第3話:宝石と転移(前編)
☆スター・スフィア 5つの宝石と黒き獣☆
-今よりずっとむかし、この世界はバラバラになっていました。
大地は腐り、森は萎れ、水は渇ききっていました。
そこに住む生き物たちは、みんな苦しみつつもがんばって暮らしています。
ある日、一匹の黒い毛並みをした獣の男の子が『神さま』の住む山の社へ訪れました。
彼は助けを求めて神さまへ会いに来たのです。
「神さま、どうかぼくたちに生きていける楽園を与えてください。
このままじゃ、みんな死んでしまいます」
神さまは答えました。
「よかろう。だが、それには条件がある。
この世界には5つの不思議な力を持った宝石と呼ばれる石たちが眠っているのだ。
その宝石たちを全て集めて来て欲しい。
そうすれば、楽園を与えると約束しよう」
彼はすぐに返事をしました。
「必ず集めてきます!
どうか待っていてください」
神さまに宝石の場所を教えてもらい、彼はたった一匹で旅立ちました。
『最初の宝石は火で覆われし山の中にある』
そこは燃える岩に囲まれた、火でできた山の中でした。
彼は火の海の中にひとつ、紅い色をした宝石が浮いていることに気が付きます。
もしかして、あれかな?
彼はがんばって石を取ろうと、火の海へ手を伸ばします。
あつい!あつい!あつい!
でも、みんなが待ってるんだ!
勇気をふりしぼり、ついに紅色の綺麗な宝石をつかむことができました!
パァァ!
しかし、彼が手にとった瞬間、宝石はとつぜん輝き出してしまいます!
まばゆい紅い光を放つ宝石…。
彼は宝石から目が離せません。
そして宝石はゆっくりと浮かび始めます。
「こんにちは!」
なんと宝石はしゃべりだしたのです!
「わああっ!?」
石がしゃべった!?
彼はびっくりしておしりをついてしまいます。
「僕は『紅の宝石』!
君が僕を起こしてくれたんだね!
どうもありがとう!
これからは僕も一緒に旅をするよ。
がんばって兄弟を見つけようね!」
『紅の宝石』は彼と友達になりました。
『2つ目の宝石は汚れし沼地にある』
そこは深い霧に包まれた森の、ぬかるんだ泥の中でした。
彼は沼に足を踏み入れ、汚れた空気を吸いながらも必死に探し続けます。
うう…きもちわるい…お水が飲みたい。
でも…神さまと約束したんだ!
がんばって沼をかき分けて行くと、大きな岩の上に、紫色に光る宝石が眠っていました!
「見て! 僕の兄弟だよ!
やっと見つけられたね!」
「うん! 〝紅〟のおかげだよ!」
彼が手に取ると、またもや宝石は輝きだして宙に浮きます。
「僕は『紫の宝石』!
起こしてくれてありがとう!
僕も君と友達になりたいなぁ」
「もちろん! これからよろしくね!」
『紫の宝石』は彼と友達になりました。
『3つ目の宝石は砂漠の小さき森にある』
そこは風も吹かない、カラカラと乾いた砂の国でした。
彼と宝石たちは、永遠に続くような砂の海を歩いています。
ノドは乾き、太陽の光で肌はジリジリと焼けていくようでした。
「はぁ、はぁ…つかれたなぁ。休みたいなぁ」
「がんばって! あともう少しだよ!」
「ほら、もっとお話しながら歩こう!」
宝石たちが応援してくれるたびに、彼は不思議と力がわいてきます。
そしてついに彼らは、草木が元気に生きているオアシスを見つけました!
小さな湖のそばに黄金に光る石が眠っています。
「いたよ! 僕たちの兄弟だ!」
「本当だ! ありがとう〝紫〟! 」
手に取るとやはり宝石は輝きだし、おしゃべりを始めました。
「僕は『金の宝石』!
ん〜、今日はいい天気だね!
