第13話 サプライズJK
オープン戦が始まった。
しかし、これが私の予想以上に、「機能していなかった」。
スタメンを固定し、島津監督に提出し、後は任せていたが、打てない。チーム打率が2割台前半そこそこ。
一方で、打たれる。チーム防御率が5点台という惨状だった。
いくら調整を兼ねた、オープン戦とはいえ、酷かった。
(全然勝てない。これはチームとして機能してない)
しかし、それが一番の原因だと私は分析していた。
そのため、島津監督を呼んで、
「出来るだけ四球を狙って、出塁させて下さい」
と、お願いするも、彼は渋々頷くも、いい顔をしなかった。
そんなこんなで、不穏な空気がチーム内に漂う中、私のスマホに、ある一通のLIME(メールアプリ)が届いたことがきっかけだった。
―美優ちゃん、久しぶり―
から始まるメッセージに、私はその名前を聞いて、驚いていた。
―吉保花梨―
その名前は、私の人生の中で、非常に「懐かしい」物として記憶されていた。
小学生の頃。クラスメートに彼女がいて、仲良くなった。つまり「親友」だ。そして、その彼女が7年前の小学4年生の頃、福岡に「引っ越した」。性格は元気だが、負けず嫌いな一面があった。
そして、すぐに私は思い当たった。
福岡パイレーツのGMの名前が吉保大吾だったことに。
―もしかして、吉保大吾って―
―そう。私のお父さん―
(やっぱりか)
どこかで聞いた名前だと思ったが、私の記憶が正しければ、7年前に引退するまで、吉保大吾選手というのが、千葉ユニコーンズにいた。
つまり、父のチームメートだったのが彼だ。
そして、元々、福岡パイレーツに長らく所属し、自宅もそこにあった彼は、千葉への赴任の期間を終えて、福岡に帰り、娘の花梨もそれに伴って引っ越したのだ。
そんな懐かしい彼女だったから、旧交を暖めるような、懐かしい話になることを私は期待していた。
しかし、彼女の送ったLIMEメッセージからは、驚愕すべき事実だけが届いてきた。
―あ、私、4月からお父さんの跡を継いで、福岡パイレーツのGMになるから、よろしくね―
(えっ。マジで!)
驚くべき情報だった。
私の場合は、父が亡くなり、その遺言としてGMになったが、彼女の場合、父はまだ生きていて、壮健だ。
なのに、引退して娘に譲る、しかもまだ高校生の娘にだ。
(どうかしてるだろ)
と、私は思うし、世間的にもあり得ない事態と言える。
しかし、
―本当なの?―
恐る恐る尋ねてみると、
―マジマジ。明日のネットニュース見てね。あと、私は絶対に美優ちゃんには負けないから―
そう言い残して、一方的にメッセージは打ち切られていた。
―どういうこと?―
と、私が返しても、返信はなかった。
翌日のネットニュースは、彼女の話題で持ち切りだった。
可愛らしく、といよりあざとくピースのポーズを取った、ツインテール姿の彼女の笑顔の写真が移り、
―千葉に続いて、福岡にも女子高生GM誕生!―
―女子高生GMブームか?―
―強力球団にJKのGM爆誕―
という文言がネットニュースを駆け巡っていた。
世間は、いい加減な物で、ほとんど面白半分で、記事にして騒いでいた、が正しいが。
その証拠に、ネット記事では、否定的なコメントも多数見られ、早い話が、「炎上」していた。
―福岡は今季の勝負を捨てた―
―女子高生がGMになれるなんておかしい―
―いくら優勝候補チームとはいえ、傲慢すぎる―
―プロ野球、ナメてるのか―
などなど、ネット上では大荒れだったのだ。
しかし、私は事実を冷静に分析していた。
私と彼女は、同じGMという立場であっても、そこには決定的な違いがある。
それは、
(福岡には潤沢な金がある)
ということだ。
すでに5年連続で、Aクラス入りし、常勝球団となっている福岡パイレーツの、ここ5年の成績は。
日本一1回、リーグ優勝2回。
という輝かしい物で、プロ野球球団は勝てば勝つだけ、客が入り、収益が伸びる。
今や、太平洋リーグだけでなく、中央リーグ所属の球団も加え、12球団の中で最も「金銭的余裕がある」と言われる金満球団に成長しているのが、この福岡パイレーツだ。
金がある=FAやトレード、ドラフトで多数の有力選手を獲得できる、ことになる。
その強大な資金力を使って、前GMの吉保大吾は、他のチームの主力選手を片っ端から引き抜いてきて、チームを強化。
常勝軍団を作り上げた。
つまり、花梨の場合は「父が築いた財産」を娘である彼女が引き継いだに過ぎない。酷い言い方をすれば、娘の花梨は、ほとんど「お飾りGM」であっても、チームは勝手に勝ってくれる可能性が高い。
だが、私は密かに思っていた。
(そんなことまでして勝って面白いの?)
と。
野球は、究極的にはチームスポーツだ、というのが私の見解だ。
確かに個人の力が重要でもあるが、結局のところ、チームスポーツなので、早い話が「4番バッターばかり集めても」勝てないのだ。
それぞれの長所を生かし、短所を補い、チームとして、最もバランスがいいチームが一番勝つ、というのが私の考え方だった。これは、生前、父が言っていたことでもあるが。
仮に他チームから4番バッターのような長距離砲ばかり集めても、結局はポジションがかぶったりして、実力を出せなかったり、打線としてバランスが取れないし、何よりも、チームとして「若手が成長しにくい」という傾向になる。
何しろ、せっかく育った自前の選手も、ある程度になればトレードで他チームに放出してしまうのだから。
過去の野球の長い歴史、データを見る限り、若手とベテラン、長打と巧打のバランスがいいチームが「強いチーム」として優勝している。
もちろん、投手陣にもバランスが重要になる。
その意味では、今の千葉ユニコーンズは、確かに弱いが、若手とベテランのバランスが取れている、と私は見ていた。
あとは、個々の実力を引き出してやればいい。
私は、密かに決意した。
(福岡には負けられない)
と。
静かな闘志を燃やしながら、いよいよシーズンが開幕する。
プロ野球の長きに渡る、143試合のペナントレースのスタートだ。




