第39話:炎獣《イフリート》の亡霊
☆間宮零人sides☆
ルカに装備を託したあと、俺は魔物の手から逃れるため近くの民家の屋根へ転移して隠れている
…背中にくらった魔法は今もなお、ズキズキと俺を蝕んでいる
イザベラの骨で串刺しにされた時よりはマシだけど、痛いもんは痛い
できることならシルヴィアと合流したいところだが…
「い、いやっ!来ないでぇ!!」
「…!?」
建物の下から女性の声が聴こえてきた
俺が今いる建物を挟んで、ルカたちが闘ってる所とは反対の場所だ
見てみると、数匹の『小鬼』達が町民の女性へにじり寄っている
まずい!!
「おいルカ!ザベ…いっ…つ…!!」
だ、ダメだ!
大声を出そうとすると背中が痛む!
転移で2人を呼びに行く暇もない
俺が助けなきゃ…!
覚悟を決めて、小鬼の頭上へ座標をセットする
よし…行くぞ!!
ブン!
「ギャア!?」
ドゴ!!
小鬼の頭を掴み、転移の勢いに任せて地面へ叩きつける
小鬼と闘うのは初めてだけど、少数なら余裕で蹴散らせる魔物だとナディアさんが教えてくれた
敵の武器はこん棒、数はあと2体か…
「オ、オマエ!?ドコカラキタ!」
「えっ!?」
喋った!?
カタコトで聴き取りづらいけど、たしかに今言葉を発した
…いや、躊躇うな!
油断すればどうなったか、つい先程経験したはずだ!
ガシッ!
「グガァ!!ハ、ハナセ!!」
「離さねぇよ!くたばれ!!」
ブン!
余計な問答はさせずに、小鬼の胸ぐらを掴んで、転移を使い、もう一体の小鬼へ向けて投げ飛ばした
壁にサンドイッチになるように角度を調整したおかげか、狙い通り、もう一体は押し潰せたようだ
すかさず、地面に落ちている小鬼のこん棒を拾う
「ギャッ!」
投げ飛ばされた奴は、頭を振りながら下敷きになった小鬼を踏みつけて、俺を威嚇し始めた
「ニンゲンメ…!コノ…ナッ!?」
「うおらぁ!!」
バゴン!!
こん棒を力任せに思い切り振り抜き、小鬼へクリーンヒットさせた
…頭部がモロに陥没したのが分かる…
イヤな感触だ…
それよりも…クソ、背中の傷が…
こん棒を投げ捨て、襲われていた女性の所へ近づいた
「はぁ、はぁ…お姉さん、大丈夫?
怪我はない?」
正直自分の怪我でいっぱいいっぱいだが、安心させるようできるだけ気丈に振る舞おう
しかし彼女の返答は、俺が予想していた反応ではなかった
「…あなた、小鬼の言葉が分かるの?」
「え?は、はい…」
「そう」
女性は先ほどまでの怯えた様子はすっかり消え失せ、興味深そうに俺の身体を観察し始めた
…なんだ?何か様子がおかしい
前にもこんな事があったような…
「町の真ん中で暴れている炎獣の女を釣れれば良かったけど、これはこれで思わぬ収穫ね」
「…?あの?」
「イザベラ様が熱心になっているという黒の男…
どんな不細工かと思ったけど、なかなか可愛いじゃない!」
ゴゥ!!
女性は唇をペロリと舐めまわすと、全身からどす黒い魔力が吹き出した!
クソッ!嵌められた!!
小鬼とグルだったのか…!
「アハハハハハ!!!
イザベラ様は『連れてこい』って命令してたけど、ちょっとくらい味見しても良いわよねぇ!?」
黒い魔力が弾けると、亜人の女の形態では無くなり、空中に留まっていた
女の頭を持ち腕の羽根で空を翔ける魔物…『鳥女』
いや、さっきの魔力から察するにこいつは『魔族』だな…
以前にも似たような状況で、ガルドにいる頃に『蛇女』に襲われたことがある
かなりの移動速度だったけど、転移には流石について来れなかった
けど、この魔物は空を飛びやがるからタチが悪い
空を飛ぶ魔物はどいつもこいつも眼がよく、一瞬で獲物を捉えることができる
キロ単位で転移しなければそいつらから逃げるのは厳しい
というか転移しようにも、さっきの戦闘でだいぶエネルギーを使ってしまった
万事休す…
「さぁ、坊や!
大人しくしてくれるなら、私の『処理道具』としてしばらく生かしてあげてもいいわよ?」
「…抜かせー。
アンタの腐れ〇〇〇に、俺の『ご立派様』が適合するわけねぇだろ。
そんなにヤりたきゃ、そこで転がってる小鬼の小枝でもしゃぶってな」
「へぇ?なかなか言うじゃない。
こう言っちゃなんだけど、あなたはあまり女性経験が無いように思えるのだけど?」
「…………」
ちっ…
思ったよりクールだ
挑発に乗ってくれないタイプの魔物だな
怒りに任せて突っ込んでくれたなら、いくらか勝ち目はあったんだけど
「恐がらなくてもいいわ…
私、ニンゲンは好きよ…?」
鳥女は顔を歪めて嗤い始めた
……ドラゴンとは別の意味でトラウマになりそうだ
人化魔法が解けていきなり人外こんにちはーはマジで怖い
「前に俺を襲った蛇女も似たこと言ってたよ。
俺に色仕掛けすんなら、巨乳にしてから出直してきな」
再び挑発を口にしながら、残り少ないエネルギーを右眼と右手に回した
脆弱性は…鳩尾か
「減らず口ね…ますます気に入ったわ。
あなたを滅茶苦茶にした時どんな顔になるのかしら?
