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青い疾風(ブルーゲイル)!  作者: 島村翔
第4章 深淵の魔風
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第4章 8 異形獣の檻

 アラミスが護衛隊本部基地の深層部にまで潜入し、持ち帰った情報を元に彼らは早速アバロンのアジトで簡単な計画をたてていた。

 ヒースの言葉に突き動かされるまでもなく、四人は明日にはここを発ち、夜間にオルレオン王都へ行って護衛隊が秘密裏に建設していた施設へ潜入することになった。


 段取りはこうだ――。


 四人はクロードから入手した潜入ルートを基に、護衛隊駐屯舎敷地内から外れた施設に行き、二手に別れて探りを入れる。

 ヒースはジェシカと二人で「檻」とその近くの怪しい〝石造りの小屋″を、アラミスはルエンドと一緒に研究室内部を探る。ミツヤを発見しても奪還(だっかん)不可能と判断したら一旦引いて出直す。


「いいか、ヒース。お前は毎度ミッチーのプランBを無視すると聞いている。てことで今回はシンプルプラン一本だ。何かあれば臨機応変の各自の対応に任せるが、緊急事態は最悪思い切って()()()こと。前みたいに無理して強引に突っ込むんじゃねぇぞ」

 アラミスがヒースに釘を刺した。


「ちぇっ。えっらそーに」

「ヒース……?」

 ジェシカは横目でちらっと(にら)み、今はいないミツヤの代わりにヒースを(たしな)めた。

「すいやせん。了解っす」


 ◇ ◇ ◇


 そして翌日――。

 クロードから「裏口から入る潜入のコツ」を(あらかじ)め聞いていたヒース達は、夜遅い時間であったことも手伝って、意外にも早く護衛隊の敷地内に潜入できた。


 月に(かすみ)がかかり、控えめにしか照らしてはくれない夜だ。周囲は松明やランタンがなければ何も見えない。

 しかもこの日は護衛隊に、非番の隊員が比較的多かった。

 

「なんか、これでいいのか? ってくらい簡単だったな。いやー、前にミツヤと初めてここに潜入した時は大変だったぜ」


「へー。どっから入ったの?」

「あそこの正面の門から」

 ヒースが正門の方角を指さした。

「バカなの!?」

 ジェシカが声を張ってしまった。


「しーっ! だってあん時はクロード、門の入り方までは教えてくれなかったからな」

「あんたもミッチーもほんとバカ。よく今まで生きて来られたわね」


 ヒースとジェシカは護衛隊の駐屯舎を遠く後ろに見ながら、どんどん奥に侵入して行った。

 問題の檻と施設はオルレオンの宮殿外にある。

 そのエリアを隠すように、トージは壁を増築し、施設ごとぐるっと囲って城壁を拡張していた。その為、ひょうたんのような(いびつ)な城壁になっていたのだ。


 暫くすると、暗がりの中から何やら異形獣(まもの)のうめき声が聞こえてくる。

「ヒース……。聞いた今の?」

 灯りで気付かれてはいけない、ジェシカは敷地内に入ってからランタンの火を消している。

「ああ、アラミスの話だとこの辺りに檻がいつくもあるって言ってた」


 暗がりに異形獣(まもの)の声がするのだ。独特の嫌な臭いも(ただよ)ってきた。

 異形獣(まもの)は檻の中だと分かっていても、恐怖が襲う。


 ジェシカがヒースの左肘の袖を(つま)んでいたのでヒースは少しならと、人差し指を立ててその先にドナムで小さな火を灯す。

 その途端、目の前に異形獣(まもの)の鼻先が見えた!


