第42話:ナディアのお礼
夢を見た
俺が地球で…日本で暮らしている時の夢だ
大学の退屈な講義が終わり、カフェで友達と今月中に発売する予定のゲームについて延々とだべってるという普通の夢
だけど、今はその普通の日常がひどく恋しい
俺はいつになったら地球に帰れるんだろう…
そして夢の場面が切り替わると、なぜか俺は独りで泣いていた
帰りたい
寂しい
なにより……死にたくない
不安な気持ちで胸がいっぱいだ
キュッ
突然、左手が誰かに掴まれた
ああ…暖かいな…
すごく暖かくて、気持ちいい
握られた手に応えるようにグッと握り返した
☆ナディア・ウォルトsides☆
「ナディアさん。また部屋を抜けましたね…
安静にするようにと言ったのですが」
「シルヴィアか…すまないな。
とてもじゃないが、寝床でじっとしている気分では無いのだ」
「気持ちは分かります。
まだ、目覚めませんか…」
「ああ…」
魔族と魔物による、オットー・タウン襲撃事件から丸1日が経った
私が炎獣に乗っ取られ、マミヤ殿たちと交戦後、私は気を失い、いつの間にか町長の屋敷へと運ばれていた
私は昨日の深夜に目覚め、エリザベス殿に事の顛末を聞いた
既に魔物の掃討が完了しており、魔族も2体だけだったようだ
彼女と主のジオン殿を含む、オットー町の住民から深く感謝をされてしまったが、心中穏やかではなかった
私を救ってくれた、マミヤ殿とルカ殿が未だに目覚めていない……
私のせいだ……!!
私の力が足りないせいで…
あの時…モネがマミヤ殿の危険を知らせに来て、救援に向かった時…鳥女が彼に口付けをした瞬間、目の前が黒く染まった
記憶があまりないが、モネによるとその際不完全な『覚醒』を発動し、魔力を暴走させてしまったらしい
それが原因になり、私は内にいる炎獣を『解放』してしまい、身体の自由を奪われた
炎獣は本気でマミヤ殿たちを殺すつもりではなかったが、手負いのマミヤ殿は命がけで私を取り戻そうと闘ってくれた
そのことが嬉しい反面、自分を許せない要因でもあった
「ナディアさん。
今日は遅いのでもう寝ましょう。
お体に触りますよ?」
「分かっている。
もう少しだけ…居させてくれ」
「……分かりました。おやすみなさい」
シルヴィアが部屋から出ていく
私は目覚めてからずっとマミヤ殿たちが気がかりで、ほとんどの時間をマミヤ殿とルカ殿が寝ているベッドの横で過ごしていた
だが、彼が目覚めたとして、私はどんな顔をして話せば良いのだろう…
背中の傷はともかく、彼の両手は火傷により痛々しく包帯が巻かれていた
シルヴィアが『回復』でほとんど治してくれたが、覚醒中の『炎獣』の炎は想像以上に強力だった
両手は何日かに分けて治療する必要があるそうだ
私が傷つけておきながら、その身を案じるなど…
「……たい」
「…!?マミヤ殿!」
ボソボソと何かうわ言を呟きながら、左手で空を掴むように動かしていた
「かえりたい……」
はっきりと聞こえたその言葉と一緒に、マミヤ殿の目元から一筋の雫が滑り落ちる
そのあまりにも切ない寝顔に、私の胸がぎゅうっと締めつけられた
「マミヤ殿……!」
思わず、彼の手を握ってしまった
そうか、彼はずっとこの世界で『独り』だ…
ここよりずっと、ずっと遠い世界からやって来たのだ
その孤独さは計り知れない
ギュッ
「あっ……」
私の手を…握り返してくれた
再び顔を覗くと、心無しか先ほど比べて安心したような…穏やかな寝顔に変わっていた
そんな彼を見ていると……胸の中がトクン、トクンと徐々に鼓動が速くなるのを感じる
ああ…この気持ちは、やはり…
「あーあ、ナディア君もついに落とされちゃったか〜」
「…!?モ、モネ…!いつからそこに!?」
「シーッ。夜中なんだから静かにしなよ」
人差し指を口元で立てながら静かにドアを閉じた
い、いやそれよりも…!
「先程『ナディア君も』と言ったが…
まさか貴公も…?」
「えへへー、どうだろね?
でも、マミヤ君の涙にキュンと来たのはボクも同じだよ」
モネはマミヤ殿の近くに座ると、彼の目元を指で拭った
どういうことだ?