お出かけするなら僕も行きたい!」
『金の宝石』は彼と友達になりました。
『4つ目の宝石は世界樹の頂点にある』
そこはこの世界でいちばん大きい、1本の巨大な木でした。
しかしその木はすでに枯れているため、木の幹を掴んでもすぐにはがれてしまい、彼はなんどもなんども落ちてしまいます。
「はぁ、はぁ、ううっ…」
「がんばって! もうすこしだよ!
みんな! 僕たちで彼を支えよう!」
「うん! ほら、ここだよ!」
「もう大丈夫だよ!」
三個の宝石たちはお尻に集まって、ヨイショ、ヨイショと、彼を持ち上げてくれました。
やっとの思いで登りきると、頂上には翠色に光る宝石が眠っていました。
「やっと見つけた! 僕たちの妹だよ!」
「ここまでよくがんばったね!」
「うん! えらいよ〜!」
「えへへ…ありがとう、〝金〟」
彼が手に取ると宝石は輝きだし、いつものようにしゃべり始めます。
しかし、なぜか宝石はプンプンと怒ってしまいました!
「わたしは『翠の宝石』!
みんなばっかり、ずるい! ずるいわ!」
「ええ!? ゴ、ゴメン…」
怒った宝石は彼の胸にポコポコとぶつかってきてしまいます。
彼は困ってしまい、とにかくずっとあやまり続けることしかできませんでした。
でも、大丈夫。
その宝石はひとりぼっちで、ただ寂しかっただけなのです。
『翠の宝石』は彼と友達になりました。
『最後の宝石は青き深層にある』
そこは巨大な怪物がたくさんいる危険でいっぱいの海でした。
残す宝石はあと一つだけでしたが、なぜか彼は元気がありません。
「ぼく…泳げないんだ」
彼は歩くことや登ることは得意でしたが、泳ぐことだけは大の苦手だったのです。
そんな彼の悩みを宝石たちは大笑いで返しました。
「大丈夫よ!
わたしが泳ぎ方を教えてあげるわ!」
「僕も僕も! 泳げるとすごく楽しいんだよ!」
「ダメだよ! ちゃんと教えないと!」
「じゃあこの中でいちばん泳ぐの早い宝石が教えてあげようよ!」
彼は今まで泳げないことを恥ずかしく思っていましたが、宝石たちのおかげで楽しく泳ぎ方を覚えることができました!
しかし、最後の宝石は深い…とても深い海の底にあるというのです。
泳ぐことができても、息だけはガマンするしかありません。
彼は海へ何回も潜るうちに、やがて海のいちばん深い所まで泳ぐことができるようになりました。
そしてついに、大きな貝殻の中で静かに眠る蒼く光る宝石を見つけます!
「いたわよ! 私の妹だわ!」
「うん! ありがとう、〝翠〟!」
手に取ると宝石は輝きだし…これまでの宝石とは違う、なぜかとても悲しそうな声でしゃべり始めます。
「私は『蒼の宝石』…。
ごめんね、ごめんね、ごめんね…」
「ど、どうしたの!? な、泣かないで!」
彼はどうして宝石が泣くのか…謝るのかさっぱり分かりませんでした。
『蒼の宝石』は彼と友達になりました。
やっと…やっと、宝石たちが揃った!
これでみんなを助けられるぞ!
ついに全ての宝石を集めた彼は、急いで神さまの所へ戻ります。
「神さま、全ての宝石を連れてきました。
ぼくたちに楽園を与えてください!」
5つの宝石たちは彼の頭の上で楽しそうにクルクルと遊んでいます。
その様子に神さまは驚いて答えました。
「まさか本当に全ての宝石を集められるとは思わなかったぞ!
よし! お前との約束を果たそう」
「「「やったー!!!」」」
神さまの言葉に、彼はとても喜びました!
そして宝石たちもまた、彼と一緒に笑い合います。
「良かったね!
これで君とまた一緒に遊べるよ!」
「ねえねえ、楽園ってどんなところ!?」
「まだ行ったことがないところ!」
「それじゃあ、またぼうけんしましょうよ!
