第35話:大量誘拐事件
「よし、それでは出発するぞ。
忘れ物はないな?」
「おーけーです!お願いしますナディアさん」
ナディアさんに返事をして、王国警備隊から借りたキャラバンに乗り込み、レガリアから出発する
片道だけでも距離は結構あるため、運転はナディアさんと俺で交代しながら行くことになった
最初の目的地は国境沿いにある検問所だ
モネが帰ってきたあと詳しい事情を説明し、急ピッチで旅の支度を済ませてもらった
最初はルカがモネの力を借りたいとお願いしたのだが、首を縦に振らなかった
ナディアさんとシルヴィアが頼んでもダメで、やはりというか、俺が頭を下げる必要があった
酔っていた時にもチラッと言ってたが、彼女は俺の困る姿を見るのが快感らしい
…どうもモネと関わると、一枚も二枚も負けてしまう
しかもコイツには、昨日とんでもなくみっともない姿を晒してしまったので、いつ皆に言いふらしたりしないかヒヤヒヤさせられる
はぁ…
「どうしたのマミヤ君?
幸薄そうな顔しちゃって」
「『そうな』じゃなくて実際に薄いんだよ。
知ってるだろ」
「まぁね〜。
…もしかして、昨日のアレ、考えてた?」
「…お前、ホント頼むから!
マジやめろって…」
「…?何の話だ?」
「ナイショ♡」
「………(キッ)」
ルカは訝しげに俺を睨んだ
あああああ!
早くキャラバンから降りたい!
それかもういっそ殺してくれ!
ルカは俺の正面に座っているが、こちらに浴びせる視線はかなり痛い
このするどい目でずっと睨まれるのは堪える…
☆☆☆
レガリアの東門から出発して数時間、お昼も食べ終わり、さらに道を進んでいくと、遠くに巨大な壁がぼんやりと見え始めた
そして道なりを辿ると、門らしき建造物を確認できた
「あれが検問所か…モネ!そろそろ出番だぞ」
「はいは〜い」
ナディアさんに代わりクルゥの手網を任された俺は、後ろで寛いでいるモネを呼び出す
ノソノソと、運転席の隣にやってきた
「おー今日は空いてるね〜。
まぁ、あの国に観光目的で行く人はあまりいないけど」
「モネは行ったことあるんだよな。
軽くナディアさんから聞いたけど、実際どんな国なんだ?」
「そうだねぇ…大体はナディア君が教えた事で合ってるんじゃないかな。
ボクも初めて入国した時は、それはそれは酷い扱いだったんだよ」
「…はァ、そうか。
大丈夫かな、こんな大所帯で…」
「アハハ、多分なんとかなるよ。
任せといて!」
モネは控えめな胸に拳を置いて、頼もしく応えた
…悔しいけど、今はコイツに賭けるしかない
「それで、検問所を抜けた後はどうするのだ?
先発隊との合流予定ポイントの、王都『ノルン』まではそれなりに距離があるようだが…」
バンからひょこっと顔だけを出したルカがモネに尋ねた
コラコラ、危ないからやめなさい
「さすがにいきなり王都までは行かないよ〜。
検問所からいちばん近い町、『オットー・タウン』にボクの知り合いが居るから、まずはそこで情報収集はどうかな?」
「そうですね。
クルゥ達も疲れているでしょうし…
とりあえず今日はそこで宿をとるとしましょう」
☆☆☆
「よし、通っていいぞ、占い師ラミレスよ。
また爆発なんかさせたら次こそ追放してやるからな」
「は〜い。ありがとねおじさん」
亜人の門番に許可をもらってゲートをくぐる
最初はいきなり槍を向けられたが、モネの顔を見るなりすぐにその態度は改められた
まさか、こんなあっさり上手くいくとは…
『占術士』恐るべし…
「お前、本当に顔広いんだな…
まさか、門番の奴にも覚えられてるなんて」
「へへー、そうでしょ?」
「しかし、先程の門番が言っていた『爆発』とは…?
いったい何のことだ?」
ああ、そっかナディアさんはこの話を聞くのは初めてか
言うて俺らも、まだ詳しくは聞いてないけど
「ボクの占いついては前に説明したよね?
星の導きを蔑ろにすると『不幸』が訪れる…」
「ああ、もちろんそれは覚えている。
…待て、まさか…」
ナディアさんは戦慄するように無言で尋ねると、モネはニッコリと頷いた
「うん!実はその『爆発』をさせたのが、今から行こうとしてる『オットー町』で暮らしてる、元依頼人さんなんだ」
「マジか!?
お前、そんなことやらかしておいて良く顔出そうと思ったな…」
「いやいや、ちゃんと彼にはボクの占い能力の説明はしたし、完全な自己責任だよー。
それにあの人、マミヤ君に負けず劣らずの『不幸大好きマン』だから、別に恨んでなんていないと思うよ」
「は、はぁ?『不幸大好きマン』…?」
なんだその物騒なマゾ野郎は…?
これからそんな奴に会いに行くの?
「コホン…あの、レイトさん。
その元依頼人さんと貴方が鉢合わせたとき、どんな『化学反応』が起こるか分かりません。
…できれば離れててもらえると助かります」
「ひどい!」
シルヴィア見捨てる気満々じゃねぇか!
いや、俺だってそんな情報聞かされて会いになんて行きたくないよ!
