第16話:引っ越し
『マミヤ邸』を出た後、俺達は5区を抜けて2区の繁華街でご飯を食べることになった。
フレイが大金を得たため、今回はちょっとお高い贅沢な店をチョイス。
席についたタイミングでちょうどルカも目覚めたので、事の顛末を説明しつつみんなで料理を待っている。
「なるほどな、ウォルト総隊長が変な服を着用しているのはそういうわけか。
フン、良かったじゃないか零人?
初クエストの報酬で資産と侍女を得られて」
「成り行きだ成り行き!
てか、金はフレイのもんだから!」
寝起きだからか、ルカは若干まだ不機嫌な様子だ。
まあ、何か食わせれば元に戻るべ。
「でも、そうなるとパーティにはあなたも加入するっていうこと?」
「いや、あくまで私は『王国警備隊』の所属だ。
謹慎中とはいえ、勝手に冒険者になっては面目が立たんだろう」
「ニャア…ちょっと残念なのニャ。
新しい仲間ができて嬉しかったのニャ」
王様がナディアさんに下した『処分』は俺たちへの給仕…。
さすがにこっちの事まで手伝わさせられないか。
「だが、私の力が必要ならばいつでも頼ってくれ。
『給仕』という名目で貴公らについて行くのは問題あるまい」
「ナディアさん…」
めちゃくちゃ助かる。
俺達のパーティーはわりと変則的な構成だ。
フレイは近接と遠距離どちらにも対応可能だけど、俺とセリーヌはあまり肉弾戦には向かない技能だ。
あの圧倒的な『炎獣』の力を借りられるのは心強い。
「ねぇ、そういえばなんで警備隊から盗賊団の依頼を出したの?
あんなすごい魔法を使えるなら、そんな必要なかったと思うんだけど」
「そうだな。
だいぶ私達を手こずらせてくれたな。
君の戦闘力ならば、盗賊団の首領など取るに足らないと思うが」
フレイとルカは若干不満そうに質問する。
二人はあまりナディアさんをよく思ってないのか?
「愚問だな。私とて奴と闘ってみたかったさ。
だが、警備隊の『司令騎士』がそれを許さなかったのだ」
「こまんだーニャ?」
「ああ、私の直属の上司というか、警備隊の中で最も権力がある階級なのだ。あれには流石に逆らえん」
ナディアさんはぐぬぬと、悔しそうに拳を握る。
どんな人なんだろう?
「何でナディアさんが戦ってはダメだったんですか?」
「奴らに手を出すと身内の者に報復を受けるという話を聞いたことはあるか?
『司令騎士』もそれを恐れていたクチでな、手出しは一切しないよう警備隊全隊に命令を下したのだ」
「…なるほど」
それじゃあの時、もしディンゴに逃げられていたら俺も危なかったのか?
いや、この世界に身内も財産もないから、別に狙われる心配はないか。
「当初その依頼の報酬は金にする予定だったが、我が王の鶴の一声によりあの『邸宅』へ変更されたのだ。
勇気を持つ者に相応しい報酬としてな」
「勇気を持つ者…」
うーん、本当にあの家を受け取っていいのか分かんなくなってきたなぁ…。
盗賊のボスとやり合った時は、ただ切り抜ける事しか考えてなかったし。
「ウォルトはあの家の間取りを把握してたみたいだけど、あなたも住んでたことがあるの?」
「フフ…もし住めたなら光栄だが、残念ながらそうではない。
警備隊の仕事がない時は、数名で邸宅の手入れと掃除を行っていたのだ」
「なるほどね。
だから生活魔法が得意って言っていたわけね」
「ああ、それと私の事はナディアでいいぞ。
これから貴公らとは長い付き合いになりそうだからな」
「そ。それなら私の事もフレイでいいわ」
ナディアさんと色々話しているうちに良い匂いが漂ってきた
やっと来たか!
「(クンクン)、料理が来たニャ!」
「うむ、待ちわびていた。
今日は久しぶりに沢山食べたい気分だ」
「ルカいつもめっちゃ食ってるじゃん…?」
今日は午後からやることいっぱいだ。
まずは腹ごしらえをしなきゃな。
☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆
昼食を食べた後、いったん私たちはそれぞれの用事で別れる事にした。
といっても皆やることは同じで、あのご立派な『マミヤ邸』に荷物を運び込むことなんだけどね。
ナディアは1区にある警備隊の寮へ、私とルカは泊まってた宿屋へ、レイトはセリーヌと一緒にあの子が住んでいるアパートへそれぞれ足を運んだ。
なんでもレイトはお城での闘いで、目に見えない所への『転移』を習得したらしく、セリーヌの荷物の移送を手伝うそうだ。
あいつ、なんだかんだ言ってちょっとずつ強くなってるわね。
私ももっと強くならないと。
「どうしたシュバルツァー?
