第162話:古代の魔道具
『赤の洞窟』で一夜が明けた。
翌朝の天気は良く、今日はお出かけ日和だ。
しかし昨日…俺たち『蒼の旅団』にとんでもない同行者が加わってしまった。
「ワタシ、『カーティス・バルガ』。
まあ、別に名前なんて憶えなくてもいいけど。
でもニンゲンは自己紹介するんでしょ?」
「カーティスか! よろしくな!
オレはリック・ランボルトだ!」
「あたしはセリーヌ・モービルニャ!
魔物同士、仲良くしようニャ!」
「俺はテオ・マスカットだ。よろしく…」
2台のキャラバンの前に集合し、改めて自己紹介をする人に化けた女。
そう、この世界で俺がもっとも恐れている魔物、竜族である赤竜が加入したのだ。
歓迎ムードを出しているやつはリックとセリーヌくらいで、他のみんなは若干まだ警戒心を抱いている。
もちろん俺は絶対に警戒を解くつもりは無い。
おっさんが例外なだけで、ドラゴンなんて連中はほとんど凶暴だからな。
「マー坊、いつまでそんなブサイクな顔してるのさ?
昨日も言ったけど、今のワタシは力がないからオマエラをやっつけることできないんだよ?
ちょっとくらい安心してほしいんだけどな」
「誰がマー坊だ〝非常食〟!!
こんなことならあの時、ルカに従って問答無用でブチのめせば良かったぜ…」
「あー! また非常食って言った! ヒドイ!」
カーティスはムキー!と、ワザとらしく怒った仕草を見せる。
昨日、コイツのパーティー加入に俺と一緒に反対してくれたフレイは、最後にルカが言った『非常食』宣言で納得してしまったのだ。
結果、反対派は俺1人だけとなり同行させる羽目になった。
パーティーリーダーは俺なのに…。
「バルガ。
私は君の同行に賛同したが、パーティーの戦力向上のためだ。
妙な真似をすればすぐに殺して喰ってやる。
それも逆鱗をたっぷり切り刻みながらな…。
ゆめゆめ覚えておけ」
「ひっ!? わ、分かってるって…」
しかしルカは賛成派とはいえ、なんだかんだ俺の味方のようだ。
彼女が前に俺がダミアンにしたような脅しを掛けると、カーティスは怯えた目になった。
俺からしたら、ドラゴンを脅すなんてとても信じられないんだけど…。
「ルカ殿、それはあんまりだろう…。
彼女はオズベルク殿から受けた恩に報いたいだけなのだから、そこまでぞんざいに扱わずとも…」
「いえ、ここはルカ様が正しいかと。
ドラゴンは自由で気まぐれな性格をしている個体が多いのです。
ましてや彼女は人語と人の姿を習得しているとはいえ、野生の『赤竜』。
足元をすくわれないよう警戒をしなければなりません」
庇うナディアさんをザベっさんが諌める。
そうだそうだ、ドラゴンなんて何考えてるか分かんないんだから。
「…あ、あのさぁ…オマエラさっきから好き勝手言ってくれてるけど、ワタシここの迷宮主なんだよ?
〝野生〟だなんて失礼だなぁ!」
カーティスは心外だと言わんばかりに、ザベっさんへ物申した。
でもここって、自然ダンジョンだよね…?
「フン、迷宮主っていっても、結局は魔物の集落の長みたいなものでしょ」
フレイが小馬鹿にしたように言う。
やっぱり? 俺と同じ感想みたいだ。
「えー冒険者のくせに知らないの?
オマエラがいつも嬉しそうに開けている宝箱、あれはワタシ達が用意しているんだよ?」
「「「!!!」」」
な、なんだと!?
たしかにいつも設置されてるあの箱…誰が置いてるのか疑問だったけど…。
「ナディアさん…知ってましたか?」
「いや…初耳だ。
私はランクこそ『堅』だが、冒険者としての活動期間はたった1年だ。
私にだって知らないこともあるよ」
そ、そっか…。
みんなが驚いた様子にカーティスは気を良くしたのか、ふふんと胸を張った。
「もちろん迷宮主の仕事はそれだけじゃないよ。
ダンジョン内の魔物達と罠の配置や管理。
それに自分のダンジョンの宣伝をニンゲンへ行なう仕事だってあるんだ」
「宣伝?」
「うん。なぜ誇り高いドラゴンであるこのワタシがニンゲンなんかの姿と言葉を覚えていると思う?」
「「「あ!」」」
みんなが同じタイミングで手を打った。
そうか!
