第3話 パンジー
肉体の歪みは元に戻り、カイザーの覚醒の時が終わる。
白獣は半田夢路へとその姿を変えた。
「ハッ──ってアレ? 俺が元に戻った? 白いスーツが勝手に…脱げたのか?」
「カイザーの力を使いすぎたな、腹の底からお前自身の力を」
その声に振り返った夢路はゆっくりと近寄ってきた彼の事を見た。
「なるほど、そういや思いっきし腹の底から切り札っつって……はぁ、衣装のレンタル時間は終わりで取り上げかよ勝手だなカイザーって。あ、で結局!」
「人を救う、そして救った。それがカイザーだ。今日のところはな」
「みたいだな……これ、ほんとうにだいじょぶか…」
夢路はいつの間にやら整頓された椅子や机の上に眠り座るこの学校の生徒らを眺め、心配そうな苦い顔でその奇妙な眠れる光景を訝しんだ。
「あぁ、息はしていた。DOMEにさらされた影響で一時的に気を失っているだけだろう」
「そうかぁ、なぁんか相変わらずその理屈は知らねぇけどそれはよかっ……じゃなくてお前、血まみれだぞ?」
「お前も、そのようだが?」
「ハ────ってそうだった!? 痛てててぇ……!!!! 今になって…全身がッ…針に刺されたみてぇに痛ぇ!? ぁぁ……ほんっっと今日だけで二回は死んだ気分だぜ…あぁ、イてぇ…だりぃ…」
「安心しろ、生きている。針に刺されたぐらいなら安かったな」
「安かったって冗談だろ……にしても怪人はスッキリ倒したはいいが生きた心地はあんましねぇようだが……あれ? お前、なんか、光って??」
夢路が話していた彼の体から光の粒がほのかに、湧き立つように上っている。そんな異変に気付いた。
「お約束というヤツだ」
「ハッ!? お約束!? 何のだ……!? ちょちょ待てよ!おまえまさか!??」
夢路は脳裏によぎったお約束に驚いたリアクションを深めた。
その血まみれで光る男子生徒の妙に落ち着いた表情から、嫌な予感というものを読み取った。
「カイザーにもならずに力を使いすぎたようだな」
「ようだなじゃねぇよ!! おい!!! ──あ! 待て!!! 今そのカイザーを返すぞ!!! お前ひとつしかないもん勝手に赤の他人にバトンタッチしたのかよ!! 無茶しやがるははは、とっとと手ェかせほらほら!!」
「無駄だ。それはできない」
首を横にゆっくりと振る彼に、反面、夢路は必死にがなり語気を際限なく強めていく。
「ハァ!? できないことねぇだろ!? んな困ったもん押し付けられちゃー困るだろうが!! こんな憑いた右手じゃギターを弾く指先の感覚も狂っちまう!! いいからさっさとその手をかせ!! ──うお!? あぁ!?」
べたつく緑髪を掻きむしりつづけ、痺れを切らした夢路は一向に伸ばそうとしない彼のその手を強引に取ろうとしたが────
その手はその体は夢路の掴もうとした手をすり抜けてしまう。
「俺も困った。お前も困ればいんじゃないか?」
「おっオイ!!? そんな無責任な結末が!!! あってぇ……本当におまっ」
「じゃあなカイザーレオ、じかんだ。最後にお前みたいな強いヤツと一緒に闘えて、あぁ、────悪くない」
半田夢路と男子生徒、
最後に差し出したその手の意味は────違ったかもしれない。
お互いに交わったその右手は、片方が透けてゆく。
夢路の見つめる彼という存在が微笑いながら光の粒へと────────
「いきやがった……のか…」
星の海に流れてゆくように……カイザーパンセはこの世界の彼方遠くへと……溶けてゆく。
ただただそのあたたかな光の行方を見上げつづけたカイザーレオ、彼をのこして。
