第180話:親の顔
「ただいまお茶をお持ちしますね。
どうぞお好きな席へ掛けてくださいな」
「あっ、おかまいなくー」
ぺこりとお辞儀をして、客室から出ていくマキオンさん。
…うーん、やっぱりザベっさんとクリソツだ。
外見はもちろん、何気ないお辞儀の所作や発する声ですら、彼女を思い起こさせる。
「あの人がエリザベスの母親なのね。
私のママとは正反対みたいな人だわ」
「おっとりしたところは娘とは似てないけど、後ろ姿だと判別付きにくいかもな」
「しかし、血の分けた肉親のスキンシップというものはあれが普通なのか?
シュバルツァー家ではそんな光景は見なかったが…」
「んなわけないでしょ。
溺愛も溺愛、はっきり言って異常よ」
「ふむ…。となると、センチュリーが不機嫌に化した反応は正しいということか」
俺の両隣りにいるルカとフレイは、好き勝手にザベ家のことを評価している。
たしかにちょっと過激なスキンシップだったけど、それほど家族を大事にしてる証拠ってことだべ。
「でも、アタシのお兄ちゃんもあんな感じで可愛がってくれたニャ。
毛繕いしてくれたり、追いかけっこして遊んでくれたり…すごく楽しかったニャ」
「あ…」
セリーヌが目尻に涙を浮かべて語る。
そうだ、セリーヌの兄貴は魔族に殺されたんだっけな。
悲しい記憶掘り起こしちまったか…。
「私の両親は…皆の家庭ほど穏やかではなかったな。
幼き頃から貴族としての学を叩き込まれて…。
親子らしいやり取りは一切なかったな。
おかげで今のようなポストに付けさせてもらっているが」
フッ…と、少し嘲笑するナディアさん。
前に聞いた話では、ナディアさんの家系はかなり厳格な貴族らしい。
将来を家族に決められるのは流石にキツいだろうな…。
「その気持ちは分かるぞナディア嬢。
俺も民の期待に応えなければならない立場だからな。
…親に甘えるなど滅多にできなかった」
そんな彼女に同調したのは、同じく貴族の身分を持つテオ。
彼もセリーヌと一緒で、既に肉親は他界してしまっている。
「私は…みなさんが羨ましいです。
私、修道院育ちなので本当の親の顔も分からないし…」
ピシリ!
「「「…………」」」
シルヴィアのひと言で場が凍りついた。
や、やべぇ…!
こんな時どんな言葉掛ければいいんだ!?
すると、彼女の隣に座っていたリックがポンと、頭に手を乗っけた。
「なァに辛気臭ェこと抜かしてんだ栗メガネ。
おめェが今居んのはココだろうが。
オレだって親の顔なんぞより、パーティーメンバーの顔の方が腐るほど見てんだからよォ。
冒険者ならそれが普通なんじゃねェのか?」
「リ、リック…。ありがとう…」
リックー!!!
珍しくお前にしては良い事言うじゃねぇか!
見直したぜこの野郎!
ゴツい手でワシャワシャとされるシルヴィアはすぐに払い除けたが、その顔は満更でもなさそうだった。
考えてみればこの二人は、俺らと出会う前からの付き合いだもんな。
俺らよか、よっぽど互いのことを理解しているんだろう。
…ちなみにカーティスのやつは興味が無い話題だったのか、アホ面で居眠りこいていた。
☆☆☆
ガチャリ
みんなそれぞれの家族について話し合っていると、客室の扉が開いた。
あ、マキオンさん戻ってきたのかな?
「皆さまは良いご家庭をお持ちようですね」
「「「!?」」」
ザベっさん!?
あれ、さっき拘束されてたんじゃ…?
「うふふ、お待たせいたしましたわ。
ほら、エリーも早く座ってちょうだい」
「おか…いえ、〝母様〟。 私も配膳を…」
「もう、そんなの良いのよ。
この村にいる間は『戦乙女』のことは考えなくて構わないわ。
それにせっかくこんなに素敵なお友達がたくさんいらっしゃったんだから、改めて私に紹介して欲しいわ」
「……分かりました」
ザベっさんはすごすごと、俺のちょうど迎えの席へ着席した。
同時にテキパキと、マキオンさんが俺たちのテーブルへお茶と菓子を配膳していく。
よし、その間ちょっと聞いてるか。
「ザベっさん、どうやってあそこから脱出したんだ?」
少し身を乗り出して小声で話しかけると、チラッと自分の母親に視線を投げた。
「母のおかげです。
現在あの男どもは、母の手によって霊体を拘束されています」
「…大丈夫なのそれ?」
「さあ…、どうなろうと私の知ったことではありませんゆえ」
ムスッと、今だに機嫌が直っていないザベっさん。
まあ…あの絡みなら当然の反応か。
「さあ、みなさん!
冷めないうちに召し上がってください!
うふふ、今日は自信作ですのよ〜」
☆☆☆
「……これで紹介は以上となります」
「うふふ、ありがとうエリザベス。
ちょっと見ない間にこんなにお友達ができるなんて…お母さん嬉しいわ」
「お戯れは控えてください、母様」
ザベっさんによる『蒼の旅団』メンバーの紹介が終わった。
ひとりひとり丁寧に紹介する彼女に、マキオンさんは感銘を受けたようだ。
すると、隣にいるルカがわざとらしくオホンと咳払いをした。
「さっそくだが本題に入らせてもらう。
構わないか?」
「あら、ゴメンなさいね私ったら。
ええ構いませんわ。なんでもお聞きになって」
「うむ、私がまず最も気になることを質問させてもらおう」
気になること…。
きっとおっさんの行方だろうな。
ここにいる全員が心配に思っているはずだ。
ルカは少し間を置き、真剣な眼差しで質問を投げた。
「このお茶請けは村のどこで購入可能だ?」
俺はルカの頭をひっぱたいた。
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
今回はメンバーの家族について焦点をあてたお話です。
そしてルカは期待を裏切りません笑
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何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




