第25話:幸と不幸
俺たちは『占術士』モネ・ラミレスを連れて、喫茶店ブルー・ベルの前に転移した。
すると、左手で繋いでいるモネが目を輝かせてはしゃぎ出す。
「おおっ! これが転移なんだね!
すごいな〜、あの一瞬で遠距離を移動できるなんて」
「そりゃどーも。
つか俺たち一応仕事中なんだ。
終わるまで喫茶店の中で待っててくれるか?」
「もちろん!
あっ、マミヤ君の奢りで一杯貰えるよね?」
「てめ…明らかにそっちの方が稼いでるのに、図々しいんじゃ…「レイト!」」
名前を呼ばれたので振り向くと、フレイが店の外に居た。
おや、ルカも居るな。
2人とも何か話してたんだろうか?
「戻ったか零人。……隣にいる女は誰だ?」
「初めまして〜。
さっきこのお兄さんにナンパされてね。
ちょっと遊んであげてるんだ〜♡」
「え…あっ!?」
俺が紹介する前にモネはデタラメを言って腕に抱きついてきた!?
何してくれてんだ天パ!
フレイがゴミを見るような目になったじゃねぇか!
クソ、やっぱ無理やりにでも引き剥がせば良かった!
「へぇ…レイトってそういうボーイッシュな子が好みなのね。ふーん」
「フ、フレイ?
違うぞ、コイツとはただ取引を契約しただけの関係で…」
「『契約』!? おい、零人! どういう事だ!」
今度はルカが『契約』という言葉に過剰に反応した。
え、え?
俺、何か気に障ること言った?
「そう! ボク達はお互いの『欲望』のために、ちょっとした『契り』を交わしたんだ〜!
ねっ、マミヤ君!」
「な…な、なんだと…」
「間違っちゃいないけど言い方に悪意を感じるんだが!?」
ルカはストンと膝から崩れ落ちて、今まで見たことないほどの絶望顔になってしまった。
そして2人の表情が、般若の如く怒りに満ちたものにみるみる変わっていく。
「…あんたの女の好みが完全に分かったわ。
なんでこんな奴に私は…!!」
「…シュバルツァー、君が怒る度に零人を殴っていた気持ちが今になって分かったぞ。
この怒りはとてもじゃないが、抑え込むなどできん!!」
ルカは蒼のエネルギーを迸らせ、フレイは片手に雷属性の魔力を宿らせた。
あ、まずい…ここに居ると死ぬ!
逃げ…!
「逃がさん!」
ブン!
座標を探ろうとした瞬間、2人がいきなり近づいてきた!?
あれ、まだ俺は…いや、ルカが転移させたのか!?
「「くたばれ!(くたばりなさい!)」」
バチン!!
☆☆☆
「それじゃあ、あなたがマスターが言ってた『モネ・ラミレス』なの!?」
「うん、よろしくねフレデリカ君♡」
「えっ…なんで私の名前…」
喫茶店に入ったあと、セリーヌのフォローも借りて事情を説明した。
取り敢えず2人ともなんとか落ち着いてくれたようだ。
「あんまり気にするなフレイ。
コイツは星の導きだかなんだかで、俺達の情報を知ってるみたいなんだ」
「あっ! ほら、じっとして下さい」
「レイト君、真っ赤っかで可愛いニャ〜」
「いてっ! 触んなセリーヌ!」
「ギャハハ! ざまァねェな黒毛!」
そして俺は椅子に座ってシルヴィアから『回復』の治療を受けている。
俺のか弱いほっぺは、アイツらのビンタのおかげで真っ赤なリンゴみたいに腫れ上がってしまった。
セリーヌとリックは、そんな俺の丸くなった顔を見て面白がってやがる。
…なんか俺、こういう展開多くない?
異世界に来てから、やたらと女性に殴られてんだけど…。
☆☆☆
「さて、本題に入らせてもらう前に一応聞いておこうかな。
ルカくん、ボクの魔力はどう?
宝石に適合できる?」
「…そこまで事情を把握しているか。
ふむ…確かに特殊なエネルギー構成だが、少なくとも紅には合わんだろう」
ありゃ、やっぱりそうなのか。
まぁ、俺としてはこんな守銭奴が契約者になったら宝石が可哀想だし、適合してなくて安心した。
「えぇ…それじゃ、また振り出しってこと?」
フレイがげんなりとうな垂れる。
…はぁ、伝えるの少し億劫だな。
「いや、さっきも言ったけど、コイツとはある取引したんだ」
「「「取引?」」」
セリーヌ以外のメンバーがオウム返しに訊いてきた。
モネが首を縦に振り、詳細を説明する。
「うん。マミヤ君とルカ君がボクの付き人…助手として仕事を手伝ってもらう条件で、キミたちが探してる候補者を占ってあげる取引を結んだんだ」
「な、何ですって…!
