第4章 7 ミツヤ救出のカギ
その頃、ヒースは護衛隊の第三隊隊長、クロードから剣の特訓を受けている真っ最中だった。
「ヒース君、筋はとてもいいんです。ただ何て言うか、チョーさんをそっくり真似ているように見えます。君は君の動きをしていい」
ルエンドの伝手で、クロードはヒースたっての希望を聞き入れてアジトのあるアバロンの廃墟の街まで馬で来てくれたのだ。
私用の為、制服でなく私服のアロハシャツと短パンで来ている。
足元はやはりビーチサンダルだった。
「うん、もちろん総隊長含めて他の隊員にはくれぐれもナイショってことでお願いしたのよ。このアジトの事も秘密の特訓の事もね」
「ていうかさ、護衛隊にもホント、良い人いるよね!」
ジェシカに護衛隊にも味方がいると分かってもらったことが嬉しかったのか、ルエンドはジェシカの肩をバンバン叩いた。
「でしょー!?」
ルエンドは、噴水跡地の瓦礫の上に座り、ヒースの特訓を邪魔しないよう見守っていた。
噴水はアジトとなっている洋館の前にあった。当時、人々の憩いの場となっていたであろうそこには、異形獣が荒らしたことで今はもう水は通っておらず、中心にある馬の像と周囲の囲いが辛うじて形を残していた。
ジェシカは隣でクロスボウの手入れをしながら、クロードの動きを興味深そうに見ていた。
「しかも言いたくないけど護衛隊には、ヒースを斬った何とかっていう隊長も然り、このクロード隊長にしても、結構強い人いるんだね!」
ジェシカが護衛隊に触れる度、ルエンドはかつての素晴らしかった隊員の話をする。
「そうでしょ。国民からは護衛隊は地に落ちたとか言われてるけどね。でも隊員のみんなが言うのよ、15年以上前はもっと強かったんだって」
それを聞いたジェシカは「自分が生まれる前のことを言われてもピンとこない」 と、苦笑いを見せた。
「重心移動はもっと早く!」
クロードは遠慮なくヒースに剣でかかってくる。
「ヒース君、怪我が堪えているなら終わりにします。それでもまだやると言うのであれば、いっそ私を殺すつもりでかかって来なさい!」
「え……?」
「フフッ、安心しなさい。私は君如きには、かすり傷ひとつ付けられるつもりはありませんよ」
「何だと……」
その後、何度も剣と刀がお互いの前で交差し、ぶつかり合っていた。
「くっそぉ。バカみてぇにすげぇ力と速さだ……!」
ガグンという音と共に二つの剣がヒースの顔の前でクロスすると、剣のぶつかる勢いで周囲の瓦礫が吹き飛んだ。
しかしクロードの力で刀が押し返される。
ヒースは息が上がっていた。ジャックに刺された傷も完治はしていない。包帯の上に血が滲んでくる。
それでもクロードはヒースの具合をみながら黙ってギリギリまで付き合った。
「よし、ヒース君。初めよりは随分と打突距離も伸びましたね。どうかな、無駄な体力は使わなくなって来ていませんか?」
クロードは一旦剣を腰に収める。
それを見てしまったヒースは両手を膝に置いて下を向き、荒い息と一緒に強気な言葉を吐き出した。
「いや、まだできる!」
(無駄な体力使わないだって? 分かんね。そうかもしれんが、今はきっついぜ)
「ヒース君。今日はもう約束の二日目で、陽も傾いて来ました。そこで私から提案です」
そういうと、クロードはヒースを近くの瓦礫に座らせ、自分も隣に座った。
「どうでしょう、続きはミツヤ君を取り戻して、また落ち着いてからでも出来ます。君もまだ全開とはいきません。それに、ジャックが強いのは剣技というより、むしろあの妙なドナムでしょうね」
ヒースはあの夜のジャック隊長との戦闘を思い出し、また背筋を凍らせる。
クロードはヒースが潰れる前に、と剣の特訓を一旦終了して能力の開発を提案してみた。
「俺の炎のドナムか? ……ですか?」
「君は幸運にも、イントルーダーの炎という素晴らしいドナムも備わっているそうですね。以前会った時には見られませんでしたが」
