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第4話 駄菓子屋パニックSSS

▽品浜ミナミ高等学校 校長室▽にて


「で、誰ですと?」


「だから! 今最も勢いのあるメジャーデビューバンドLEOのギタリスト兼作曲家の半田夢路だ。えーっと、この学校のOB (ちげぇけど…)」


この日半田夢露は休日の学校に即興のアポを取りお邪魔した。

目的はというと、やはり怪人がらみ。このところ彼に絡んでくる怪人のことを独自に調べるために、何かと一番近くで情報の詰まったこの場を訪れていた。

今のようなメンタルでは次の作曲活動も落ち着いてできやしない。怪人がらみというよりは作曲がらみでもあった。


そして今この学校のトップである暇を持て余していた白髪の校長先生とのラッキーにも面会が叶い──まずは肩書をずらりと並べた自己紹介をはじめた。


「聴いたことありませんねぇ。んー、居ましたかねぇ……? いたような、みたような……」


「まぁ、待てよ! じゃなくて待ちましょうよ!! そう言うと思って!!」


持参したリュックからCDがずらり取り出され、味わい深い色合いをした机の上に並べられた。




良い音楽に合うコーヒーを淹れる。半田夢露は初対面の校長先生に目一杯のファンサービスをした。

学校の備品のCDプレイヤーから流れるLEOの楽曲の数々は、その白いカップのコーヒーをゆるりと飲み減らしながらいっしょにご賞味された。




「そのような生徒は我が校の過去に在籍していた〝記録〟はありませんね」


「なわけ!? 本当かよ!? あじゃなくて……本当ですかヨ校長先生…?」


「────私は生徒の顔を忘れませんよ」


老いてもなおギラつく瞳がそう言いまじまじと見つめる。


「んぶっ!? ──ごほっ、ごはっっ、ごほっっっ!!!」


その老人の輝く眼光に耐えられなかったバンドマンはコーヒーでせき込んでしまうも、


「ちょっとそのアルバムとかも見せてもらっていい!! ほらこっちも見せたし(アルバム)!!」


取り繕うように校長室に保管されている埃の被ったアルバムの数々まで見せてもらう許可を得た。


手がかりはその血まみれの顔と微笑み、そして闘いの最中に上からアドバイスするその声のみ……。それでも探すことをもはや目的に、半田夢露は知らない顔ばかりの借りたアルバムのページを捲っていく。