レイト! どういう事よ!」
フレイが再び鬼の形相で掴みかかってきた!
ちょ…! また殴られたら今度こそ死ぬ!
「フレイちゃん落ち着いてニャ!
あたしが説明するニャ」
セリーヌがフレイを宥めつつ、経緯を説明してくれた。
あれ? 代わりの条件の5千万Gの事は伏せている?
セリーヌの方を見ると、彼女は俺にウインクを送ってきたり
余計な事は言わず、自分に任せろということだろうか?
…たしかにもしそれを言ったら、フレイの性格からして火山が噴火するに等しい怒りを爆発させるに違いない。
セリーヌの説明が終わると、シルヴィアとリックはモネに少し興味を持ったようだ。
「ははぁ…やはり『占術士』という存在は、どこでも需要があるのですね」
「話に聞いたが、お前さんは『竜の国』に行っていたんだってなァ?
どこの誰の依頼だ?」
「申し訳ないけど、プライベートに関わる仕事だから依頼人の素性は明かせないんだ。
信頼が第一の仕事だからね〜」
2人は納得してくれたようだが、ルカとフレイは未だに疑惑の目を向けている。
「君が零人に接触した経緯は分かったが、肝心な助手の仕事内容をまだ聞いていない。
いったい私たちに何をさせるつもりだ?」
「そうよそうよ!
というか何でレイトとルカだけなのよ!
ズルいじゃない!」
フレイは怒るところが若干ズレてるような…。
「二人にはボクと一緒に巡業をしてもらうよ。
しばらくはこの王都で仕事をするつもりだけど、そのうち別の国へ出張もあるかもしれないから、いつでも出発できるようにしていてね」
しゅ、出張かぁ…。
『竜の国』じゃなければいいんだけど。
「ふむ、それで?」
「依頼人の所へ到着したら占いのお仕事だ。
ボクの占いはちょっと特殊でね、占う内容によってはその辺り一帯が爆発する」
「ほう…ん?」
今おかしい単語が聞こえた。
『爆発』???
いや、聞き間違いだきっと。
「やる事は簡単で、占いたい事をボクが星に『尋ねて』、返ってきた回答を依頼者に伝えるだけなんだ。
だけど、依頼者がその助言を理解できないと星が怒ってしまって、その人に『不幸な事』が起こって危害を加えてしまう時があるんだ。
以前、ボクに依頼した人で、家が爆発して一文無しになっちゃった人が居たんだよね〜」
聞き間違いじゃなかった。
ルカの眉がピクピクと動いている。
「…色々と訊きたい事はあるが、とりあえずは了承しよう。
その時はどうするのだ?」
「そこでキミ達の出番ってわけさ!
もし星が怒ってしまった時は、怒りが治まるまでボクと依頼者を守って欲しいんだ」
「「………」」
俺とルカは互いに顔を見合わせ、なんとも言えない表情になる。
星に尋ねるだの爆発するだの、頭がおかしい女の話を真面目に聞いてるのがアホくさくなってきたって感じの顔だ。
「さっきから黙って聞いていればめちゃくちゃな事をベラベラと…!
レイト、ルカ!
そんなイカれた女の助手になんて付き合う必要ないわ!
私たちで候補者を探すわよ!」
フレイがダン!とテーブルを叩いてモネを睨みつけた
…正直、本当は俺もフレイに賛成だ。
イマイチ信用できない。
「んー? もしかしてボクの占いを疑ってる?」
「当たり前じゃない!」
「そっかー。
それなら今回だけ特別サービスで少し占ってあげる」
モネはそう言うと、懐から小さな水晶を5つ取り出し、魔力を宿らせた。
水晶はカタカタと動き出し、モネの前で円を描くように浮かび始める。
「『予知』」
聞いたことがない魔法の名前だ。
…何をするんだろう?
「ふむふむ…なるほどね〜。
ありがと、もう良いよー」
モネが着ているローブを開くと、5つの水晶玉は懐へ戻っていく。
え? もう終わり?