クロードはイントルーダーが関わってきた頃の護衛隊の話を始めた。
彼は護衛隊の中でもイントルーダーという新しい勢力に対して、好意的に受け入れる隊員だった。
そのチカラを幸運と捉え、生かすべきだと常に考えていたのだ。
「私達護衛隊は、チョーさんがいた頃はね、まだイントルーダーはこの国にそれ程多くはいませんでした。猊下の伝統を重んじるやり方に不満を持つ者も居なかったし、隊員の中にイントルーダーが入隊してくるなんて考えたこともなかったのです。無論、彼らに負ける気はありませんが」
「そうなのか、なんで今イントル隊員がいるんだ?」
「トージ総隊長です。彼が入隊してから、どんな手を使ったかは不明ですが、隊長、総隊長と昇進するまでそう長くはありませんでした。まぁ、猊下のお気に入りですからね。彼が総隊長になってから、良くも悪くもドナム系イントルーダーを集めて各隊に最低一人は据えたんです。確かにイントルーダーの能力は目を見張るものがありますからね」
「え、じゃぁ、クロード隊長の第三隊にも誰かイントルが?」
「私達の隊は必要ない、とトージ総隊長に申し出て遠慮させてもらっているんです。避けているわけではないですよ。ただ今のところ現状メンバーで満足でね」
そう言って遠くの空を見つめるクロードの目に、ヒースはどこか、暖かいものを感じていた。
「まぁ、剣の特訓の代わりに能力を使うとしてもです。今は体力を消耗して明日の作戦に支障が出てもいけないでしょう。残りの時間を明日の計画の為に使うというのはどうですか? 例えば個で戦わずとも、君のドナムと皆の弓や銃と連携する方法もあるのでは?」
「……って言っても――」
(このチーム内でドナムの相談や計画立てるのっていつもミッチーだったな。ミッチーとの連携ならこの間アラミスに聞いたんだけどな……)
ヒースは今まで一人で戦うことしか考えてこなかった。そこへ、アラミスがミツヤとの連携アイデアを持ち掛けたところ、机上では上手くいくことまで確認していた。
(アイツどうしてるだろう……無事だといいが……腹減ってないかな)
ちょうどその時、アラミスが護衛隊本拠地の最深部へ乗り込み、調査から血相を変えて戻って来た。
「おい、皆聞いてくれ! 異形獣が入った『檻』がいくつもあったぞ、ヤバい予感がするぜ」
アラミスは、以前から気になっていたオルレオン王都の護衛隊本拠地から少し離れたエリアにある、何かの研究施設らしき場所まで足を運んでいた。
ミツヤがどこに連れ去られたかは不明だが、何かの手がかりになればと、あちこち足を延ばしていた矢先に発見したのだった。
慌てていたアラミスがクロードに気付く。
「えっと、こちらが?」
アラミスがルエンドの顔をチラっと見て確認した。
「初めまして。護衛隊第三隊隊長、クロードと申します」
「アラミスだ。よろしく」
二人は握手した。
「あら、アラミスったら、珍しいのね。護衛隊員に自分から握手の手を出すなんて」
と、ルエンドの指摘に対しアラミスは、クロードに向かって不敵な面構えで意思表示をした。
「あんたの前で言うのも何だが、まだ護衛隊を容認したわけではないよ。だがあのオレンジ頭のヘボ剣士がドジ踏んだ挙句、だらしねぇ面晒してるんじゃぁな、鬼畜隊とでも手を組むさ」
アラミスは入隊試験で出会った頃と比べると、徐々にヒースに対して見方が変わってきていた。
ことさらスーツケースの一件以来、意識が変わっていたのだった。
ヒースは隣で腕組みし、アラミスを睨んだ。
「ヘボ剣士だと? そこだけ余計じゃねぇか、やっぱりなんか腹立つな!」
護衛隊を鬼畜隊呼ばわりする程毛嫌いしているアラミスの、そんな荒っぽい言葉を投げかけられたにも拘わらず、クロードはちょっと驚いた顔をした後、吹き出した。
「鬼畜隊……。プッ……! 随分な言われ方ですが仕方ありませんね。今の護衛隊は確かに誇れません。しかし……君ですね? あの護衛隊の入隊試験で狙撃してきたっていうのは」
