恥じらいの季節
音楽番組を見ながら、美沙は弟に聞いてみた。
「裕貴ってさあ、好きな子いるの?」
少し年の離れた弟は、急にむすっとする。
「女子なんて興味ねーし」
「ふ~ん、そう」
テレビに目を戻すと、司会者に話を振られたアイドルがしなを作って答えていた。
『え~タイプですか。特にいないですけど、小説好きな人がいいかな』
「うそ、私は断然体育会系だなあ。ねえ裕貴」
「興味ねーし。ま、でも小説なんてカッコ悪いね。根暗だし」
「あんたも野球頑張ってたらモテるよ」
「モテなくていーし」
恋バナには強情だなあ。まあそっとしておこう。
あくびが出てきたので部屋に戻って寝る事にした。
次の日、専門学校から帰ってきた美沙は、リビングでキットカットをかじっていた。
「お母さん、裕貴は?」
「今日は寄り道してくるって」
噂をした途端、当の本人が帰ってきた。
「ただいま」
部屋に入って来た裕貴は、いつものリュックの他に、トートバッグを抱えている。
「どこ行ってたの? 」
美沙の問いに「いや、ちょっと」とはぐらかす。
よいしょとトートバッグをテーブルに置こうとした時、重さでバランスを崩し、中身がこぼれ落ちた。
ドスドスという音と共に、5冊ほどの分厚い小説が床に散らばる。
「あ」
美沙が言葉を発すると、裕貴はとっさに
「ちげーし。暇だったからだし」
と、顔を真っ赤にして本を拾い集めていた。
まだ何も言ってないよ。
美沙はいじらしい気持ちで、思わず笑ってしまった。