半田夢路は二足がへばりついたグラウンドから、綺麗な星空を見上げることしかできなかった────────。
▼▼▼
▽▽▽
「私たちは負けな〜〜いミナミカゼに吹かれ〜〜て♪品浜、品浜、品浜、清くおおきく品浜ミナミコっウっっこうッ!!!」
「さぁ今日吹く風はどこ吹く風か…ゴリせん★ハイブレステイスティング! すぅ~~~~…ウン、心なしかとても甘く華やかダ!」
「愛する未熟な生徒たちが来る前に、就任5年目祝い感謝のグラウンド50周はじめちゃっっっ」
「ってなんじゃぁぁこりゃああああああ!??? てっ、ててててて、てんごく?? ワタリドリ…えっ、エンジェル???」
グラウンドトラックの中央、広がる色鮮やかなお花畑の上には机と椅子が並べられている。
いつものように静寂の朝に校歌を口ずさんでいたジャージ姿の体育教師、剛力梨喜先生の見つめる──天国のクラスルームがそこに広がる。
そんな彼の仰天する大声がうるさかったのか心地よさそうに眠っていた生徒たちが次々と目を覚ましていく。
「あれ? なんだこれ? 俺なにして?」
「あながち天国? いいかおりぃ…」
「山西おまえその寝ぐせやべぇな? ぷっははは」
「5時限目ってピクニックだったっけ?」
「おやつ忘れた」
「なんかゴリせんこっち見てんだけど」
「てかなんでみんな寝てんの? やばくない? あはっ」
「あれれぇ…なんで星崎せんぱいがわたしのとなりでねて? んー???……ぎゅぅ……♡」
「なんでもいいからあと30分みんなでここでお昼寝しようぜぇ」
「幼稚園かよっ、でもいいかも。おっはなばたけぇ~~」
「「「あはははははは」」」
「アレ? ともか? ほわぁ……おはよぉ。ん? なんかいつもよりビジュ、老けた?」
「さゆりっ!」
「わっぷ?? どしたどしたぁ…?? いきなりどしたのぉ???」
「わかんないけどっ、なんかヘンな夢っっ…見ちゃった気がするから…!」
「ヘンな夢ぇ? へぇ~、わたしもまっただなかな気がする、ソレ。あはは、ともかのビジュ治ったらおしえて。ん~…なんかこれいいにおい……」
「うんっ…もうすこし…かかるかも……」
「エ、エンジェリックテイスティング……」
品浜ミナミ高校、男性体育教師が膝から崩れ落ちる早朝のグラウンド。
あたたかな匂いのする色とりどりのパンジーの花畑で生徒たちは笑い合い抱き合い戯れる。
2年C組川波智花の見たおぼろげな夢で激しく踊っていた白と青の闘いの傷跡はなく……不思議な夢の中にも咲きつづけていた気がするその光景とこのニオイだけを残して────────
名も知らぬ誰かにささげる。
曲のタイトルは【Pensee】
「半端に名はつけるなと言ったろ半田夢路」
「ならこの曲はその耳には聴かせてやれねぇ、半端なイロした耳にはな。きっと合わねぇぜ」
白い防音室は音楽スタジオ。練馬玲央の所有する家の地下にある個人スタジオだ。
LEOの楽曲のほとんどはこの場所から生まれ、ブラッシュアップされてゆく。
そしていつものようにギターとその身だけで玲央の元へとやってきた半田夢路であったが、曲のタイトルを独断で決めたその幾度も注意されたことのある愚行を玲央に咎められた。
LEOの楽曲のすべての作詞を手掛ける練馬玲央は他人が思案した余計な言葉が入り込むことを嫌う。彼ほどにもなると曲にのめり込むためにはその奏でるメロディーだけで十分なのだ。
しかし此度は様子が違う、緑髪の男の表情はふざけてそう言っているようではないと玲央は感じ取った。
「なんだと? ──いいだろう。そのプロトタイプ聴かせてみろ」
