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第2話 指切りの約束

「えっと? ミリィの手を握ればいいのかな?」


「あれ、ジェンは指切りって知らない? 下町で今すっごく流行ってるらしいわよ。約束を守るギシキなんだって」


「ごめん、外のことはよく知らないんだ。あまり外に出たことがないから」


「ふーん、そうなんだ。じゃあこれも教えてあげるわね。まずは私と同じように小指を立ててみてくれる?」


「えっと、こうかな?」


「そうそう。それでこうやって指を絡ませてから呪文を言うの。わたしの後に続いて言ってみてね。ゆーびきりげんまーん」

「ゆ、ゆーびきりげんまん」


「嘘ついたら針千本飲ーます」


「え!? 針を千本も飲ますの!?」

「嘘をついたらそれくらいトーゼンの報いでしょ? それよりちゃんと言わないとだめなんだからね」


「あ、うん。嘘ついたら針千本飲ーます」


「指切った!」

「指切った!」


「はい、これで終わり」


 ミリィが手を振って絡み合っていた二人の指を切った。


「はい、これで終わり」


「あはは、それは言わなくて大丈夫だよ。もう指切りのギシキは終わったから」


 終わりと言ったミリィの言葉までをも律義に復唱してみせたジェンに、ミリィが楽しそうに笑って言った。


 笑顔のミリィに見守られながら、ジェンは離れた指をじっと食い入るように見つめていた。

 触れられた指先が燃えるように熱い気がした。

 なぜだか頬も熱を持っている気がする。


 生まれてこの方ついぞ感じたことがなかった、強固な熱を帯びた不思議な感情で胸の中が満たされていくのを、この時のジェンは感じていたのだ。


 その不思議な感情に突き動かされるように、ミリィに本当のことを告げたいと、自分が何者であるかを教えたいと、ミリィに自分という人間をもっともっと知ってもらいたいと、ジェンは強く思ってしまう。


「ミリィ、実は俺本当は――」


 しかしそこまで言いかけてジェン――王宮をこっそり抜け出したローエングリン王国・王太子ジェフリー=アインス=フォン=ローエングリンは口籠ってしまった。


 もし自分が王太子であると知ったら、ミリィも今までの天真爛漫な姿とは打って変わって、王宮の他の人間と同じように自分と距離を取り、へりくだり、もしくは自分を利用しようと打算で行動するようになるかもしれない。


 幼いジェフリーはそれがどうしようもなく怖かった。


 この心優しいミリィに損得勘定の入った気持ちを向けられたら、もう2度と人を信じることができなくなりそうで、幼いジェフリーはそれがどうしようもなく恐ろしかったのだ。


 だからジェフリーはこのまま、美しい思い出のままでミリィ別れようと思った。

 ミリィという少女に、少なくとも自分の思い出の中でだけでは美しいままいて欲しかったから。


 それはまだ幼いジェフリーの弱さだったのかもしれないし、大国であるローエングリン王国の王太子とはいえ若干10歳にも満たない少年が既に囚われつつある、王太子という立場の孤独感がそうさせたのかもしれなかった。


 ともあれジェフリーは、ミリィに自分が何者であるか真実を告げることなく別れを告げた。



 王宮へと帰ったジェフリーは、王妃である母からこっぴどく叱られ、父であるローエングリン国王からは王族の心構えの何たるかをこんこんと説教されることになった。


 しかしジェフリーはそんなもの全然辛くはなかった。


 ミリィとの――2人で過ごした時間はジェフリーにとって宝石のようにきらめく、かけがえのないものだったから。


(指切りをした小指にはまだあの時の熱が残っている気がする)



 結局この後、指切りこそしたもののジェフリーは2度とミリィ――ミリーナ=エクリシアの前に現れることはなかった。


 ミリィも子供心になんとなく察しており、当時は悲しかったけれど色々と事情があるのだろうと、成長するにつれて思うようになっていた。


 幼いながらに随所に洗練された育ちの良さを感じさせる少年だったから――王太子なので当然なのだが幼いミリィは知る由もない――どこかの上級貴族の子供がこっそりお屋敷を抜け出して中級市民街に遊びに来ていた、そんなところだろうと思っていた。



 それから10年の月日が流れ、ミリィと名乗った少女は17歳のミリーナになり。

 ジェンと名乗った少年は18歳のジェフリーへと大きく成長していた。


 成長した2人は、既に王太子として盤石の地位を築いていたジェフリーが主催するパーティの場で再び出会うことになる。


 まるで運命に(いざな)われたかのように――


お読みいただきありがとうございます。

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初動が肝心なのでなにとぞお願い申し上げます(ぺこり

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