難しい顔をしているが」
「別に、ただ零人とあの女には負けたくないって思っただけよ」
「そうだな、まったくあの赤毛ときたら…。
ぽっと出の身の分際で零人にちょっかいを出して…実に遺憾だ」
私がさっき言ったのはそういう意味じゃないんだけど、それはそれで全面的に賛成できた。
「そ、そうよね!?
いくらあいつを気に入ったからってまだ会って初日なのに、いきなり自分の身体を触らせるなんて…!」
「…そんなことをしていたのか?
ふしだらな女め…」
いけない、なんかルカと人の悪口で盛り上がってきてきちゃった。
私、こんなに性格悪かったかしら…?
「というか前々から気になっていたんだけど、あなた零人のこと好きなの?」
「それは……私にもよく分からないのだ。
この気持ちは『宝石』が契約者に抱く感情として普通のことなのか、それとも…」
「ふーん…」
私はなぜかその答えにホッとしてしまった。
零人が他の女の人と付き合う…想像したら胸の中がザワザワと騒ぎ出した。
「しかし、これだけは言える。
私は零人と離れたくない。
それだけは疑いようのない真実だ」
「そ、そんなの…私だって!」
「ふん。だろうな。
だが、君は既に零人に惚れているのだろう?
2ヶ月も一緒にいれば分かる」
な…! ほ、『惚れてる』!?
そんなこと思ってるわけ…!
「べ、別に私はレイトに惚れてなんて…!
ただあいつ見てると、ほっとけないというかなんというか…」
「まぁ君が私と同じく自らの気持ちを自覚できないというなら、これから先一緒に確かめようではないか」
「なによそれ…」
私って結婚とかそういう惚れた腫れたに興味無いはずだったのに、なんでこんなにあの男の事で悩まなくちゃいけないんだろう…。
そう考えるとだんだん腹立ってきたわね。
微妙にレイトに対してむかっ腹を抱えながら目的地に着いた。
セリーヌ・モービルsides☆
フレイちゃん達と別れて、あたしとレイト君は5区にあるあたしが住んでいるアパートに向かった。
ふー、さっき食べたばっかりで荷物を運ぶのは大変そうだけど、昨日の内に必要な物は全て荷造りしたからきっとすぐ終わるはずニャ。
レイト君に声を掛けようと顔を向けると、なぜか身体を震わせていた。
「レイト君? どうしたのニャ?」
「…何か分からんけど悪寒を感じる」
「ふーん?」
さっきの料理で変なものでも食べたニャ?
レイト君が嫌いなドラゴンの料理は出てこなかったけど。
「まあ大丈夫だ。
それよりセリーヌが住んでいるアパートってどこなんだ?」
「朝みんなで行った喫茶店ブルー・ベルの近くニャ。
マスターはそのアパートの大家さんもしているのニャ」
「へえ、そうなのか!
ある程度仕事が片付いたらまたあの店に寄ってもいいか?」
「もちろんニャ! きっとマスターも喜ぶニャ」
レイト君、マスターの店を気に入ってくれて嬉しいニャ!
はやく仕事を終わらせてレイト君にマスターの紅茶をご馳走してあげたいニャ。
それからしばらく歩いて、あたしが借りているアパートの部屋に到着した。
「よっし、それじゃあパパっと運び出しますか!」
「ガッテンニャ!
あたしの部屋は小さいからそんなに荷物はないニャ」
「ああ、けど俺まだ遠い所への『転移』は覚えたばっかだからさ。
少しずつ持って行こうぜ」
「なるほどニャ。
それならあまり無理しないでニャ」
ポンポンと背中を叩くとレイト君はあたしの頭を撫でてくれた。
えへへー、気持ちいいニャ!
☆間宮 零人sides☆
セリーヌの荷物の運び出しを全て終えた後、マスターに報告がてら2人で喫茶店でお茶をご馳走になった。
「そう…あの邸宅ね。とても懐かしいわ」
「やはりマスターもあそこへ住んでいたんですね。
あの家は誰が所有していたんですか?」
「もちろん今の現国王、ロランよ。
当時は『ロラン邸』なんて大層な名前だったわ」
「ニャフフ、これからあたし達が王様が住んでいた家で暮らすのニャ!
