【連載版はじめました!】大魔導士は田舎でのんびり人生を謳歌する~勇者パーティをクビになった俺、実は仲間にレベルを奪われてただけだった。呪いが解けて弱体化したみたいだが俺にはもう関係ない
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「アベルのおっさん、悪いけど、おれのパーティから出ていってくんない?」
村を襲っていた魔王軍残党を倒し、王都へと戻ってきたその日の夜。
俺はパーティーメンバーである勇者ジャークに、呼び出されて、そう言われた。
場所は王都にある、ジャークの部屋。
目の前には赤い髪の、やんちゃそうな見た目の少年がいる。ジャーク・モンド。
年齢は18歳。天から与えられた職業は、勇者。
「出ていってくれって、どういう意味だ……?」
「おれは勇者の職業を持つ、最強の冒険者。その仲間に、今のアベルのおっさんはふさわしくない。そう言ってんだよ」
職業。
この世界を作った天の神が、我々人間に与える、特別な力。
剣士の職業を与えられると、訓練せずとも剣を自在に操れる。
魔法使いの職業なら魔法を生まれて直ぐ使えるようになる。
ジャーク・モンドの職業は勇者。
勇者能力の最大の特徴は、世界最強の武器、聖剣を使えること。
魔族、魔物などの魔なるものたちに対して特効を持ち、万物を切り裂く最強の武器。
聖剣を高難易度ダンジョンで手に入れてから、ジャークは最強となった。
人々、そして国はジャークという少年に、多大なる期待を寄せている。
「確かに、昔のあんたは凄かったよ。魔神を倒した最強冒険者、アベル・キャスターの名前を知らないやつがいないほどにな」
「……昔は、か」
俺、アベル・キャスター。現在33歳。
孤児として生まれる。生きるため、食っていくために冒険者となった。
俺の職業は大賢者。
その能力は、あらゆる魔法を、詠唱無しで行使出来るというもの。
この力を使い、俺は様々な魔なるものたちを葬り去っていった。
生きるため、食べるため。
両親から捨てられ、スラムで育った俺は、他に頼れる人も、コネもなかった。
だから大賢者の力を使い、魔物、魔族を倒し続けた。
そして……今から10年前。
いにしえの勇者によって討伐された、魔王の怨念が形をなした最悪の存在、【魔神】が出現。
魔王が生きていた時と同等の被害が世界中に及ぶ。
その魔神を討伐したのが……俺、アベル・キャスター。
世界中から賞賛を受けた。
やがて皆が俺を偉大なる魔法使い、【大魔導士】と呼ぶようになったのだ。
「昔のあんたと比べて……今はどうだ。33歳のくせに、髪の毛は老人みたいに真っ白。体にもガタがきて、まともに走ることもできない。それに、体内の魔力量も年々減ってきて、今はもうまともに魔法が使えないんだろ?」
……俺は現在33歳。
だというのに、俺の体はボロボロになっていた。
原因は、不明。
魔神の呪いか……? と思って、【ジャーク】の紹介で高名な呪術師に診てもらった。
だが、そのような呪いは受けていないとのことだった。
治療師にも相談したが、体の衰えの原因はわからないという。
「おっさん……もうあんたの居場所は、最前線にはねえんだよ」
「…………」
魔法の使えない大魔導士なんて、世間の誰も認めても、求めてはくれないだろう。
でも……。
「俺は……ここにいたい」
「はぁ~~~~~~~~~~~~~………………。あのさぁ……おっさん。あんたの伝説はもう終わったんだ。過去の栄光にすがって、いつまでもみっともなく最前線で戦おうとすんなよ」
「…………」
ジャークは、わかってくれてないのか……。
俺がどうして、このパーティにいるのかって。
「アベルのおっさん。あんたには一応感謝してるよ。孤児上がりで、右も左もわからねえおれと【あいつ】に、戦いのイロハを教えてくれた。この聖剣も、あいつの【杖】も、あんたが居なきゃ手に入らなかった」
……そう、あれは10年前、魔神を倒したあと。
俺は一組の少年少女を、拾ったのだ。ひとりは勇者の職業を持つジャーク。
もう一人は、ジャークと並ぶ才能を持つ少女。
ティア・セラージュ。聖女の職業を持つ少女だ。
ジャーク、そしてティア。
二人とで会ったのも10年前。彼らもまた、俺と同じスラム上がりの冒険者だった。
彼らに、在りし日の自分を重ねた俺は、二人を育てることにした。
……二人が立派になるのを、見届けるのだと。……家族の居ない俺にとって、二人は……家族のような存在だった。
だから、家族が独り立ちできるまで、側で支え続けようとしたのだ。
体が衰えても。