「正義とは何か悩まれたことはありますか」


「な、なんだ? 正義?」


見当違いのページを覗いていた彼に校長は突然漠然としたことを語りかけた。


「たとえ弱き枯れゆく花のようなものでも。人が手に取り摘んでしまうのは正義か悪か。そんなことを問われて」


「摘んだ花をどう綺麗に飾るか、それが人間にしかできない大事なことだと、そう私は答えました。ふふふ」


「アンタ……もしか」


「────私は生徒の顔を忘れませんよ」


「はは……なっ、なるほど…」


そんな知らない詩のような意味深な台詞を、何故か誰が言ってるいるのかが思い当たる。

ぼんやりと校長と彼が話すそんな光景が……夢路には思い浮かんだ。



『校長せせーーーーー!!! そっちによもぎ餅みたいな不審者は見かけ…』



歴ある重みある校長室のドアが急に勢いよく開いた。

緑髪がびっくりし振り向くとジャージ姿の大男、ゴリラのような大男。

大男の視界には緑髪、風に揺らぎへとへとになるまで追いかけていた…よもぎのような色合いの。



「げっゴリラ野郎!?」


「コラァァアアアよもぎ餅の不審者お前え!!! 足に多少自信はあるようだが今度は逃がさん!!! グラウンドの果てまでテイスティング!!!」



「はぁ!?? ってこの学校はどうなってやがるううう!!! いい加減しつけええぞゴリラマン!!!」


「逃がさんぞ!!! エンジェリック地の果てまで!!!」


「怪人よりしつけぇえええええ!!!」



猛追する剛力梨喜先生にグラウンドを7周半走りつきまとわれた半田夢路は、なんとかその珍獣の追走を巻き、夕暮れの帰路についた。







半田夢露の日常は作曲活動、日常のすべてが作曲活動といえる多忙だ。

怠けていてはLEOの王様にバレてしまう。その活動に人生のほとんどを捧げることで彼は今を時めくLEOのギタリストでいられるのだ。


そんな日常(作曲活動)は駄菓子屋にもある。

駄菓子屋にも様々なメロディーのヒントがあるのだ。レトロな空間に浸ることで感覚は時に研ぎ澄まされていく。



▽駄菓子屋 Dばぁばぁー▽にて



小さなちいさなカップ麺をちいさなフォークでいただきながら。

空間ごとタイムスリップしたように────────



「それでよ。なんでこいつらは次から次へと飽きずに現れるんだ。ずずぅー……ヨッ!!」


とんこつ味の麺を啜り終え豚さんのかかれたカップを投げ捨て。

白い裏拳が後ろから飛んできたおおきなおおきな星型のクッキーを砕く。


広がりつづける空間は童話と昭和レトロの混じり合ったお菓子の家の中なのか。

周囲を彩る知っているような駄菓子の陳列と、視界に入った知らぬ存ぜぬグミをつなげて縄跳びをする馬鹿げた怪人に。

カイザーレオはこれから使う予定の右の硬い拳に一息……気合とためいきを吹きかけ、ざらついた邪魔な粉を払った────。













甘いニオイのぷんぷんとただようお菓子なアジトで、さっそく怪人とご対面したカイザーレオはいつかのように設定ちがいはないかと、彼ら怪人の言ったことを丁寧になぞり返した。


「夢を忘れた愚かな大人たちを処分して選ばれし子供たちが神として君臨する真の世界をつくる…ドリーム駄菓子ネットワークDGC。その勇敢なる駄菓子戦士チョリスとマッケン……だと? ────お前ら出鼻から言ってること意味わかんねぇぞ? あぁー、ちなみに俺は夢と野望を備えたここんとこ多忙の天才ミュージシャンだが俺もそのD・G・Cってヤツに入れてくれたり?」