たのしみね、蒼!」
「…う、うん…」
長い旅をしているうちに、彼らはいつの間にやら固い絆で結ばれた親友になっていたのです。
しかし…それで終わりではなく、神さまの言葉にはまだ続きがありました。
「ただし、お前だけは楽園へ連れて行けぬ」
「「「ええ!?」」」
そんな…どうして!?
彼と宝石たちはびっくりしました。
「ど、どうしてぼくはダメなんでしょうか?」
神様はとても悲しそうに答えます。
「お前の体が透明になっているからだ…」
「…あっ…」
彼はその時気づきました。
蒼の宝石と友達になった時、すでに彼のからだはボロボロで、神さまの社に着くころには透明になりかけていました。
生きものは透明になると、どこか遠くの世界へと旅立ってしまうのです。
そして…旅立った生きものは二度と同じ世界に帰ることはありません。
彼はとても残念に思いました。
それでも、他の動物たちが僕の代わりに助かるならそれで良いと考えました。
だけど、今まで一緒に旅をしてきた宝石たちにお別れをしなくちゃ…。
彼は泣かないように…がんばって最後の言葉を宝石たちに伝えます。
「宝石のみんな!
今までありがとう! とても楽しい旅だった!
…どうか元気で…っ! さようなら…」
その言葉を最後に、彼は光と共に完全に消えてしまいました…。
宝石たちはわんわんと泣きじゃくります。
「なんで!? せっかく友達になれたのに!」
「僕を置いて行かないでよ!」
「嫌だ! お出かけはみんなと一緒だ!」
「わたし、ひとりぼっちはもうイヤよ!」
「起こしてくれたのに…ゴメンね…!」
えんえんと泣き続ける宝石たちを見ていた神さまは、静かに問いました。
「お前たち、あの黒き獣を救いたいか?」
宝石たちは全員うなずきます。
「ならばお前たちが助けるのだ。
力を合わせればきっとそれは叶うだろう」
「「「チカラを…合わせる…」」」
宝石たちはたがいに顔を見合わせ、一斉にそれぞれの色へ輝き出しました!
紅、紫、金、翠、蒼…。
全ての宝石はひとつに合わさり、五色に輝く星の形へと変身しました!
「僕は『星の宝石』!
待っててね…必ず君を助けるから!」
星の宝石は五色の光と共に、はるか空の彼方へと旅立ちました。-
☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆
パタンと絵本を閉じる。
ふぅ、久しぶりに開いたけど意外と大人になっても楽しく読めるわね。
「これでおしまい。どうだった?」
レイトとルカに尋ねる。
けど2人はボケッとしている。
もうなによ、せっかく読んであげたのに。
「フレイ!」
ガバッとレイトが凄い形相で私に迫ってきた!
ち、近いわよ!
「なぁ! その続きは!?
助けに行った宝石たちはどうなったんだよ?
結局その黒いヤツって救われたのか?!」
「そ、それは読者の受け取り方次第ってことじゃない?
私は救われたと信じてるけど」
「だよな!
ていうかそうじゃないとやるせなさがヤバい…」
「そもそもさっきも言ったけど、実話をモデルにしてるストーリーが多いって言ったでしょ?
後味が悪い絵本なんてザラにあるわよ」
「マジか…」
今度はうーんうーんと頭を抱え始めた。
こいつ本当に泣いたり怒ったり悩んだり忙しい男ね。
次にルカが私の前にふよふよと浮かんできた。
わぁ…何この子かわいい…!
「礼を言わせてくれ、シュバルツァー。
お陰でまたひとつ記憶が戻った」
「本当かルカ!」
あ、レイトが復活した。
「それで、どんな記憶が戻ったのかしら?」
「ああ、私の『名前』だ。」
名前?
あれ、レイトはルカって呼んでいるけど…。
「それってもしかして、前の契約者に付けられた名前とかか?」
は、契約? どういうこと?
「いや、そうではない。
正確には『個体名』と言った方が正しいかもしれない」
「待って待って! 私だけ置いてかれてる!