「おっさんには感謝してるけどさ。いつまでも足をひっぱらないでほしいんだ。おれもそうだし、ティアのもさ。あんた……ティアに毎晩治癒魔法かけてもらってんだろ?」
聖女であるティアの能力は、【超回復術】。
あらゆるケガ病気をなおす、癒やしの光を使うことが出来る。
俺の指導によってティアは自在にその能力を使えるようになった。
苦しんでいる人たちのため……無償で治癒術を使ってあげる、優しい子だ。
「あんたもわかってんだろ? 毎晩あんたのとこにいって、あんたの体を治そうと力を使ってる。でも……それがティアに負担かけてんだよ」
「……っ」
……薄々、わかっていたことだ。
ティアは、一日の活動が終わったその日の夜、疲れてるだろうに、俺に治癒を施してくれていた。
日増しに体調が悪くなる、俺のために……。
彼女は『これくらい平気です!』といってくれた。
でも……やっぱりそれは強がりだったのだろう。
「あいつ愚痴ってたぜ? 『毎日辛い』ってよ」
「! ほんとか……?」
「ああ。ホントだよ。アベルのおっさんには恩義があるから、治癒してやってるけど、ホントはもうやりたくないってさ」
「…………」
……やっぱり、そうだったのか。
なんてことだ。俺は……ティアに負担をかけていただなんて。
ティアとジャークは姉弟のようなものだ。
俺には言えない、秘密を、弟であるジャークに漏らしたんだろう。
「……けけ、バーカ。あっさり信じてやがる……」
「ジャーク?」
「ああ、なんでもねえ。とにかく、おれらにとってあんたは必要ない存在なんだよ。おれはあんたなしでも戦えるし、ティアを守ることもできる」
……そうだな。
ジャークは確かに強くなった。
ティアも凄い治癒の使い手となった。二人は、もう立派になった。俺の役目は……ここで終わりだ。
「でも、俺が抜けたら、あとはどうするんだ?」
「腕の立つエルフをもう既にスカウトしてある。あんたが抜けても大丈夫さ」
なんて周到さ。
……これは、多分前々から決めていたのだろう。ジャークとティアの二人で……。
俺、抜きで……。
「…………」
ぽた……と涙がこぼれ落ちた。
二人に拒絶されて、俺は悲しかった。
孤児で、孤独を抱えた俺にとって、二人は家族だと思っていた。
でも……それは俺の一方通行な思いだったのだろう。
大魔導士となったあと、俺は家族のために頑張った。
でもそれは無駄な頑張りだったようだ。
……なんだか、どっと疲れた。
「……わかったよ。俺は、パーティを抜ける」
「ん。そーしてくれ」
……俺は最後に、持っているものを、全部、ジャークたちに託すことにした。
家族への、餞別だ。……まあ向こうは家族じゃないって思っていたようだが。
高い装備品を魔法袋につめて、ジャークに渡す。
そして、右手に収まってる【指輪】も……外そうとする。
「そんなきったねえ指輪なんて、要らねえよ」
「!」
……この指輪は、ジャークとティアが俺にくれたものだ。
初めて二人だけで倒した魔物。
それで得た金で、買ってくれた……思い出の指輪だ。
少しでも金の足しになればと思っていれようとしたのだが……。
それすら、要らないといわれてしまった。
俺にとっては思い出の品なのに……。
「じゃあなアベルのおっさん。ティアにはおれから、出て行ったって言っておくからさ。別れのあいさつなんて要らねえよ」
「……でも」
「あーもう! 察しが悪いなぁ。ティアはあんたの顔も見たくないってよ!」
「…………」
そんなに、ティアは俺のことを嫌っていたのか……。
……なんだか、さらに気持ちが落ち込んできた。
俺はとぼとぼとその場をあとにする。
街の出口でちら、と一度だけ背後を振り返った。
ティアは、ジャークの肩によりかかっていた。
……ああ、なんだ。
「そういうことか……二人は、恋人同士だったんだな……」
そんなことも知らなかっただなんて、なんて間抜けなんだ……俺は。
こうして、かつて大魔導士と呼ばれた俺は、大事だと思っていた家族たちから拒絶され、パーティを追い出されたのだった。
★
ジャークたちのもとを去ってから半月が経過した。
俺は王都から遠く離れた、ミョーコゥという北方辺境の街に身を置いていた。
ミョーコゥは王国の北端に存在する街だ。西部に櫛形山と呼ばれる大山脈、南部に奈落の森と呼ばれる魔物うろつく大森林。
それら二つの難所に囲まれてるためか、交通の便が非常に悪く、そのせいで街の文明レベルは非常に低い。
街には水源が豊富にあること、水はけのいい土地があることから、農業が盛んであり、食いものに困っている様子はない。