「「だがしかし、こたえは〝NO〟!!! 愚かな悪は甘くお菓子く成敗し、我ら勇敢なる駄菓子戦士」」


「ちょちょちょちょチョリス」

「ぱるるるマッケン」


「「ぜったいぜったいユルさない~~~~~アーーーーいっっ!!!」」


チョコ色のリス怪人とグレープ&マスカット色のグミ熊怪人が手をピースとパーにし、見得を切る。


「ハッ……じゃぁいっちょ、音楽性のちがいで解散だ ナッ!!!」


導いたこたえはどちらも〝NO〟

ならば構えるはピースでもなくパーでもなく握り拳を。

怪人とカイザーが鉢合わせたからには平和にはいかない。

カイザーレオは襲い来るチョリスとマッケンに対して許してくれとは言わない、甘い容赦はしないと半田夢露節で宣言した。





「なんだこいつら、大見得きってたわりにたいしたことねぇな?(お菓子で遊ぶんじゃねぇぞ、もったいねぇから)」


チョコのビスケット装甲を砕き、グミのボディーをスナック菓子の陳列棚へと吹き飛ばした。

カイザーレオは2体相手でも手応えのない怪人ペアに拍子抜けした。


手応えのない弱者をいたぶる趣味はそんなにないが、襲い来る悪は悪。

襲われたからには打ち砕く権利がある。

カイザーレオが倒れた悪へと追撃をしかけようとしたその時────



『『『がんばれえええチョリスううマッケええぇン』』』



「って!? んだと?」


声が聞こえる。このお菓子な世界に響き渡る声が。

カイザーレオがその周囲の声に見上げると、ドーナツの穴や飴細工の窓から子供たちがカイザーと怪人たちの戦い様をじっと見つめながら、お菓子を片手に握り応援している。


「おい! 応援するのはこっちだろうが? ひとりで2体相手にしてるオレオレ? 怪人を応援しやがるのか?」


『『『がんばれえええチョリスううマッケええぇン』』』


「なんてソウルのない応援してやがる……サクラでもしないぞ…!」


窓外から覗いている観客の子供達はそれでも怪人をいっしょになり応援する。そんな覇気のない声にミュージシャンでもある夢露はいびつな不快さを感じた。


「聞いてられねぇ……悪夢ならとっとと終わらすか!」


これ以上そんなぬるい応援は耳に毒だと、カイザーレオは拳を再度握り悪の元凶へと駆けた。


しかし、傷付きながらも子供たちのソウルある応援にパワーをもらい立ち上がる……悪の怪人ペアはまるで──


「どっちがヒーローだよ。──ぬりぃ遊びは終わりだ【パンジーパンチライブラリ】!!!」


グミとチョコの弾丸をかわしたカイザーレオはスピードで勝り、そのまま二体同時にそのパンチの射線上へと入れた。再びビスケット装甲を砕き、リス怪人の腹を吹き飛ばす。グミ熊怪人もその吹き飛ばした威力に巻き込み、炸裂した一発の拳が鮮やかなパンジーの花をめくるめくよう咲かせていく。



「いっちょアガ──ナ!? 俺のパンジーがチョコにぃ!??」



まとめて炸裂した華拳が咲かせたパンジーの花は何故かふざけたチョコ色をしている。

そして溶けゆくその花が砕けたビスケットをコーティングし──


「がはあああ!?」


白い装甲へと鋭く突き刺さった。


「ちょーちょちょちょ、強すぎるDGC(ダガシ)チカラにはそのような不味い技は通用せん!!!」


「ふざけや! がっ────!!?」


さらにチョコをコーティングしたグミ弾が発射される。

チョコ味のビスケットとグミの雨に横殴りにさらされたカイザーレオは、やがてあまいあまい爆発に巻き込まれた。







おおきなドーナツの穴から向こう側のおかしなヒーローショーを覗く。


「いつもの駄菓子を買いに来ただけなのになんなのこれ……なんで子供たちが並んで突っ立って?? てそれより…アレはロメ…また白いのになってる! ってなんかヤバそうじゃないのこれ公園のときより…!?」


爪楊枝で大人買いした四角いちいさなグミ餅菓子を刺していた川波智花は、それを口に運ぶのをやめた。それどころじゃない、もう戦わないと言っていたのにまたいつかのように白い戦士になった半田夢露がドーナツの穴からのぞくそのセカイで怪人たちと闘っているのだ。


智花が肩を揺らしても話しかけても心ここにあらず、おかしな子供たちも立ち並んでじっとその知り合いのヒーローショーを見ている。デジャヴするようでデジャヴしないおかしな事態(ゆめ)にまた川波智花は巻き込まれていたのだ。


それ以上どうしようもなく、ただ白い戦士の戦うシーンをじっと見ていた智花の左肩にトツゼン────掴まれた。


「ひゃっ!?? ひ…ひひゃ!? ちょっとちょっとなに!!? え、だれ???」


「ん? DOME内でうごける? ん、──なら。おかしなオーラの供給を止めてカイザーを助ける、てつだって」


「え、えぇ…?? てつだうってまさかぁ…(子供にスタンガンは…)」


「だいじょーぶ。──実験済み」


突如智花のドキっと振り返る背に現れた黒セーラー。長い黒髪に黒帽、白い素肌に口マスクをし、目の前で実験してみせたサブの特殊スタンガンを川波智花へと手渡した。








(こいつら急に強くっっ────ン??? あれっ心なしか…スピードとパワー、技のキレが落ちた? この馬鹿グミ菓子ハイになってこの様子じゃ気付いてねぇ…よしここはあえて受けて)


