第84話:夜の歌姫《ナイト・ディーヴァ》
階段を降りた先、薄暗い一本道へと出た
壁には松明が掛けられそれなりに照らしているが、足元に気を付けないと転んでしまいそうだ
どうやらこの先が裏カジノのようだ
まったく…
たかがパチンコ屋に行くのにどんだけ手間暇かけないとならねんだよ…
「なァ、人形女。
ちっと疑問なんだが、なんでカジノに医者なんているんだ?
カジノつったら、カードやらルーレットやらガキみたいなオモチャで遊ぶ場所だろ?」
「ああ、私も同意見だ。
…それと、ここは誰も居ないのだからそろそろ腕を離したらどうだ?」
街に入ってから一向に腕を離さない、漆黒のドレスに身を包んだハイエルフへ2人は問う
仲睦まじい夫婦の演技を徹底するのはいい事だと思うけど、さっきから肘にフヨンフヨンと当たってるのですよ
嫌でも肘に全神経を集中させてしまうではないですか
それにルカの機嫌もちょっとずつ悪くなってきてるんだよね…
ザベっさんはそんな事はお構い無しといった様子で淡々と答えた
「『非合法』と言う言葉がある場所には、必ず人道的ではない事柄が発生しているものです。
医者を必要とする状況はいくつか考えられますが、下手に先入観を持たず、まずは現地を見ていただくのが懸命でしょう。
ルカ様の案につきましては却下いたします」
「…………む」
「ヘッ、見てのお楽しみってヤツか」
結局何も教えてくれないうえにルカの願いもスッパリ棄却されてしまった
そしてさらに進み続けること数分、ようやくゴールの扉が見えてきた
同時に人の気配と、若干の喧騒も聞こえ始めてくる
「あれか…
フレイ達はうまく潜入できたかな」
「あちらにはマスカット様が居ます。
あの方は少年期よりこういった場所を遊び場にされていたので、少なくとも我々よりは早く到着しているかと」
「ククッ、見た目だけはまだまだガキンチョに見えるけどなァ」
リックは可笑しそうに口を綻ばせる
たしかにあれで俺らより歳上って言うんだから信じられない
…セリーヌは別格だけど
☆☆☆
「よし、扉を開けるぞ。
ルカ、うっかり中で喋んなよ?」
「フン、この私に『喋らない』という選択肢はない。
仮に聞こえたところで零人が喋ったことにすればいいだけだろう?」
「お前みたいな綺麗な声が実は俺でしたって、流石にムリがあるだろ!?
いいから大人しくしていてくれ!」
「………キレイ…りょ、了解だ…」
「おい、イチャつくのは後にしろや!
とっとと開けろ黒毛!」
「イテッ!今開けるって!」
リックに頭をはたかれ、慌てて扉を開ける
すると、トンネルの出口から脱出した時のような、暗所に慣れた眼を刺激する意地悪な光が飛び込んできた
「わ、眩し!」
「チッ…」
ザベっさんから組まれていない右腕を目元に持ってきて、暫し光に順応させる
やがて少しずつ目を開けると、その先には煌びやかな照明、テーブルを挟んだディーラーとプレイヤー、大掛かりな仕掛けが施された回る金塊の山のオブジェなど、とにかく眼にうるさい物で溢れていた
「ベットはそこまでです。
只今の結果は……『赤の13番』でございます」
「むう!やはり広めに賭けるべきだったか」
「ハッハッハ!快調快調!
どうやら今日は私にツキがあるようですな!」
カジノというだけあってゲームは白熱している
そして情報通り、利用客は貴族がほとんどのようだ
太った身体にジャラジャラと宝石を身に付けちゃってまぁ…
見るだけで筋トレする意欲が湧いてくるぜ
「レイトさん、行きましょう。
換金所はあちらのようですよ」
「あっ、ちょっと!」
「お、おい、オレを置いてくな!」
ザベっさんはボーッと突っ立っている俺をリードするように腕を引っ張って歩き出した
換金所?
ああ、そっか
現金とチップを交換する場所か…
…って、別に俺ら遊びに来たわけじゃないんだけど!?
慌てて彼女に話しかける
「ねっ!ザベっさん!
なんでそんなとこ行くんだよ!
俺らお医者さん探しに来たんでしょ!?」
ザベっさんは俺の耳元に口を寄せ、ボソボソと伝えてきた
「カジノへ来てチップも持たずにウロウロするのは得策ではありません。
周りをご覧になってください。
不届き者がいないか常に警戒されています」
「えっ!」
彼女は視線である方向を示すと、明らかに客ではない1人の男がこちらを凝視していた
全然気付かなかったわ…
「それと、私の呼び名も変えて下さい。
軽々しい名前では不信を与えてしまいます」
「えっ!?いきなり言われても…」
「どうもこんにちは!」
「「「…!?」」」
俺たちの前へ突然、蝶ネクタイを結んだ身なりのいい男が現れた
周りには数名の部下と思われる亜人たちも数名待機している
……強いな、コイツら
男はニコニコと笑いながら、頭に被った帽子を取って一礼する
「ようこそ金と欲望渦巻く『裏賭博場』へ。
私は当賭博場の支配人、ジョナサンと申します。
さて、お客様は見ない顔ですが、どちらからいらっしゃったのでしょう?
差し支えなければお教え願いませんか?」
男は俺の眼を真っ直ぐに見つめ、素性を伺ってきた
おいおい、早速怪しまれたじゃねぇか!
…ええと、俺とザベっさんは夫婦でリックは用心棒だったな…
「おれ…私たちは『理の国』から来訪した。
一攫千金を得た者が耐えないという噂を聞きつけてな。
これは面白い勝負が出来ると思い立ち、本日は妻のエリーと参った次第だ」
「ふむ……」
喋り方はルカを参考にして、ザベっさんの名前は思いつかなかったからセリーヌから借りた
つうか諸々テキトー言ったけど大丈夫か!?
「いや、失礼。
実は最近、王都で物騒な事件が起きましてね。
それも裏商人ギルドが解体されるほどの件でして…
急遽、私共も対応すべく会場を移したばかりなのです。
ただ、その情報を知っているのは常連のお客様だけのはずですが…」
男は笑いながらも、その目を決して俺から離そうとはしなかった
そうきたか…!
確かに引っ越したばかりの会場に新規の客が来たら怪しまれるわな
まあ、これに関しては別に嘘つくことも無い
「私たちは『アンナ・フェザリィ』というご麗人にここを紹介して頂いた」
「…!?」
すると、何故か男の顔が引き攣った
え、何かマズったか!?
「こ、これは大変失礼を!
まさかあの『夜の歌姫』のご紹介とは…!
そ、それでは何かご用命がありましたら何なりとお呼び立てくださいせ!」
男はものすごい勢いでその場を離れて行ってしまった
………なぜか後ろにいるリックもガタガタ震えていた
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
とうとうカジノへ潜入しました!
異世界におけるテーブルゲームの内容に関してはすごく難しいです…
ルーレットくらいならあると思って挿入しました笑
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