アラミスは視線を外し、すっとぼけた顔を取り繕っている。
「しかも、ひと月程前の我々との異形獣討伐合同作戦の終わりに討伐数について正確無比の結果を指摘したと聞きました」
アラミスは肩をすくめて目を泳がせた。
(俺は別段悪いことはしてないが)
「その後ヒース君とミツヤ君が大暴れしてテントは壊滅、トージ総隊長は部下に任せて自分だけさっさと逃げたそうじゃないですか。ケッサクでしたよ! いやぁ、君達は本当に無茶苦茶で面白いチームです。うちのルエンドが移籍したくなる訳ですね」
そんな風に言われ、複雑な表情をしていたアラミスだったが、クロードの人柄が伝わるのも時間の問題だった。
二人はいつの間にか打ち解けていた。
◇ ◇ ◇
夕暮れになり、クロードが馬でアバロンを去った後、アジト内で四人は男子部屋に集まりアラミスが持ち帰った妙な施設も含めて作戦会議となった。
異形獣の「檻」については、クロードが去り際に僅かばかりだが情報をくれた。
「アラミス、ところでその『檻』ってなんだよ。さっきクロードと話してただろ」
ヒースは焦りを隠すつもりもなく、すぐにアラミスに気になる点を尋ねた。
いつもの男子部屋でテーブルを囲み、全員真剣な面持ちだ。
「ああ。それを話す前に少し俺の話を聞いてくれ。実は両親がいない俺を拾ってくれたオヤジが護衛隊お抱えの銃工房をやってたんだ。それがトージが隊長になってから妙な銃ばかり作らされていた」
いつになく真面目な表情で語るアラミスの言葉に、ヒースも珍しく真剣に耳を傾けていた。
「そういやお前ん家、武器職人だったな。妙な銃って何だ?」
「完成はしなかったが、見た目も威力も想像以上にでかい、自動連射できる設置型の銃のようだったぞ。ガトリン……なんとかって。オヤジは無差別に殺りくするその兵器の製作に加担したくないと拒否したことで反逆者扱いになったと聞いてはいる。三年前、俺を連れて国外に脱出しようとしたら見つかってね。銃工房は潰され、オヤジは口封じで殺されたんだ」
「あいつマジでクソ野郎だな」
ヒースの罵倒に全員が無言で同意していた。
「だが、どうもおかしい。オヤジが殺されたのは兵器の開発拒否が理由ではない気がするんだよ。気になってた俺は何度も護衛隊の駐屯舎に侵入してはトージや護衛隊をどうやったら追い詰められるか、ずっと探してきた」
アラミスはグラスの水を飲み干し、続けた。
「ま、ここ最近そんな暇もなかったが、今日久し振りに護衛隊の本拠地に侵入してミッチーのいた形跡がないか調べていたんだ」
「よ、よく今まで見つからなかったわね」
ルエンドですら、護衛隊本拠地内に足を踏み入れることが許されていないエリアがある。
そんな場所に何度も発見されることなく足を踏み入れていたアラミスに呆れたのだ。ジェシカに至っては、《変態》モードのアラミスしか見て来ていない為、潜入能力に意外な面を見たようで、口を尖らせて聞いていた。
(これはヒースやミッチーには、まずムリね)
アラミスは驚くルエンドを見てニコリとし、さも当然といった顔をして話を続ける。
「それで本拠地は空振りだったようなんで、敷地内の外れにある例の施設の周囲を嗅ぎまわってたんだ。そしたら石で出来た建造物にトージが出入りしたのを見たんだよ! そこにミッチーがいる可能性はないか?」
ヒースは鼓動が早くなるのを感じていた。確実に手がかりに近付いているようなアラミスの口振りに、黙って耳を傾けている。
「それに偶然発見したあの異形獣が入った『檻』は異様だった。結構な数で大小様々な異形獣が生きて捕獲されてたぜ? 大体、何のために捕獲しておく?」
「まだ分からないけど、怖いわね」
ルエンドは何かを想像して鳥肌が立ったようだ、両腕を摩っている。
机上で話しをするより一刻も早く行動に出たいヒースは、アラミスの話を聞き終えると、おもむろに椅子から立ち上がった。
「百聞はなんとやらだ。そこからはもう、行ってから自分の目で確かめようぜ!」