白い椅子にジーンズの足を組みながら、王様はその男がその名付けられた未完成な曲を演奏することを許した。
鋭い眼光の合図を受けた、半田夢露はそれ以上頷きもせず何も言わず……ただただその右指にギターをかき鳴らした。
「パンジー……ただのちいさな花にしてはうるさくて目まぐるしく激しいようだな。────だが、これは最後のメロディーはどういった感情だ。お前はなぜそこで華やかに駆け抜けなかった。これでは余韻というものがチグハグだ、ミュージ」
「わかんねぇ。ただ────、けっきょくどうにも困っちまった俺は星空を見上げていた……だけだった」
白い天井をゆっくりと見上げる。そこには真っ白でなにもないので、緑髪の男は目を閉じた────。
「……もういい帰れ。半田夢路」
半田夢露はその声に目を開ける。僅かな夢想と余韻から醒めた夢路は、怒りもせずまた何も言わずただただ黄金の眼を見つめ返した。
そこからも無言で……半田夢露はギターケースを動きにメリハリのないゆっくりと背負い、階段を上っていき外へのドアを開いた。
帰れと言われたら帰る。すなわちもう聴きたいことはないということだ。
半田夢露彼が作るプロトタイプ楽曲の数々は、いつLEOに採用されるかも彼には分からない。
YESでもNOでもない、分からない。
そんな関係、力関係のもとに曲は作られてゆく。
ドアの閉まる音だけで、足音ももう防音室には聞こえない。
「やはりアイツのメロディーは、俺にひどく語りかける…」
天を見上げ目を閉じる────練馬玲央は見えない足跡にかかとをあわせ、そのギターを構えた。
▼
▽
ここ最近彼の周りには分からないことが多すぎるが、分かっていることも少しはある。
仕事の帰り道に近場のコンビニに寄った帽子被りの緑髪は冷えた空気を浴びながら目を凝らした。
「冷やしカスタードたいやき、冷やしカスタードたいやきはっと……あ、売り切れてやがる。そんなに売れ線の味なのか……? 冷やしただけのたいやきが?」
「じゃあちゃんと焼いたやつ、【俺の焼きプリン(超ハード)】あぁー俺プリンは硬い方が好きなんだよな、いいね、お前に決め」
『ロメっ』
スイーツコーナーにじっと構える中腰の帽子のツバは、何故か聞き覚えのある声の聞こえた方を振り向いた。
▽午後1時59分 さんかく公園▽にて
跨るとなり同士、獅子と馬は揺れている。
怪人と闘ったいつかの学校のこと、その後が気になっていた夢路は冷えたたいやきを頬張っている間は彼女、川波智花の話を聞くことにした。
「ヘンな夢に俺が? 緑髪が白い戦士に?」
「それで怪人を俺が倒して。高校生たちはグラウンドに咲いたお花畑に寝転がって」
「おいお前もしかしてまだ、絵本、寝る前に読んでもらってる?(やさしいパパに)」
「ち、ちがっ!! ってさゆりのことは知ってるでしょ! ──ダレソレ知らない!? はぁ?? だからッぬぬぬ…その証拠に! これが繋がったら今の信じてっ」
語気を強めた智花は夢で記憶していた番号を自分の携帯に打つ。
デコった携帯を耳に当てながら怖い形相でとなりの獅子の遊具に跨る男を睨んでいる。
〝ピロロロロロ…〟
鳴っているその音にも気に留めず、たい焼きを口に頬張る。
しかし顎でつかうようなジェスチャーを制服姿の女子高生からされている。
「はぁ。俺にも熱心なファンがいたも ナッ!?」
「きゃっ!?」
冷えたたい焼きを平らげ、ポッケの鳴り続ける携帯をその手に取ろうとしたその時────
獅子を揺らし遊んでいた夢露は隣の馬に飛びかかった。