両手に操るはチョキとパー。グレープとマスカット二種類の味のするじゃんけんウィップグミ。

カイザーレオへと嵐のように幾多のじゃんけんの手を中距離から叩きつけて、ご満悦に笑い狂っている。


もはや白いヤツに打つ手はなしこのまま殴り潰し、このはじめた一方的なじゃんけんに圧勝せんと言わんばかりにグミ熊怪人はノリに乗る。


しかしその乗っていた調子が突然、もじゃもじゃに狂った。


「ぱるるるるこのままグミっとせいばぁ────ぁ??? あでっ──アレっ? ぱるるrr…?? ゴパッ────!??」


複雑な味に絡まり結ばれたそのグミの鞭、複雑骨折したようにねじ曲がったグミの手。

そんな不格好を決めた怪人に、獅子はその隙を見逃さない。散々殴られた首を左右に揺らしながら……一気に近づき勢いよく噛みつき、仕返しに転じた。


子供たちの応援といっしょに、そのグミ熊怪人を呑気に応援していたチョリスは目撃する。


獅子が獲物にのしかかり、拳を何度も打ち下ろすグミ飛沫はじける光景を。


最後に花が芽吹くまで、グミの地面を殴りつけつづけた。


「さぁて…お次も──好きな色を選びやがれ」


真っ白に咲いたグミの花した世界に百輪だけの特別な駄菓子が、爆発しながら鮮やかに散りゆく。


突き付けた拳は焼け焦げた、ヒーローの怒り。ふざけていたチョコを遠くから溶かす熱意が、グミの雨に打たれながら次のターゲットへと向いた────────。












グミ飛沫をぬぐい、ゆっくりと近付く。

青く灯った眼、穢れた獣に睨まれて。


ぎょっとした表情のリスは────尻尾を巻いて逃げた。


お菓子の陳列棚を倒しながら道をふさぐ。リスのように四足で素早く駆けてゆく。

焦り溶けたチョコの足跡を汚し描きながらビスケットの廊下を急ぎ渡ってゆく。


そしてココナッツサブレの壁をげっ歯類由来の前歯で齧り開き、丸く焦げた色をした秘密のドアを開いた。


かじかじかじかじ……コーヒー豆型のチョコを超速で齧る音を鳴らす。

リスの怪人が隠し保管した大事な大事な大好きな1000年分の豆粒を今齧り尽くさんばかりに齧り、イカれた白いヤツを倒すためのエネルギーの補給を図る。



「ガキどもの供給するパワーが落ちている!?? 何故だ!?? おいフルモリー!!! どうなってる!! どこだ寝てないで手を貸せえええ!!!」

「チッ、役立たずのグミもどきどもめ!!! まぁいいぜ…観察したかぎりチョコをたんまり補給したら倒せない強さではあるまい。少々もったいないが仕方あるまい、今こそ俺の一粒一粒厳選しビッグサイズに育てた夢のチョ庫レクションを大解放し、アッ、DGCのエリート駄菓子戦士チョリス様がちょちょいのちょこっと白い仔猫なぞ染め上げ成敗してく」


「最近食費がかさんでね。たいの尻尾はどこだ?(お口直しの)」


両手で器用におおきな豆粒を齧り回していたリスは手を止め、その声に振り返り、ぽとりと落とす。


腹を扇風機のように唸らせ、全てを吸い上げたその暴食の白獣に。

部屋を覆う銀紙の壁がくしゃりと煌めき、チョコ粒コーヒー粒ひとつないその秘蔵倉庫に。



「お、おれのチョ庫レクションがっっ!!!? おっ、オッ、おおおおおオオオオお味は!?」


「甘ぇけど?」


響き渡るリスもどきの断末魔に、お邪魔した隠し部屋のドアを開き花吹雪が噴き出す。

チョコの血でべたついた拳を気にしながらもあきらめ、カイザーレオはなぜか未だ解決しない状況に顎に手を当て考えた。


「さぁてと終わらねぇようだが──なるほど? これが美味しいドーム内ってやつなら適当に腹いっぱいぶっ壊せばいいのか? もちろん俺を応援しなかったセンスの乏しいガキどもには……後で喝だな。ハッ」


