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JKのプロ野球GM奮闘記  作者: 秋山如雪
第1章 女子高生GM誕生
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第2話 父の遺言

 父の書斎兼寝室を、母と共に整理していた時に見つけた、その大学ノート。


 そこには、今年の千葉ユニコーンズの所属選手の名前が記されており、父が率いるチームだから、私も興味を持って、注目し、名前とある程度の経歴、成績を知っている選手もいた。


 そのノートを興味深く、私がずっと見ていると、そこには計算式のような物が書かれてあり、打率や出塁率、防御率や被安打数などが詳細に記されていた。


 そのまましばらく眺めていた時だった。


 不意に母が、呟いた。

「美優。これ、見て」

 母が指で示した物、それは一枚のルーズリーフだった。


 そこに記載されていた文言を見て、私は驚愕する。


―私が死んだら、千葉ユニコーンズのGMを娘、美優に譲る―


 遺言だった。

「なっ。ちょっとママ、何これ? 何の冗談?」

 さすがにあり得ない事態に私は後ずさりして、このことを「なかったこと」にしようと思うほどだった。


 遺言と言っても、燃やしてしまえば、わからない。


「冗談じゃないみたい。あの人、前からあなたを将来、野球の道に進ませたいと考えていたみたい」

 母が示したのは、そのルーズリーフだけではなかった。


 それ以外にも、父が残した数々のノートに、「美優の将来」と書かれた物まであり、


―出来ればGMになって欲しいけど、別に野球の道に進まなくてもいい。ただ、考えて人生を生きて欲しい―


 などと書かれた物があった。


「考えてって、そりゃ考えるけど、何で私がGM? ありえないでしょ」

「そうよね。そもそも高校生にプロ野球球団のGMって、何の冗談って思うけど、どうやらあの人は、本気だったらしいわ」

 母が、その他に私に提示してくれた物、それがそのことを証明していた。


―美優へ―


 と記されたノートがあり、そこに、


―勝つための理論―


 というサブタイトルが書いてあったからだ。


 しかし、それは単に「野球」にこだわっているわけではなく、統計学的にデータを調べて、それを生かせば、どんな物事でも勝てる、という理論だった。


(まったくパパったら、めちゃくちゃな遺言を残してくれる)

 父が好きだったが、初めて「面倒」だと思った瞬間だった。


「さすがにやめるよね? いくら何でも高校生でGMは無理じゃない?」

 母が、心配そうに見つめて来る。


 親子だから顔はもちろん、私に似ているが、ショートボブに身長156センチの私に比べて、ロングで身長も165センチと、母の方が高い。


 母は、娘の私から見ても美人で、愛嬌があり、人気者だったが、私から見ると、あまり「頭は良くない」ように見えていた。


 つまり、もしかしたら、父はそれを見抜いて「私に」一縷の希望をかけていたのかもしれない。


 しかし、それにしても、

(無謀だよなあ。まあ、どうせ世間で反対されるから、面白半分でやってみるか)

 この母がやるよりは、私がやった方が多分、だいぶマシだろう。


 それに、どうせ世間に公表しても、こんな与太話よたばなしは、賛同されないに違いない、という憶測というか、目論見が私にはあった。


 だから、

「いや、やってみるよ」

 と母に告げると、母は驚いて止めてきた。


 私は笑いながら、「大丈夫だよ」と彼女をなだめていた。


 だが、私が翌日、新聞社を呼んで、この遺言書を世間に公表し、GMになることを宣言すると、訪れた新聞社の男たちは、さすがに面食らっていたが、面白いと思ったのか、あっさり記事にしてしまった。


―日本史上初の女性GM誕生―

―JKのGM、爆誕!―

―アニメのような展開―


 ほとんど、面白半分で、からかうような記事が大半だった。


 しかし翌々日の、新聞やネットニュースは大荒れだった。

 当然ながら、否定的な意見が多数を占め、


―ただの人気取り―

―千葉ユニコーンズは、来季の勝負を捨てた―

―どうせ再来年には変わってる―


 という、最初から逆風の意見ばかりだった。


 ちなみに、プロ野球のGMは大抵、野球関係者か元・プロ野球選手が就任することが多いが、「明確に」何歳からという規定はないので、実は男女も年齢も関係がない。


 だが、私の心中だけはもちろん違っていた。

(父の遺志を継いで、私が勝たせてみせる)

 そこには、父が残してくれたデータもあったし、何よりも私は亡父から「考える」ことを教わってきた。


 私には野球の経験自体は、ほとんどないに等しい。小さい頃、父とキャッチボールをした程度だ。


 だが、父が元・野球選手で、生前に直接教えてもらったから、一通りの野球のルールくらいは知っていた。


 まずは、「体制固め」から始めることにする。

 翌日、私は学校に報告し、放課後すぐに、千葉ユニコーンズの球団事務所に行くことになった。


 すべてのスタートがここからだった。

 女子高生GMの奮闘が始まろうとしていた。

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