第1話 バグから始まる異世界転生
突然だけれど、みんなはゲームを遊ぶ時にステータスって物を気にするかな。
まあ普通は気にするよね。特にRPG系のゲームなら必須の項目だし、いかにしてステータスを伸ばすかが攻略の肝だったり、プレイングの好みが出る部分になるし。
そう、ゲームであるなら、ステータスってやつには大なり小なり自由度が設けられていてしかるべきだ。だというのに。
「クソゲー過ぎるでしょっっっ」
アタシこと天時カイリはそう叫びながら、心地良い青空の下に広がる草原に思いつきり寝転がった。
頬をくすぐるそよ風や草木の匂いはとてもリアルで五感を刺激してくるけど、ここは決して現実世界ではない。〈All You Need is SKILL〉というスキル育成がメインとなる大人気VRゲームの中だ。
元々ゲーマーってわけじゃないのだけど、大学の友達に誘われて始めてみたのだが……。
「てか、どうしてステータスにポイントを割り振れないのよ。バグってやつ?」
数時間雑魚モンスターを倒しに倒して経験値を稼ぎ、いざレベルアップしようとするとなぜか画面が動かずスキル画面も開かない。なんならオプションも開かない。ハイ詰んだ。
トドメに、ひとまずログアウトしようとボタンを押したのになんの変化もなくて、クソゲーだ!と叫んだのがつい先ほどのことである。
「ほんと、どうしろっていうのよ……」
ひとまず運営の助けを待って、それまではのんびり探索をしようと起き上がったアタシだったが。
ファァアアアアアアアアアアアアン!
突然、システムコールのようなサイレンが空間全体に鳴り響いた。
緊急メンテナンスでも始まるのかしらと、のんびり空を見上げたアタシの目に映ったのは。
「なっ……!?」
空どころかゲーム内のあらゆる範囲を覆うほどに発生したのは巨大なオーロラ。しかも、ノイズのような亀裂が宙を走って次々にフィールドを侵食していくではないか。
急いで広がる亀裂から逃れようと走ろうとして、しかしアタシの両脚は空を切った。
「え」
圧倒的浮遊感。
なんということだ。アタシの体が空中を勢いよく舞っていた。
「えぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
荒れ狂う気流にもみくちゃにされながらグルグルと落下していく。いくらゲームの中とはいえ重力には逆らえない。ましてや始めたての初心者にそんな術があるわけもない。
あ、だけど、ここでHPがゼロになれば強制ログアウトできるかもしれない。いやダメだ。よくあるじゃないか、ログアウトできなくなったゲームの中での死は本物の死ってやつ。うんそれだけは避けねば。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……!
目を瞑る前に見えたのは草木がほとんど生えていない荒野。
衝撃はあった。肩をドンッと小突かれたような痛み。だがそれとは似つかわしくない轟音も聴こえた。
それが自分の体が地面をめり込ませながら墜落した音だと気づいたのは、すぐだった。
「え、は? ぜ、全然痛くないんだけど……。え、なんで??」
もちろんゲームの中だからだろう。けれど、ダメージを知らせるHPバーの減少は見られない。
というか、HPバーそのものが見当たらなくなっている。
「またバグ……?」
そう呟き立ち上がったアタシの視界の端に、かすかに点滅するメッセージウィンドウ。
運営からの案内かと目を通すと、そこに書かれていたのは。
【ようこそ異世界へ。選ばれしプレイヤーよ、アナタたち自身のゴールを目指しなさい♪】
という、とてもシンプルな一文。
「っすぅううう――――――」
大きく深呼吸。そして、人生で初めて吐くレベルの罵詈雑言とともに、アタシは空に向かって絶叫したのだった。
というわけで! 【極振り】を掘り下げる物語開幕!
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