とは言うものの、珍しい品が獲れるわけではないので商人が居つくこともなく、また近辺に出現する魔物のレベルが高いわけではないため冒険者が拠点にすることもない。
ここを訪れるものは、変わり者か、世捨て人、あるいは事情があって世間から身を隠してるものくらいだろう。
そんな世間から隔絶されたような土地に、俺は望んでやってきた。
家族のように大事に育てた子らから拒まれたことで、心に傷を負った俺は、他人とのかかわりを避けるようになった。
一人にしてほしかった。だから、このミョーコゥへとやってきたのだ。
俺はミョーコゥの外れ、奈落の森付近にある、使われてない小屋を買い取った。
そこで、何をするでもなく一人でボーっとして過ごした。
金がなくなったら奈落の森へ入り薬草を取って、それを街の薬屋に売ることで、必要最低限の金を得る。
魔物を倒すことはできないが、魔除けの呪いについての心得があるため、森に入っても平気なのだ。
薬草を取り、それを売った金で食料を買い、あとは小屋でぼーっとする。そんな生活を半年くらい続けた。
ミョーコゥの人たちとは全く交流してない。
ここへ来た当初は、街の連中からいろいろ詮索されたが全部無視したら、そのうちだれからも声をかけられなくなった。
それでいい。俺はもう、誰ともかかわるつもりはない。
このまま一生誰ともかかわらず、一人で過ごし、そして一人でひっそりと死のう……。
そんな風に思っていたある日、事件が起きた。
★
「子供が森に遊びに行って帰ってこない……だと?」
俺のもとへやってきたのは、知り合いの薬屋の女性、マテオ。
この街で生まれ育ち、一度街を出ていったが、また故郷へと戻って個人で店を開いている。
そんなマテオが夕刻、俺のもとに来て、相談事を持ちかけてきたのだ。
「ああ。今朝、街のガキども3人が、度胸試しに森に入っていったんだ」
「……馬鹿なのかそいつら?」
「まあ否定はしない。あたいら大人は、街の子供らに、櫛形山と奈落の森には決して入るなって厳命してるからね」
大人の言いつけを破って、その子らは森の中に入ってしまったわけだ。
「ガキども3人のうち2人は帰ってきた。でも途中で一人はぐれちまったみたいだ」
「…………」
森には魔物がうろついてる。夜になれば、よりやつらは活発になるだろう。
子供一人では魔物に対処しきれないだろうから、早晩、食い殺されてしまうだろうな。
「…………」
子供が死ぬかもしれない。
そう聞いても、俺の心はみじんも動かない。俺には関係ない。
その子を助ける義理は俺にはない。そもそも大人の言いつけを守らない子供が悪いのだ。
「わかってる。ベルさん。あんたが訳ありで、あんま人と関わりたくないんだってことはね。でも……頼むよ」
「……そいつはマテオの子供なのか?」
「いんや。違うよ」
だろうな。マテオは未婚の女だと聞いたし。
「なぜ関係ない子供を助けようとするんだ? その子の親から金でももらってるのか?」
「金なんてもらってないさ。ただ……このまま見殺しにはできない。その子もあたいも、同じ故郷の人間なんだから」
……故郷を持たぬ俺からすれば、マテオの言ってることに、共感はできなかった。
俺はよそ者だ。この街の人間がどうなろうと、関係ない。
「…………」
その時ふと、俺の右手にはめられてる指輪が目に入った。
それはジャークたちからもらったプレゼント。結局、俺はそれを捨てられずにいた。
……森に入って死にかける子供。
俺はふと、ジャークたちを思い出していた。そうだ、あいつらと出会ったのも森の中だった。
勇気と無謀をはき違えた彼らは、森で遭難しかけ、魔物に食われそうになっていたな。
……なんで、そんな見ず知らずの子供助けたんだろうか。あのとき。
……そうだ。あのときの、俺は。
大魔導士と呼ばれるようになった頃の、俺は。
この大きな力を、自分の腹を満たすだけじゃない、誰かの幸せにするために使いたいってそう思っていた。
だから、見ず知らずのジャークたちを助けたんだった。
「……わかった。協力する」
「! いいのかい……?」
断られると思っていたのか、マテオは目をむいていた。
「ああ。ただ、捜索は俺一人でやる」
「でも……」
「今の俺では、大人数を守るほどの力は残ってない」
自分一人の身を隠し、子供を探すくらいの規模の魔法しか使えない。
大人数でいって、魔物との戦闘となったとき、彼らを助けることはできないのだ。
「わかった……あんたに任せるよ、ベルさん」
……やけにあっさりとマテオは了承した。
流れ者で、世捨て人の俺なんかを、信頼するというのか? いったいなぜ……?