「子猫ちゃん、箒を持ってお店の外を掃除してみて。
あと、そこの大きい『蜥蜴人』のお兄さん。
キミは店の窓を全て開けて換気してみて。
きっと良い事があるよ」
モネはセリーヌとリックを占ったのだろうか?
随分とあっさりした占いだな。
「よく分からないけど、ガッテンニャ」
「オレはめんどくせーしパスだ。
元々占いなんてあまり信じねェクチだしな」
セリーヌは素直に掃除道具を持って外に出て行ったが、リックは欠伸をして店のカウンターにドカッと腰掛けた。
そんなリックの様子を見て、モネはあーあと言わんばかりに肩をすくめる。
「どうなっても知らないよー?」
「ヘッ、爆発でもするってのかァ?
起きるもんなら起きてみろってんだ」
「おい、リック。
ここはマスターの店だし、あんま物騒なことは…あれ、ウワサすればマスター帰ってきたんじゃね?」
ふと店の窓に目をやると、なにやら大きな袋を掲げたムキムキのおじさんがこちらへ歩いて来ていた。
外で掃除をしているセリーヌも気がつき、箒を持ったままトタトタとマスターの元へ走って行った。
2人が談笑していると、マスターが袋から何かの箱を取り出してセリーヌに手渡した。
受け取ったセリーヌは早速、箱を開けているみたいだ。
するとセリーヌは驚いて目を見開き、箱を持ってこちらに猛スピードで帰ってきた。
バン!と、店のドアを勢いよく開ける。
「これ見てニャ!
マスターから貰ったのニャ!」
「あら、これはアルトニウム鉱石ですか?
純度も高そうですし、とても綺麗ですね!」
シルヴィアが目を輝かせている。
アルトニウム?
はて、どっかで聞いたような…。
「マスターが今日頑張ったご褒美にってあたしにくれたのニャ!
レイト君とお揃いの装備を作れるニャ!」
セリーヌは大喜びで鉱石を上に掲げている。
装備…?
ああ! そうか俺のファルシオンか!
たしかスタンリーさんがアルトニウム製って言ってた気がする。
「あらん、セリーヌちゃんったら大はしゃぎね。
みんな、ただいま帰ったわよ」
思い出したタイミングでマスターも店に帰ってきた。
肩にかけていた袋をドサッと下ろす。
あの袋に戦利品が入ってるのかな?
「みんな、今日は遅くまでご苦労様ね!
約束どおり、『巨大鳥』のお料理を作っちゃうわよ!」
「待ってたぜムキオカマ!
それを楽しみにして今日は必死に働いたんだからなァ」
プーーーーン
リックが椅子から立ち上がった時だった。
羽音を響かせて、一匹の小さい虫がリックの鼻にピトッと止まった。
「おいリック。顔に虫付いてるぞ」
「あん? あ、ほんと…おい、ムキオカマ?
何してんだ?」
「………………!」
マスターの表情が一変すると、いきなり魔力を身体に纏わせた!
なにか彼の様子が変だ…。
「い…」
「「『い』?」」
「いやァァァァァァ!!!!
あっちに行ってぇぇぇ!!」
バゴンッ!!!
「ぶべらっ!!?」
「リック!!?」
マスターが突然リックをぶん殴って厨房の方へぶっ飛ばした!
ガシャアアン!と派手なクラッシュ音をさせ、リックの尻尾だけが厨房から覗いている。
俺含む全員が唖然としてマスターへ視線を向ける。
「ハッ!? ご、ゴメンねリックちゃん!
アタシったらつい手を…」
「そういえばマスターは虫が大の苦手だったのニャ。
あたしが働いていた時も、虫が一匹入り込む度にお店を破壊していたニャ」
「「「えええ…」」」
セリーヌが困った顔で真相を教えると、その様子を見ていたモネが突然爆笑した。
「アハハハ!!
相変わらずだねぇー、ベルさん!
お久しぶりー!」
「え、ええ!?
あら、モネちゃんやっと帰って来たの!?
ヤダ、久しぶりじゃない!」
先程リックをぶっ飛ばしたことを忘れるかのように、二人は談笑している。
…さすがにリックが不憫過ぎる。
俺とシルヴィアは厨房でのびているリックを介抱した。
☆☆☆
シルヴィアの魔法でリックの意識を取り戻す間に、マスターも交えて仕事の話に戻った。
「それで、どうかな?