立ち止まって考えていると床や壁ビスケットの一部が動き出す。クリームをサンドしながら生命と手足を吹き込む、チョコ棒うまそうな棒などを装備し一列になりカイザーレオへと襲い掛かった。


「【──ライブラリー】!!! 砕けたドミノは初めてだぜ」


一列に用意された低級お菓子の兵隊は全て砕き平らげた。パンジー咲く道をサクサクと踏み鳴らしながら一気に駆け抜けてゆく。


「次は俺をサンドする気か、ヨッ! ハッ! 腹の虫は──こっちか!」


サンドしようとするビスケットやクッキーと戯れ砕き跳ねながら、カイザーレオは防衛本能か崩壊していく可笑しな道を笑いゆく。そしてミュージシャンの耳にきこえる腹の虫をたよりにたどり着いたのは────


「甘ったるいにおい……グミ? フルーツ?」


ピンクに色づいた四角い足元を触りながら、触感と匂いを確認していると──突然の殺気。カイザーレオは頭上から襲ってきた鋭い殺気をかわした。


ながいながい黒い爪楊枝のようなものを持った巨腕が、抹茶色の壁を突き破り。ドーナツの目をした巨顔の蛙怪人がいきなりそこに現れた。


抹茶味のチョコウエハースで模った巨大蛙怪人は壁をすりぬけその全身全貌をあらわした。


「何が出てくると思えば、またおかしなヤツだな」


『俺のセカイでこれ以上好き勝手はさせんんんん白鼠ぃぃ!!!』


「リスもグミも? 仲間はいねぇようだ ガッ!!」


『ハハハハハお菓子な雑兵がチョコっと食べられただけではこのセカイこの城は滅ばん我らDGCの同胞はいくらでも後で入荷できる不滅! そしてェ!!! 貴様を倒す準備は既にととのったのだよ、白鼠のカイザーぁあ!!!」


踏んでは光るグミ餅のタイルの上をステップし、黒い爪楊枝のラッシュを避ける。

大見得とほら吹きには構わず、素早い白獣は隙だらけの巨大蛙の腹を殴りつけた。

ホワイトチョコウエハースを砕きながら放った【パンジーパンチライブラリー】が炸裂する。


が、しかし──


駄菓子を詰め合わせた銀ギラの制帽を被った蛙は嗤う。帽は妖しく光り、砕けた腹のウエハースパーツを元通りに自動で組みたててゆく。


「ゲーコゲコゲコゲ~ぇええ♪ ────そんな攻撃強すぎるダガシチカラを纏ったオレ様には食らわん!!! オレ様のセカイでこれ以上おかしなことはさせんさかせん!!! ふっふふるるぅ~~♪ 真に子供たちの望むセカイD・G・C成就のためにくたばれ贄になれ愚人凡人カイっっ──!!?」


