第131話:売名行為
俺があられもない醜態を晒したあと、ザベっさんが皆にお茶を入れてくれた。
ああ〜…、身体中に染み渡る…。
まったりとアフタヌーンティーを楽しんでいると、オズベルクのおっさんがおもむろにカップを皿に置いて俺とルカの傍へやってきた。
つか、ドラゴンも茶って飲むんだな。
「皆の者。
これからの事について少し話がある」
「あん?」
「これからって…明日の謁見のこと?」
俺とリックの問いに、おっさんは首を横に振った。
違うのか。
「昨日、我輩は水場のあるダンジョンを中心に調査して回っていた。
その際『水蓮の湖畔』の迷宮主から、1つ情報を得たのだ」
「あ、もしかしてそれが朝言ってた…」
今度は頷いた。
亜人の国にも色々なダンジョンがあるんだな。
今度ミノちゃんのいる『黒の洞窟』にでも遊びに行ってみようか。
「そのダンジョンは数日前に魔族どもから奇襲を受けたらしい。
目的はやはり例の探し人だ」
探し人と聞いて、この場に居る何人かは頭の中に甲冑騎士を思い浮かべただろう。
「紅と黒の騎士…。
しかし、昨日我々が魔物から聞いた話では、『宴』はその二人組が居る近くで行なわれるらしいが…」
「そうなんよね。
俺もこないだから考えてっけどさっぱり分からないんだ。
どうも魔族の行動と辻褄が合わないっていうか」
俺とルカは同じポーズで腕を組んで頭を悩ませた。
あの2人が魔物をかき集めているのは間違いないと思うんだけど…。
「話はまだ終わっていない。
歳上の話はきちんと聞きたまえ」
「あ、サーセン…」
「続けてくれ」
怒られちゃった。
その様子にみんなが苦笑いしている。
うわ、恥ずかしー。
「幸い『水蓮の湖畔』の魔物たちは強く、魔族の撃退に成功した。
撤退間際、魔族が捨てた言葉の1つにこんなものがあったそうだ。
『覚えておけ。我が国の軍備は徐々に整いつつある。
魔王様が復活した暁には、貴様らも取り込んでやる』」
「「「…………」」」
おっさんのその言葉に全員が息を呑んだ。
軍備だと?本当に戦争をおっ始める気か…?
「『取り込む』…?
どういう意味だそれは」
「詳細は不明だが、ロクなことではないのは確かだ。
貴殿らも充分注意するのだぞ?」
ルカは何やら考え込んでいる。
取り込む…普通に考えたら、魔王軍の傘下に加えてやるって意味に聞こえるけど…。
「いよいよ派手になってきやがったな。
魔族どもが好き勝手する前にオレらで叩き潰してやんねェか?」
リックが拳を手のひらに打ちつけた。
ホントコイツは好戦的な野郎だ。
そんなリックの提案に、フレイも賛成する。
「私も同感よ。
魔族から守るのは何も人間だけじゃないわ。
自然の生態系を守るのも、傭兵の役割よ」
「フレイちゃん…!」
セリーヌはフレイにキラキラした眼差しを向けた。
そっか、元々セリーヌはフレイに助けられたんだったな。
「貴殿らの申し出は嬉しく思うが、今はその時ではない。
いくら手下を蹴散らしたところで、魔王が存在する限り魔族に勝つことはできん。
奴はたった独りで一国を滅ぼす男だ」
「で、でもよォ、そんならなおさら手下だろうがブチのめした方が良いんじゃねェかァ?
あんま奴らを調子づかせると、後から足元すくわれるんじゃねェ?」
案外、リックの意見は筋が通っている。
勢いづいた魔族が一気に王都になだれ込んででもしたら…恐ろしい。
「心配無用だ。
どの国も有事の備えがあるうえ、魔族どもは最近攻めあぐねいているようだからな」
「というと?」
俺が訊くと、何故かおっさんは苦笑いで俺の頭をポンポンしてきた。
おいコラやめろ鱗オヤジ。
「他人事のような顔をしている貴殿とルカの存在だ」
「私たち?」
ポンポンされている俺をルカが引き寄せながら訊いた。
最近ルカさん力強いな。
「イザベラとオットー町における戦闘で、めざましい活躍を成し遂げたのだろう?
紅の魔王が随行させている『紅の宝石』…。
それに対する存在である『蒼の宝石』とその契約者は、今や魔族どももほとんど知っているようだからな」
「ということは、魔族どもは私たちの襲撃を恐れて思うように動けないということか?」
おっさんは頷いた。
マジかよ!?
とうとう魔族たちの間でも俺ウワサされ始められてんの!?