前にもマミヤ殿が涙を流したことがあったのだろうか
「…詳しく聞かせてくれ」
「良いけど、マミヤ君と他の人には言っちゃダメだよ。
さすがに彼が可哀想だからさ」
☆☆☆
「そうか…
やはり、心の内では酷く不安だったのだな…」
「うん。この人、いつもは明るく振舞ってるけど、本当はものすごく寂しんぼなんだよ。
ルカ君のおかげで、あまり病んではいないみたいだけど」
「………」
少しだけ、ほんの少しだけルカ殿が恨めしい
彼の孤独に寄り添うことができる者はそうはいないだろう
彼女もまた『孤独』だからこそ、マミヤ殿の気持ちを理解し、傍に居ることができるのだ
私に…その資格は…
「さて、シルヴィア君にばかり負担を掛けるわけにもいかないからね。
とっつぁんほど上手くないけど、やってみますか」
「…?何をする気だ?」
「ふふん、これだよ。『水回復』」
トプン…
モネがマミヤ殿の両手を包み込むように、水の魔力で覆った
……なるほど
「……ん…」
わずかにマミヤ殿は反応して、再び寝息がスースーと聞こえ始めた
どうやら効いているようだ
「ふう…やっぱり、これ難しいなー。
回復できるのがシルヴィア君だけだから、バランスとるために覚えたんだけど…」
「何を言う。素晴らしい魔法だったぞ。
よくぞ修得したものだ。
…私にはできないことだからな。
貴公が羨ましいよ」
「へへ、ありがと」
モネは照れくさそうにはにかんだ
つくづく、情けなくなってしまう…
私は生まれつき生活魔法は全ての属性が使えるが、戦闘魔法では火以外が使用できない
昔はこの体質で悩むことは無かったのに…
今は酷く不便に感じる
「それでナディア君」
…………………………
「おーい?聞いてる?」
「…ん?ああ、すまない。何だ?」
「マミヤ君とのキス、どうだった?」
「な!!?」
いきなり真顔で何を聞いてくるのだ!?
せっかく話題に出さないようにしていたのに!
「……や、柔らかくて、ほんのり温かった…」
そして私も何を馬鹿正直に答えている!?
ああああ!!
「…ふーん、そーなんだー。
前から思ってたけど、ナディア君って結構ムッツリだね」
「な!?」
む、ムッツリ…?
自分ではそんな自覚はないが…
「キミはボクの事を『羨ましい』なんて言ってたけど、『お互い様』だよ」
モネはベッドから立ち上がりニッと、悪戯っぽい笑顔を見せた
「それじゃあボク部屋に戻るね。
おやすみナディア君」
「あ、ああ…」
パタンと静かに扉を閉じて彼女は出て行った
……キス、か
ベッドに両肘をつきながら、マミヤ殿の唇を見てみる
昨日、私は彼と…
そのことも謝らないといけない…な…
☆間宮零人sides☆
目を開けると、いつもとは違う天井が目に入った
あれ?マミヤ邸じゃない…?ここって…
あ、ベッドも違う
うーん??
頭を横に向けると、宝石の形態のルカが枕元で寝ていた
なんで宝石………あっ!!!
そうだ、炎獣と闘って…!
ベッドから身体を起こした瞬間、少し毛布が重いことに気づく
「ん…?ナディアさん!?」
「…スゥ…スゥ…」
俺の腰辺りに、彼女が頭を伏せて寝ていた
もしかして、俺とルカを看病してくれてたのか…
てかどんだけ俺寝てたんだ?
すげぇ眠ったような気がする
俺の動きに反応するようにナディアさんが起き出した
「………ん……朝か…」
「あっ、えっと…
おはよーございます、ナディアさん」
「……えっ………?」
なぜか彼女は俺を見ると、パチパチと瞬きを繰り返した
まるで死んだ人間を目の当たりにしたみたいな反応だな
「…マミヤ殿……!」
カバッ!
「えっ!?ちょっ!?」
突然、ナディアさんが俺に抱きついてきた!
ど、どうしたんだ!?
「うぅぅ……!
すまない…本当にすまない…マミヤ殿…!
私が…私が貴公たちを傷つけてしまった…!」
「ナディアさん……」
もしかしてナディアさんは、俺たちが炎獣と闘ったことを負い目に感じてるのか?