ものすごくワクワクするニャ!」
セリーヌは脚をパタパタしている。
家に着く前から楽しみにしていたもんなこの猫。
「でもマスター、あたし王都で暮らしてそれなりに経つけど、あんなに大きい建物があるなんて知らなかったのニャ。
というかあそこは古い小さいアパートがあったはずニャ」
「ああそれはね、セリーヌちゃんなら分かるんじゃないかしら?
アパートに見えたのは魔法の一種よ」
「んー? 魔法?」
セリーヌは分からないみたいだが、俺には心当たりがあった。
「もしかして『擬態』じゃないか?
洞窟に潜入した時のさ」
「あー!」
「うふふ、正解よ。あの魔法はロランが掛けたものでね、特殊な魔力を込めた鍵を近づけないとその姿が見えないようになっているのよ。
一回扉を解錠すれば皆に見えるようになるけどね」
「あんな大きな建物を丸ごと『擬態』させるなんてすごいニャ!」
たしか王様の職業は『魔法士』だったか。
究極魔法をポンと使ったりしてたし、とんでもない人なんだな。
「ところで、モネちゃんには会えたの?
たしか候補者? だったかしら…?
探しているんでしょ?」
「ああ、実は不在だったみたいなんですよ。
今は『竜の国』から帰還中のようなんで、クエストをこなしながら彼女を待つことになりました」
「あら、それは運が悪かったわね」
ズズっとひと口紅茶を啜る。
ふー、染みるなぁ。
「あ! レイト君、後ろを見てニャ!
フレイちゃん達ニャ!」
「あん? あ、ホントだ」
セリーヌはブンブンと手を振ると、あいつらもそれに気付き店へ入ってきた。
「やはりここに居たか。
まったく我が契約者殿はすぐ他の女と逢瀬を重ねるな。
これだから君から目を離せんのだ」
最近ルカは機嫌が悪くなる事が多いな。
しょうがないだろ…俺以外のメンバーが女子なんだから。
「まぁ、あんたが女にうつつを抜かすのは今に始まった事じゃないけどね。
それよりちょっとこっちの仕事も手伝ってほしいのよ」
「どうした?」
「宿屋に停めてあるキャラバンと私達のクルゥを移送させたいのだ」
「おっけー。どこに運ぶんだ?」
「クルゥだけなら私だけでも運べるが、キャラバンはそれなりに大きいのでな。
まずは『同調』して屋敷の庭へ転移させよう。
次にクルゥの方は、ウォルトの住んでいる寮に厩舎があるらしいのでそちらへ運ぼうか」
俺とルカが計画を練っていると、フレイもセリーヌに用事があるようだった。
「セリーヌ、あんたは私とナディアの手伝いをするわよ。
まだ結構荷物があるみたい」
「ガッテンニャ!」
「うふふ、みんな頑張ってねぇ〜」
それぞれの仕事が決まったところでマスターに挨拶をし、店を後にした。
☆☆☆
すべての荷物の運び出しが終わり、ようやく屋敷のリビングで腰を落ち着けられた。
荷解きは明日から徐々にしていくつもりだ。
それにもう夜だ、くたびれた〜。
「皆の者、今日はご苦労だったな!
今夜は私がとびっきり精のつくものを作るので楽しみに待っていてくれ!」
ナディアさんはエプロンを付け替えると、そそくさと厨房へ消えていった。
あの人今日俺と戦ったうえに荷物を運んだりもしたのに疲れてないのか?
フレイ並のフィジカルモンスターだな…。
「あぁー、今日はかなり動いたわね。
もうクタクタよ」
「俺も引っ越し作業するの2年ぶりだったから腰が痛てぇ」
18歳の頃、華の大学生活を送るためにアパートを借りたわけだが、実家からは離れた所へ引っ越したため、周りに作業を手伝ってくれる人は居らずかなり大変だった。
「ニャニャ?
レイト君もこういう事した事あるのニャ?」
「ああ。元の世界にいる時は、俺もセリーヌと同じで一人暮らししてたんだ」
「そうなんニャ!
あたし、レイト君の世界のこともっと教えて欲しいニャ!」
お、セリーヌもこっちの世界に興味あるみたいだな。
あとでルイス君にもやらせたゲームさせてみるか。
「いいぜ。けどどうせなら、ナディアさんも一緒にメシ食うだろうからその時に話すよ」
「ニャフフ、楽しみニャ!」
☆☆☆
セリーヌに例のゲームを教えている間に、ナディアさんが料理を次々と食卓へ運んできた。
同時にみんながそれぞれテーブルに着席する。
さすが自ら料理当番をかってでるだけあって、どれもこれも美味しそうだ。
「な…ナディアがこれ全部作ったの…?
