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第9話 ジェフリー王太子

「間違いない。ミリーナはあの時街で会ったミリィだ」


 パーティが終わった後、ジェフリー王太子は自室を足早に歩き回りながら、今日会ったミリーナについて思いを巡らせていた。


「赤みがかった金髪、透きとおるような澄んだ声。優しさの中にも一本強い芯が通った眼差し。パッと花が咲いたような笑顔、年齢、物おじしない性格。どれをとってもこれはもう間違いないと断言できる。なにより俺の心がこれほどまでに強くミリーナを欲しているのだから」


 そう。

 なにもかもがミリーナが――ミリーナ=エクリシアこそが10年前のあの日、王宮を抜け出したジェフリー王太子に街を案内してくれた少女ミリィであることを指し示していた。


 しかもあの後すぐに、側近も務める有能なる筆頭執事パーシヴァルを呼んで調べさせたところ、ミリーナのエクリシア家はあの日幼いジェフリー王太子が遊びに行った地域に、今も昔も変わらず居を構えているという。


「残念ながら、向こうは俺のことを覚えてはいないようだったがな」


 あの時出会った話をしようとしたらナンパのセリフかと言われてしまったのを思い出し、ジェフリー王太子は苦笑する。


「事実確認のためとはいえ、たしかにあれは手垢の付いたナンパのセリフそのものだったな」


 変に警戒させてしまったかもな、とジェフリー王太子は大いに反省をした。


(年頃の女子であれば誰でもワンナイトラブに誘おうとする、女好きの軽い男だとミリーナに思われたかもしれない。だが誓ってそれは違うのだ。初恋の君と再会できたことで、あの時の俺はどうしようもなく気持ちが舞い上がってしまっていたのだから)


「だがそれもある意味で正解だったか。もしミリーナに初恋の相手だったと伝えたとして、それで今のミリーナではなく10年前のミリィが好かれているのだと、そんな風にミリーナに勘違いされるやもしれん。それは俺としても困るからな」


 たしかにミリーナは幼き日に出会ったミリィであり、偶然にも再会した初恋の相手だった。

 だがジェフリー王太子は決して過去のミリィに囚われていたのではなく、今現在のミリーナ=エクリシアに心を奪われたのだから。


「ミリーナは、俺の記憶にあるミリィをそっくりそのまま清く正しく大人のレディにしたようだった。であればこそ、こうも俺の心が強く(うず)いてやまないのだ――」


 ジェフリー王太子は自分の胸に手を置いた。

 こうやってミリーナのことを考えているだけで、心臓が激しく高鳴っていくのが分かる。


 ミリーナのことを考えるだけで。

 テラスでミリーナと話したことを思い出すだけで。


 ジェフリー王太子は心が恋焦がれて恋焦がれて、どうにかなってしまいそうだった。


「俺はローエングリン王国の次期国王だ。であれば俺は死ぬまで国と国民のために生きなくてはならない。だから自由な恋愛などできないと、あの時の恋心とともにミリィのことは忘れたつもりだった。探すこともしなかった」


 それが次代の国王になるジェフリー王太子に課せられたノブレス・オブリージュ――高貴なる者の義務であったから。


 ジェフリー王太子は王族、つまりは特権階級の中の特権階級であり、庶民が到底手にすることができない優雅な暮らしを産まれた時から保証されている。


 しかしそれが許されるのは王族が国を正しく導くからであって、その課せられた義務を果たさずに特権だけを享受していては、民の心は離れ、いつか国は滅びてしまう。


 だからジェフリー王太子は初恋の思い出を、誰にも告げることなく自らの手で心の奥底に封印してきたのだ。


「だが俺たちはこうして再び出会ってしまった。俺とミリィは出会ってしまったのだ。気まぐれな恋の女神によって、俺は美しく聡明に成長した君に出会ってしまったのだ。ならばもうこの焦がれるような熱い想いを、抑えられるはずがないではないか」


 しかもミリーナは下級とはいえ貴族の娘なのだ。

 平民ならさすがに身分違いの叶わぬ恋だっただろうが、貴族であればまだ手の尽くしようはある。


 批判は出るだろうが、それをねじ伏せるだけの実績をジェフリー王太子は積んできたつもりだった。


 ジェフリー王太子は考えをまとめると、幼いころから執事として献身的に仕え、支えてくれているパーシヴァルを呼んだ。



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