人間が嫌いって言っていたわりに、人に変身できるという矛盾している理由が分かった。
「初代の迷宮主はみんなニンゲンに化けて、街や村に行って自らのダンジョンを触れ込むんだよ。
噂が広まると、冒険者ギルドは真偽を確かめるために調査を開始する。
そして存在を認知されて初めて〝ダンジョン〟として扱われるんだ!」
両手を広げてこれ見よがしと洞窟をアピールするカーティス。
ん? ということは、ミノちゃんも宣伝活動してたのかな?
あれ? でもミノちゃんは人化魔法は使えなかったはずだけど…。
「…それがまさか、うちのダンジョンじゃなくて『黒の洞窟』までやられていたなんてね…。
あそこのマスターとは知り合いだったんだ」
「それってミノちゃんのことだろ?
家に帰るって言ってたから、その洞窟に行けばまた会えるんじゃないの?」
「んー…今の牛魔獣は私が知っているヤツとはきっと別の魔物だよ。
あっちは世代交代しているはずだから、ワタシが行ったところで誰オマエ? になるよ」
それは…なんだか少し寂しいような…?
…って、相手はドラゴンだぞ!?
変に同情なんかするな零人!
「あの、ちなみにそのお宝はどのように用意しているんですか?」
シルヴィアも少し彼女に興味を持ったのか、手を挙げて質問した。
カーティスはパチンと指を鳴らして答える。
「良い質問だねシル子ちゃん!
基本的にお宝は、迷宮主自らが各地の鉱山や秘境から見繕って用意するのが通例だけど、器用なヤツだったら創作するマスターもいるよ!」
シル子って…。
創作といやあ、オズのおっさんも前に傭兵団の若い回復士くんにお手製の魔導杖をプレゼントしてたな。
彼は元気だろうか?
「ス、スゴいニャ!
あたし、ダンジョンのことは勉強していたつもりだったけど、お宝がどこから来るかなんて考えてなかったニャ!」
「ああ、オレもたまげたぜ…。逆なんだな。
ダンジョンがあっから迷宮主が居るんじゃねェ。
迷宮主が居るから、その場所はダンジョンって呼ばれんだ」
リックとセリーヌは目からウロコが落ちている。
すごい裏事情を教えてもらったな…。
冒険者を誘うためにここまで体張ってるとは。
「そして『赤の洞窟』で隠していたお宝『赤の書』はね、『黒の鍵』と同じくらい貴重なんだよ?
なにせ、古代の魔道具だからね」
「古代の魔道具?」
古い魔道具なのに貴重なのか?
金銀財宝の山の方が価値ありそうだけど。
「ああっ! それ懐かしいです!」
「どうした栗メガネ?」
「ほら! 私たちが初めて昇級したクエストですよ!
あの時も古代魔道具の納品だったじゃないですか!」
「お、おう…、そうだったな」
珍しく興奮したシルヴィアにリックが少し引いている。
そういやそんなことも昔言ってた気がするな。
たしか『リニオン遺跡』とかなんとかって言ってたか?
「おや、シル子とリク坊は知ってるの?
古代の魔道具は、その名の通り古から伝わる魔道具で、すごく貴重なんだよ。
あれを見つけて用意するのどれだけ大変か」
偉そうに語らうカーティスの言葉に、皆が耳を貸している。
アシュリーの持っていた『黒の鍵』はめちゃくちゃ高価とは聞いていたけど、まさかあれが元々ダンジョンのお宝だったとはね。
「…だからもし、これから行く先に魔王がいるなら、その時はウチのダンジョンに手を出したことを後悔させてやるんだ…」
「カーティス…」
彼女の鋭い瞳の中に、ドス黒い復讐の炎が燻っている気がした。
…俺も考えを少し改めるか。
ここに居るのはただのドラゴンじゃなく、今は〝亡き〟ダンジョンの主だと。
少しだけ…ほんの少しだけ、彼女を信用してみよう。
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
今回のお話で『赤の洞窟』編は終わりです。
『赤の書』とはどんな物かは、のちのち…笑
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何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