いったい何の話をしてるのよ?」
2人とも悪いと思ったのか、丁寧にルカの能力を説明してくれた。
ふん、最初からそうすれば良かったのよ。
☆☆☆
「なるほど…だから『契約』ね。
あんたがあのクソドラゴンを撃退できた理由が分かったわ」
「クソって…フレイ、女の子なんだからもう少し上品な言葉を使いなさい」
ふん! うっさいわねー、私の勝手でしょ!
「それでルカ。名前は何だったんだ?」
「『翔の宝石』。それが私の本名だ」
「「ジャンプ・スフィア…」」
あ、レイトとハモっちゃった。
彼と顔を見合わせる。
そしてたがいにプッと笑ってしまった。
「……君たちは本当に仲が良いな。
今度はこっちが置いていかれた気分だ」
「ルカ! もうだからそんなんじゃないって!」
レイトが慌ててる。
何か少し面白くないわね…。
あ、と彼が何かに気づいた
「そういえば名前はそっちで呼んだ方がいいのか?」
「いや、先程も言った通りあくまで『個体名』だ。
今まで通り『ルカ』と呼べ」
「分かった! へへ、少し安心したよ」
正直、私も今の方で良かった。
だって『ルカ』の方がかわいいもの。
そこで私も、ふとある事に気づいた。
「ねぇ、レイト。
そういえばあんたはニホンでルカに触れて転移してこの世界へ来たって言ってたじゃない?」
「ああ。それが?」
「でもその時は名付けはまだだったんでしょ?」
「うん」
「じゃあどうして転移を使えたの?
契約はまだ終わっていないのに」
「あ! たしかに!」
ウソでしょ…今まで気づいてなかったの…?
「ルカ、どうなんだ?」
「……当然私もその疑問はもちろんあった。
契約なしでは力を行使できないはずだからな」
「だけど俺たちバッチリ飛んできちゃったぜ?」
「ああ。不安にさせてしまうから言うつもりはなかったが、この際仕方ないな」
不安?どういうこと?
「それってどういう意味だ?」
レイトも同じく思ったのか疑問を投げた。
「考えられる原因は2つ。
1つは単純に私の力が暴走してしまった場合。
そしてもう1つは…零人が私に触れたらここに飛ばすよう、何者かが私の座標をあらかじめセットしていた場合だ」
「「………」」
何かしら、ちょっと悪寒がしてきたわ。
こんな偶然ってある?
レイトがここへ飛ばされて、その存在を知っているドラゴンと鉢合わせて、そして今は私の絵本でルカのルーツを知る…。
どう考えても出来すぎじゃないかしら?
「なぁ、なんか俺ちょっと怖くなってきたんだけど…。
要するに、誰かに嵌められたかもしれないってことだろ?」
どうやらレイトも同じ感想のようね。
「まぁ、そうなるな。
それに記憶を失っているので、詳しい状況は分からないが、契約なしの状態でも最初に触れた時に発生するエネルギーの余波を転用すれば、転移1回くらいなら使用可能なはずだ」
「「…………」」
ブルルっと背筋が震えた。
何気に私まで巻き込まれてないこれ?
いったいどうやって私たちが出会うことまで予測したのだろう?
不安がる私をよそにレイトが能天気な事を言い始めた。
「ま、ここであれこれ悩んでても仕方ねぇべ。
それより今日は疲れたし、もう寝ようぜ」
えっ…え!?
「そうだな。他の宝石についても、推理するのは明日からでも別に構わんだろう」
ちょ、ちょっと!
「ああ。という訳で今日はありがとなフレイ。
これから世話になるよ。おやすみ」
レイトはそう言って、ルカと一緒にベッドの方へ行ってしまった。
え、私これからこの不安な気持ちを抱きながら寝なきゃいけないの?
全然寝付ける気がしないんだけど…。
仕方ないわね…。
あ、これだけは聞いておかないと!
「レイト」
「ん? なに?」
「えっとね…、今日のパーティーでいちばん美味しかった料理ってある?」
「え? ん〜そうだなぁ…。
全部美味しかったけど、特にあのサンドイッチは絶品だったよ!
なんつうか、優しい味付けがされてあってさ!
めっちゃ美味かったんだ!」
「…! そ、そう、それならいいわ。
それじゃおやすみっ」
「おう?」