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第2話 Are you ready──?

白獣の足が踏みちぎった蔓鞭がズルズルと地を這い……うろたえる青薔薇の元へと巻き取られていくと同時に──


後ろからしなる殺気。

ひとりでにうねり襲う、千切れた鞭を白獣はその手にノールックで掴んだ。


「おっと、──気をつけろよ、はは」


「白い獣の化身……。ナニ……このこもカイザー?」


「今宵一曲限りの血まみれの特別ステージ、──〝カイザーレオ〟ってヤツらしいぜ。さぁ、ところで仕返しの時間だ。あんなにたのしそうに私刑されたんだ、コイツにバラバラにされても文句言うなよ薔薇野郎?」


掴んだ蔓蛇を、両手に引きちぎりバラバラにする。

青く穢れ染まった白手を叩き払ったカイザーレオはたじろぐ青薔薇の怪人を指差し挑発した。


「ウフフふお着替えした途端勇ましいものね……そうねじゃあバラバラのまえに」


『上だっ!! 気をつけろ怪人は1人じゃない避けろっカイザー!!!』


不敵に笑う青薔薇の怪人をカイザーレオは指差し睨みつけていたところ。

遠くから叫ぶ男の必死の声に耳立てたカイザーレオは、覆う影と降り注ぐ隕石に見上げ気付き、慌て飛ぶように前転しながら回避した。


ドスンとグラウンドを煙らせ、重い質量が大地を揺らした。

間一髪、隕石いや屋上から降って来た石の怪人の下敷きにならずに済んだカイザーレオであったが。


「ってうぉわ!? ────モッ、もう一体いるなら最初からいいやがれ!! 俺の命は生放送じゃねぇんだぞ!! てかデビュー戦がいきなり2対1かよ!? こっちはまだ右も左もだぞ!!?(上から来てんじゃねぇぞ!)」


「ふざけているな! ゼッタイ気を抜くなカイザー!! 怪人のそいつらに油断している暇はない!!」


振り返るとさっきまで夢露のいた廃棄山から立ち上がった血まみれの男が声を張り上げて指図している。新米のカイザーに対して怪人を相手に油断をするなと釘を刺す。


「カイザーカイザーって、どなたってオレか?? あーー、はいはい分かったって!! 石ころと雑草の怪人ぐらい、二曲同時に奏でて撫でてやりゃいんだろ!!!」


後門には全身石の集合体のおおきな怪人、前門にはトゲトゲの鞭を伸ばし生やす青薔薇の女怪人。

カイザーレオはそれでもおじけず勇ましく、その力を行使し怪人2人をまとめて倒すとその拳を構えた。





「うがぁあああああーーーー!?? ニキョク同時は無理だばっきゃろーーー!!! おい、おいッどうすんだバッ!?これじゃぁもっかいがああああ!??俺のカラダが地獄の責苦をおかわりされてるだけじゃねぇか!!!! カイザーってのはグハっ!!(ひと)を救えるんじゃなかったのかよおお!!?」


カイザーレオは先ほど勇ましく豪語していた状況と今はちがい、苦戦する。

石の怪人に捕まったカイザーレオはバックを取られそのまま石壁に拘束された。そしてその石壁に磔にされた白獣は滅多打ちの私刑を実行されつづけている。

青薔薇の怪人が高笑いをしながら何度も何度も白い鎧を鞭打ち、削いでいく。

やられてばかりではとその状態を抜け出そうとしても、不思議と力が入らず。背の石の怪人の石粒が妖しく発光しカイザーレオの込めようとするエネルギーを吸収していたのだ。


「クソッ…まだ能力が発現できてないのか……んっ、なんだこの円盤は……?」


血まみれの男子生徒はカイザーレオの苦戦する闘い模様に何かアドバイスを出そうと必死に見つめながらも、足元に落ちていた何やらカラフルな円盤に気付いた。

そしてそれを拾い上げ見つめ……何かを思いついたのか────


「カイザーパンセ…パンジーだ!!! 俺の(おもい)を使えカイザーレオ!!! ソレがお前の怪人を討つ能力だ!!!」


足元から足元へと、鞭打たれつづける絶体絶命のカイザーレオの足元の地へと投げられたディスクは突き刺さった。


「パンセ…パンジー???? テメッこんなときにふざけ──!?(なんだフリスビー? いやCD?) なァるほどオオ!!! ナラッ、再生(かま)しやがれパンジーぃいいいい!!!」


