第9話 品浜商店街通りの怪戦①
訳の分からない状況にも剛力梨喜が震えながらも奮い挑んだのは、彼らの闘う姿を見てしまったからだろう。よもぎ色が白獣に化けたそれを見た途端、呪いがかかったのかのように自分もどうにかしてそうしなければならなかったのだ。
彼が倒す同じような怪人へと低い姿勢のタックルを決めるも、──密着していた大男の体はいともたやすく弾き飛ばされた。
腰が抜けたように立ち上がれない……。
今度はソレの番だと言わんばかりに、クワガタは頭の鋏を噛み合わせ、また開く。
そして頭を闘牛のように前にし大男へと襲い掛かった。
そのとき、間に入った白いヤツがその閉じる鋏を両手で掴み受け止める。それでもギリギリと閉じ迫る恐怖のクワガタのパワーに対して──膝蹴り。
頭の殻がひび割れるような鋭い膝蹴りに、クリンチするように噛みついていたクワガタの怪人はそのデコを抑えながら天に頭を仰け反る。
そしてそのまますかさず空いたがら空きのボディーへと白拳がねじ込まれ、腹に風穴の開いたクワガタはその貫いた一撃のダメージに耐え切れず──爆散した。
「こいつも怪人語かよ……。おい、わちゃわちゃ前に出んな! 中に行って伸びたラーメンでも食ってろ!」
「ナッ!? ななナンダト!! だっっだいたいその姿はなんっ──」
「今俺に必要なのはコイツら怪人どもをっっ思いっきりぶん殴れるかどうか…それだけ ダッ!!」
カイザーレオは無謀を仕掛ける男に忠告する。
そして忠告しつつも寄って来た怪人をただただぶん殴りぶっ飛ばす。
それ以上の忠告も言葉もない。次々と湧き出てくる物言わぬ奇怪な怪人たちを相手取っていく。
そんなあの男の声がする白いヤツの姿を突っ立ちただただ汗垂らし眺めていた大男の背を、つっつく。
「怪人はカイザーがたおす。人間は人間を助けてカイザーを助ける。ん」
背を振り返るといた黒セーラーの女子が言うことは半分分からない。
だがその黒は嘘つきの目ではない。
そして人間は人間を助けるそれは当たり前のことだ。
今一度周りをよく見渡すと、動転して見えなくなっていた視界景色が彼の目に広がる。
その言葉で冷静さをいくばくか取り戻した剛力梨喜は、白と黒と怪人とそして自分以外、時の止まっていた品浜の商店街通りを人を助けるために急いだ。
黒セーラーは開いた黒い番傘で頭上を過ぎた市民たちを別空間へと一時回収していく。
ゴリせんもその飾りでない筋肉で隙を見ては動けない人を運び出し、黒セーラーに誘導合図しながら協力していく。彼にとって未曾有の緊迫する状況でありながらも、汗垂らし役割をこなしていく。
「これでたぶん全員運んだはずだ! こっこれで本当にいいのか番傘の生徒!? あのよもっ…じゃなく白いヤツは本当にひとりでヤれるのか!?」
「ん、これぐらいの怪人なら束になってもカイザーは大丈夫」
「大丈夫じゃ ねェ!! だが、これでハンデはねぇ!」
寄ってたかる怪人は、ならばと商店通りの茶屋前に引きつける。
腹にセットしたディスクをここぞと回転し唸らせ、緑の葉風が渦巻き、甘い匂いが深緑に染まりゆく。
「【グリーンティーパレード】!!!」
いつかの死神戦のように自身を中心にチョコが広がり溶けたエリアに、拳を思いっきり突き入れる。
隆起する深緑の景色は数多の拳をグーパーと咲かせ、甘く渋く賑やかに、パレードのように巨大な拳の列を成し襲いかかる。
「ときには渋く、怪人退治は効率よくな。…ハッ!」
甘い匂いに引き寄せられたカイザーレオを取り囲む怪人たちは、渋く殴りつけた抹茶チョコのおかしな罠に、その身を高高く打ち上げられた。
品浜商店街通りにミドリと茶の爆発花火を咲かせていった────。
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《ディスク1》珈琲チョコレコード
《ディスク2》ロックストーンディスク
《老舗茶屋チャヤチャヤ》全陳列商品
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