帰りたい一心の清夜にさらなる試練が訪れる。
ようやくたどり着いた昇降口。足の痛みから解放されるはずが、今度はスマホが見当たらないというトラブル。そして、同じ学年の陽果が思わぬ形で清夜に接触してしまい、まるで少女漫画のような“ドキッ”なシチュエーションまで発生する始末。
果たして清夜は、無事にスマホを取り戻し、痛む足を引きずりながらも帰宅を成し遂げられるのか? ドタバタ放課後劇の続きがますます気になる幕開けだ。
あいかわらず足の痛みを抱えながら、やっとの思いで昇降口へたどり着く。扉を開けた先にあるのは、近代的なIC認証ゲートと巨大な下足箱が並ぶ広い空間だ。天井は高く、ステンドグラスが差し込む光がカラフルな模様を床に落としている。
靴を履き替えようと下駄箱を開けていると、同じ学年の陽果がやって来た。彼女は別クラスだが、廊下や部活帰りに何度か会話をしたことがある。
「清夜くん、今日はやけに早いね。いつもは部活だったでしょ?」
「ああ、顧問の先生が出張らしくて休みでさ。だから速攻帰る予定……なんだけど、足を踏まれて痛い目に遭ってる」
思わず愚痴をこぼす俺。陽果は「え、大丈夫?」と心配そうに顔を覗き込む。
そこでカバンを探ると、あるはずのスマホが見つからない。ポケットにもない。嫌な予感が胸をよぎる。
「……あれ、スマホがない。まさかどこかに置き忘れたか……」
陽果は「えっ、それはまずいね。戻って探したほうがいいよ」と声をかける。どうやら帰宅前にもう一仕事増えてしまったらしい。
「面倒くせえけど、探さないと後が大変だよな……」
足の痛みにうめきつつ、くるりと踵を返そうとした瞬間、背後から生徒の波が押し寄せ、陽果がバランスを崩して俺の腕にしがみつく形になった。
「きゃ…ご、ごめん! 後ろから人に押されて…」
まさかの至近距離。思わずどぎまぎしてしまうが、陽果も顔を赤くして「あ、ありがとう」とつぶやく。
(なんという不意打ちサービス…こっちはそれどころじゃないのに!)
頭の中でツッコミながら、「大丈夫?」と声をかけ、彼女の手を離す。気まずさを誤魔化すように、「スマホ探して、さっさと帰るわ」と宣言し、昇降口からもう一度校舎へ引き返すのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。足の痛みと、スマホ喪失と、思いがけない陽果との急接近。ひとつのシーンにトラブルが重なりすぎて、清夜の“早く帰りたい願望”は遠のくばかりです。
とはいえ、不意打ちの接触で心拍数が上がる陽果とのやりとりに、学園らしい初々しさや甘酸っぱさも感じられます。いつの時代も、恋や日常の雑事は思わぬ形で重なってやってくるもの。次はどんな波乱が起こるのか、続きもお楽しみに。