まあそれについては後で。
今は時間が惜しい。
俺は小屋を出て森の入り口に立つ。
「げほごほ……【探知】」
無属性魔法、探知。これは周囲一帯の生命反応を探知する魔法だ。
魔法には、火や水などを出して相手を攻撃する属性魔法と、それ以外無属性魔法に分かれる。
俺の職業、大賢者ならば、この世に存在するすべての属性、無属性魔法を使用可能だ。
……ただ、魔力量の衰えた今の体では、魔法をそうたくさん使うことができない。
「子供の位置を特定した。ただ……」
「ただ……?」
……探知には、子供の気配、そしてそのすぐ近くに、大きな魔物の気配を感じた。
多分今の俺では勝てないような、そんな相手。そこにこんなおっさんがいったところで、エサになるだけなのは目に見えている。
……だが、いく。
戦わなければいいのだ。
「【隠密《ハイド】」
俺は他人から姿を見えなくする魔法を使い、気配のするほうへと向かう。
暗い森のなか、常人ではすぐに迷子になってしまうだろう。転んでけがをしてしまうだろう。
だが、俺は魔力を感知することができた。
これはスキルでもなんでもない、俺が後天的に身に着けた技能だ。
人間、動物、木にいたるまで、この世界で生きてる人間はみな、魔力を有している。
それら魔力の流れを感じ取ることで、敵の居場所や、地形にいたるまで、目をつむっていても感じ取ることができる。
魔力感知の技能と、隠密の魔法のおかげで、俺は魔物との戦闘をすべて回避し、目的地に到着することができた。
だが、到着した段階で体力がつきかけていた。戦いになれば命はないだろうな。
「……いた。子供だ。それに……これは……?」
森の中にあった、ひときわ大きな木のもとに、探してる子供はいた。
しかし、一人だけでなかった。
子供は何かを抱きかかえていたのだ。
「おいガキ。なんだ、それは……?」
「え!? だ、だれ……? どこから……?」
街の子供(5歳くらいの女児)がきょろきょろと周囲を見渡す。
俺は隠密の魔法の効果を薄め、子供から俺を視認できるようにする。
「マテオに頼まれて、お前を探しに来たものだ」
「マテオお姉ちゃんの……知り合い?」
ほっ、と子供が安どの息をついたのもつかのま、彼女が言う。
「お願い! この子をたすけて! ケガしてるみたいなの!」
子供は抱えてるものを俺に差し出す。
それは、小さな竜だった。全身から血を吹き出してる。多分、ケガではない。体に傷はなく、けれどうろこの間から血がにじんでる。
「呪いのたぐいだな……」
「そんな! 治らないの!?」
「……いや、治せる。解呪の魔法を使えば」
呪いを解除する強力な魔法だ。
だが、使用するには膨大な魔力が必要となる。今の俺の魔力量では、使うことができない。
「じゃあ使って! おねがい!」
……体内魔力では、解呪は使用できない。
しかし生命魔力をひねり出せば、いけるかもしれない。
生命魔力。生命力を燃やすことで発生する魔力のこと。
生命魔力を使いすぎれば、待っているのは死だ。
今このヘロヘロな体で生命魔力を使って、無事ですむだろうか……?
そもそも、呪いを受けた相手は魔物。
俺が、散々殺してきた相手。
人類の敵である魔物に対して、自分の命を削ってまで救う価値はあるのか?
『たす……けて……』
白い子竜がつぶやく。
……死にかけの、幼い姿。
そこに在りし日のジャークたち、そして、幼いころの俺自身の姿が重なる。
目の前にいるのは、魔物じゃない。守るべき命。
俺は迷いを振り切って、生命魔力を使い、魔法を発動させる。
「【解呪】!」
俺の前に魔法陣が展開。
聖なる光が子竜を包み込む。
パキィイインン!
何かが壊れる音とともに、子竜の体がみるみるうちに、変化していく。
血だらけの小さな竜から……白髪の、一人の美しい女性へと。
「ぴゅい? からだ、いたくないよぅ!」
突如現れた、全裸の白髪女が、嬉しそうに飛び跳ねる。
街の子供が呆然とつぶやく。
「ドラゴンちゃんが、人間のお姉ちゃんになった……なんで……?」
「ぴゅい! わたし、神聖輝光竜! 魔力おなかいっぱい食べた! だからおっきくなったのね!」
神聖輝光竜だと……?
