第88話:VIPルーム
「えーと、トイレって…あ、あれだな」
「…………」
妙に機嫌が良くなったザベっさんに支配人のジョナサンへ例の話を通してもらうことをお願いして、そのあいだ俺とルカは、トイレに向かったきり帰ってこないリックを探していた
ゲームが終わってもまだ戻ってこないし流石に心配になったからだ
…ったく、どんだけウンコ長いんだあいつ
トイレに到着し中に入ろうとした瞬間、ポケットに居るルカがモゾモゾと暴れ出した
「あっ、ちょっ!なんだなんだ!?」
「そこは男性トイレだろう!
私も連れていく気か!?」
「当たり前だろ!
他に隠れる場所無いんだから!」
「くっ…!
センチュリーの方に行くべきだった…」
ちょっとくらい我慢してくれよ…
ルカは宝石でも人間形態でも排泄行為はしないが、やっぱり女子と言うべきか、こういう場所に入るのは気が引けるようだ
暴れるルカをなんとか宥めて、改めてトイレに入る
異世界の公共トイレはあまり綺麗じゃないのが普通だけど、このカジノは清掃の手がちゃんと回っているのか、わりと清潔感があった
しかし…
「あれ?誰も居ない…
ルカ、エネルギー反応はあるか?」
「…いや。
この部屋に生命反応は感じられない」
小便器の所はもちろん、大をする部屋の扉も全て開けてあり、人っ子一人いない
リックのやつ、どこまで用を足しに向かったんだ?
「零人、一度センチュリーと合流しよう。
嫌な予感がする…」
「あ、ああ」
…まさか何かに巻き込まれたか?
でもアイツに限って、そんな簡単にやられるとは思えないし…
ともあれルカに従い、俺達はトイレを後にした
☆☆☆
カジノ内でも比較的人気のない部屋…休憩室でザベっさんと合流した
報告するまでもなく、彼女は俺だけ来るのを見て察したようだ
「おかえりなさいませ、レイト様。
その様子だと彼は居なかったようですね」
「うん。アイツ、どこ行ったんだかな…
そっちはどうだった?」
「こちらは問題ありません。
準備ができ次第、『VIPルーム』に来るようにとの事です」
ザベっさんはカジノの奥を指さした
そこには贅沢にもイルミネーションが施されたド派手なドアと、見張りと思われる警備が2人立っていた
あれがVIPルーム…
周囲に誰も居ない事を確認したのか、ルカはポケットから飛び出した
「2人とも、警戒しろ。
ランボルトの行方もだが、私たちは先行で潜入したメンバーをまだ見ていない」
「えっ!?
アイツらも何か巻き込まれたってこと?」
「はい。
私もその事は気になっておりました。
別れてからの時間を考えても、今まで何も音沙汰が無いことから異常と見るべきです」
カジノ内は結構歩いたつもりだけど、あっち6人もいてまだ1人も見てないのは…確かに変だな
…みんなが心配だ
「とりあえずVIPルームに行こう。
もしかしたら『裏武闘会』って所に居るかもだし」
「了解だ」
「かしこまりました」
☆ルカsides☆
「お話は伺っております。
マミヤ様とセンチュリー様ご夫妻ですね」
「は、はい」
「……それでは、こちらへお入りください」
VIPルームの前に立っている警備にディーラーから渡された会員証を見せると、部屋の中へ入るように促された
零人がおそるおそるドアを押し開ける…
「あ、あれ?ただの接待部屋?」
「………?」
部屋の中は零人の言う通り、ボトルが置かれたテーブルをソファーが囲っているだけの、こじんまりとした、ただの一室だ
「こちらで寛ぎながらお待ちくださいませ。
担当の者がお迎えにあがりますゆえ」
「迎えに…?」
警備の男はそれ以上は問答に応じず、静かにドアを閉めた
…まさか、この部屋にまた隠し通路でもあるというのか?
「ザベっさん。
俺、罠に掛けられた気がするんだけど…」
「…しかし、あのままカジノ内を徘徊しても状況は変わりません。
ここは罠と仮定した上で、あえて網に掛かってみるのはいかがですか?」
「そうだな…
危なくなったら転移で逃げれば良いし…な?」
零人は胸に手を当てて、ポケットに居る私を撫でた
どうやら私を頼っているようだ
フフ、相棒の為ならいくらでも力を行使しよう
私が気分を良くするのとは対照的に、センチュリーの表情が若干曇っていた
「レイトさん」
「ん?」
「名前」
「え?…あ。
エ、エリー…これでいい?」
「はい。
貴方が夫婦をしようと言い出したのですから、言動には注意を払ってくださいね」
「う、うん。気をつけるよ…」
…なんだ、この焦燥感は?
この2人はただ夫婦をただ演じているだけ…
そのはずだ
しかし、さっきの零人の『約束』…
零人の小説のシーンでもあんな展開があった
事情を知らん者から見れば、女性に指輪を嵌める行為…あれはプロポーズ以外何でもない
……おもしろくない
ボン!
「あっ!?
お前なに人間になってんだ!?
早く宝石に戻れ!」
「別にこの部屋には誰も居ないのだから構わんだろう。
誰かが近づけばエネルギーの気配で分かる」
「んなこと言ったって…
もし見つかったらヤバいよ!」
「レイトさん、お静かに。
騒げば余計に怪しまれてしまいます」
センチュリーの警告に零人は慌てて口を噤んだ
ふーん…彼女の言うことは素直に聞くのだな?
……やはり、おもしろくない
「お、おい、ルカ何してるんだ?」
「見ての通り、ボトルを開けている。
喋り過ぎて少々喉が渇いた」
「え?
カジノ入ってからあまり喋ってないじゃん…?」
「うるさい。私は飲みたいんだ」
「ルカ様。
得体の知れない者から提供された飲食物に手を付けるのはおやめになった方が…」
「ほら、ザベ…エリーもこう言ってるんだし…
そんなの飲むなって」
さっきから何なのだ!
口を開けばセンチュリーの事ばかり…!
君の相棒は私だろう!
グビッ!
「あっ!飲んじゃった…」
訳の分からない苛立ちをぶつけるように、私は開けたボトルをラッパ飲みしてしまった
いつもは繊細に感じるこの舌も機能していないのか、味が分からなかった
私はこの2人の言うことに従うのがどうにも癪に感じていた…
「ふぅ…フン、不味いな」
「お、お前…大丈夫なのか?」
「わらしあ、らいじょぶら…はれ?」
「おい!?」
なん…だ…?
ろれつが…まわらない…
ぐるぐる…する…
「これは…!
ボトルの中身に強力な催眠魔法が封じ込められています!」
「なんだって!?
まさか…!クソッ、開かねぇ!」
「やはり罠…閉じ込められましたか」
「おいルカ!しっかりしろ!」
れいと…おこって…る?
まず…い…
ものすご…くねむ…い
ねむ…るわけには…
………………………………………………………
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
珍しくルカがピンチになります。
やっと物語が動いてきましたね笑
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