パパと同じくらい美味しそうなんだけど…」
「ああ、不覚にも私も同様の感想を抱いてしまった」
「ナディアちゃんすごいニャ!!
早く食べたいニャ!」
グゥゥゥゥゥゥゥ…
「あうっ!? 今のは…」
やば、盛大に腹の虫鳴らしちった!
今日はかなり動いたから腹ペコだ。
ナディアさんはクスッと笑うと、俺のグラスにお酒をついできた。
「ふふっ、マミヤ殿はやはり男の子なのだな。
おかわりもあるのでたくさん食べてくれ!」
つぎおわると、みんなが座っている所へ行って同じように酒をついでいった。
甲斐甲斐しく笑顔で『給仕』しているのを見てると…な、なんだかすごく申し訳ない気分だ…。
生活魔法は使えないけど、食べ終わったら片付けくらいは手伝おう。
そして、ナディアさんが席に着いたタイミングでなぜかみんな俺の方に注目する。
何かを期待するかのような目だ。
「な、なんだ?」
「えっと、いつもの音頭は取らないのかなーって」
「そうだな。
昨日も立派な口上を述べていたではないか」
なんで飲み会の幹事みたいなポジションになってるんだよ!
毎回メシのたびに言うの!?
ハァ…仕方ないなー。
「別にそんな大それた事言ってるつもりは…。
ゴホン…まぁ、今回はこんな立派なアジトを貰って、ナディアさんも仲間になったことだし、明日からはより一層気合いを入れてクエストをこなしていこうじゃないか。
じゃあほら、みんなグラス持って!」
俺が号令を掛けるとみんな手にグラスを掲げた。
「新しい居城と仲間に、乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
☆ナディア・ウォルトsides☆
マミヤ殿の乾杯の音頭が終わると、みんな一斉に私の作った料理にかぶりつくように食べ始めた。
「うまっ!? ナディアさん、このレバーめっちゃ美味いです!」
「ぐぬぬぬ…!
私より戦闘力あるのにまさか生活力まで上なんて…屈辱だわ」
「なんてことだ…。
味もシュバルツァー村長の料理と並ぶ程とは…」
「美味しいニャ〜!!
お昼に行った店も美味しかったけど、ナディアちゃんのお料理の方が好きニャ!」
ふふ、今回はあまり時間が無かったから、下処理の要らない料理に限定されてしまったが、どうやら気にする事は無さそうだ。
なにより、マミヤ殿が美味しそうにパクパク食べているのを見ていると作ったかいがある。
我が王に謹慎を命じられた時はかなり落ち込んでしまったが、『給仕』の仕事を新たに任命されて本当に良かった。
それからはマミヤ殿の世界の事や、フレイ殿の村に住む強者達の話を聞いたりして、楽しい晩餐の時間は過ぎていった。
作った料理を余すことなく皆が食べてくれたあと、ありがたいことにあと片付けをマミヤ殿がかってでた。
マミヤ殿は身体に魔力が無いため、生活魔法が使えないと聞いていたので、最初は断ったがどうしてもと頭を下げてきた。
そ、そこまでしなくても良いのだが…。
「私は『給仕』として働いてるので気にする事はないのだが…なぜ手伝ってくれるのだ?」
「まぁ、俺はそういう性分なんで気にしないでください。
料理がとても美味しかったので、少しでもお返ししたかったんですよ」
「そ、そうか。
それなら貴公はこちらの皿を洗ってくれるか?」
「了解です!」
マミヤ殿は厨房の流し台に設置してある魔道具を使い、食器の洗浄を始めた。
おや、意外と手際が良いな…。
以前にも手伝っていたのだろうか?
もくもくと片付けをしているとマミヤ殿が質問をしてきた。
「そういえば俺、最初に食べたレバー気に入ったんで、自分でも作ってみたいんですけど…。
あれって何のお肉なんですか?」
「ああ、あれか。ふふ、聞いたら驚くぞ?」
「…? そんなに高級だったんですか?」
「そうだな…。
あまり口にする機会はないだろうな。
あれはな…」
「あ、あれは…?」
ごくりとマミヤ殿はつばを飲んだ。
間をためて、答えを口にする。
「なんとフレイ殿が狩った『怒れる竜』なのだ!
ちょうどギルドの調査隊が運んでいるのを見かけてな、解体したのを…マミヤ殿!?」
「………ドラ……ゴン……」
なぜか彼はその場に倒れてしまった…。




