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JKのプロ野球GM奮闘記  作者: 秋山如雪
第3章 敗北から学ぶもの
18/30

第18話 激怒作戦

 7月下旬。


 交流戦が終わり、再度リーグ戦が始まってから、1か月。ようやくチームは少しずつ前進し始めた。


 5位を脱出し、4位に浮上。それでも首位である福岡パイレーツとのゲーム差は未だに8.0。チームとしての借金も残っており、勝率は5割に届いていなかった。


 そんな状況の中、重要な戦いが福岡西鉄ドームで行われることになる。


 対福岡パイレーツとの3連戦。


 対戦成績は、12戦して4勝8敗と大きく負け越していた。


 私は、GMとして今回も試合を直接は見に行かない。そもそも場所が福岡だったこともあるし、学校もあるからだ。


 そのため、今回も愛華に神戸を同行させた上で、監督に「指示」を与えた。


 チームが福岡に出発する直前の前日。愛華、神戸を従え、その作戦を監督に説明すると、誰よりも驚いて、まるで「この世の終わり」を見るかのような目で私を見つめたのは、他ならぬ、その島津監督だった。


「マジで言ってんのか、それ?」

「マジです」


「おいおい、GMさんよ。どうかしてるぜ。そんな作戦、聞いたこともないし、絶対に打たれて終わりだろ?」

 私が考えた作戦。


 それは、足利優太を登板させること。

 足利優太は、外野手だが、学生時代にピッチャーとして、というよりチームのエースとして、投手をしていた。

 もっとも、プロ入り後に、一度も投手として投げてはいない。


 普通なら、あり得ない作戦だが、これにはもちろん私なりの「意図」があった。

 それを彼に説明する。


「ただし、1イニングだけで構いません。もし、連打されたら、すぐに投手交代して構いません。打たれなかったら、そのイニングだけ投げさせて下さい」

「1イニングどころか、1アウトも取れんぞ」


「それでも構いません」

「何故だ? 何故そこまでする?」


「目的は、『彼女を怒らせる』ことだからです」

「怒らせる?」


 私が説明する。

 相手の福岡パイレーツのGMは、私と同じく、就任して間もない、吉保花梨だが、彼女は福岡パイレーツの圧倒的戦力を従え、ある意味、「余裕で」試合を見ているだろう。


 そこで、まさかの「野手による投手登板」をやり、相手の気持ちを揺さぶる。動揺を誘う。

 そして、これには、それ以外にも重要な作戦があった。


「それに、条件があります」

「条件?」


「はい。明日の先発は、エースの高坂投手でしたね。高坂投手がクオリティスタートで6回まで3失点以内に抑えた場合のみ、8回か9回に足利選手を登板させて下さい。点差は何点でも構いません」

 もちろん、この作戦自体が、私が愛華と協議して決めたものだ。


 彼女は、福岡の前GM吉保大吾の元で秘書をしていた経験から、その娘の花梨の性格も熟知していた。

 つまり、

―怒りっぽい―

 性格だと知っていたのだ。


 「怒り」という感情は、人間の「冷静さ」を失わせる。

 まともに戦って、勝てないのなら、せめて「奇策」で相手を翻弄する。

 それが弱小チームの戦い方だ。


 島津監督は、ものすごく不服そうな表情だったが、一応は頷いてくれるのだった。


 対福岡パイレーツ3連戦が始まった。下馬評では、もちろん福岡が圧倒的に有利。

 ネットでの応援コメント欄も、福岡の方が圧倒的に多かった。


 野球に限らず、チームスポーツでは「強いチーム」が人気が出る。


 しかし、ネットから自動更新のテキスト結果を画面に出しながら、宿題をやっていた私の目に、予想外の事実が飛び込んできた。


(6回まで無失点。3塁さえ踏ませないピッチング)

