第31話 初心で乙女なミリーナ
「ありがとうございましたジェフリー王太子殿下」
「なに、大したことじゃないさ。それよりもなによりも、君が無事でよかった」
「それこそジェフリー王太子殿下のおかげですわ」
あわやロストバージンの危機を救われたミリーナは、当然心からの感謝の気持ちを言葉に乗せて伝えたのだが、
「おいおいミリーナ、さっきからのそれはどういうことなんだ?」
ジェフリー王太子はなぜかたいそう不満そうな顔を見せたのだ。
「ええっと、何がでしょうか?」
「今は2人きりなのだから、親しみを込めた呼び名で呼ぶべきではないかい? この前そう約束をしただろう?」
「もう、こんな時までそんなことを仰って……」
「約束はやはり守られるべきだ、と最近強く思うことがあってね」
「そうなのですね……?」
ジェフリー王太子としては、10年前の再会の約束をついに果たしたことを暗にミリーナに伝えている。
しかしまさか思い出の少年ジェンがジェフリー王太子だとは思いもよらないミリーナは、今さら何を当たり前のことを言っているのだろうと不思議に思うだけだった。
「なに、こっちの話だから気にしないでくれ」
「ええはい、そういうことでしたら……ともあれ、ジェフリーのおかげで助かりましたわ、ありがとうございます」
「君がピンチの時にはいついかなる時だって、例え世界の果てにいようとも。俺は君を救いに駆けつけるよ」
それが大げさな比喩表現だとは分かっていても。
実際こんな風に颯爽と現れて助けてくれたジェフリー王太子がそう言うのだから、本当にそうかもしれないわね、などとついつい思ってしまう初心で乙女なミリーナである。
「ところで『それ』なのですが……」
ミリーナは言いながらジェフリー王太子の右手の辺りを見て頬を赤らめた。
「ん……? ああ『これ』か。しまったな、返すのをすっかり忘れていた」
ジェフリー王太子の手にはアンナローゼから取り上げた例の物が握られたままだった。
気付いた以上は、こんなものを持ったままで話をするのはさすがに間抜けが過ぎるので、ジェフリー王太子は『それ』をさりげなくベッドの隅に置いた。
しかしこうやって話題に上がったからか。
2人とも変に『それ』を意識してしまって、何とも言えない妙なドキドキをその胸に感じてしまう。
「と、ところでミリーナ。もしかして君はずっとこういう嫌がらせを受けていたのか?」
ジェフリー王太子が穏やかな顔から一転、真剣な表情でミリーナに尋ねた。
「そうですね、最近になってちょっと増えた感じでしょうか。ここまでの事態はさすがに初めてでしたけれど」
まさかディルドを使って無理やりバージンを奪われそうになるとは、さすがに思ってもみなかったミリーナだ。
「そうならそうと、なぜ俺に言わなかったのだ」
「仕方ありませんわ。だって誰が見ても私は、若き王太子殿下に体よく取り入った貧乏貴族の娘ですもの。色々と思う人が出るのは仕方ありませんわ。婚約の話が進んでいたアンナローゼ様は特にそういう思いが強かったことでしょう」
「だからと言って、君だけがそうも我慢をする必要はないはずだ」
「確かにそうかもしれませんが、彼女たちとは逆に率先して手を貸して助けてくれる女官の方々もたくさんおりましたから」
ミリーナに嫌がらせをしていたのは全員が全員、アンナローゼの取り巻きの女官だった。
むしろそれ以外の女官たちとはミリーナはとてもいい関係を築いていて、ミリーナ派ともいうべき大多数の女官たちは、アンナローゼ一派の嫌がらせからミリーナをかばうようにあれこれ助けてくれていたのだ。
「まったく君はどうしてそうなのだ。俺がこんなにも君のことを思っているというのに。君にもしものことがあったら、俺の心の堤防は悲しみの洪水で決壊してしまうのだぞ?」
ジェフリー王太子はそう言うとミリーナを強く抱きしめた。
そして愛するミリーナの身の安全を思ってやまない、猛々しい男心のおもむくままに、荒々しくその唇を奪った。