「よし……あと998発────────ナラその馬鹿頭(セカイ)、砕けちまわないように必死(がんば)れよ?」


相変わらずの長い蛙語に、もう一発のボディーブローを。

汚い白を溶かしながら拳に力を込めてゆく。ぐるぐると腕を回し…次の998への準備運動を終えた白獣は蛙を睨み宣言した。







残り969発────

その大蛙の姿は所々修復をサボッた歯抜け、さらに構成するウエハースの味色味も規則性のないカラフルになり、…見栄えはさながら世にもマヌケな毒蛙といった様子だ。


カラダの修復力を上げたのが仇となったのか、不死身の無敵を豪語していた怪人は何度もその身を白獣に殴られ続けた。

怪人はパンジーの花を飾った銀ギラ帽子の裏から、ヘドロ色のチョコの汗を溶かし足裏まで流してゆく……。


しかし怪人は諦めない。土壇場で悪を閃いた怪人は次のイカれたあの拳が迫る前に搦め手を打った。

そのチョコ汗したたるおおきな左手の上にグミ餅のタイルをひとつ置き、察知したこの館に飼っていた雌の鼠を二匹そこに光り呼び寄せた。


「おおっと、待ちやがれぇええ!!! ふるるるフゥ~~…♪ ……ハァっハァ……こいつが視えねぇ訳ではあるまい。……ダカラワカンねぇかァ!!! コイツら雌どもの命が惜しければさっさとそのイカれた白い着ぐるみをトきやがれぇええええ!!!!」



「ふふぇっ!??? な、なななんでいきなり??? え!?? ここどこ!?? ひひゃっえこの感触──フルフルグミモチの上!?」

「はむっ……あ、しまった」


大人買いしたフルフルグミモチ一個45円をのんびり爪楊枝でつつきあっていた川波智花と黒セーラー服は、その巨大怪人の手のひらの上に呼び寄せられてしまった。


そして怪人は女子どもを逃さずにその大きなグミ餅の座布団に足をねっとりとへばりつけた。


さらに、黒いおおきなおおきな爪楊枝が小さな人間に向けられた。智花と黒セーラーを人質に取り、カイザーレオの覚醒状態を解くように脅しをかけた。


カイザーレオは溜息を吐きながら、構えていた拳をといた。そして白い装いをも────



「おいお前ら、今のこの状況、どっちを応援してぇ?」



今生身になった半田夢路はそんなことを怪人の手の中にいる彼女らのことを見上げ問う。


「それどころじゃなくない!?? いいいいから公園のときみたいにこのヘンな夢っっなななんとかしてっロメ、半田夢路!!!」


「もちろんカイザー、怪人をたおす強いカイザー、ん、一択」


「おいオレ様を無視してこそこそダベってんじゃねぇメスども!!! オマエラ全員オレ様の手のひらの…上なんだよおおおおお!!!」



黒い指揮棒の号令でこの大部屋に敷かれていたグミモチのタイルが舞い上がり、一斉にうすら笑いを浮かべる緑頭へと叩き込まれた。


悪の蛙怪人は溶けたチョコを長舌で舐めずり悪顔を浮かべる。目の前に見据えた絶景のフルーツ盛りがまた、おかしく溶けゆくまでは──



グミモチは全てだらりと溶けゆき、立ち込める甘ったるい色煙の中白いシルエットがくっきりと浮かび上がっていく。


お約束破りの再覚醒したその白に蛙は黒い針を人質に再度向けながら、その愚かさを必死に叫ぶ。


「待てマテええええ!!! テメェだまし──チョっっ!? チョコが回って!?? ヤッやめやがれえええええテメェごときが駄菓子をかガッ──!??」


しかし覚悟はもうさだめるべきだ。その針も、その心も、その半端な悪も。



「Are you ready──?」



正義もまた。

チョコ色に染まり光る腹をくくり、カイザーレオは必殺技を腹の底から捻じ上げ練り上げる。



「こいつでたらふくだ──【SSSスイートスイートスイーパー】!!!」



練り上げた巨大チョコ円盤、縁起のいい模様にかたどって。その穴あきにイバラの蔓糸をくくり垂らし、一気に悪の腹へとたらふくの思い切り投げ入れた。




「甘ぇこと言ってんじゃねぇぞ、大人の(あじ)をその身に知りやがれ」




⬛︎

《ディスクセット1》珈琲チョコレコード


《ディスクセット2》ブルーローズ


=【SSS】


⬛︎




苦チョコ一閃、拍手喝采、天を見上げたがま口からコーヒー粒の雨が降る。


カイザーレオは巨大蛙の怪人フルモリーを苦く甘く染め上げ、満腹の正義をお見舞いし討った。

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