憤慨する俺をシルヴィアが遠ざけると、モネの方に顔を向けた
「ところでモネさん、検問所を通る時に渡されたこの腕章はなんですか?」
「人族がこの国で活動する時にそれを付けてないと、即通報されてしまうんだ。
だから、できるだけ紛失しないようにしてね」
なるほど…
徹底した排他主義なんだな『亜人の国』って…
「ともあれ、最初の目的地は決まったな。
そこまで安全運転で頼むぞ零人」
「はいよ…気が滅入るぜまったく…」
☆☆☆
検問所を抜けて1時間
徐々に道は整備されていき、『亜人の国』の人達とすれ違うようになった
獣耳が特徴の『猫人族』『犬人族』や、フレイとスタンリーさんと同じ『森人族』『小人族』など実に様々だ
…案の定、道行く人に必ずガン飛ばされる
特に絡んでもいないのに、知らない人からいきなり睨まれるのはフツーに怖い
「なぁモネ。
なんでこの国の人達から、ここまで人族が嫌われてるの?」
俺が貸したスマホのゲームで遊んでる天パ女に尋ねる
コイツ、意外とスマホとかタブレット端末の扱い上手いんだよな…
少し教えただけで、すぐに使いこなしやがった
「んー?ああ、多分あれじゃない?
王都ノルンで起こった『大量誘拐事件』」
「「「『大量誘拐事件』?」」」
また随分と穏やかじゃなさそうなその単語に、俺とルカ、シルヴィアはオウム返しに尋ねた
「その事件ならば記憶している…
私が子供の頃に起きた事件だな」
「ナディアさんが子供の頃というと…
さんじゅ…」
ボウッ!!
「20年前だ!私はまだ25歳なのだぞ!?
まさか、マミヤ殿は私の事をずっと30代と認識を…?」
「あっちィィィ!!!違います違います!
ナディアさんは、俺らの中でいちばん大人っぽいからついポロっただけです!」
「それはつまり私がいちばん『老けて』見えると言ってるのと同じであろうが!」
「だから違うんですぅぅぅ!!!
てかナディアさん、俺いま運転中!」
朝に引き続き、またもや『炎獣』の炎をたくさんプレゼントされた…
どうして俺って…いつもこうなんだろう…
「今のはマミヤ君が悪いね」
「ああ、零人が悪い」
「あの、そろそろ話を戻してもらえませんか…?」
☆☆☆
炎で頭をチリチリされた俺はナディアさんと運転を交代して、シルヴィアから治療を受けながらその事件について詳しく尋ねた
「今から20年前、『亜人の国』の王都『ノルン』で、沢山の幼い子供や女の子たちが誘拐された事件が起こったんだ」
「それはまた物騒だな…」
「力の無い女子供を攫うなんて…!」
「…ふむ」
シルヴィアは魔道杖を強く握り締め、ほんの少し殺気立たせた
『聖教士』は正義と法を重んずると聞いたことがある
そういった犯罪を憎む気持ちは人一倍強そうだ
「それで、その犯人はどんな者だったのだ?」
「誘拐を実行したのは『盗賊団ベンター』。
マミヤ君が壊滅させた盗賊団だよ」
!!!
おい、ウソだろ!?
「はぁ!?アイツらが!?」
「久しぶりにその名前を聞いたな。
たしか頭領は捕まったのだったな?」
ルカがナディアさんに確認すると、運転中のため前に視線を向けたままコクと頷いた
「ああ、その通りだ。
だが、捕まったのは今代の頭領…当時の賊とは別人だ」
「え、じゃあ先代のボスは…?」
「…残念ながら未だ逃亡中だ。
手配しようにも、例の『司令騎士』の件があってな…」
たしか、盗賊団の報復を恐れて誰も手が出せなかったんだっけ
でも今は壊滅してるんだし、そこまで怖がらなくても良いような気がするけど…
「それで、盗賊団は何が目的で人を攫ったのですか?」
「もちろん金だ。
奴らは大胆にも大勢の女子供を人質にとり、『亜人の国』の王族、貴族に対して巨額の身代金を要求したのだ」
「まぁ、そうだろうな。
奴らのアジト…特に頭領の部屋は金品で埋め尽くされていた」
「セリーヌと忍び込んだ時か…」
ほんのひと月くらい前の出来事のはずだけど、随分時間が経ったように感じるな
あ、うえぇ…『怒れる竜』思い出しちゃった…
オホンとモネが咳をして、話の続きを始める
「昔の『魔族の国』との戦争で、各国が協力体制をとっていたこともあって、当時は国交も良好だったらしいんだ。
けど、その盗賊団の悪名は既に『理の国』では知れ渡っていてね…」
「なるほど…察するに、『亜人の国』は『理の国』に救援を求めた。
だが、報復を恐れた警備隊の『司令騎士』が取り合わなかった。
それにより両国間の関係が悪化し、今に至る…
こんなところか?」
ルカがスラスラと推理を披露すると、ナディアさんとモネは少し驚いたように答えた
「やーすごいねルカ君。
前からキミは勘が良いと思ってたけど、まさかここまで頭の回転が早いとはねー」
「ああ、貴公がマミヤ殿の契約者でなければ、私の副官として警備隊に就任してもらいたいくらいだ」
「ダメですよー、ルカは渡しませんからね」
「なっ!?」
ふたりから絶賛されてルカの頬が紅く染まった
ははっ、心無しか嬉しそうだ
すると、ルカはなぜか俺の隣に座り腕を絡めてきた
「…ルカ?どした?」
「………こうしたい気分なんだ」
「???」
な、なんだ…さっきは思いきし睨みつけてたのに、エラい変わりようだな…
その様子を見たモネとシルヴィアは、俺たちから距離を取り始めた
…なんで?
「我が王の名誉の為に言っておくが、あの方は警備隊へ救援に応えるよう、直々に命令を下したらしい。
だが、当時の『司令騎士』と『副司令騎士』がありとあらゆるコネへ手を回し、警備隊員たちの弱みを……貴公ら!?
人が真面目に話してる時に何をしている!!」
なるほど、こういう事か……
本日何回目かの『炎獣』の炎をいただいて、俺とルカは仲良く黒コゲになりました




