序章 月下の檻
「ご命令どおり目隠しで連れてきましたが、次はどうしますか?」
紺色の制服を着た一人の男が、頭部に麻袋をかぶせた男を無理やり引きずり、ロープで縛り上げたまま連れてきた。
「わしをどうするつもりだ! 頼む、放してくれ!」
袋の中で男が恐怖に震え、声を絞り出した。
周囲は月の淡い光とランタンの揺らめく灯りに包まれ、何かが蠢いているのがかすかに見える程度だったが、袋を被った男にも辺りに漂う鼻を突く生臭い匂いで、近くに何がいるか予想がついたようだ。
「そこの檻に入れてくれ」
「ええ!? し、しかしここは……!」
制服の男は躊躇しながらも、命令に従って袋を被った男を檻に押し込んだ。
「止めてくれ! 頼む、出してくれ!」
助けを求める男を直視できず、やむ無く鍵をかけようとした制服の男の手からスルッと鍵が奪われた。
「おいおい、お前もだよ」
制服の男も強引に檻の中へと追い立てられたのだ。
「ど、どういう事ですか! 待ってください! こ、ここから出してくれ――――っ!」
檻の鉄格子をガチャガチャと激しく揺らす音と共に、背後から突如悲鳴が響き渡った。
「うっ! 喰われている……!」
クチャクチャと肉を噛み砕く不気味な音が闇に響く。
薄闇の中、獣のような何かが、袋を被った男の身体に食らいついていた。
「どういう事だ! ずっと人間を餌にしていたのか!?」
「まあ、色々と事情があるんだ。誰にも知られては困る事情がな。悪いが、お前にも証拠隠滅として消えてもらう。ああ、君の引継ぎは心配無用だよ」
男は冷たく言い放ちその場を立ち去っていく。
すぐにまた悲鳴が聞こえると、後には肉を引き裂く不気味な咀嚼音と獣のようなうめき声だけが暗闇に響き渡った。