いきなりぶつかって覆いかぶさってきた危険行為をした緑髪に女子高生はスカートの土を払い怒ったが、緑髪はそんな怒声の飛ぶ方向にも振りむかない。
後ろの茂みから伸び絡みついた謎の蔓が、玩具の馬を引っこ抜き投げ捨てる。
そんな馬鹿な怪奇現象、だけどデジャヴを感じる。もっと痛い物が飛んできた方向に目を凝らした夢路は──そのまま吠えるお荷物を急ぎ抱えて、ふざけた馬の下敷きになる前に必死で避けた。
「あっぶねぇえええざけんなっっ!?? ──え? これってぇ……この近付いてきた汚ねぇ色のお花さんのようせい……なんで怪人野郎が!??? ってクソっ! またそれかよ!!! ってガはっ────!??」
公園の樹々茂みから現れた、そのデカいお花のシルエット。二足歩行するお花さんなどきっと妖精ではない。
そんな花の怪人をのんびり観察していた緑髪の人間は、また腕から伸びてきた蔓にその首を巻きつかれてしまった。
その蔓の首輪を両手で目一杯なんとか解こうとするが、全然解けやしない。
不意に締め上がるつい最近どこかで見たような芸当に、引っ張られていくそのスニーカーを地にすり減らしながら、汗を垂らしながら、踏ん張る。
だがそれでもかなわない。腐った色した花顔から毒々しい息をするバケモノの元へと、ずるずる向かっていく。
「創造…ジュゾウぅ……か、かはっ……覚醒っっ!!!」
最後にすがったのはそのマジナイのような言葉。
半田夢露は一か八か、夢じゃなければと二度目のカイザーへの覚醒を試みた。
そして汗と熱握る右手に照射するように差し込んだ光の糸が、フラッシュし────
「なっ、なれたぜ!? や、やった…じゃねぇ!!」
絡んできていた危ない蔓は焼け焦げ千切れる。
光が明けて白獣──カイザーレオが顕れた。
「おいお前、いきなり白昼堂々天才バンドマンの喉に首輪するとはそれなりに覚悟できてんな?」
「え、これ……夢とおなじの!??」
『ジガガガガガガ……!!!』
カイザーレオは指を差し挑発する。怪人に対して容赦はしないと宣言し、その花のバケモノが奇怪な鳴き声で返事をした。
「ておまえ……怪人語のほうはお初だぜ…! ──おっとその前にお約束だ、たたかえないパンピーはその辺に隠れてろよ? ……てかさっさと散れ!!!走れ!!! トモカ!!! ともかく ダッ!!! 俺のっ、おっと!? イノチは! 失敗できるぅ!! 生放送じゃねぇんだぞっ!!!」
「えっ!?? わっ、わわ、わかった!!!」
智花をともかく逃がす。自分の事で精一杯のカイザーは突っ立つ彼女をさっさとその危ないエリアから離れるように促した。智花は頷く余裕もなくも、慌てつつも了解し下手な走り方でそこから離れていった。
蔓の鞭を数発受けながらも、カイザーレオはその見飽きたしなる軌道を見極めて右手で掴んだ。
そして左腕に花柄ディスクをセットし、右はあえて見せずに受けていたそのパワーで凌駕し逆に蔓を自分の元へと引き寄せる。
ぐいと万力に一気に引っ張られ、前へと態勢を崩した頭でっかちの花の顔面に────
「あの世で嫉妬しやがれ──【パンジーパンチライブラリー】!!!」
渾身の左ストレートを前のめりにめり込ませ、叩きつけた。
汚い花を散らし、鮮やかなパンジーに何度も覆い塗り替える。
一発で幾度も芽吹き咲かせる華拳を叩き込み、花の怪人を鉄棒へと吹き飛ばした。
ものすごいパンチであったがしかし相手は腐っても花のような怪人。石の怪人のときのように土くれにはならなかった。
折れた鉄棒をどかし立ち上がった花の怪人は毒色の息を荒げながら探す──しかし探すが白いヤツは見渡す景色どこにもいない。