別にナディアさんのせいじゃないのに…
「うぅぅ…あぁぁぁ……!!」
ナディアさんはポロポロと大粒の涙を流して、俺の肩を濡らし始めた
あの凛とした彼女がこんなに泣くなんて……
よっぽど心配掛けてしまったのか…
…しっかりしろ、間宮零人
女を泣かせるのは最低な男だぞ
俺は首元にある、ナディアさんの頭を撫でた
「ナディアさん。
俺達が初めてあなたと会って闘った時、あの時もお互いにボロボロでしたよね。
覚えてますか?」
「………(コクン)」
「そん時も謝ってくれたじゃないですか。
それにナディアさん言ってましたよ?
『また闘おう』って」
「だが!あの時とは全然状況が違うだろう!
今回は『私』が闘ったのではない…『彼女』が闘った!
そして、貴公たちを…仲間を襲ってしまった!」
グッと俺を抱き締める力が強まった
「いいえ。
俺達はナディアさんと『試合』をしただけです。
へへ、今回も俺たちが勝っちゃいましたね〜」
「……えっ!?」
ナディアさんはバッと、頭を離して俺を正面に見据えた
俺はナディアさんの赤く腫れて濡れてる目元を指で拭った
「何度だって、あなたと闘いますよ。
ナディアさんだろうが炎獣だろうが、俺は『負けません』。
そうあなたと約束しましたので」
「……!ま、みや…どの……!
うああああ!!!」
再び号泣を始めたナディアさんは俺に抱きついてきた
ああもう…
これ以上泣かせない為に言ったのに…
やっぱりダメだなー俺ってやつは
☆☆☆
「……実はもうひとつ、謝らなければならないことがある」
「ん?なんですか?」
そのまましばらくして、ナディアさんは俺から身体を離すと、恥ずかしそうにモジモジしながら言ってきた
「そ、その…!
私は貴公と…キ、キキキ、キスを…!」
「は…?キス…??……あっ!!」
思い出した!!
そうだ、意識を失う前、炎獣のヤツが無理やりナディアさんと俺をキスさせやがったんだ!
その光景がばっちり頭に蘇り、顔が熱くなってきたのを感じる
「え…えと…
こ…こちらこそすんませんでした!
こんな野郎とキスなんて…」
「き、貴公のせいではない!
それもこれも全部、炎獣が…!」
「あはは…でも、安心してください。
もし同じような状況になったら次は必ず避けるんで!」
「……えっ……」
俺が拳をグッと握って誓いを立てると、ナディアさんは紅くなった顔が一転して、今度は世界の終わりみたいな顔になった
あ、あれ?
なんか思ってた反応と違うな…
「…貴公は、私とするのは嫌なのか…?」
「へっ!?
いや、別に嫌ってわけじゃあ無いですけど…
でも、そういうのって…」
「わ、私も嫌ではない!
だから…そんなこと、言わないで…」
俺の言葉を遮ると、突然ナディアさんは俺の首に手を回してきた
ちょ…!?
「これは今回の『私からのお礼』だ…
今はそういうことにしてくれ」
「ナ、ナディアさ…んむっ!」
唇にとても熱く、柔らかい感触が押し当てられる
昨日に引き続いて、2回目のキスをしてしまっている…!
「……ん…はむ…ん」
ナディアさんは俺を軽く唇で挟んだり、吸ったりしてきた
ちょっとディープなやつ…
え…すごい上手なんだけど…
や、ヤバい…色々と、ヤバい
俺の…『男』の反応が強まってきている…!
「良い度胸だなウォルト。
よりにもよって宝石が寝ている横で堂々と人の契約者の唇を奪うとは」
「「えっ!?」」
ルカ!?
お、起きてたのか……
ボン!
ルカは宝石の形態から蒼の女性に変身すると、ずいっとナディアさんに顔を近づけた
「さて、君には色々と言いたいことはあるが…
まずはよく戻ってきてくれたな。心配したぞ」
「あ、ああ。その節は本当に申し訳ない…」
「構わんさ。
零人が言ったように、もし次また身体を炎獣に乗っ取られたとしても、何度でも救ってやる」
「ルカ殿…」
ジーンと、ナディアさんは目元を潤わせた
ルカはニコッと笑うとナディアさんの頭に手を置いた
「だが、それとこれとは話は別だ。
次また私の前で零人にキスをしたら、君を空にある太陽へ『転移』させてやるからな」
ルカは笑顔のまま頭に置いた手を、アイアンクローのように掴みだした!
メキメキメキ!!
「ルカ殿!?痛い痛い痛い!!
わ、分かった!しないから許してくれ!!」
「ふん」
不機嫌そうにルカは鼻を鳴らすと、手を離して俺の隣に座った
お、おっかねぇぇ…