これでボクの占いを信じてくれたかい?」
「…ええ。非常に不本意だけどね」
フレイはしぶしぶモネを認める。
たしかに占いは当たった。
モネの助言を素直に聞いたセリーヌは良い事が舞い降りたし、聞かなかったリックには鉄拳が舞い降りた。
…家を爆破させた奴って、いったいどんな占いを依頼したんだろう?
「あなた達、モネちゃんの占いを疑ってたの?
ダメよ、彼女の占いは必ず当たるから、ちゃんと聞いておいた方が良いわ」
マスターは指を立てて、みんなに警告した。
はい、リックを人柱にしてよく分かりましたよ。
「とまぁ、こんな感じで不幸な目にあう人をキミ達の能力で守ってあげて欲しいんだ」
ルカは腕を組んで、モネをじっと見ている。
「君の魔法の特性は充分理解した。
たしかに状況次第では、私たちの力が役立つだろうな。
良いだろう、話に乗ってやる」
ルカがOKを出すと、モネはニッコリと笑って立ち上がった。
そして店のドアまで歩き、手を振る。
「それじゃあ、巡業の時にまた連絡するよ。
それまでは今までどおり冒険頑張ってね。
バイバーイ!」
モネは外套を被って店をあとにした。
☆☆☆
「モネ・ラミレスかー。
なんというか嵐みたいなやつだったな」
「本当よ! 私、あいつ嫌い!」
「だが、奴の占いは本物だった。
伊達に『占術士』を名乗っていないな」
中途半端だったセリーヌの買い出しを済ませて、カウンターで一息をつく。
相変わらずフレイはプンスカのままだが、ルカは少しだけ見直したようだ。
あ、そうだ助手の件のこと謝らないと。
「えと、ごめんなルカ。
勝手にお前まで巻き込んじまって…」
「気にするな。正直、別に私は怒っていない。
君が私を頼ってくれている…。
相棒としてむしろ嬉しいよ」
ルカは切れ長の眼を柔らかくして、俺の顔へ手を添えた。
ルカ…。
互いに見つめ合っていると、フレイが口を尖らせて間に入ってきた。
「ちょっと!
なに二人だけの世界に入ってんのよ!
ルカ、抜けがけはダメだからね」
「ああ、分かっている」
「『抜けがけ』? 何のことだ?」
「「なんでもない」」
???
なんだろう、ハブられてるみたいでちょっと寂しい。
「皆さん、リックの意識が戻りましたよ」
シルヴィアが治療を終えてリックと一緒に戻ってきた。
リックは頭をブルブル振りながら、コキコキと首を鳴らす。
「うう…スゲェ威力だったぜ…。
やるなムキオカマ。さすが傭兵だぜ」
「リックちゃん、本当にゴメンね!
重ねて謝るわ」
「ハッ、良いってことよ。
なんせこれから『巨大鳥』が食えるんだしなァ」
リックが舌を出して口の周りを一周させる。
…が、何故かマスターの表情が曇ったままだ。
「…あの落ち着いて聞いてね?
アタシがさっきあなたを吹っ飛ばした先がキッチンだったから、お鍋とか調理器具が壊れちゃって、その…お料理ができないのよ…」
「な、なんだと!?
そんなバカな…オレは何のために…?」
「リ、リック…」
リックは膝から崩れ落ちて、この世の終わりみたいな顔になってしまった(なんかデジャヴ)。
そこまで楽しみにしていたのかお前…。
考えてみれば、今日は一人で頑張って厨房こなしてたもんな。
んー、やっぱりちょっと可哀想だな。
仕方ない何とかしてやるか。
「ベルさん、それなら『マミヤ邸』に来ませんか?
給仕係のナディアさんに事情を説明すれば、厨房ぐらい使わせてくれると思います」
「良いの!? 助かるわん!」
「黒毛…おめェ…!」
マスターとリックの目がキラキラと輝き出す。
自宅で創作料理してみんなで食べる…うん、絶対楽しいな。
まぁ、ナディアさんには朝の件で怒られると思うけど…。
「レイトさん、ありがとうございます。
夜分遅くはありますが、お邪魔しますね」
「おう。ていうかどっちみちお前ら二人とも住む予定なんだし、遠慮する必要なんてないよ」
「ふふ、そういえばそうでしたね」
「そうと決まれば早速準備して行きましょ!」
俺たちは喫茶店を閉めたあと、着替えてからみんなを連れて『マミヤ邸』へ帰った。
…ったく、今日は闘ってもいないのにどっと疲れたぜ…。