突き刺さって止まっていたディスクは白獣の雄叫びに呼応し、地に花を咲かせながらロードする。

ひとりでに高速回転しはじめたディスクは襲い掛かる蔓鞭を切り裂き空へと飛びあがった。

やがて虹色の曲線を描きながら石の怪人の背へと突き刺さった。

今度は逆にエネルギーを奪い返すようにパンジーの花が赤、青、黄と石肌の亀裂と隙間に咲き誇る。その隙にパワーを上げたレオは拘束を解き、反転しそのまま握った拳で怒涛のラッシュを浴びせ続けた。

石の怪人、もはやパンジーの怪人を力の限り殴りつけたカイザーレオは、後ろからふたたび感じた殺気のリズムを読み取り、左へとステップし逃れた。


そしてまさかのフレンドリーファイア。地を二つに斬りつけるように真っすぐに叩き落とされた長い長い蔓鞭は、石の怪人の頭頂のおおきな石を激しく叩いてしまった。


鬱陶しく石の隙間に生えてきたパンジーをかきむしり散らしながら、先ほどのイチゲキで眩暈する石怪人はその叩かれた石頭をぶんぶんと左右に振り痛がり怒った。

青い薔薇の怪人は両手を顔横に合わせながら謝罪の意と、宙に浮かせた蔓でハートマークを描き浮かべた。


「なんだよ先に言えよ……味方────いるじゃねぇか。サァ、こっからは正々堂々2対2といこうか!!!」


かしこく舞いもどって来た花柄のディスクをその指に挟み、痺れたリズムを受け取る。

心強く華のある味方をその手に今得たカイザーレオ。

絶体絶命の土壇場でついにそのイカした能力を発現させ、悪の怪人2人組に、白い仮面の裏で不敵に笑ってみせた。






右も左もだったカイザーの闘い方が(まる)く分かり。勢いに乗った白獣はその気迫と拳のかぎりラッシュを叩き込むも────


「グモモモモモ! きかんきかんなぁー! 猫のしょんべんと道端の雑草が硬い石に勝てるかぁ? グモッモッモー」


「石がしゃべれたのかよッうるせぇ!! もっかいクらいやがれ!!」


カイザーレオはとっておきの花柄ディスクを勢いよく投げつけたが──その石には刺さらず……難なく弾かれた飛び道具の攻撃がむなしく地に落ちた。


「って効いてねぇ!? 聞いてねぇぞ!? うぉわっ──!??」


勝算が狂いうろたえたカイザーレオは蔓鞭に左足を取られてしまった。

石壁のうしろから隙を見て伸びる女怪人の姑息な技に引きずられながらも、レオは強引に立ち上がり鞭に引きずられるよりも速く前方へと走った。

のろまに突っ立つ石壁を捨て置き、青薔薇の怪人へと一直線に猛進した。

そんなカイザーレオの放つ威勢に気圧されたのか、自ら鞭をちぎった女怪人はその暴走列車の車線からひらりと逃れた。


ぶん殴るよていの拳をすかされたカイザーレオは舌打ちをしながらも、押し寄せる重たい殺気に振り向いた。

石色の右ストレートを上手く振り向くと同時に躱しながら、仕返しで不意打ちの右ストレートを叩き込んだ。


手応えはあった。不意打ちならば人間と同じで効くのではないかと考えたカイザーレオは石のボディーへとその白拳をめり込ませた。


だがしかし、おかしい……その右拳はめり込んだ…上手くめり込み過ぎておかしい。

まるで最初から穴が開いていたかのように。

おかしな右の違和感にカイザーレオはその拳をすぐ引き抜こうとしたが──抜けず。


それはまるで真実の口のように、その石に突っ込んでしまった拳が腕が抜けないのだ。


覆う影、中腰で見上げるとみえる石の巨人その石顔の彫刻は嗤っている。


「!?? ッ────抜けねえなら、真の拳(左)で叩き潰すまでだ!!! この野郎、グハッ!? こんにゃろ、がはっ!? こっ、ンベっ!?? コンニャっっ────アレ??」


もう片方の真の拳で石の腹を殴る度に、意趣返しか石の拳に同じ数を殴られビンタされる。

それでも負けん気で殴り続けたカイザーレオであったが異変に気付き────その真の左拳、左腕を見つめた。

なんと左腕が腕の外側に裂けるように分かれ……無惨な姿になり、イカれてしまっていたのだ。

半田夢露は意味不明に裂けてしまった自分のであって自分のでないその白い左腕のことを理解できない。


「ってはぁあああああ!?? 俺のッ拳がッッおしゃかにッ?? いや、腕がッ裂けるッッチーズにッ?? 嘘だと言えよカイザーおいぃい!??」


頭の石に角を二本生やした怪人は嗤っている。そして約1名の哀れなヒーローもどきが予約した石の左拳を、右腕の小石を片側にかき集めさらにビルドアップした石怪人はおおきくおおきくご予約の左拳をうしろに溜めて────