 エースの高坂太一投手が、クオリティスタートどころか、完封ペースで大活躍していた。


 高坂投手には、かつて「速球ではなく、軟投派」になるように投手コーチの山県が言っていたが、私もそれには賛同するものの、彼の多彩な変化球には注目していた。


 そのため、高坂投手には、投手コーチを通じて、事前に一言だけアドバイスを与えた。


「速球に頼ってもいいですが、出来れば緩急を生かしたピッチングで、相手を翻弄して下さい」

 と。


 結果、その日の最速は152キロを計測していた高坂は、ストレート以外に、スライダー、フォーク、チェンジアップを多用。

 特に、「決め球」としてのフォークの切れがいつも以上に素晴らしく、強力打線の福岡から奪三振の山を築いていた。


 当然、普通なら完投させて、完封を狙わせるところだろう。


 しかし、8回裏。

 ネットニュースのコメント欄が「大荒れ」の展開となる。


―マジで! 足利登板!―

―あいつ、外野手だろ。何、考えてんだ、島津監督?―

―福岡相手に狂ったか。高坂の完封もったいねえ―


 それもそのはず。ある意味、これは「無謀な賭け」だったからだ。普通ならまずやらない「博打」に近い作戦だ。


 チームは、この時までに、その足利選手の四球と足を生かした盗塁、大道寺選手の四球、そして谷村選手のタイムリーで1対0とリードしていた。


 一方、この日の福岡パイレーツの先発は、同じくエースの山名やまなしょうという投手で、去年15勝も上げていた選手だ。

 カットボールやツーシーム系の「芯を外す」投球をする投手で、互いにエース同士の投手戦になっていた。


 つまり、かなりの僅差だ。玄人の野球観戦的には、一番面白い「投手戦」だが、監督としては一番緊張する展開と言える。


 テレビの地上波では、太平洋リーグの試合はまずやらないし、ネットでも有料サイトでしか、プロ野球の試合中継はやっていない。

 そして、私はジンクスを恐れて、その有料サイトにも入っていなかった。

 つまり、テキストでしか試合展開を追えない。


 足利選手が、マウンドに上がったのは8回裏。相手はちょうど、下位打線の7番からの打順だった。

 恐らく、島津監督としては、ここが一番いい「頃合い」だったのだろう。これが上位打線に当たると、リスクが大きすぎるからだ。


 何しろ福岡パイレーツには、天才アベレージヒッターと呼ばれる、大友正樹選手や、去年の盗塁王でもある、俊足の1番バッター、殿村とのむら一郎太選手、そしてクリーンナップには去年45本塁打も打っている、サンタナ・ガーフィールド選手という強力打線がある。


 しかも、驚くべきことに、その足利選手が、一人目のバッターをピッチャーゴロに討ち取っていた。


―すげえ、足利―

―140キロ以上出てないか―

 ネットのコメント欄に、多数のコメントが出ていた。


 直接見てはいないが、足利選手は、私の予想外の投球を見せていたらしく、ストレート以外に緩いカーブ、チェンジアップを使っていた。


 そして、私の作戦通り、相手のGMである、吉保花梨がこの「ピッチャーではない足利登板」に激怒。

 あろうことか、その日は調子が良かった8番バッターに、代打を出して、ベテランの「代打の切り札」を投入。


 ところが、そのベテラン選手をも、足利はサードフライに打ち取ってしまう。

 とうとう、3人目の9番バッターをも空振り三振にして、1イニングを無失点で乗り切ってしまう。


 これには、私ももちろん、ネット民たちが過剰なまでに反応した。


―恐るべし、足利―

―ピッチャーやった方がいいんじゃねえの―

―福岡、メンツ丸つぶれ―


 もちろん、私は足利優太選手の経歴を知っていたし、投手コーチに事前に根回しをして、この日、登板させることを告げていた。

 さらに、完璧な対策として、愛華に資料を出させ、福岡の1軍野手すべてのデータを送っていたのだ。


 その上で、相手の弱点を突く、苦手コースだけに投げさせるようにしたのだ。

 もちろん、すべてが完璧なコースに投げられるほど、彼はコントロールが良くはないが、作戦としては成功した。


 さらに、この時までに足利選手は、1番バッターとして機能しており、盗塁を15個もマークして、太平洋リーグの盗塁王に成長していた。


 こうして、強豪の福岡パイレーツに、初戦から1-0の僅差で勝利。高坂投手が勝利投手になり、足利選手は野手登録されているのに、まさかの1ホールド。セーブは真田投手が無難に持っていった。


 この勢いが、翌日以降も影響して、苦手としていた、福岡パイレーツにこの3連戦で2勝1敗と勝ち越し。


 状況は、前半戦の山場、オールスターゲームへと続いていく。

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