第623話:富豪貴族モリッツ
☆間宮 零人sides☆
「へえ、そうだったのか。君のドラゴンは元々ダンジョンにいた子だったんだね」
「まぁな。成り行きでウチで飼う羽目になった」
「ダカラ〜! ワタシ、飼ワレテナンカナイヨ!」
モリッツさんのおかげで、俺とカーティスはようやく帰りの帰路に着いた。
その道中、お互いのドラゴンとの出会いや育成について少しばかり話をしている。
モリッツさんの駆る飛竜セナは、竜兵隊に入った当初から彼のパートナーとして、共に任務をこなしているそうだ。
「赤竜カーティス・バルガ。騎乗主達ノ会話ヲ妨ゲテハイケマセン。弁エナサイ」
「アア!? 偉ソウニワタシニ指図シナイデヨ、チビ飛竜ノクセニ!」
「こらこら、セナ。竜同士で喧嘩はめっ、だよ。
仲良くしないとダメじゃないか」
「お前もだカーティス。これ以上余計なトラブル作ったら晩メシ全部ルカにやるぞ」
俺とモリッツさんの距離は縮まったが、ドラゴン族であるこの二匹は、やはりというか…争ってしまう。
ハア、場にドラゴンが揃うといつもろくな事にならん。
「それにしても〝蒼の竜殺し〟か…。
ハハ…やっぱりダメだな、僕は」
するとモリッツさんはセナを宥めながら、乾いた愛想笑いを浮かべた。
「何が?」
「いや、大したことじゃあないんだ。
僕はちょっと…世俗に疎い面があってね。
みんなが当たり前のように知ってる知識を、僕だけ知らないことがたまにあるんだ」
「ふーん…?」
当たり前の知識を知らない、ねえ。
そんなの落ち込むほどか?
「君は理の国の民なんだろう。そちらで聞いたことはないかい、富豪貴族『モリッツ』の名を」
「え、貴族!?」
この人貴族だったの!? 竜兵隊の所属じゃ…
「少し話が長くなるけど、よかったら聞いてもらえるかい?」
モリッツさんは横目でこちらを見た。
国境に着くまでまだ距離がある。
俺は小さく頷いた。
「僕の家系は、規模がものすごく大きくてね。
血の分けた親族が大陸中にいるんだ。
だけど僕は、学の頭にも武芸の才にも恵まれず、貴族として血筋を受け継いだだけの、ただの落ちこぼれなのさ」
ネガティブな言動で、自分を卑下するモリッツさん。すこし言い過ぎでは?
「うーん…学は分かんないけど、武芸の方は良いんじゃないか? さっきのミノタウロス戦、わりと善戦してたと思うけど」
世辞でもない率直な意見を言ったつもりなんだが、モリッツさんは首を横に振った。
「僕の闘いを見ていたなら分かるだろう?
…愚かにも油断をして、大切な相棒のセナに傷を負わせてしまった。
詰めが甘いと、よく上官達にも怒られるんだ」
「そう…」
モリッツさん、本当にセナのことを大事に思ってるんだな。
誰かを護れなかった悔しさは…俺にも分かる。
「おほん…話が逸れてしまった。モリッツ家では、尖った才が無い者は家から追い出され、どこかへ左遷させられる。僕の場合は種族が竜族という理由で、この王国竜兵隊に入隊させられたんだ」
「!」
自分から志願したわけじゃなかったのか!?
己の進路を勝手に決められて…なんか、この人が可哀想になってきた。
「幸い、空での行動は苦じゃなかったからね。
なんとかテストをパスして、竜騎士の職業に就くことができたんだ。
だけど…権力と金がすべてと考えるモリッツの名は、こちらでも知れ渡っていた。
おかげで僕は仲間内からあまり良い顔をされず、何年も同じ階級のままだ」
「それは…災難だな」
はた迷惑な話だ。
自分の家の名前のせいで職場で浮くなんて。
俺なら1ヶ月もしないで退職願出しちゃうかも。
「ちなみにモリッツさんの家系の種族って竜人なの?」
「いや。優秀な遺伝子を家に取り入れるために、人種はさまざまだよ。一時は女性のみに生まれる、女鳥人の血を求めていた時期もあったかな」
セイレーン…アンナさんの種族か。
あの人の働きぶりを間近で見たら、たしかに有能な遺伝子は持っていそうだ。
「結果として、なんとか自分の食い扶持と本家に仕送りする分のお金は賄うことができた。
正直ギリギリの生活だけど、落ちこぼれなりに貴族としての面子だけは保っているというわけさ」
モリッツさんはそう言って話を締めた。
実家に仕送りまでしてか…。
やっていることは、ナディアさんやテオと同じだけど、この人もまた苦労人だなぁ。
「君のチームの、『蒼の旅団』はどうだい?
仲間はちゃんと君を守ってくれるかい?」
唐突に変なことを聞かれた。
「え? うん、まあ…」
「そうか、なら良かった。大切にするんだよ。
家族よりも固い絆があるとすれば、それはきっと背中を預けられる友だ。
あいにく僕にはセナしかいないが、君たちはもっと多くの、素敵な仲間がいるんだろう?」
モリッツさんは少しだけ羨ましそうに、そう述べた。
警部補のくせに、良いこと言うじゃねえか。
「カーティス。もう少しモリッツさんの竜へ身体を寄せろ」
「コノクライ?」
「マ、マミヤ君?」
二匹の翼がぶつからないギリギリまで、距離を詰める。
そして俺は懐から1枚のカードを取り出し、モリッツさんへ直接手渡した。
「これは、冒険者カードかい? えっと、君に返したはずだけど…」
「よく見ろ。それは営業用だ」
「!」
「なにか困り事があったら、連絡してくれ。
これでアンタが頼れるのは、セナ以外に俺も含まれたわけだ。だが、くれぐれも勘違いすんなよ? 絶対にドラゴンの依頼は…」
「マ、マミヤ君! ありがとう、ありがとうっ!」
受けない…と釘を刺そうとしたのに、モリッツさんは大喜びでお礼をして遮ってしまった。
ふう、めったにこんなことしないんだがな。
この甘い性格、誰に似たんだか。
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
竜騎士との出会い編は、今回で終わりです。
次回はナディアが主役? です。
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何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