「そうだ嘘だ、お前は壊れちゃいない花は開かれたカイザー!! 忘れ物だ受け取れ!!」


花柄ディスクを遠隔から操った高校生は、グラウンドに落ちていた忘れ物をふたたび彼へと届けた。カイザーレオの裂けた左腕の部分へとそのディスクは回転しながら吸い込まれた。

するとその瞬間左腕から電流が走り、カイザーレオは自分のであって自分のでないカラダのことを一つおおきく理解した。


「再、土壇場のなるほどォ!!! こいつはパンジーってよりきっとパンクロック! 《ディスクセットスリー》、穿ち捲り咲き誇れ!!!」


仮面越しの間近にゴツゴツと迫った石色の景色よりも速く、忘れ物をセットししっかりと閉じられた左腕の拳が石のボディーを打ち抜いた。


インパクトした瞬間に咲き誇った拳は、石の腹を軽々と吹き飛ばす。

花を赤、青、黄と咲かせ、ページを捲るように次々と華やかな華拳のラッシュを咲かせてゆく。

パンジーが咲く度によろめく石の体は、放たれたたった一発の左拳で何度もパンチを受けたように鮮やかカラフルに遠のいていく。


やがて石の体躯一面に真っ白に咲かせたパンジーが眩くフラッシュし────

土塊と分解された悪の石怪人はその白花にさらさらと……浄化された。



「【パンジーパンチライブラリー】……お前を土になるまでぶん殴ったカイザーの(わざ)だ。──ハッ!」



ディスクセットで力をロードし呼び覚ます。

吠える白獣はその左に熱帯び従える真の力の一端をぐっと握りしめた。


反撃の熱い狼煙を天へと垂れ流しながら……カイザーレオは綺麗に咲いたパンジーにワラわずにはいられない、その拳を突き付けた。








その真の力を叩き込み、残すところは怪人一匹。


「油断するなよカイザーレオ、まだここはあの怪人のDOME内だ」


「分かってるって、生放送でまたアイツより咲かせて目立てばいんだろう?」


「それでさっきの調子が出るなら、それでかまわん」


「誰かさんよりわかってんじゃねぇか、俺の扱い、ハッ──ハァアーーーーー!!!」


既に必殺の華拳【パンジーパンチライブラリ】をカイザーレオは勢いにのり青薔薇の女怪人の腹にも容赦なくぶち込んだ。


だが石の怪人のときのようにその青薔薇はまだ土には還らない。

その身に咲いたパンジーと強烈なボディブローによろめきながらも、怪人はまだ生きている。

血まみれの男子生徒は今一度カイザーレオの気を引き締めるように言い、カイザーレオ自身ももう聞き慣れてきた若き先輩のご忠告を耳に了解しながら、ならばとこのチャンスに乗じてすぐさまダメージを与えた女怪人へともう一度仕掛けにいった。


