46 ドレスの試着
「ジャンジャックに告白された」
そう言ったら、ディアスの顔が、まるで般若のようになった。
般若のような顔をしている、と言ったら、訳がわからないという顔をされたけど。まぁ当たり前か。
「あの男、何考えてるんだ! 俺の! 俺のアニタ様だというのに!」
「落ち着いてよ。彼だって、私が婚約していることはわかっているから、求婚はしてこなかったわ」
「当たり前でしょう。だいたい、婚約者のいる身でありながら、他の女を侍らせていたことがある男だ。あなたが彼を信頼することは構いませんが、ちょっとは危機感を持って……なんですか」
私がニマニマと笑っていることに気が付いたディアスが、眉をしかめる。
「んー。ディアスがそう言ってくれるのが、嬉しいなって思って」
「は……。え……その」
「ちょっと狼狽えちゃうディアス、珍しい」
正直、ジャンジャックが突然目の前で跪いたときはビックリしたし、こいつまさかまた性懲りもなく? なんて思った。
でも、そこで求婚なんて愚を犯さなくなった彼に、心底ほっとした。
ランディオさんに対するジャンジャックの真摯な対応も含めて、少しずつ、きちんと人との関わりを覚えていっていると感じると、なんだろう、こう、親になったような気持ちになる。
ちなみに、国王陛下への報告は月に一度しているので、それも親みたいな気持ちになる理由の、一つなのかもしれない。陛下とはすっかり文通友達になっていて、これはこれでいいのか? と不安になるけど。
「ねぇ、これどうかな?」
「とても良く似合ってますよ。世界で一番可愛い」
今は、秋の結婚式のドレスを試着している最中。
ディアスが私に近寄って、そっと髪の毛を撫でる。
「……ディアスって、すっかり私に甘いよね」
「昔からですが?」
「そうだっけ……」
陛下のポケットマネーでお祝い金をいただけると言質を取ったので、ドレスを作ることにしたのだ。とはいえ、お金はあまりかけないけど。
この世界は乙女ゲームの世界なので、ウエディングドレスは、もちろん真っ白だ。
つまり、式が終わったあと染めれば、使い回しがきくということ!
やったね!
「このリボンとフリルが後ろにつくんですね。アニタ様には、こういうちょっとフリフリしてるドレスがよく似合う」
そう言って私の腰を引き寄せる。
「ちょっと! 試着中なんですけど」
「仲がよろしくて」
フィッティングに来ている針子さんが、微笑ましいものを見たとばかりに笑っていた。
は、恥ずかしい。
「え、ええと、これならほら、使い回しできるでしょ!」
ドレスはできるだけシンプルにして、後付けできるフリルを、ウエストにリボンでとりつけることにしたのだ。
デコルテをしっかりと出したデザインだけど、袖は取り外し可能な大きな襟で兼用。
リボンを付ける部分は、後ろでつまむことができて、ドレープをそこで作れるような作りにした。こうしておくことで、ドレス丈を調整できる。
「これなら、あとからもいろんな使い方ができるから、いいかな……って」
「うん」
「それにほら、ヴェールは誰もが使える長さにしたの」
「ええ」
「私の式が終わったら、ドレス屋さんに置いてもらって」
「うんうん」
「安価で貸し出しをしてもらえば……もしも自分の結婚式でドレスを用立てできない人も、さ」
「そうですね」
「ねぇ。私の顔をじっと見つめる必要、ある?」
「ありますよ。可愛いですから」
もう何度もディアスに言われているのに、可愛いと言われると赤くなってしまう。
どうもディアスは、それを楽しんでいるような気がしなくもないのだ。
「はい、それではディアスさんは一度離れてくださいね。微調整に入りますので」
お針子さんがそう言ってくれたので、どうにか私の羞恥プレイは終了した。
それにしても――。
「スイラも苗植えできたし、順調順調」
「今さらですが──スイラの実は、結局どんなものなんでしょう」
ディアスの問いに、そういえば小麦みたいな、としか説明していなかったと気付く。
「小麦のように穂の中に実がなっていて、それを脱穀して炊いて食べるの。炊きたては薫り高くて、とても幸せな気持ちになれるのよ。お肉とあわせて食べても、お魚とあわせて食べても、邪魔をしない上にお腹持ちも良いの」
「なるほど? よくわからないけど、メインと一緒に食べると良いということは、わかりました」
「食べてみて初めてわかるものかもしれないわね。結婚パーティでは、皆に振る舞うわよ!」
「ああっ、お嬢さま、動かないでください」
「あ、スミマセン」
腰を捻って力こぶを出したら、お針子さんに怒られてしまった。
それもそうよね。まち針打ってるのに動いたら、怒られて当然だ。
「ドレスでしょ、招待客のリストアップと招待状の準備でしょ、会場のセッティング計画でしょ……だいたい済んできたかな」
「まさか、陛下が来たいと仰るとは」
「ジャンジャックの様子を見たいんでしょ。丁重にお断りしたけど、効果なかったなー」
そう。
まさかの国王夫妻が列席するのだ。もちろんお忍びだけど。
ソマイアたちの隣に座ってもらって、とりあえず彼女たちの親戚です、というテイにした。
ほんと、ジャンジャック含めて、迷惑な一族だわ。
王族なんて、そんなものなのかもしれないけど。
でもまぁ、『累進課税制度』を取り入れてもらったりしたので、これで貸し借りなし、みたいな気分。
あと、陛下の前でスイラの活用も見てもらえたら、そのあとが楽かな、なんていう下心もあったりする。
王妃様が気に入られたら、王妃のお茶会とかでも、話題がでるかもしれないし。
お米の活用方法なら、元貧乏OL強いわよ! お米を炊く方が、他の安い炭水化物をいろいろ食べるより、栄養バランスが最終的に取りやすくなって、医療費がかからないからね。
ラブお米!
あぁ。結婚式より、収穫に心を持って行かれてしまいそう。