フェンリルに比肩する、神獣の一匹じゃないか。
なんでそんなのがここに……?
いや、待て。ちょっと待て。どうして俺は無事なんだ?
生命魔力を使って魔法を使った。
さらにこいつは俺の魔力を食ったって言っていた。でも、俺の体はぴんぴんしてる。
それどころか、体全身から力があふれ出てるようだ。
「何が起きてるんだ?」
「ぴゅい! あなたがわたしを助けてくれたのねっ?」
人間姿の神聖輝光竜が俺に抱き着く。
「たすけてくれて、ありがとなのね!」
「ありがとう、おじさん!」
……久方ぶりに、人から感謝された。
何かをして、それに対して感謝される。当たり前のことが、しかし、傷ついた心にしみわたる。
助けてよかったって、心からそう思ったのだった。
★
《ジャークSide》
アベルが神聖輝光竜の呪いを解いた、一方そのころ。
ジャークは宿屋で一人ほくそえんでいた。
「くくく、うまくいったぜえ! ぎゃはははは!」
ジャークが高笑いする。
計画がうまく行ったからだ。
「アベルに呪いをかけ、力をすべて吸い取ったうえ、邪魔者を追い出してやったぜえ!」
そう、なんとアベルの体調不良は、ジャークがかけた呪いが原因だったのだ。
ジャークは絶大なる力を持つアベルに嫉妬していた。
さらに、自分の好きな女……ティアが、アベルのことを好いてることが、気に入らなかった。
だから、ジャークはアベルからすべてを奪い取ることにしたのだ。
「あのおっさん馬鹿だからよぉ、出ていく最後まで、おれのやった呪いの指輪を後生大事につけていたぜぇ」
ティアと一緒に買ったプレゼントの指輪。
それをアベルに渡す前に、呪術師に頼んで、【弱体化】の呪いを指輪に付与してもらったのである。
呪いをかけられたアベルは弱体化し、その力を吸収して、ジャークはどんどんと強くなっていった。
……アベルも、そして聖女ティアも、まさか家族同然にかわいがっている(もらっている)相手から、呪いを受けているなんてつゆほどにも思っていなかった。
だからティアはアベルに対して解呪を使わなかった。
アベルは、プレゼントがまさか呪いのアイテムだと知らず、肌身離さずつけていた(アベルを見た呪術師はジャークとぐるだった)。
それゆえ、アベルが呪われてる事実について、アベルもティアも気づかなかったのである。
「アベルぅ……あんたが悪いんだぜ。あんたが凄すぎるせいで、勇者が陰に隠れちまう。英雄は一人だけで十分なんだよぉ」
……ジャークの犯行動機は稚拙極まるものだった。
他者からすごいと思われたい、という承認欲求。
しかし大魔導士がいては、勇者が目立たない。だから、邪魔者であるアベルを排除するべく、計画をたて、そして実行したのだ。
「アベルは消えた! おれは大魔導士と勇者の力を手に入れた! ティアの心も、いずれはおれのものにしてやる!」
そう、ジャークはティアに懸想していたのだ。
だが、ティアはアベルのことが好きだった。
愛する女を手に入れたい。そのことも、犯行に及んだ動機のひとつである。
「ぎゃはは! これからはおれの時代……新時代の幕開けだぁ!」
……だが、ジャークは知らない。
彼がかけた呪いが、アベルの魔法によって解呪されたことを。
神聖輝光竜のうろこには、魔法を反射するという、特別な能力があった。
竜にかけた解呪の魔法は、反射し、アベルに掛ったのである(解呪後のアベルの魔力を吸った竜が、自力で呪いを解いたのだ)。
アベルは自分のかけた解呪のおかげで、ジャークの呪いを解いた。
その結果、呪いがジャークに跳ね返った。
呪詛返しと呼ばれる、呪いをかけた術者に、呪いが跳ね返ってくるという現象だ。
その結果ジャークは、自分が得ていたアベルの力のすべてを失う。
それどころか、自分が持っていた勇者の力さえも、アベルに流れてしまった。
結果、ジャークは二つの力を同時に失い、さらにアベルがそうだったように、体力・魔力が徐々に落ちていくことになる。
……人を呪わば穴二つ。
ジャークはこの先、とんでもない不幸の連続に見舞われることになるのだが、それは少し先の物語である。
【★作者から大切なお願い★】
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