「すごいじゃないかマミヤ殿!
貴公が魔族の抑止力になるとは…まさに英雄と呼ばれるに相応しい!」
向かいの席に居るナディアさんが誇らしそうに絶賛してきた。
異議あり!!
「オットー町で魔族をやっつけたのはナディアさんとザベっさんですよね!?
なんで俺らの手柄になってんですか!」
炎獣の力でいちばん暴れてたのナディアさんじゃないか!
俺の疑問に、ジオンの隣にいるシルヴィアがつまらなそうに答えた。
「そんなの目立つからじゃないですか?」
「はあ!?つーかイザベラをぶっ飛ばしたのもお前だろシルヴィア!
何で俺たちだけ祭り上げられてんだ!」
「てめェ!あの女を投げたのはオレだ!
あの時のオレの活躍忘れたのか!?」
俺とリックは同時に抗議した。
ただでさえこの王都で名前売れてきちゃってるんだからこれ以上はゴメンだ!
「ハァ…うるさいですね、ウチの男どもは」
「よく分からないのだが、なぜレイト殿はそこまで英雄呼びを嫌っている?
祝福されているのだから喜ばしいことだと思うが…」
「そ、それは…」
うーん…。
今はみんなこの場に揃ってるし、俺の事情を教えておくべきか?
話すだけで身体震えてくるけど…。
「実は俺、命狙われてて…」
☆☆☆
「なんと…黒竜から狙われているとは…。
そういえばラミレス嬢も言っていたな」
「500年前か…。
そんな大昔から生きているドラゴンなのか。
『古竜』とも呼べる個体かもしれんぞ」
「レイト様が極端にドラゴンを嫌っている理由が分かりました。
そうとは知らず、色々ご無礼を…」
「俺は黒竜など見たことはないが、たしか最強のドラゴンだったか?
よ、よくそんなのと闘って生き残れたな…」
理の国組は既に教えてあるため、主に亜人の国組に説明した。
ジオン、ザベっさん、テオ、シトロンさんの4人だ。
要はあまり目立ち過ぎると、黒竜に勘づかれてまた襲撃を食らうかもしれないから俺はひっそりと暮らしたいのだ。
売名行為なんてとんでもない!
「分かってくれて良かったよ。
だから正直に言うと、俺は魔王よりもそっちが怖いんだ。
できる限り俺のことは触れ回らないでね」
「ああ、分かった…しかし、もう既にこの国では君は認知され始めている気がするが…」
「ゔっ…」
ジオンは困ったように言ってきた。
確かにそうなんだよなぁ…。
早く王都から出発するべきなんだろうけど…。
「心配する必要はないぞレイト。
ドラゴンはみな、情報を集めるという行動が苦手なのだ。
プライドが邪魔をして他人を頼るということがなかなかできない者が多い。
…我輩は別だがな」
ニカッと、少し尖った歯を見せてニヒルに笑うおっさん。
同じドラゴン族が言うんだし間違いないんだろうけど、俺とルカが異世界にやってきたタイミングで襲撃できたことが気になるんだよ…。
ま、分からんことをいくら考えても仕方ない。
おっさんはまた俺の頭をポンポンすると、客間の扉の方へ歩き出した。
…?どうしたんだ?
「さて、少々話が逸れてしまったが、我輩はひと足先にドノヴァンの村へ向かう。
貴殿らは支度をしっかり済ませてから来るといい」
「「え!?」」
突然の離脱宣言!?
つかまた1人だけ先行するのかよ!
「お、おい待て!オレも連れてけや!
オレはまだアンタに…!」
リックが慌てておっさんの肩を掴んだ。
普段口は悪いけど、リックはなんだかんだおっさんのことを心配しているのだろう。
「リック…。
貴殿が周囲との力の差に焦っている気持ちは理解している。
だが、貴殿は貴殿なのだ。
己の武術を人のために使ってみろ。
それが強くなる〝近道〟だ」
おっさんは優しく諭すようにリックへアドバイス?をしている。
あいつそんな心境だったのか…。
「…………分ぁったよ。
けどよ、オレァまだアンタから1本取ってねェんだ。
だからくたばんじゃねェぞ、オズベルク」
「ふふ、我輩を誰だと思っている?
『おっさん』はしぶとく生きるものだ」
オズのおっさんはそう言い残すと、脇目も振らずに旅立ってしまった。
…たまにはリックと組み手でもするか。
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
リックはランクアップの件も含めて、内心では気が気でないのかもしれません。
そんな彼の成長も書いていきたいです!
「続きを読ませろ!」と思った方は、ぜひブックマーク、並びに下の☆を『5つ星』お願いします!
何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