「うぉおおガはっ!?? ──痛って、な、なんだ???」


追撃を仕掛けに前へと威勢よく猛進していたはずが、不意にとんできた青い衝撃波で後ろに吹き飛び転げ落ちた。

視界が空と地を一回転したカイザーレオは泥砂に汚れながらも何が起こったのかとすぐに面を上げて前方を確認した。


青い薔薇が燃え滾る。炎ようにその薔薇頭は燃え滾り、その身に絡みついていた雑草花々を燃やした。



「薔薇が燃えゆらぎ咲くとは……怪人の……暴走? これもDOMEの効果か…?」


「だからそのドームってなんだよ! ただのイカした例えじゃなかったのか!?」


「わからないが……どうやら怪人、奴らも力を得るということらしい」


「あんだけ先輩風吹かしててわからないのかよ…! チッ、怪人役にも土壇場の足掻きがあるなんて聞いて ナッ────!??」


カイザーレオは地が唸るような殺気のリズムに気付く。

すると大波のように押し寄せた────青いイバラの波がこの学校のグラウンド一面を、まさに波のようにうねりながら進みゆく。


『ウフフふふ……フフふ……アハハハハハハはははは!!!!』


女怪人のタガがばらばらに外れたような汚い高笑いと共に、もうそこまで今まで経験した土壇場どころではない未曽有の危機が────


「クッソぉおおお!!! そんなのワッッ先にッッ言えぇえええ!!! グギギギぐぐっっ!!!」


退けない背に……カイザーレオは咄嗟に地面にその左拳を力の限り打ち下ろし、突き刺した。

めり込ませた拳を中心に周囲円形に光り咲いたパンジーが、うねうねと打ち寄せて来たイバラの波の成長を阻害し、なんとかその理不尽な大技を凌ぐことに成功した。


カイザーレオはその背になんとか守る、あの椅子やニンゲンたちでできた廃棄山を。

悪しきイバラに対してその光り咲かせ続けるパンジーゾーンで。

パンジーの放つ光に浄化されずに侵入してきた鞭に打たれつつも、耐え忍ぶ。


既に彼に協力する血まみれの男子生徒が女子生徒のともかもカイザーレオの邪魔にならないように避難させていた。しかしこのままではもたない……男子生徒はその守り闘う彼の背に何か策はないか必死に考える。カイザーレオもまた土壇場になるほどと言わせるような気の利いた言葉を必死に踏ん張りながら要求する。


「待って!!! まってさゆりが!!!」


目を覚ましたともかが、必死に指を差す。

まるで白獣の弱みを見つけたかのように、蔓に巻き付けた眠る女子生徒を高く高くかかげ燃える青薔薇の女怪人は見せびらかす。


『アハハハッハハハはははは。…………10、9、ハチ────』


謎のカウントダウンを読み上げながら、鋭いイバラの切っ先をその女子生徒の喉元に突き付ける。


「あんにゃろ…!!?」


どうにもならない焦燥とジレンマと底知れぬ悪意が急速に場を支配していく。

悪のカウントダウンはとまらない。


「このパンジーと今あるお前の枷は俺が受け持つ。(おもい)は腹の底から、ソコだ! イチバン湧き上がるポイントだ! だからいけっ、カイザー! カイザーレオ!!!」


背を振り返ると、地面に両手をつき光を放ちながら不格好に見上げる男がいる。

カイザーレオはその男の眼差しに頷き、前を向いた。

そしてゆっくりと鞭の嵐に打たれながらも前へと前へと────。



「悪のお約束があれば正義のお約束があるのを知ってるか?」



殺到するイバラの波にもみくちゃにされた白獣は────輝いた。


眩い緑光が打ち寄せる波を砕き、腹の底にセットしたディスクは渦巻きつづけ湧き上がる力をロードする。


「《ディスクセット1》────」


『ナっ!?? ナンナノこのヒカリ!?? ワレのイバラが!??? トッ、トマレぇええそこにナオレェェ!!! サン!! ニィ!!!』


うろたえ再開した悪のカウンダウンは────────遅すぎた。



「Are you ready──?」



青ざめる薔薇を睨み指差した──白獣は駆けた。


駆ける緑の閃光が青いイバラの大波をふたつに裂き、約束された勝利への道を開く。


圧倒的なスピード、圧倒的な輝き、圧倒するそのオーラ。息をのむ間もなく目を奪われた、白獣の走り様がやがて宙を優雅に回転し舞う。


「カイザーパンセもなっ!」

『ナッ!?? 死にぞこないのザッソウがあああ──アぁ!???』


生身のカイザーパンセは花柄ディスクを投げつけ操り、囚われていた女子生徒に向いた悪意の蔓を全て切り咲いた。仲間をここぞしかないタイミングで援護する。


そして枷の無くなったカイザーレオは虚空を蹴り両腕を前にし一気にその秘されていた牙を剥いた。


蹴り上げた虚空はパンジーの花を咲かせ舞い、さらに加速する。

慌て驚き慄き燃え散らす青い青い悪の薔薇の刹那に迎えるその運命(サダメ)は────


「【カァイザァーーーーーーーーーー…ファングッ】!!!!」



敗北()あるのみ。



緑に灯ったタテガミは王者の風格。

熱帯びロードしすぎた獅子の円盤が空に舞い上がる。

眠る子兎をその身に抱えて。


やがて悪の花を貫いたエメラルドの牙そのオーラの塊が、光り輝き大爆発する。


「切り札は先に見せた方が負けんだよ──ハッ」


カイザーレオ、2体の怪人をその秘めし牙と咲く拳、頼れる仲間と打ち破り……。怪人たちの支配が解かれた品浜ミナミ高等学校に、ただよいつづけた暗雲は見事払われ……澄んだ星空が瞬いた。

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