「キャ……ッ」


 ジェシカの悲鳴を抑えようとヒースは彼女の口もとを手で(ふさ)いだ。

「ジェシー、よく見ろよ。あいつら鋼柵の中だぜ」

 ヒースは口に当てた手を離す。

「ビ、ビックリした、終わったと思ったわ」

「俺も」

(お前の叫び声で)

 

 すぐそばに人間がいるせいで、異形獣(まもの)達が騒ぎ始めたようだ。

 誰か気付いてこっちに来るかもしれない、あまり時間はないがまだ何の手がかりも(つか)めていない。

「ジェシカ、少し離れよう。全貌もよく分からないし」

 ヒースとジェシカはそうっと周囲を周ってみた。

 

「何だか大雑把(おおざっぱ)とはいえ異形獣(まもの)が種類別に分類されてそれぞれ別の檻に入れられてんな」

「五、六、七……。七つも檻が。気味悪過ぎ、何の為にこんなことしてんの?」

 一つの柵もおよそ15メートル四方毎に囲いが作られているようだ。


「ちょっとヒース。こっちの檻の異形獣(まもの)、首になんか輪っかついてる」

 ジェシカが隣の檻のタイプ1の異形獣(まもの)の首を指さした。

「あの鈍い光り方、銀よ」

「え、こいつらにそんな高価なアクセつけてんのか?」

「何言ってんの、アクセサリーなわけないでしょ。多分行動を抑制してんだと思う。前にも店で自警団の話聞いたでしょ? 異形獣(まもの)討伐に銀メッキの剣を使ったら片付くの若干(じゃっかん)早かったって」

 

 檻の前をゆっくり歩きながら、二人は別の檻の前で立ち止まった。

「ん? ……あいつなんか喰ってんのか?」

 クチャクチャという音が聞こえる。生臭い。

 指先に点けた火を(かざ)してよく見ると檻の一つに、何かを食べている異形獣(まもの)がいた。

 目を疑った。人間の下半身だ……!

 

「見るな!」


 ヒースは即座にジェシカの頭を胸に抱え、視界を(ふさ)いだ。

「ど、どうしたの?」

 ヒースの行動の意味が分からず一瞬ドキドキしたジェシカの顔が火照(ほて)る。

「まさかあいつら……に、人間を餌にしてんのか!?」

 ヒースは、両親を目の前で異形獣(まもの)に襲われたジェシカに、この場を見せないよう柵とジェシカの間に立っている。

「え? ウソでしょう……!?」

 そしてヒースはその檻の中で、更に恐ろしいものを見てしまう。

「ちょ、ちょっと待てよ……あれは……」

 

 ヒースはジェシカを一旦、檻から離れた場所で待機させると再び一人、檻まで走り寄った。

 地面に落ちている物が気になったようだ。


 服に引火しないようコートの袖口を(まく)って、手の平全体に火をつけ照らす。

(や、やっぱりそうだ、この制服……!)


 人間の足が転がっている異形獣(まもの)(そば)で、ヒースが見たものは、なんと敗れて血に染まった護衛隊の制服だったのだ……!


(まだ新しい……? それにこの散乱の量から見ても事故じゃねぇな……考えたくもないが、あいつら仲間まで餌にしてやがんのか……!?)


 更に、ジェシカの方もヒースの小さな炎で檻の中に奇妙な異形獣(まもの)がいることに気付き、離れた場所からヒースに手で合図を送る。


「ヒースあそこ……ほら、異形獣(まもの)が……半分人間に見えない?」


 その檻内では、下半身は獣のような毛で覆われ手足には鋭い爪が生えた、だが肩から上は人間の異形獣(まもの)が横たわっていた。


 驚いたヒースが凝視していると、あろうことか、徐々に肩から下半身の方へと人間の体に変わりつつあったのだ。

 

「ちょ、ちょっと待てよ……。お、おい」

「ヒース、あれってどんどん人間になってない……?」

「どうなってんだ! いや、その前にあいつどっかで見た事が……」


 火で照らし出されたその顔は、ハンスだった。

 以前、ミツヤと二人でビアンヌの街へ買い出しに行く途中、襲ってきた二人組のイントルーダーの一人で元、化学薬品の開発をしていたドイツ人だ。

 全身に樹脂の(まく)を作り、息の続く限りは完全防御できるドナムを持った男だったと、ヒースは思い出していた。


「ハンス! そうだろ!? 今助ける、ちょっと待ってろ!」


 ヒースは発見されるリスクを承知の上で炎斬刀(えんざんとう)に炎を(まと)わせ、侵入できる最小限の穴を開ける為、檻の一部を溶かして切り取ると(みずか)ら中へ入った。