『蜜蜂はこっちだぜ』
その声のする方に花の怪人は振り返った。だがもう既にジャングルジムの天から、白獣は翔びたった────。
回転しながら急襲し、落ちてゆく。
そのディスクを刃代わりに装着した踵が、醜い花を縦に抉り切り裂いた。
「どうやらお気に召さなかったミテェだ────」
指をクールに鳴らすと同時に、切り裂いたオーラは爆発した。
ジャングルジムの頂上から空を鋭く舞い降り放った即興技カイザーレオの【ディスクトー】が初めましての花怪人を鮮やかに屠った。
「めちゃつよ……」
息をひそめていた巻貝の遊具からひょっこり顔を出した川波智花は、あぜんと目撃する。
荒れた公園に降り注ぐ勝利の花吹雪の中を酔いしれる白いヒーローの姿を────────。
白い手に5円玉を釣りながら揺らす。
揺れ動くそれを見つめる女子高生は──
「何やってんのロメ?」
「いや、上手いことコイツで眠ってくれねぇかなって」
「馬鹿なの? それ」
5円玉はその彼女の手に掴まれ止められる。
戯れる白獣の戦士の青いおおきな瞳が、眠らない現実を見つめている。
安っぽい5円玉の催眠術も効かない。
もっと桁を増やしひとまず彼女にお熱いコーヒーを奢ることにした、カイザーレオから覚醒を解いた半田夢路。
ブランコに揺られながら隣同士の席に着く。だがいくら揺られても夢ではなくさめないリアルにその2人の席は揺れ動く。
「ロメはたたかうのさっきみたいな怪人と? あの白いので!(てかどんなけ食うの、わたしのたいやき)」
「なわけねぇだろ。今宵の一曲かぎりの約束が三曲になっちまっただけだ。これ以上あんなのがいてたまるかよ。さっきのもきっと薔薇野郎の親戚だったんだろうぜ(仕事した報酬だろ、なかなかコーヒーに合うな)」
冷やしカスタードたいやき、ぬるくなったたい焼きをお熱い無糖コーヒーで流し込む。やけに腹の減った半田夢路は仕事の報酬と称して、智花の大人買いしていたたい焼きを貰った。
「てそういやなんでかお前は覚えてるらしいなその怪人のでてくる夢ってやつ。(たしか思い返すと……ドームの効率がどうとか怪人の薔薇野郎は言ってたか? ドーム……さっき怪人語の花と戦ったときにもあったのか??)」
「こっちが聞きたいんだけど。訳わかんないんだからっ今もっ」
「とにかくアレだ。忘れろ。うんっ、それがお互い1番いい! そうだ、なるほど、決定!!!」
「はぁ!?」
全てコーヒー色に押し込み平らげた。
夢路はこれ以上公園で彼女と話すことはないと、ブランコを力強く漕ぎ、前方の低い鉄柵を飛び越えた。
「ってっちょっと。あのー、あのさ…。もう1人いた気がするんだけど。その夢に……あんたの他に?」
驚いたものから突然神妙な表情に変えた川波智花は、何かをまた思い出したのか、緑髪の背に語りかけた。
しばらく黙った公園に、乱れるブランコの余韻が鳴り響き……。
「────気のせいだろ。夢見る少女はそこまでにしとけよ、加減を違えると大事な友達なくすぞーーー! (たい焼きサンキュー!)」
「はぁ!!? ちょっ、え、マッ、はやっ!!?」
公園に舞い落ちた花を鮮やかに散らしながら、半田夢路はさんかく公園を風のように走り出ていく。
(どういうわけだ……。これは全くわけわかんねぇ。怪人ってのは他にもいるのか? 俺の日常にいきなり現れるっていうのか? ────今日のところは……なんてまさか……だよな?)
一抹の不安を感じながらも、走りだした体は止まらない。舌に残る苦さを飲み込み、熱籠る右手を見つめていた目は、前を向いた。