ああ…考えただけで、濡れてきちゃう」
女は腰をくねらせて恍惚とした表情を見せ始めた
…ないな、流石に
「………キッショ」
あ、やべ声に出た
しかし鳥女は俺の呟きを気にもとめず、自身の翼に魔力を纏わせた
「アハハハッ!
死なない程度になぶってあげるわ!
『暗黒風撃』!」
ゴゥッ!!
「ぐっ…!!」
闇属性と風属性の合わせ技か!
急いで座標を鳥女の頭上に作成する
ブン!
空を飛んでいる更に上から出現し、鳥女の頭部に狙いを定める
『融解』じゃないから空中戦は無理だが、地面に落としてさえしまえばこっちのもんだ!
「あら、情熱的なのね」
「なに!?」
ガシッ!
俺の動きを予測していたのか下半身を上に向け、鉤爪の付いた足で俺を受け止めやがった!
くっ、迂闊だった…!
さっきの小鬼の戦闘を間近で見られていたんだった!
「うふふ、つーかまえた♡ さ、行くわよ」
鳥女はそのまま羽ばたき、町の外へ進路をとりはじめた
やべぇ!このままじゃ…
「『黒炎弾』!」
ドン!
「キャア!?」
突然、鳥女の頭部に魔法が炸裂した
バランスを崩し、俺を抱えながら墜落する
この魔法は…!
「マミヤ君!大丈夫!?」
「待っていろ、マミヤ殿!今助けるぞ!」
「モネ!ナディアさんも…!」
仮面を付けたモネとナディアさんだ!
来てくれたのか…!
「あなた達…!何よさっきの魔法は!?
『黒獄犬』が裏切った…?」
「ちがいまーす。今撃ったのはボクだよ」
モネは両手に黒炎の魔力を纏わせた
…多分さっきのは全然本気じゃなかったな
俺が近くに居るからだろう
どうにかコイツの拘束を解かなければ…!
「貴様…!手負いの戦士を痛ぶるなど…!
今すぐその男を離せ!」
ゴゴゴゴ!!!
ナディアさんから更に濃い赤い魔力が放出した
…うわぁ、かなりキレてる
「……?へぇ、そういうこと。
この子はあなたのオトコなのね?」
ギュッ!
何かに気づいた鳥女は俺を抱え込むように密着してきた
ぐえっ…暑苦しい!!
「…!?何をしている!」
「うふふ、さぁ、炎獣さん。
動くんじゃないわよ。
それ以上近づいたらうっかり首を折っちゃうかも?」
「…貴様ァ!」
「ナディア君!ダメ!落ち着いて!」
このチキン女、俺を人質にとりやがった!
ナディアさんに迷惑を掛けるくらいなら…
「ナディアさん!
俺に構わずぶっ飛ばしてください!」
「な、何を…
そんなことできるわけがないだろう!?
いいから大人しくしていろ!私が…」
「あらぁ?ダメよ、余計なことを言っちゃ。
そんな悪いお口は塞いであげようかしら」
「あぁ?…ふむっ!?」
何を思ったか鳥女は俺に顔を近付けて、キスをしてきやがった!
「ん…んむ、…ん」
さらに無理やり舌をねじ込まれ、口腔内を蹂躙される…
さ、最悪だ……
プツン
…ん?何か今聴こえたような…
…って、そうじゃない!
いつまでキスしてんだこのクソアマ!
ガバッ
「プハッ!て、てめぇ…!」
「んふふふ…ご馳走さま♡
さて、これから…あら?」
鳥女はナディアさん達の方を見ると目を丸くした
視線を追ってみると、ナディアさんが俯いてブツブツと何かを呟き続けていた
「…す、…す、…す…」
「んー?なぁに?聞こえないわ?」
ギン!!
「殺すッ!!!!」
「ひぃっ!?」
顔を上げたナディアさんの右の瞳が、いつもの『召喚』を使用した時の凛々しい赤色ではなく、まるでこの世の憎悪が込められた…憎しみに満ちた金色の輝きを放っていた
…それだけじゃない…
彼女の後ろに、炎に包まれた獅子のような魔物の亡霊?が浮かんでいる
まさか、あれが『炎獣』…?
「な、なによコイツ!?
イカれてんの!?」
そのあまりの迫力に鳥女は、逃亡しようと羽根を動かし始めた
「逃がさん!『炎拘束』!!」
ガシッ!!
右手をかざした瞬間、ナディアさんの背後から獅子の巨大な腕が伸び、鳥女を鷲掴みにした!
「あ、あつい!!
あついあついあつい!!!!!!
ま、待って!!分かったわ!
大人しく出ていくからぁ!!
だから…」
「焼き失せろ!!!『炎幕』!」
ボオゥゥゥ!!!!
「ギャアアアアア!!!!」
あれはおっさんの水幕の火属性版?
しかし、防御ではなく攻撃に使用している
と、とんでもない威力だ…
最後まで命乞いを聞かずに、ナディアさんは鳥女を炎で包んで丸焼きにしてしまった…
…?あれ?
「ぐぅぅぅぅ…!!!!」
「な、ナディアさん?」
敵を蒸発させたにも関わらず、彼女の後ろにいる幽霊のような魔物はまだ消えていない
…イヤな予感がする…
「マ、マミヤ…ど、の。いまスぐ…にゲろ!!」
「ナディアさん!?」
ボォン!!
彼女の身体が…ば、爆発した!?
「うがああああああ!!!!!」
爆炎が晴れると、ナディアさんは地面に手を付き絶叫していた
明らかに普通じゃない!
モネが仮面を外し、グイッと俺の袖を引いてきた
「マミヤ君!!
まずいよ…ナディア君の魔力が暴走してる!」