 あまり騒ぎたてることなく迅速に助け出す必要がある。

 ジェシカが不安そうな目で見守る中、なんとか異形獣(まもの)が寄ってくる寸前でハンスを檻から引きずり出した。

 

「ハンス! 眼鏡がないから直ぐには気付かなかった、ごめんな」

 ヒースは全裸のハンスに、自分が着ていたコートを脱いでハンスの体を包み、起こした。


「気付いたか? 俺だよ、覚えてるか? あんたに以前襲われて刀折られた」

「……お、覚えてる、よ……」

「何があったんだよ、さっき半分異形獣(まもの)の格好してなかったか?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一方、研究室らしき一階建ての長い建物に侵入しているのはアラミスとルエンドだ。

 アラミスの、カチリと撃鉄(げきてつ)を起こす音でルエンドが振り向く。


「アラミス、なにそれ?」

「オヤジ特製の回転式ハンドガンだ。見た事ないよね。今日みたいな潜入捜査はこっちの方が機動力あるんだ」


 蝋燭(ろうそく)のブラケットが数メートル置きに設置されているだけの暗い廊下を進んで行くと、いくつかあるドアのうち、一つだけ数センチ開いて灯りが漏れている部屋を見つけた。


 二人がドア越しに恐る恐る中を(のぞ)くと、一人の青年が簡易ベッドに横たわった負傷者を治療しているようだ。

 負傷者は異形獣(まもの)に襲われたのか、片脚がおかしな方向に折れ曲がり、膝から白い突起のように骨が突出している。


(痛えなんてもんじゃねーな、あれは)

 アラミスは思わず視線を外した。

(見ていられないわ)

 ルエンドも顔をくしゃくしゃにして(そむ)けた。


 だが青年は無言かつ冷静に、手を男の脚に(かざ)し始める。

 すると徐々に失った足が元通りになっていく――

 アラミスとルエンドは思わず声を出してしまった。

「え!?」

 青年が声に気づいて戸口へ振り向く。

「誰だ!」


 その怪しい青年が手を動かしたので攻撃を受けると感じたアラミスは、躊躇(ちゅうちょ)なく青年の肩めがけ引き金を引いた。

「アラミス、ここで発砲したら仲間が飛んでくるわよ!?」

 しかし、アラミスはルエンドの言葉が頭に入って来ない。

 弾は青年の肩を貫通したが、傷口が瞬時に消えていったのだ……!


「一体どういうことだ……」

 アラミスは青年の肩を凝視(ぎょうし)して(しばら)く動けなかった。


「ルエンドちゃん、一旦ここは引こう!」

「待て……!」

 青年が追ってくる。

 しかしその表情には敵意は見て取れなかった。背を向けていた二人には気付きようもなかったのだが。

 

 アラミスとルエンドは廊下を元来た入口方向に向かって走り出していた。

 だが青年はすぐに追いついてしまう。

 ルエンドの左肩に青年の右手がかかった瞬間、彼女は肘鉄(ひじてつ)をお見舞いしてそのまま体をくるりと回転させると、ナイフで青年の腕捲(うでまく)りした右肘を切り裂いた。


「ルエンドちゃん、下がって!」

 アラミスがルエンドの前へ、(かば)うように左腕を伸ばしハンドガンを向けた時だ。

 青年は切られた腕を押さえもせず、突っ立ってこちらを見ている。

 切り口から流れる血は、腕を伝って指先から床にポタリと落ちた。


「第三隊のルエンドさんですね」


 青年の右肘の傷からは出血するもすぐ止まり、あろうことか傷が(ふさ)がっていくのだ。


「おまえ、まさか不死身なのか……!?」

ミツヤを助ける為、護衛隊本部敷地内に潜入したヒース達。そこで彼らが見たものは・・・。

このあと、いよいよ異形獣の謎が明らかになっていきます!

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